スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ルミナス編 ~再会~


「…………」

「……ルミナスさん、少々宜しいですか?」

「……エリミーヌ様……?」

 雲海が広がる天上の世界――天界。その中心天界宮殿の執務室に天界筆頭聖女と呼ばれる天界女王ルミナスの姿があった。

「……執務室でお仕事だなんて……」

「……先程ラヴィス様から神界を通じて客人が来ると聞かされましたので……」

「……客人……?」

「はい……ですので私もできれば天界宮殿でお仕事をしていて欲しいと……」

 本来天界女王であるルミナスはSkyBlueの仕事を優先するように配慮がされており、宮殿を空けていることが多い。その留守を預かっているのが前筆頭聖女であり、ルミナスを聖女に推薦し自らは第3聖女となったエリミーヌである。長らく筆頭聖女の位に就き、天界の管理運営の経験も豊富なエリミーヌによりルミナスは安心して外での活動に従事できるのであった。そのためルミナスが天界宮殿の執務室にいるようなことは異例中の異例であった。

「……神界から監査役の方が来る……ということなのでしょうか?」

「……少なくとも私には客人が来るとの連絡は来ていません……」

「……抜き打ちということでしょうか……?」

「でしたらこれまでもそういったことがあってもよかったはずです……今回急にそんな話が持ち上がるのは不自然だと思うのですが……」

 あまりに急の出来事にルミナスだけでなくエリミーヌも困惑気味であった。ラヴィスから与えられた情報もただ単に客人が来るとだけの簡単なものであり、それ以降ラヴィスとは全く連絡が取れなくなっていた。

「……とりあえず何があるか分かりません……私も警戒しておきます……」

「お願いします……」

「ルミナス様!」

 そこに天使が何やら慌てた様子で入り込んできた。

「どうなさいました?」

「それが……その……」

「落ち着いて下さい。客人ですか?」

 すぐにエリミーヌがなだめるような口調でそう言った。

「は……はい!それが……その……」

「人数は……?」

「2人です!……お1人はローブ姿で分からなかったのですが……もう1人は……」

「もう1人は……?」

「……精霊界女王ネレイス様です」

「え……?」

 意外な名前が出てきたことに思わずルミナスとエリミーヌは顔を見合わせてしまった。

「……分かりました。精霊界女王が来訪なさったのでしたら私がお出迎えしないといけませんね……」

「私も行きましょう……精霊界女王には大変お世話になってますから私からも直接お礼を言いたいですしね」

 2人はそう言っていたがお互いに本心は別のところにある様子だった。

「では……こちらです」

 そんな2人の変わった様子に気づいていない天使は2人を客人の元へと案内した。



「……急な来訪をどうかお許し下さい」

「……そうですね……ネレイスさんが精霊界女王として天界宮殿へとやってくるとは想像していませんでした……」

 天使に案内された宮殿の前には確かにネレイスの姿があった。その隣にはすっぽりと頭をフードで覆い、体もローブで包まれた謎の客人が立っていた。

「…………」

 エリミーヌはその客人を大いに警戒していた。精霊界女王ネレイスは聡明で精霊たちからの信頼も厚い期待の女王であり、ルミナスとも関係の深い存在でもあることから妙なことは考えていないと思っていた。しかし万一のことを考えて目を光らせているあたりは天界を長らく支えてきた知恵者であることを窺わせていた。

「……で、本日はどういったご用でしょうか?」

「……ちょっとした挨拶に来ました」

「挨拶……ですか?」

 ここでルミナスはローブの客人の方へと目線を移した。ネレイスが連れてくる客人となれば当然精霊の類いであろうことは容易に想像がつく。しかしそれならばここまで姿を隠して会わせようとするのはどことなく不自然である。さらにネレイスの隣に控えている客人からはただならぬ気配を発しているのも気になるところであった。当然エリミーヌもこのことに気付いているはずである。

「……この度精霊界に新しい役職を設けることになりました」

「……役職……天界との交流に関わるものですか?」

「……いえ……天界との交流に直接関わるものではありません」

「……では一体……?」

「……やっぱり見て頂いた方が早いかもしれませんね」

 ますます疑問の深まる展開になったことでネレイスも流石に単刀直入に切り込んでくれるようになったようであった。そして客人の被っていたフードをそっと下ろしてあげた。

「…………!!」

「……え……そん……な……」

 その瞬間にエリミーヌもルミナスも驚きを隠せなくなった。フードの下からは透明感のある蒼い髪をした女性が姿を現した。そしてその顔はエリミーヌにとってもルミナスにとっても良く知ったものであった。

「……精霊界女王……この方はもしや……」

「……この度精霊界の新役職……八理を守護する新たな存在……八理竜の1体……雪姫竜に任命させて頂いた……」

「……マーキュリー……私の……娘です」

「……お久しぶりです……お母様……」

 ルミナスの面影が見られる大人びた印象の顔は依然冷静さを保とうとしていたが、久しぶりに母と会う事の出来た喜びがやはり隠しきれないようであった。

「…………立派に……なりましたね」

「……はい……もう……何百年も経っているのですから……」

「……そんなに……ですか……」

 喜びの様子を見せる娘に対して母であるルミナスは未だに驚きと戸惑いが入り混じった複雑な表情を見せていた。

「……ひとまず場所を移しましょう」

「はい……」

 それを見たネレイスがすかさず場所の移動を提案した。この時には既に何故ネレイスがマーキュリーを極力表に見せないようにしてきた理由がなんとなく分かっていた。マーキュリーのことは天界内部では伏せられていた事実であった為に、ここまでルミナスに似た女性が天界内の多くの天使達に知られるのはまずいと思ったネレイスの配慮なのだろう。ネレイスは再びマーキュリーにフードをかぶせると先導するエリミーヌに続いて宮殿内へと入っていった。



「…………」

「……お母様……」

 貴賓室に通されたマーキュリーはフードを外しローブも脱いでいた。ルミナス譲りの美しい髪は先程までは一部しか見えていなかったが、全てを見せたマーキュリーの髪は床を引きずるほど長いものであった。体は細く、腕も脚もルミナスより華奢であり一見するとあまり丈夫そうな子には見えないのだが、ネレイスが紹介した通り彼女はネレイスによって精霊界の新しい役職、八理竜の雪姫竜に任命された氷竜なのであった。本来であれば人間同士だったラヴィスとルミナスとの間に竜の娘が産まれることはないはずだが竜の血に侵食されていたルミナスの娘であれば不思議ではないことである。

「……お母様……やっぱり……まだ竜はダメですか……?」

「……ごめんなさい……私の娘だというのに……」

「……無理もないですよね……お母様の竜の血は望んだものではなかったのですから……」

 ルミナスが竜の血に侵されたのはラヴィスとルミナスが出会い将軍たちと合流する前、仕事の依頼で祭壇に巣くう竜の討伐をしていたときのことだった。ラヴィスが仕留めそこなった竜の一撃からラヴィスを庇った際に負った深手の傷から竜の血が入り込んだことによって始まってしまった。それ以来ルミナスは度重なる竜化の症状を引き起こすなど苦しめられており、竜の気配を感じると体が思うように動かなくなってしまうといった症状が出るようになってしまったのである。
 一方でそのルミナスから生まれた双子の妹、マーキュリーは産まれながらにしてルミナスの竜の血を濃く受け継いでしまった影響で自然の声が聞こえたりと特別な力を持っていた。成長を続けるマーキュリーはやがて自らの竜の力に気付き出し、ちょうどそのころ乱獲によって氷竜が数を減らしているという話を聞いたマーキュリーは自らの竜の力をその氷竜たちのために使ってあげたいと考えるようになったのである。その努力が実り、今回ネレイスによって八理竜へと選ばれたのである。

「……本当に立派になりましたね……」

「……はい……」

「ところで……何故ネレイスさんがマーキュリーの居場所を……?」

「……まぁ……精霊のネットワークを使えば……ね。それに氷竜の住処はある程度掴めていたし……」

「……ラヴィス様から連絡があったのですが……」

「……お父様にも会いました……何だか嬉しそうでした」

 ラヴィスとの再会を思い返しマーキュリーが嬉しそうな表情を見せた。それを見たルミナスが少し申し訳なさそうな顔をしていた。

「……お母様は……嬉しくないのですか?」

「え……?そんなことありませんよ……?」

「……でも……これからは会おうと思えばいつでも会えるのですから……」

「…………」

 娘との再会は当然喜んで然るべきなのだが、素直に喜べないのがルミナスにとってとても歯がゆかった。

「……ネレイス様……ひとまず今日はこれで失礼しましょう」

「……いいの?」

「……急に来る私も悪かったんだと思います……今度は……お父様とお母様揃って会いたいですし……」

 そう言って再びマーキュリーはフードを被りローブに身を包んだ。先程まで強く感じた竜の気配が一瞬にして薄らいでいったあたりこれもルミナスや天界の人々に配慮したものだったのだろう。

「…………」

「それでは……また……」

 最後にマーキュリーはルミナスの方を向いた。しかしルミナスが視線を合わせてくれることはなかった。そのままマーキュリーはネレイスと共に部屋を出て行った。

「…………」

「……よかったのですか?」

 部屋に残されたルミナスにエリミーヌがそう切り出した。

「……あまりに突然で……気持ちの整理ができなかっただけ……です」

「……そうですか……」

「……エリミーヌ……すみません、少し1人にさせて頂けますか?」

「畏まりました……ごゆっくり……」

 ルミナスの求めに応じエリミーヌはそっと部屋を後にしていった。

「…………ごめんなさい……マーキュリー……私は……」

 久しぶりに再会できたと言うのに抱きしめてあげることはおろかろくに話をすることもできなかった。その後しばらく部屋の中からはルミナスの泣く声が絶えず聞こえたという。


スポンサーサイト

不定期開催ミニコーナー ~SS(ショートショート編)~植物界女王の目覚め(後編)




「……私が……この樹の精霊に……」

 その言葉が意味することが何なのかは当然分かっていた。しかし精霊とは何なのかを聞いていたフローラにとっては微妙に引っかかる部分があった。

「……精霊とは人間がなれるものなのですか……?」

 精霊は命が尽きた植物や人を除く動物たち、風や岩などの無機物がなるものだと聞かされていた。ネレイスは人間ではあるものの精霊の血を引いていることから精霊界女王として期待されているという話ではあったものの、自分は精霊とは交流があったとはいえごく普通の人間である。自分ではどんなに頑張っても精霊にはなれないのではないか、そう思っていた。

「……基本的には人間が精霊になることはできません……」

「……そうですよね」

「しかし……これまでにも精霊たちの強い願いにより精霊へと産まれ変わった人間の方も存在します」

「……では私も精霊になることができる……と」

 フローラもここまでしてお願いするということは精霊にできる自信があってのことだろうと薄々は感づいていた。

「……これは私たち植物の精霊一同……そして……精霊界女王となられたネレイス様の願いです……」

「……分かりました、私がこの樹の精霊となりましょう。しかし1つだけお願いがあります」

「……何でしょうか……?」

「……私が手入れをしなくなってしまったら私の住んでいた庭園が荒れてしまいますわ。ですからあの庭園を守っていただけませんか?」

 植物の精霊たちだけでなく精霊たちの熱狂的な支持を受けているネレイスの願いである。世界中の植物を救うためにもその身を捧げる覚悟はできていたが、気がかりだったことが1つ。自らが造った庭園が荒れてしまわないかという自然を愛したフローラらしいことであった。

「……大丈夫です、貴女があそこからいなくなっても植物の精霊たちが手入れをして下さいますから……」

「……なら安心ですわ」

「……では……この樹の中へ……」

 そう言った精霊から再び緑色の光が噴出すると同時に精霊の左半身が緑色の光となって消えていった。もう時間がないことは明白であった。精霊の後に続いてフローラは幹の隙間に潜り込んでいった。
幹の中は先ほどから精霊が噴出し続けている緑色の光で包まれていた。中央には枝葉に包まれたコアのような部分があったが、コアを守る枝葉は剥がれ落ちコア自体もひびが入り砕け散ってしまいそうであった。

「……その中心に……触れて頂けますか……?」

 フローラはひびの入ったコアにそっと手を触れた。全世界の植物の力を司っているとされるこの樹の中枢にしては物足りないような気もしたが、風前の灯とも言えるこの樹の精霊の状態を考えれば十分すぎる力なのだろう。

「……みなさんを……この樹を……よろしくお願いします……」

 その中で精霊は最後の力を振り絞りフローラの方へ手を伸ばした。フローラは反射的にコアに触れている手とは反対の手を伸ばしたが、その手が精霊へと届く前に精霊の体は緑色の光となって消えてしまった。それと同時にコアは粉々に砕け散ってしまった。

「……!!」

コアが砕け散ってしまい、一瞬目の前が真っ暗になってしまい手遅れになってしまったのではないかと悪い予感が頭をよぎったが、すぐに精霊の体を構成していた光が伸ばしたフローラの手に集まっていき、力を与えていった。

「……これは……なんて力なの……っ……!」

 フローラという新しい体ができたことで周囲に溢れていた植物の力も一斉にフローラの体へと流れ込んでいった。精霊と対話し植物魔法をも扱えるフローラであったが、全世界の植物を司る精霊の力はほんの一部であったものの人間のフローラが御すことは不可能であった。フローラの体から溢れだした膨大な植物の力は自らを包み込むようにして新たなコアを作っていった。

「私が……全ての植物を司る……精霊……に……」

 フローラの体は溢れ出た植物の力によって現れた無数の枝葉に浸食されていた。恐らくこのまま枝葉に覆われ植物と一体化して死を迎えるのだろう。正直あまりにも突然のことすぎて本当はまだ気持ちの整理がついていなかったのかもしれない。今になってようやく死への恐怖がやってきていた。

「…………」

 しかし自然の中で死ぬことはフローラも望んでいたことである。さらには世界中の植物のためになれる立場に立てるのだ。これもフローラにとってはこの上ない幸せである。そんな気持ちを強く持ち恐怖を抑え込んでいった。

「……ネレイスさん……私も……」

 やがてフローラの体は完全に植物と同化した。フローラを包み込み立派な枝葉に覆われた新たなコアは一際強く緑色に輝き、力強い自然の鼓動を始めた。枯れかけていた巨木はまたたくまに元気を取り戻していき、生命の息吹が世界中へと広がっていった。





「……さん……フローラさん!」

 聞き覚えのある声によって途切れていた意識は引き戻された。

「……お空が……綺麗ですわ……」

 草地の上で仰向けに寝ており、視界の端に見える木の枝葉から恐らくはあの大木の前で横になっていたのだろう。

「……あ、気付いたね、どう?調子は?」

「まだよくわかりませんわ……」

 ゆっくりと体を起こすと目の前には艶やかな紫の長い髪をした見覚えのある女性が立っていた。かつての知り合いであり今は精霊界の女王となったネレイスが立派になった姿を見てフローラもじっくりと自分の姿を確認してみた。

「……なんだか見た目が変わっている感じはしませんね……」

 しかしフローラはここに来た時と全く変わらない花や草木の刺繍が入った橙色の着物に臙脂色の袴姿のままであった。着物の袖から出る手も人の時のままであり、見た感じは人間となんら変わりはなかった。精霊になったということで自分の姿も精霊らしく変化していることを心のどこかで期待していただけにフローラはちょっぴり残念に思った。

「……あたしだってそんな変わってないでしょ?人間から精霊になったって言っても姿が劇的に変わるなんてことはそうそうないんだよ」

「……それにしても格好はもっと変わってもよかったのではないですか?」

「フローラさんはもう着物に袴姿がバッチリ似合ってるんだよ。あたしもこれ以外にフローラさんの姿思いつかなかったからね」

「……私を精霊にしたのはネレイスさんなのですか?」

「そうだよ~、精霊を転生させるのは精霊界女王たるあたしの仕事だからね」

 ネレイスは精霊界にかけられていた負の気の呪いを解くなど既に大活躍していた。その折植物の力を司っていた精霊樹が枯れ始める危機的な状況になり、すぐに対策を取る必要があったのである。そこでネレイスはフローラを植物の精霊にしようと考えたわけであるが当然それはただ単に精霊樹の危機を凌ぐためだけではなかった。SkyBlueメンバーとして後には植物だけでなく世界を守ってもらうためにもフローラを自分たちと同じような立場にしておきたいという思惑があったのである。

「とりあえず、見た目は変わらなくてもフローラさんの植物の力は圧倒的なものになっているからさ……!」

「……それは……そうですね。あの時は御しきれなかったあの力が今はすんなりと扱えるような気がしますわ」

 フローラが軽く手をかざすとネレイスの後ろにあった巨木――精霊樹から緑色の光が集まってきた。あの時は今にも枯れそうであったものの今は青々とした葉を広げ、幹もさらに太くしっかりとした枝が張り巡らされており、さっきまでとは別物の樹へと生まれ変わったようである。

「……さ、じゃあフローラさん。これより貴女を精霊樹の精霊に任命します……世界中のすべての植物の力の源……この精霊樹を守り、数多の植物の精霊をまとめ上げる存在になって下さることを期待します」

「はい、精霊界女王ネレイス様のお心のままに」

 そんな精霊樹の下、ネレイスはフローラを正式に精霊樹の精霊へと任命した。

「……はい、これで契約完了っと。じゃあ次は植物の精霊たちにお披露目しないと。あたしは精霊たち集めてくるからフローラさんは就任挨拶の準備でもしておいてね~♪」

 そして非常にあっさりと契約の儀を終わらせるとネレイスは羽を広げて飛び立っていってしまった。

「……精霊界女王になってもネレイスさんは変わっていないのですね……」

 残されたフローラはネレイスの切り替えの早さと自分のペースに強引に持っていく力が人間だった時のまま変わってないことに安心したような心配なようなちょっと複雑な気持ちで見送り、そして再び精霊樹の方へと向き直った。

「世界中の植物の力の源……そんな樹の精霊……ですか……」

 自らが世界中の植物に影響を与えうる存在であることにまだ実感はわいていなかった。確かに自分の内からは大きく渦を巻く植物の力の奔流があることを感じていたものの、その力はどう使っていくものなのか、精霊樹の精霊として何をしていけばいいのかまだ何も分かってはいなかった。

「……あら、あれはもしかして……」

 青々と茂る枝葉から視線を精霊樹の根元の方へと移していくと根元に大きな枝が立てかけられるようにして置かれてあった。

「…………」

 この樹の根元を中心に枯れ葉が積もるようにして落ちていた。見上げてもあるのは青々とした葉だけであることからこの枯れ葉はフローラが精霊となる前に落ちていったものなのだろう。よってこの枝も精霊樹の枯れ枝にあたるものであろうことは想像がついた。

「……でも……こんな太い枝……」

 その枝の太さは一番太いところでフローラの手のひらほどもある立派なものであった。その枝からも精霊樹と同じ力がしっかりと残されているようである。

「……あの精霊が最期に私に残してくれたものなのでしょうね……」

 フローラには心当たりがあった。精霊樹とその精霊の調子は連動しており、精霊の力が失われていけば精霊樹もどんどんと葉を落とし枯れていったのを目撃していた。これほどの枝が落ちるような精霊の変化といえば樹の中に入る際に左半身を失ったあの時であろう。

「……この枝は大切に使わせていただきますわ」

 先代の精霊の形見としてフローラはその枝を大事そうに抱え上げた。その枝のずっしりとした重みが精霊樹の精霊としての自分の立場の重要性を思い知らせてくれていた。

「フローラさーん!植物の精霊たちを集めておいたよ、挨拶しに行こう!」

 精霊樹の精霊が遺した思いを受け後ろから聞こえてきたネレイスの声を聞き、フローラは新しい精霊樹の精霊として何をすべきなのかが定まったようだ。

「分かりましたわ、行きましょうか」

「……んー?どうしたの?その枝?」

「先代の精霊樹の精霊が下さったお守りですわ」

 見たこともないような立派な樹の枝に驚いているようなネレイスにフローラがそう言うと持っていた精霊樹の枝から淡い緑色の光が発せられた。

「……ささ、案内して下さいな。皆さん私を待ってて下さってるのでしょう?」

「あ……うん、そだね、行こうか」

 フローラはネレイスに連れられて精霊樹の前を後にした。立ち去る前、最後にもう一度精霊樹の方を振り返るとわさわさと樹の枝が揺れているのが見えた。風がないのに揺れているその様はまるで精霊樹が手を振って送り出してくれている、そんな気がした。





「私、このたび精霊樹の精霊に任命されたフローラと申します。よろしくお願いしますわ」

 精霊界北部一帯に居住区を構えている地の精霊の管轄区。そのおよそ1/3ほどの面積を植物の精霊たちが暮らす緑の多い地が占めていた。これまで植物の精霊たちの集まる場として使われていた一面緑の小高い丘には新しく精霊樹の精霊になったフローラの姿を一目見ようと数十万はいるのではないかというくらいの植物の精霊が集まってきていた。そんな中堂々とフローラは就任演説をしていたのである。
フローラも最初はその数に圧倒されていたようであるが、すぐに落ち着きを取り戻しネレイスとの和やかな掛け合いなどもありながらやがて無事に就任式は終わりに近づいていた。

「さ、皆さん。最後に私から大事なお話がありますわ」

 フローラがそう切り出すと植物の精霊たちもちょっぴり神妙な面持ちでフローラの言葉に耳を傾けていた。

「私はもともと庭いじりや家庭菜園なんかが大好きでした。皆さんの中にも私の造っていた庭園に遊びにいてくれていた子たちもいることでしょう。そんな私に新しい目標ができました」

「……目標かぁ」

 ネレイスもこの瞬間までは立派な決意表明をしてくれるものだと思っていたのだが、フローラが言ったことは突拍子もないようである意味彼女らしい言葉だった。

「……私、この地に立派な庭園……いや、農園を造ってみたいですわ!」

「……えっ……」

 ネレイスをはじめ集まった精霊たちはみなぽかんとしてしまった。

「あらゆる草花やお野菜、果物なんかが造れる夢のような農園がここでならできるような気がするのです。みなさんのお力を貸して下さい!」

「ふ……フローラさん?」

 精霊たちは困惑気味でフローラの方を向いていた。流石にフローラもこのままでは自分のわがままのように聞こえてしまうと思ったのか、次なる手を考えていた。

「精霊樹の精霊は世界中の植物の力を司る存在です。ですが皆さんもご存じかもしれませんが世界各地の自然は失われつつあります……それによって精霊樹は傷つき先代の精霊樹の精霊もそれによって亡くなられてしまいました。ですからこの精霊界を自然豊かな地にしていくことで精霊樹の基礎を固めていきたいのです」

「……なるほど……そういう意図があったんだ……」

 精霊界で自然を増やせば世界中で失われている自然を補うことができるのは非常にもっともなことであった。フローラのその言葉を聞くと植物の精霊たちの様子も大きく変わっていった。

「私は精霊としてはまだまだ未熟ですから皆さんと畑仕事をして触れ合っていく中で成長をしていきたいですし……精霊樹の精霊は大層な方ではなく親しみやすい方だと分かっていただきたいですからね」

「……ふふ」

 ネレイスも精霊界女王として同じような気持ちでいる。まるで自分を見ているようでなんだか自然と笑みがこぼれてきた。そしてフローラの下にはもう既に植物の精霊たちが集まってきており、フローラへの協力を申し出ているようだ。

「それでは始めましょうか、皆さんと一緒に農園を造り上げていきましょう」

 そしてフローラのその言葉と共に、後にフローラ農園と名付けられる立派な農園造りが始まった。精霊樹の精霊として、そして農園の主として植物の精霊たちだけでなく精霊界のみんなから、さらには世界中の人々からも愛される存在となるフローラはこうして誕生した。



~SS編~ 植物界女王の目覚め 完



不定期開催ミニコーナー ~SS(ショートショート編)~植物界女王の目覚め(前編)




これは後に植物の精霊を統べる存在となるフローラが精霊になるまでのお話である










「今日も日の光が心地いいですわ~」

 貴族が暮らしていそうな立派な宮殿の裏庭に造られているような手入れの行き届いた色とりどりの花や草木が植えられている庭園。ここはフローラが将軍たちの元を離れ久しぶりに戻ってきた故郷とも言える場所にあるかつて彼女が暮らしていた小さな家に造られた自慢の庭である。
そこそこ裕福な家庭に産まれたフローラは幼い時から植物と触れ合う機会が多く、十代の頃から茶道や華道を習いその腕前は大人顔負けだと言われていた。そんなフローラは成人すると実家よりも自然に溢れた田舎のほうで暮らしたいと思い単身この地にやってきて、茶道や華道を教える傍ら植物や作物を育てて生活をしていたのだった。その時からフローラの元には植物の精霊たちが姿を見せるようになり、その力を借りた植物魔法も習得できるようになった。その時ぶらりと立ち寄った将軍たちに珍しい植物の力を面白がられたことから将軍たちと行動を共にするようになったという。将軍たちと共に世界を渡っていく中でまだ見ぬ様々な植物たちを多数見ることがあった一方で失われていく自然を目の当たりにしてきたフローラは自然を守るためにも戻ってきたこの地で再び草木を育て植物の精霊たちと対話を続けていくことにしたのである。
そんなある晴れた日の昼下がりである。いつものようにフローラは庭先で午後の暖かな太陽の光を浴びながら庭を眺めていた。

「……しかしそれにしても植物たちが元気になってくれませんわ……どうしたのでしょうか」

 庭を眺めていたフローラはそう心配そうにつぶやいた。一目見た感じでは分からないのだが、フローラのように長く植物を育てる経験を積んできた者であればすぐに分かるくらいに庭の植物たちの様子は明らかに違っていた。
最初にこのことに気付いたのは三日ほど前のことであった。すぐに普段と違うことは分かったのだが、とりあえず様々な手は尽くしてみたものの元気になってくれる様子はなく、その原因は流石のフローラにもすぐには分からなかったのである。

「……精霊たちも今日は姿を見せてくれませんし……何かあったのでしょうか……」

 気がかりなのはその日を境に精霊たちの数も少なくなってきていることである。将軍たちと共に旅をしていた時代に当時精霊界の王女とも言えるネレイスから精霊の話はいろいろ聞くことができたのだが、精霊は自然の力の源であり、当然植物の精霊は植物の力の源であることから植物の調子が悪くなれば必然的にその精霊も調子を崩すことになり、また逆に精霊が調子を崩せば植物も元気がなくなってしまうこともあることを知ったために、フローラは精霊たちの身を案じるようになった。こうして欠かさず植物の手入れをしているのも植物の手入れをすることで精霊が少しでも楽になってくれるであろうという理由もあった。

「……あぁ……でもこんな暖かい日の光を浴びてしまうと眠くなってしまいますわ……」

 精霊のことを心配してはいるものの暖かな日の光はフローラを強烈に眠りに誘っていた。フローラは植物を育てることが好きであるのだが、それと同じかそれ以上にお昼寝が大好きである。草木の手入れをした後や天気のいい昼下がりなどは庭先でいつも気持ちよさそうにお昼寝をするのが習慣になっていた。今日の陽気もお昼寝をするにはぴったりでフローラは早速いつものロッキングチェアに座って日の光を浴びながらうとうとし始めた。

「すやすや……」

 将軍たちとの旅をしている時も昼寝の多さと寝付くまでの早さには定評があった。心地よい日の光と風に吹かれゆらゆらと揺れながらフローラは気持ちよさそうに整った寝息を立てて眠りについてしまった。










「ふぁぁ……よく眠りましたわ~……」

 恐らく二時間ほど眠っていただろう。ぐっすりと気持ちよく昼寝ができたフローラはゆっくりと体を起こした。

「……あら……?」

 しかしすぐに何かがおかしいことに気付いた。ロッキングチェアに揺られながら寝ていたはずなのに起きた時には緑の葉のベッドのような場所に寝かされていた。周囲の様子も見覚えのない霞のかかった森のような場所になっていた。

「……これは……夢でしょうか……?」

 辺りの空気もどことなくこれまでに感じたことのない不安定なものであった。周囲が森であるためか植物の力を感じるのだがその力には揺らぎがあり、時には今にも消えてしまいそうなほど弱くなってしまうこともあった。

「……あ」

 そんなフローラの前にフローラが庭先でいつも見かけていた植物の精霊がやってきていた。その精霊はフローラが気付いたことが分かると一目散に森の奥の方へと駆け出していってしまった。

「待って下さいな!ここはどこなのですか……!?私に何があったのですか……!?」

 フローラはすぐさまそう言ったが精霊はフローラの呼びかけに応えることはなかった。

「……仕方ありませんわ……追いかけてみましょう」

 今のこの状況は精霊たちが何か知っているはずである。森の奥へと消えた精霊の後を追いフローラも森の奥へと踏み入れていった。





「……どこに行ってしまったのでしょうか……」

 森の中に道はなく、進んでいっても景色がほとんど一緒であり、さらには徐々に濃くなっていく霞の影響があり普通の人間であったら間違いなく道に迷ってしまっていたであろう。しかしフローラはそれでもただひたすらに精霊が消えていった方向に向かって森の中を突き進んでいた。

「……森を抜けましたわ……」

 やがてフローラは森を抜け再び先ほど寝ていた広場のような場所にやってきた。一瞬もといた場所に戻ってきてしまったのではないかと考えたが、霞の奥から先ほどは見えなかった淡い緑色の光がうっすらと見えた。そこをめがけさらにフローラは歩みを進めていく。

「これは……こんな立派な樹があるだなんて……」

 霞の奥に広がっていたのはフローラもいまだかつて見たこともないような巨大な樹であった。その幅はフローラが両手を広げた幅の三倍くらいはあり、高さは見上げても全くてっぺんが見えないほどであった。

「……でも……今にも枯れてしまいそうですわ……」

 しかしその幹、枝はボロボロであり、葉は大部分が枯れてしまっていた。足元には折れた枝や葉が散乱しており、先ほどから見えていた淡い緑色の光は幹についた傷から発せられていた。樹木医の免許も持っているフローラであったが、当然この樹が何であるのか分からない以上処置をしてあげることはできなかった。それにもし仮にこの樹が何なのか分かっていたとしてももう手遅れであっただろう。

「……こんなに立派だというのに……残念ですわ……」

 目の前で一本の巨木の命が尽きてしまう。それが心苦しく、なにも出来ない自分の無力さがあふれ出てきた。

「……あなた……は……」

 不意に樹の方から苦しそうな声が聞こえてきた。フローラは自分でも分からなかったがすぐにこれがこの樹の精霊のものであるということが分かった。

「何があったのですか……!?」

「……貴女が……みんなの言っていた……私の……」

 幹に大きくついた傷の間から全身蔦や葉に覆われた女性のような精霊が姿を現した。体はもうボロボロであり、これまで見てきた淡い緑色をした精霊の力の源と思われるものが流れ出続けていた。

「……お願いです……この樹を……助けて下さい……」

「どうやって……!?」

 フローラはこの樹を、この精霊を救ってあげたかった。というよりも救わなくてはいけないような気がしていた。

「……もう私は助かりません……ほどなくして消えてしまうでしょう。私が消えればこの木も枯れてしまうでしょう……この木が枯れてしまえば……世界中の植物が枯れてしまうことになるかもしれません……」

「なんですって……!?」

 精霊が発した言葉はフローラにとって衝撃的な言葉であった。不意に聞こえた声が精霊のものだと分かったこともこの木を救わないといけないと分かったこともこの一本の巨木が世界中のすべての植物を支えている命の木であったことを本能的に感じ取っていたからなのかもしれない。

「……貴女のことはみなさんから聞いています。……世界で一番植物と接し植物を愛している人間だと……」

「……そう……言って頂けるのであれば……光栄ですわ」

「ですから……貴女にこの樹を……」

 言いかけた精霊の傷口がさらにぱっくりと開き緑の光が噴出していった。

「!!」

「……時間がありません……貴女に……」

 一段と精霊の声は弱弱しくなる中、精霊の口からフローラの将来を決める言葉が発せられた。

「……この樹の精霊になってもらいたいのです……」



(後編に続く)

不定期開催ミニコーナー ~SS(ショートショート編)~神を支える“神”(後編)Part3

「……もう少しです……!」

 ルミナスの足元には複雑に何重にも重なった魔方陣が描かれていた。魔方陣の大きさ、複雑さはその威力や消費魔力に比例していることから今回ルミナスが使おうとしているものは最大級の威力を誇るものであることが想像できた。

「絶対に後ろには攻撃を通しませんよ!」

 そのルミナスを守るようにして立つミディアは見た目こそボロボロであるものの、いかなる攻撃をも防ぐ盾としての役割を果たすには十分すぎるほどの力強さと輝きがあった。

「遅い遅いっ!」

 そもそもルミナスに攻撃を向けさせないために注意を引き続けるネレイスは高速で飛び回り翻弄しながら両腕につけたボウガンを乱射し切れ目のない弾幕を張ってゴーエムの視線を釘付けにしている。

「……狙い放題だな」

「そうだね、本当にネレイスは優秀だね」

 ラヴィスはその間に背後から何回も攻撃を叩き込んでいく。手負いのランディも折を見て攻撃参加をしている。ここまではランディが指示している通りに事が進んでいた。

「……準備できました……行けますよ……!」

 そこにルミナスがそう知らせてきた。髪の青さがより鮮やかとなり展開した光の翼はより一層輝きを増していた。

「じゃあ決めちゃっていいよ」

「任せて下さい……」

 そしてルミナスの足元の魔方陣が光を放ちながら回り始めた。

「我,天界女王の名に於いて……全てを滅する破邪の光をここに……」

 天界言語による詠唱が始まりミディアは盾を地面に突き立てた。そこから薄い光の壁が前方を覆っていく。ミディアの究極守護術である絶対守護障壁と双璧をなしている広域守護術砂塵の城砦である。個人に効果がある絶対守護障壁とは違い一定範囲に効果を発揮するもののその分消耗も激しく連発が難しい。ここぞと言う場面に使う切り札のような技である。ルミナスを守るようにして障壁が張られたことで磐石の状態が作られた。

「……最終審判!!」

 ルミナスが右腕を振り下ろすと上空から大きな光の槍が1本寸分違わずゴーレムを貫き通した。その一撃によりゴーレムは爆砕、ルミナスは魔力を使いきりその場に崩れ落ちた。

「……よし、片付いたかな」

「……やれやれ、思いっきりやれとは言ったが倒れるまではやらなくていいだろうに」

 ラヴィスはルミナスを抱えあげた。ぐったりとしてはいるが息はあるので心配はないだろう。

「調査隊のみんなもみんな無事みたいだよ~」

「ただ……遺跡……大分壊れちゃいましたね……」

 ネレイスは調査隊の面々を連れてやってきた。ゴーレムの攻撃や吹き飛ばされたミディアの影響で遺跡は大分傷んでしまっており、それを心配しているようであったがひとまずは自分たちが無事だったので安堵しているようである。

「……そうだね、大分被害は出たけどラヴィスたちが救援に来てくれたから大分抑えられたと思う、助かったよ」

「何、すぐに行けなくて悪かった。お前らは神界に引っ込んで怪我の手当てをして来い。後はネレイスがやってくれる」

「あはは……まぁ大丈夫だよ、ゆっくり休んできなよ」

 ミディアほどではないがランディの体からも大分血が滲んでいた。我慢していたわけではなかったのだが一段落したところで落ち着いたせいか思い出したように体が痛み始めてきたようである。

「……そうだね、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」

「あ……はい、では失礼します……」

 ランディはミディアを連れて一足先に戻っていった。

「じゃあ我もルミナスを連れてく、後は任せた」

「はーい、気をつけてね」

 ラヴィスもルミナスを抱えて天界へと向かった。

「……じゃあ行こうか~♪」

 そして残されたネレイスは調査隊の面々を引き連れ護衛の任務を開始した。





「く……これでよく動けてたな……」

 神界の医務室のような場所でランディは横になっていた。隣でミディアも同じように横になっており、ランディよりもはるかに重傷なのだが当の本人は平然と治療にあたってくれているスタッフと言葉を交わしていた。

「……昔から体は丈夫だったからな……」

 ランディとミディアが出会ったのははるか昔のことだった。将軍と共に世界を回っていたあの時代に立ち寄ったとある町でとても名の知れていた精霊使いがミディアであった。その時はまだ鎧ではなく白いワンピース姿で鋼の力を宿した精霊を操っていた。そのミディアがひょんなことから一緒に来ることになり、その時に面倒を見たのがランディだった。その時は特に意識していたわけではなかったのだがいつの頃からかランディは当時から戦場で鋼の精霊と共に戦い勇ましいようなミディアが普段は“女の子らしくない”ことや少々抜けていて時々突拍子もないことを言ってしまうことを恥ずかしがっていることが可愛らしく思えるようになってきた。またミディアも戦いの場では冷静かつ的確に指示を出しているランディが自分の前では皆の前で見せてくれない表情を見せてくれることが少し嬉しかったのである。お互いに心を寄せ合うようになりやがて結ばれることとなった。

「……ぐっ……」

「ランディさん!大丈夫ですか?」

 体勢を動かしたら傷が開いてしまったのかランディが思わずうめき声を上げると隣のミディアが心配そうに声をかけてきた。

「……大丈夫だ、それよりミディア、君の方が重傷だろう?」

「これくらい平気です、骨が折れなければ重傷なんて言えませんよ!」

 ミディアはランディと結ばれると“ランディさんを守りたい”という思いから鋼の精霊を使っていた経験とそのために鍛えていた体を生かして重装兵になろうと決意をした。将軍やランディの元を離れて数ヶ月後、再び将軍とランディの目の前に帰ってきたミディアは今の緑と橙色の鎧を身に纏った立派な重装兵としての姿だった。重装兵として帰ってきたミディアはランディだけでなく将軍たちみんなを守る盾として大いに活躍していくことになった。そのミディアをランディは頼もしく思いつつも常に最前線に立たせることに不安を感じつつもあった。今回も結局はミディアにここまでの重傷を負わせる事になってしまい申し訳なく思っていた。

「……骨折れてるんじゃなかったのかい?」

「あ……でっ……でも重傷だったとしてもこれくらい平気ですっ!」

「……ま、君は大丈夫ってことを言いたいのはよくわかったよ」

「……でも……その……ランディさんは大丈夫ですか?」

 しかしそれはミディアも同じだった。突発ではあったとはいえランディを守れなかった事をかなり気にしているようであった。

「……ミディア、気にしなくて大丈夫だよ」

「あ……はい」

 そんなミディアの思いをくんでそっと声をかけた。この生活を始めてから相当の年月が経ち、ラヴィスとルミナスほどではないにしろ互いのことはよく理解している自信はある。

「……とりあえずお互いにまずは傷を癒そう。そしたら……頑張ってくれたんだ、少し労わってあげるよ」

「ランディさん……分かりました」

 神界八将の1人、智神と呼ばれるランディは他の“神”たちを支える重要な存在である。それは勿論鎧神のミディアも例外ではない。しかしそのランディを一番支えているのはミディアなのである。この2人に支えられてこれからもSkyBlueは、そして神界は安定した未来を歩んでいくことになるだろう……




~SS編~ 神を支える“神”(後編) 完


不定期開催ミニコーナー ~SS(ショートショート編)~神を支える“神”(後編)Part2

「ほとんど鎮火できたんじゃないかな……」

 交戦を始めてから1時間近くが経ちようやく拡大していた火災は食い止められたようである。

「ネレイス様、こちらの準備はできています!」

「了解、じゃあ狙って……」

「これより火元の消火を行います。皆さん、放水開始です!」

 周囲を取り囲んでいた水の精霊たちはエメローネの号令のもと一斉に放水を始めた。毒蛾もうまいことかわしていくが全方位からの放水は流石に捌ききることができずある水の精霊が放水を当てると怯んだ毒蛾に他の精霊たちの放水も命中していきまたたくまに毒蛾の体力を奪っていった。

「これなら……っ!」

 それを見たネレイスは左手のボウガンでしっかりと狙いを定めていく。

「決めるよっ!」

 ネレイスが狙いを定めて放ったボウガンは毒蛾の右の羽を簡単に打ち抜いた。さらにネレイスは間髪入れずにもう1発放ち、それは左の羽を打ち抜く。飛べなくなり地面に落ちた毒蛾にネレイスは一気に近づき2本のレイピアを振りぬいた。その一閃でネレイスは簡単に毒蛾を仕留めた。

「……お見事です、ネレイス様」

「エメローネたちもありがと、でも大分時間かかっちゃったなぁ……」

 エメローネたちの協力もあり毒蛾の撃破と火災の鎮火は完了したが思いのほか時間がかかってしまった。予定していた時間をオーバーしたことでネレイスもミディアのことが心配になってきた。

「事後処理は私達に任せて早く向かわれてはどうでしょうか?」

「そうだね、お願いねエメローネ」

「お任せ下さい」

 エメローネにも促されネレイスはすぐにランディとミディアの元へ急行した。





「絶対守護障壁っ!」

 今日何度目か分からない絶対守護障壁で巨大な岩の拳を受け止めた。しかし1時間以上も使い続けてきたことで流石のミディアにも疲れが出てきたのかここ数回は拳に幾分押されている感じがあった。

「……ミディア、大丈夫かい……?」

「……そろそろ厳しいかもしれません……」

「……ラヴィスたちも随分てこずっているのか……」

「それまではなんとか持ちこたえなければ……」

 ミディアが呼吸を整え再び盾を構えたところでようやく後ろの方から聞きなれた声が聞こえてきた。

「……ゴメン、遅くなっちゃったね!」

 振り返ると毒蛾を片付けたネレイスがボウガンを構えていた。あのボウガンで注意を引いてくれるのだろう。

「ミディア!余所見をするな……!」

 しかしすぐにランディのその声で盾を構え直しゴーレムの方を向いた。ゴーレムの拳は地面を叩いている。

「……あっ……!」

 少し気を抜いていたのと体力的にもかなり疲れていたせいこともあり足元を揺るがされミディアは大きくバランスを崩してしまった。

「ミディアさ……!やばっ……!」

 ミディアのカバーに入ろうとしたネレイスは地面を叩いたゴーレムの腕がそこから地面と並行に地面を抉りながら振りぬかれていることに気付いた。このまま行くとどうなるのかネレイスにはすぐに想像できた。

「……ゴメン……!」

 ネレイスは羽を展開して飛び立った。

「っっ……!……絶対守護障壁っ!」

 ネレイスの前にいたミディアも当然拳が迫ってきていたのは分かっておりすぐに盾を構えたのだが、体勢が悪く到底受け止めきれるような状態ではなかった。

「ぐぁぅっ!!」

 鎧を身に付けたミディアであったが拳の直撃を受けてはひとたまりもなく、鎧が押しつぶされるようにへこみそのまま遺跡の壁をいくつも壊しながら大きく吹き飛ばされていった。

「……すっごいパワー……」

「……ネレイス、加勢に来たのは君だけかい?」

「後でラヴィスもルミナスさんも来てくれるよ、それまで今度はあたしが凌ぐから」

「……頼むよ」

 2人ともミディアを心配している様子ではあったがすぐにゴーレムに向き直っていた。

「……さ、次はあたしが相手になるよ!!」

 ネレイスはボウガンを乱れ撃ちゴーレムの注意を引くとその周囲を飛び回り翻弄しはじめた。





「ハァ……ハァ……くぅぅ……」

 ルミナスは息を上げながら杖を構え直した。ラヴィスの配分であったため何も言えなかったのだが流石にSランクの魔物を1人で相手にするのはなかなか厳しいものがあった。さらに今回ルミナスに任された量産型魔界人形ジャスミンType:Tは法撃攻撃を主体とした不死系闇属性の魔物であり、光属性を得意とするルミナスにとっては相性のいい相手であったはずだが、法撃攻撃に対する耐性が思いのほか高かったこと、さらには先ほどの群蟻パンツァーアーマイゼ戦で巣の壊滅までをやることになりかなり消耗していたこともあり長期戦となっていた。

「……光よ!」

 ルミナスが放った光の矢は魔界人形の周囲に浮かべてあるティーセットに弾かれてしまった。Type:Tは茶器人形であることを示しており、その周囲にはティーポット、ティーカップ、ティースプーンといった茶器セットを浮かばせている。先ほどからルミナスの攻撃は全てこれらに弾かれてしまっている。

「……戦う順番を間違えたかもしれません……」

 弾幕を厚くすれば突破できそうなものだがこの後にランディの救援でゴーレムを相手にすることを考えるとこれ以上の消耗を避けたいところでもある。

「……ラヴィス様に助けを呼ぶわけにも行きませんし……」

 ラヴィスは今も別の場所で魔物を相手にしている。ラヴィスもこの後ランディの救援があるのでこれ以上負担をかけさせたくない。

「……やるしか……ないですね」

 ルミナスは意を決したように背中に立派な光の翼を展開させた。ルミナスの手にはこれまで以上に強力な光が集まってくる。

「……示せ我が道!!」

 ルミナスの手から光線が放たれた。その光線は茶器に阻まれる前に人形本体に当たり大きなダメージを与える。やはり当てられれば効果は絶大なようである。

「……後のことはラヴィス様に相談して……今は全力で相手をしなくてはいけませんね」

 本気を出したルミナスは杖をくるくると振り回しながら足元には立派な魔法陣が描かれていった。





「当たらないよっ!」

 ネレイスを狙う巨大な拳は見当違いのところを通過していく。先ほどからネレイスの素早い動きに全く付いていけてないゴーレムは追い回しては空振りを繰り返し消耗し始めつつあった。ここまではネレイスやランディの狙い通りである。

「ネレイス、大丈夫かい?」

「まだまだ、ただ飛んでるだけなら楽勝だよ」

 ボロボロの状態だったランディも何とか立ち上がれる状態までには回復しており、グングニルを構えてゴーレムの出方を伺いながら攻撃を始めていた。ネレイスはボウガンで注意を引く程度の攻撃しかしてないのでダメージは期待できない。まとまったダメージを与えられるランディがラヴィスとルミナスが来る以前に多少は削っておこうとしているようだ。

「ランディさんも無理しないでよ?」

「……ちゃんとタゲを取ってくれる優秀な囮役がいるから大丈夫さ」

「あはは、そうだね」

 迫り来る拳をひらりとかわしてボウガンを乱れ撃つ。そこに足元を狙ってランディが一撃を放つ。注意が少しランディに向いたところを狙いすかさずネレイスが逸れた注意を引き戻すかのように目の前を飛び視界を遮る。その間にランディは物陰に隠れ目の前のネレイスめがけて拳を振り回すのだが、その時には既にネレイスはゴーレムの背後へと回り込んでいた。

「……ラヴィスたち遅いなぁ……それにミディアさん大丈夫かなぁ」

「大分苦戦してるってことかい?そんなに強い相手とか数が多いとかかい?」

「ラヴィスもルミナスさんも4体ずつ……ルミナスさんはSランクが1体相手だけど相性はいい方だし……」

「……強敵というよりは数が問題そうだね……集団を相手にさせられちゃうと大した相手ではなくても手を焼いちゃうからね」

 ネレイスは変わらず余裕を持って回避を続ける。ネレイスが来てからかなりの時間が経っているがまだまだラヴィス達は来ていない。ネレイスの到着自体もかなり時間が経った後だったため予定よりも大分遅くなっていることは間違いない。

「ミディアは……大丈夫だと思うよ」

 ランディはミディアが吹き飛ばされた方向を向いた。遺跡の壁がかなり崩れ落ちている場所がありそこまで吹き飛ばされたのであろう。この場所からではまだ瓦礫の下にいるのかなんらかの理由でもうその場にいないのかは分からない。

「……頑丈だしね……っと」

 ネレイスは一旦地面に降り立った。ゴーレムはそこを狙い拳を振り下ろしてくる。

「ランディさん、地面揺れるよ!」

「大丈夫だよ、準備できている」

 ネレイスは拳の落下点から離れると重心を下に移していた。ランディは調査隊が隠れているところに戻りなにやら指示を出している。そして拳は地面に思いっきり叩き付けられ衝撃波が広がっていくと同時に地面の瓦礫が持ち上がっていく。ネレイスはその動きに合わせてジャンプをすると軽々とゴーレムの頭の上まで跳び上がった。

「……おー、すごいすごーい!」

 トランポリンのようにくるくると回りながら跳んでいったネレイスは最高到達点で今度は大きな花弁のような羽を広げるとそこから羽に光を集中させていた。一方のゴーレムは地面に少し強く振り下ろしてしまったせいか引き抜くのに少々手間取っているようである。その間にもネレイスの背中の羽は輝きを増していた。

「精霊界砲充填率100%!ガラティーン……発射ぁ!」

 横に広げていた手を前に突き出すとそこから虹色のレーザーが放たれた。そのレーザーはゴーレムの右腕をを直撃し軽々と吹き飛ばしていった。

「……んー……ちょっと狙いずれちゃったかなー」

 撃ち終わったネレイスはそのままゆっくりと地上に降り立った。言葉のわりにその顔はどことなく満足げである。

「……ネレイス、君今わざと狙いを外したね?」

「んー?だってここであたしが片付けちゃったらラヴィスたちの出番なくなっちゃうじゃん」

「……そうかもしれないけどさ……でも確かに……」

 ランディはネレイスが跳び上がった際に向いていた方向を向いていた。そこにはまた見覚えがある影がある。

「……折角来たのにもう出番がないってのは可愛そうだしね」

「……悪い、随分とてこずった」

「遅いよラヴィス。あたしが1人で片付けようとしちゃったじゃん」

「1体だけしか相手にしてねぇだろ……4体+α相手にしたんだからな……」
 
 自分の担当を片付けたラヴィスがようやく到着した。多少疲れているような様子を見せていたものの戦う元気はまだまだあるようだった。

「2人とも、来るよ」

 ランディがそう声をかけると2人とも“分かってる”と言わんばかりの様子でその場から飛びのいた。その空間をゴーレムの拳が通過していった。

「ところでミディアはどうした?それにルミナスもまだ来てないのか?」

「ルミナスさんはまだ……ミディアさんはホームランされちゃった」

「……それって大丈夫なのか」

「……心配……無用ですよ」

「ミディア……っておい、大丈夫か?」

 ラヴィスがミディアを心配しているとそのミディアが戻ってきていた。鎧はボロボロで血に汚れており、口からも血を吐いたような跡が残っていたが足取りはしっかりしておりまだまだ十分に戦えそうであった。

「……これくらいのダメージ、最前線ではよくあることです」

「……流石だね、ミディア」

「まだまだ……やれますよ!」

 そしてミディアが帰ってきた間にさらにもう1人やってきていた。

「……すみません……遅くなりました……」

「ルミナス……大丈夫か?」

 最後にやってきたルミナスは明らかに疲れきった様子であった。

「……正直大丈夫ではありません……ひとまず合流を目指して……出せるだけ出し切ってきましたから……」

「……仕方の無いやつだ……ちょっと来い」

 ラヴィスは足元のおぼつかないルミナスを半ば強引に物陰に連れて行くとみんなが見ている前で堂々と唇を合わせた。

「……んむ……////

「……それくらい魔力あれば戦えるだろ?もうちょっと頑張れ」

「はい……////

「……お2人さん、そろそろいいかな?」

 そんな2人をランディはそうにこやかに言って呼び戻した。これで予定していた全員が揃ったことになる。

「……じゃあさっさとぶっ飛ばすとするか」

「そうだね~」

「ラヴィス様から魔力を分けていただきました、あれくらいを蹴散らすには十分です!」

「まだまだ皆さんを守れますよ……!」

「じゃあ僕が指揮を取ろう。……反撃開始だよ」

 その声と同時にラヴィス、ルミナス、ネレイスは散開しミディアは迫っていたゴーレムの拳を防いだ。かなりのダメージを受けているようにも見えるミディアであったが何の問題もなく防ぎきっていた。

「……ネレイス、引き続き注意を引いてくれ。ラヴィスは物陰から隙を狙ってくれ。ルミナスはおもいっきり法撃を叩き込んでくれ。もし攻撃が来てもミディアが全部防いでくれるよ」

「「「「了解!」」」」

 その言葉と同時に各々は行動を開始した。









(Part3に続く)


プロフィール

ラヴィス

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
来客者数
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。