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ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) 魔界編 ~新生魔界 始動~


「……これくらいでいいだろう」

「……そうですね、今はこれくらいで……」

 瓦礫の山の片隅にちょこんと建てられたいかにも簡素な造りの構造物。瓦礫を再利用したその無骨な構造物は人が4~5人くらいしか入れない程の狭さであったが、今はこれくらいしか造ることはできなかった。

「おいおい……まさかこんなちゃっちいボロ屋が“新生魔界宮殿”だとはいわねぇよな?」

「……仕方ないだろう。この瓦礫の撤去作業が終わらなければ宮殿の再建もできん。我々もまずは復興支援に手を貸さねばならない……まだ休憩室レベルの建物があればそれでいい」

「でもよぉ、流石にこれはねぇだろ?どっかまともな建物借りるでもなんでもした方がいいだろよ、グレモル」

「ファラ!……兄上は魔界王となられるお方だ。お呼びするなら“グレモル様”か“陛下”だろう!?」

「よせ、バレンシア。別に呼び捨てでも構わん……それにお前もそれを言いたいなら“兄上”はやめろ」

「はっ……!すみません、陛下……」

「…………やれやれ」

 その構造物を前にグレモル、バレンシア、そしてファラの元魔界十二使徒の3名が集まっていた。先日神界勢力と天界、精霊界、そして最終的には冥界も参戦した魔界鎮圧作戦により先代魔界王ベルガザスは葬られ、また新たに魔界を復興しようと神界側について生き残った十二使徒たちは動き出していた。

「……で、どうやって復興してくのさ」

「……まずは瓦礫の撤去……人手がいる仕事だが生憎今はどこも疲弊している。一番被害の少なかった冥界は残念ながら瓦礫の撤去作業には不向きな者が多い……やはり精霊界からの援助を頼まねばならないだろう」

「ネレイス様……ですか」

 今回の魔界鎮圧作戦では精霊界女王ネレイスが旗印となり、精霊界との関係修復を求める数多くの者達の協力を得て来た。そしてこれからもネレイスは魔界に対する援助を惜しまないと宣言しているために今の魔界にとっては最も頼れる相手であった。

「……まーそうだよなぁ……」

「バレンシア、ひとまず精霊界に赴きネレイス様から復興支援の人員を割いて頂きたいと申し入れをしてきてくれ」

「畏まりました」

 そのネレイスにまずは協力を要請する為グレモルはバレンシアを精霊界へと派遣した。そのバレンシアは返事をするとすぐに精霊界へと向かっていった。

「……で、ファラ」

「ん?」

「……お前も協力してくれるんだな?」

「……そりゃーな、ネレイス様にも約束しちまってるし一応十二使徒やってたわけだからな」

「あてにしてるぞ」

「……お前にそう言われると妙に緊張するぜ……」

 紅の死神ファラも魔界復興の中心的存在となることに承知してくれている。ファラは長らく封印されていた影響で幼く、粗野な印象が強いが、将軍と言う主を得てから大分大人になったようであり将軍からの信頼も厚く、グレモルもその力を大いに評価していた。

「……魔界の中核を担える人員が決定的に少なくなってるからな……魔界十二使徒のほとんどが消えたのがここにきてかなりの痛手と言えるかもしれん」

「まーそうだけどさぁ、あいつらで使えそうなやつ……」

「……ネレイス様がレゾーナを救ったことは感謝しないといけないな」

 先代魔王ベルガザス直属の部下であった魔界十二使徒は魔界鎮圧作戦の折に大半が駆逐されてしまっていた。その結果今残っているのがグレモル、バレンシア、ファラ、そしてネレイスが救い今はネレイスに仕えているレゾーナの4人だけだと言われている。

「陛下、只今戻りました」

「バレンシア、早かったな」

「ネレイス様が迅速に人員を割いて下さった」

「……話が早くて助かる」

 そこに派遣されたバレンシアが戻って来た。精霊界女王ネレイスへの支援要請がひとまず通りグレモルもとりあえずほっとしたようである。

「……で、その人員を率いて下さるのが……」

「……私だ」

 バレンシアの背後に立っていた人物はそこにいる全員が分かっていた。

「……なんだ、レゾーナか」

「……しばらく魔界から離れることができると思った矢先に魔界に駐留する仕事を任されるとは……」

「精霊界で魔界の勝手を一番知っているのは当然レゾーナ、お前なんだからお前に任せるというのは当然の判断だろう」

「……最後まで先代の陛下に仕えようと思った私に今の魔界は窮屈だ。それで精霊界での暮らしを望んだのだがな」

 レゾーナも本来であれば先代魔界王とともに消え去る覚悟を決めていたのだが、ネレイスの説得と身を呈して守ったことにより一命を取り留めていた。彼女は精霊の中でも失われた存在とされている時の精霊のはみだしものであり、その能力は魔界鎮圧作戦の折にネレイスも警戒をしていたほど強力なものであった。しかし同じく時の精霊の加護を受けていた避神クロノスの前に手も足も出ず完全に活躍をさせなかったのであった。

「……とりあえず期待しているぞ、レゾーナ」

「……やれやれ」

 魔界復興においてレゾーナの存在は非常に大きなものとなるであろう。グレモルにとってはこれ以上ない強力な助っ人であることに間違いはない。

「……にしてもよー、グレモルいいよなー」

「ん……?」

「優秀な配下みんな女だぞ」

「……そう言えばそうだな」

「……何故なのでしょうね?」

 魔界十二使徒は男女6人ずつで構成されていたが、そのうち女の3人が残っているというのもなかなかない話だろう。

「……あー、そうだそうだ。あいつまだ生きてるんじゃねぇかな」

「……ん?」

 ファラがそう言うとふらふらっと歩き去っていった。

「……アモンはネレイス様が仕留めた……ゾルホスはヘリオス、ゼクトールはミディア、サルバシオンは将軍……ということは……」

「おー、生きてた生きてた」

 そしてファラはすぐに戻って来た。その脇で大きな貝殻のような物を引きずっていた。

「……ファラ、そいつはまさか……」

「ああ、おいコーネフ!起きろ―!」

 グレモルの前までやって来たファラは無造作にごろんと転がすとがんがんと殴りつけ始めた。

「……コーネフ、魔界王がお呼びだぞー!」

「……うぅぅ……」

 やがて貝殻の中から怯えたような声が聞こえて来た。どうやら確かに中身は生きているようである。

「……ファラ、それくらいにしてやれ」

「へーい」

「……お前は守勢のコーネフだな?」

「……誰?」

「……叡智のグレモル。新しく魔界王になった旧魔界十二使徒だ」

 グレモルがそう名乗るとコーネフは貝殻の中からするっと体を出してきた。

「……え?新しい魔界王?」

「ああ、先代王ベルガザスは倒れた。今は私が新しい魔界王となり魔界の復興を進めて行こうと思っている」

「……復興……」

 コーネフが辺りを見回した。そして崩壊した魔界宮殿を目にして衝撃を隠せないようであった。

「……ああ……宮殿が……」

「……しかしよく生き残っていたな……魔界十二使徒はここにいる奴ら以外はみんな消えたというのに……」

「……僕も……ファラにコテンパンにされて……」

「まーな、だけどお前を消す前に結界解けちまったからそのままほったらかしにしたんだよなー」

 コーネフは魔界鎮圧作戦の折にファラとの戦闘を行っていたが、その際ファラはコーネフに止めを刺していなかった。そして頑丈な殻によって魔界宮殿の崩落に巻き込まれても難を逃れる事ができていたのである。

「……まぁなんにせよ魔界十二使徒がもう1人残っていたことは朗報だ。勿論協力してもらえるな?」

「え?」

「魔界の復興だよ。魔界十二使徒の残りが先導してやってくことになったんだから当然お前も協力するよな?」

「……いや、僕まだ何も……」

「協力するよなぁ?」

「うぅぅ……分かったよぉ……」

 ファラの不敵な笑みを見せられ震え上がったコーネフは渋々了承したのだった。

「……魔界十二使徒の残りがこれだけいればなんとか回せていけるかもしれんな……」

「そうですね……そこは陛下やレゾーナ様の腕次第でしょう」

「……ハァ……」

「コーネフもよろしく頼むぜ」

「うぅぅ……なんだか知らないけど……やるしかないよね……」

 魔界十二使徒の生き残りが結集し魔界復興はここから本格的に進んでいくことになるだろう……



SS編 魔界編 完


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ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) 天界編 ~十二聖女、出撃!~


「……なかなか厳しいですね……」

 降り注ぐ光を背に受けて3体の竜種と対峙していたフィアの表情は明らかに辛そうであった。そもそも相手は単体での撃破は厳しいと言われるSSクラスの竜種。それを3体同時に相手にすることはネレイスであっても厳しいのであるが、それをフィアは互角と言ってもいいくらいのレベルで押し留めていた。もっとも“押し留めている”だけではあるのだが応援が来るまでの時間稼ぎには十分である。

「……この光を受けることでなんとか持ちこたえてますが……」

 竜種3体を押し留めるには当然それだけ強大な力を必要とするが、純光のフィアと称される彼女が放つ光はそれをも可能にしていた。闇を照らす光は魔族にとっては大きな力となるが純粋な光というものはそれ自体が猛毒のようなものであり、ありとあらゆるものを滅する破滅の刃となる。それは聖女であっても例外ではない。先程からフィアは受けた光を再び魔力に置換するためこれを受け続けているので体にかかっている負担は相当なものである。

「……まだ……援護はないのでしょうか……」





 天界第2聖女である彼女ではあるものの、普段は魔界魔族観測所の副所長として所長のミーナの補佐をしている。そのためフィアが戦闘に駆り出されるときは基本的に人手が足りない時になる。今回もフィアが駆り出されたのは人手が足りなかったからなのだが、少し事情は特殊であった。

「竜種の同時多発発生だなんてただごとではありませんね……」

 予兆も特になにもなく、ただ突然に竜種が各世界に現れ始めた。最初観測所としての見解は魔界側の大規模な作戦開始だと踏んでいたが、やがてただ単純に各地の竜種の動きが活発になっただけだということが分かった。しかしそれでも異常事態であることに変わりはない。すぐさまSkyBlue全体に出撃命令がだされていき、ラヴィスや将軍といった主力メンバーは速やかな殲滅を目指して各々倒しやすい相手から狙いに向かっていった。だが当然ながらそれだけでは圧倒的に人手が足りない。それに今回は主力メンバーであるルミナスは出撃できないのもかなりの痛手となっていた。

「ミーナさん、私たちにも直接出撃要請がかかりました……どうしましょうか」

「……出るしかありませんね……正直私たちが揃って観測所を空けるのは心配ですが竜種の放置はもっと危険です……」

「……竜種と戦えないルミナスさんには私の代わりに補佐をお願いしようと思います……」

「分かりました、では先に向かっていますよ」

 普段はサポートメンバーである観測所のミーナとフィアもこの状況では出撃せざるを得なかった。特にフィアはルミナスの代わりとして主力級の活躍をしなくてはならないという重圧もかかっていたのである。ミーナの出撃を見送ったフィアはその後ルミナスに連絡を取り観測所のサポートをお願いすると自身も出撃していった。

「まずはこいつを……」

 フィアが向かった先には一般的な竜種が1体。体長もさほど大きくはなく、Sランク程度の相手であった。SkyBlueの主力クラスであれば単独での撃破も難しくない相手からフィアは片づけようと考えていた。

「奇襲をかけます!」

 相手がまだ気付いていないうちから決着をつけようとフィアは光の翼を展開し一気に背後から迫っていった。接近しながらその右手には光の剣を創り出していく。

「天界聖女の威光を示せ……一撃必殺!シャイニングブレイカー!!」

 竜がフィアの接近に気付いた時には既に大きな光の剣が降り下ろされていた。天界屈指の魔力を誇るフィアの放つ集束された一撃は奇襲をかけたこともあり宣言通りの一撃必殺で竜を葬り去った。

「……こんなものでしょうか」

 フィアは一瞬で光の翼を消すとすぐさま次の場所へと向かおうとした。

「……フィアさん、待って下さい」

「ルミナスさん?」

 そのフィアをルミナスが通信機の向こうから呼びとめた。

「……追加で竜種の反応を確認しました……3体です」

「3体……それは……」

「……ランクSSの火竜種が3体……先の相手とは格が全然違います……」

「……やるしかありませんね」

 ルミナスによってもたらされた情報は正直絶望的なものであった。しかしこの場に居合わせてしまった以上引き下がることはできない。覚悟を決めたフィアは冒頭の展開へと持ち込んでいったのであった。



「……そろそろ……もちませんよ……」

 しかしそれも限界に近付いていた。これ以上続けたとしても足止めできるのは数分であろう。

「……ここはもう……打って出ます!」

 フィアは残る魔力をさらに集束させ1体の竜へと注いだ。足止めで与えていたダメージ分と合わせてようやく1体の竜を打倒す事には成功した。しかし1体だけである。足止めの解けた残り2体の竜がフィアに向かって近付いてきている。しかしフィアは先の一撃でほぼ動くことはできない。

「ルミナスさん……私は限界です……皆さんに……後を……」

 フィアは観測所への通信を開き最後にそう言った。交戦中にも何度か通信を試みたのだがルミナスからの応答は一切なかった。普段観測所の運営には携わっていないルミナスが所長、副所長不在に加えて多忙な状況である観測所の収拾に忙しくそれどころではなかったのだろうと思っていた。そしていよいよ2体の竜が目の前にまで迫って来ていた。

「…………将軍様」

「……あーもー……そうやってあっさりやられちゃ困るのよねー……」

 そこに気だるそうな女性の声が聞こえてくると虹色の閃光が2体の竜に降り注いでいった。その光と声にフィアは心当たりがあった。

「……そんな……イーリス……様……?」

「……もーさー、なんでわたしが加勢にこなきゃいけないわけー?」

 天界の誇る最上位の階級、天界十二聖女。その中でも第五聖女と高位の存在であるイーリスが虹色の煌めく光翼を広げてフィアの目の前へと降り立った。当然SkyBlueのメンバーでは無く、何より天界宮殿から外に出る事はないとまで言われているほどの出不精であるイーリスがこの場にいることにフィアは驚きを隠せなかった。

「……イーリス様……」

「……仕方ないでしょー?ルミナス様に加勢してって頭下げながら言われちゃったら従わないわけにはいかないじゃん……」

 ぶつぶつと不満を口にしながらもイーリスは竜種の注意を自分へと引きつけていた。普通戦場にでることなどあり得ないイーリスであるが、第五聖女の位を持っていることからその戦闘能力は申し分はなかった。イーリスの放つ虹色の光は有効打にこそならないものの確実に竜種の体力を削っていっていた。

「あーもー……やっぱめんどくさーい……ねー、まかせちゃってもいいー?」

「……もう少しお力添えを願いたい、イーリス様」

「私たちもサポートしますから」

「むー……」

「その声は……!」

 さらにフィアの後ろから2人の声が聞こえてきた。やはりフィアにとっては聞き覚えのある声であった。

「ヴァレリア様……それにラヴェンナ様……!?」

「フィア様。後は私たちにお任せ下さい」

「……どうして……」

「……ルミナス様が加勢をお願いしてきたのです」

「人手が足りないとのことでしたので……」

 天界十二聖女の第六聖女、ヴァレリア。並びに第七聖女のラヴェンナまでもがルミナスの要請により加勢にやって来ていたのだった。

「……天界十二聖女が3人も来て下さるなんて……」

「ふぉっふぉっふぉ……もう1人忘れんでいただきたいのぉ」

「えっ……グランエル様!?」

 さらにヴァレリアの隣に仙人風の男が男が現れていた。彼も十二聖女の第十聖者にあたる存在であるグランエルであった。

「老骨故あまり役には立たんかもしれんがの、少しでも力にはなれるじゃろうて」

「これで十二聖女が4人……竜種2体を相手に戦力的には十分すぎるだろう」

「そうねー、これで私も楽できそうだし」

「では……行きましょうか!」

「ふぉっふぉっふぉ、ワシらの力を見せつけてやるとするかの!」

 フィアの前にずらりと並んだ十二聖女。その姿が今のフィアにとってはものすごく心強く映っていた。

「さぁ、みなさん!頑張って下さい!」

 まず動いたのはラヴェンナであった。踊り子装束の彼女は支援系の光気を得意とし、味方全体の士気を高揚させてくれる。この支援効果によってもっとも戦闘能力が上がるのはヴァレリアであった。

「私が切り込む!」

 立派な騎士槍を振るう勇壮な姿が天界内でも非常に評判の高いヴァレリアはラヴェンナの支援光気を受け鋭い一撃を放った。その一撃は片方の竜の腹を鋭くえぐり有効打となったようである。

「もー、ちゃんと一撃で仕留めなさいよねー……」

 それでもなお倒れ伏さない竜にイーリスが追撃を放った。至近距離まで近づき集束した虹色の光線を撃ち込んだ。深手を受けていた竜を仕留めるには十分であった。しかしその間ノーマークとなっていたもう1体の竜がイーリス目がけて爪を振り下ろしていた。

「じーちゃん!」

「ほっほっほ、言われんでもわかっておるわい!」

 そのイーリスを護るような形でグランエルの守りの光気が展開され竜からの攻撃を防いだ。このあたりの連携も全くぬかりがない。

「攻める!」

「今度はばしっと決めてよねー」

 攻撃がはじかれたことで隙ができた竜の脇腹に今度はヴァレリアの一撃がクリーンヒットした。聖女ら4人の連携でフィア1人では到底相手にしきれなかった竜2体をいともたやすく蹴散らしてみせたのだった。

「……すみません……お手数おかけしました」

 横になったままのフィアが集まった面々に声を掛けた。

「ふぉっふぉっふぉ、なぁに構わんよ」

「言ったでしょー?ルミナス様に言われて仕方なくなんだから……」

「……あれほどお願いするルミナス様は珍しいですし……」

「……そうだな……」

 どうやらルミナスと連絡が付かなかったのは天界に戻り十二聖女に加勢を要請していたのだろう。人手が圧倒的に足りない今、使えるものは徹底的に使おうとした結果なのであろう。

「……さ、ここからは我々がフィア様の仕事を引き受けよう」

「えー……私もう帰るー……」

「ふぉっふぉっふぉ、まだルミナス様に依頼された仕事は片付いておらんよ」

「イーリス様のお力にまだまだ頼らなくてはならないですから頑張りましょう」

「……むー……やっぱ断ればよかった……」

 相変わらずイーリスだけは乗り気ではないようだが他の3人の聖女たちに促され渋々協力を続けるようにしたようである。

「それではフィア様、ゆっくりお休みください」

「……そうはいきません……戦うのは厳しいですが……観測所に戻って指示を出すことくらいはできますから」

 その様子を見てフィアも体を起こした。他の聖女たちにここまで仕事をしてもらうからには自分もそれなりの仕事をしなくてはならないという気持ちに駆られていた。

「ふぉっふぉっふぉ、相変わらず無理が好きよのぉ」

「……こうなっては休んで下さいと言って休むものではなかろう。仕方あるまい……」

「では皆さん……行先は私が指示しますので……どうかよろしくお願いします」

 そしてフィアは一足先に転移魔法で観測所へと戻っていった。戻った際に観測所は大分混乱をきたしていたようであったが、その後フィアの的確な指示により観測所の機能は回復。それにより効果的な指示が飛ばせるようになったことと、加勢に来てくれた天界聖女たちの大活躍もあり、今回の竜種大量発生の事変は終息に向かっていった。そしてこの事変はSkyBlueの面々にとっても改めて天界聖女の実力を再確認させられるものとなったのである。



SSs 天界編 完


ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ミディア編 ~鎧神のお食事~

「マスター、おかわりお願いします」

「はっ……はい、只今……」

 その一声にその食堂内は俄かに騒然としてきた。それも無理はない。声を上げた主は一見そこまで体の大きい女性ではないのだが、その彼女の周りには既に平らげた後の2枚の大皿が並んでいた。そしてマスターが運んできた新しい大皿にはおよそ3人前のカレーが乗っていたことから既に彼女はおよそ6人前くらいのカレーを平らげたことになる。そうともなれば店のマスターだけでなく偶然居合わせた客からも驚きの声が上がるのも無理はない。このような異様な光景にも至って平常心を保っていたのはそんな彼女の隣で1人前のカレーを食べていた男だけであろう。

「もぐもぐ……」

「……騒がしくなってきたね」

「……そうですね……どうしてでしょうか……?」

「……自覚ないんだね……やっぱり」

 男は呆れたように軽く溜息をつくと皿に残ったカレーをスプーンですくって口に運んだ。これで男はカレーを完食したことになる。大分ゆっくり食べていたせいもあるが、それを考えても既におよそ6人前を平らげた女性の方はすさまじいスピードで食べていることになる。

「……いいかい、ミディア。普通の女の子はこんなに食べれないからね……というより男でもこんなに食べる人は珍しいよ」

「あぅ……で……でもランディさん!だってここのカレーは美味しいって有名なんですよ?そんなところでカレーのチャレンジメニューなんてあったら……」

「……別に普通のカレーを多く注文すればいいじゃ」

「ここのチャレンジメニューを制覇できれば1年間カレーが1回の来店に1食限りですけど無料になるパスをもらえるんですよ!これは挑戦するしかありません!」

「…………」

 ミディアの言葉にランディはついに何も言い返せなくなってしまった。ミディアは傍から見れば少し控え目で少し抜けたところのある女性であるが、SkyBlue内では最強の守備力を誇る重装騎士である。決して大きな体ではないものの体を張ってみんなを護る為にたくさん食べることで力を得て来たのである。

「……もうちょっと……!」

 そしてついにミディアは最後の一口を運んだ。この店のチャレンジメニューであった10人前カレーをミディアは制限時間内に見事平らげて見せた。

「ふぅ……」

「お……お見事です……女性でこのメニューを完食したのは貴女が初めてですよ……」

「それは……光栄です」

 驚くマスターを尻目にミディアは綺麗に口を拭いていた。その顔は非常に満足げである。

「それでは……」

「冗談じゃねぇぞ!」

「ん……?」

 そしてお店のマスターがミディアに賞品のフリーパスを取りに行こうとした瞬間に男のどなり声が聞こえてきた。一瞬にして店内は静寂に包まれる。

「……すみません……」

「濡れちまったじゃねぇか、どうしてくれるんだよ!」

「すぐにお拭き致しますので……」

 どうやらウエイターが持っていた水をお客さんにこぼしてしまったようである。そのお客が明らかにガラの悪そうな男だったので一悶着になってしまったのだろう。

「……あぁ……あれはうちの常連さんなんだけど……結構外では評判悪いと有名なんですよ」

「……水をこぼされただけであれとはね……」

「ご飯が堅いだの具の割合がおかしいだの細かいところまでうるさく言われてしまうのでこちらとしても大変なんですよ」

「そんな……」

 2人が様子を見ている間にも男はウェイターを怒鳴り散らしていた。

「……しかもルーに水が入っちまったじゃねぇか、こんなカレーもう食えるか!」

「!!」

 そしてついに男はウェイターに向かってカレーの皿を投げつけてしまった。

「さっさと新しいの持ってこいよ」

「……っっ!!」

「おい、ミディア!」

「……あなた、何をしているんですか!?」

 それを見たミディアはランディが制止する間もなく飛び出していった。普段は控えめで戦闘時も気持ちの強さを感じることこそはあれ、感情的な言動はほとんど見せないミディアがここまでも怒りをぶつけるようなことはランディにとっても珍しく驚きの様子を隠せなかった。

「あぁ?姉ちゃんなんだ?」

「……ここのカレーを粗末にするなんて許せませんよ!」

「粗末にしたのはこいつだろ?水ぶっかけやがって……」

「水が入ってもカレーは食べられます。でもこうして投げ捨てられたらもう食べられません!」

「煩ぇな……おい!お前ら!」

「へい!」

 男はそういうと一緒に来ていた子分を2人ほど呼びだした。どちらも屈強そうな見た目をしていて明らかに傍から見ればミディアに勝ち目はない。

「……マスター、デッキブラシとかモップを2本ほど用意してもらえるかい?」

「は……えっ?」

「……どう見ても一勝負起きそうな雰囲気だろう?頼むよ」

「畏まりました……!」

 マスターが店の奥に入っていくのを見送ってからランディも席を立った。

「……やれやれ……騒がしいね。それに大の大人3人で女性1人に手を上げようとするなんて」

「あぁ?外野は引っ込んでろ」

「……ランディさん。下がっていて下さい……これは私の戦いです」

「……そうかい?じゃあミディア。くれぐれも“やりすぎないように”ね」

「……はい」

 そう言うとランディは大人しく引っ込んでもとの席に座った。

「やっちまえ!」

 まずは子分の男1人がミディアに殴りかかった。その攻撃をミディアはかわすことなく受け止めた。

「…………」

「……ってぇ!」

 ミディアの頬に入った男の拳はまるで鋼を殴ったかのような衝撃を受けていた。一方のミディアは軽くよろめいただけでさほどダメージを受けたようには思えない。

「……そんなものですか?」

「……テメェ何者だ!?」

「……ただの客ですよ……ここのカレーが大好きな!」

 今度はミディアが殴りかかりに行った。男はミディアの腕を捕まえて止めようとしたが信じられない力強さで止める事はできず、殴り飛ばされ床に転がった。

「……チッ……」

 只者ではないと悟った男は懐からナイフのような物を取り出した。流石にミディアもそれを見てうっとおしそうな表情に変わる。

「外に出ましょう。……お店の中でこれ以上暴れたら迷惑ですから」

「……いいだろう、外に出るぞ」

 ミディアの提案に男も乗り、外へと出て行った。そのタイミングでマスターはモップを2本持って戻って来ていた。

「ありがと。今外で喧嘩することになったみたいだから僕がちょっと行ってくるよ」

「あ……」

 ランディはマスターからモップを受け取るとすぐに外へと向かっていった。ミディアが外へ行こうと提案した瞬間に外に子分が集まっているであろうことは容易に推測がついていた。流石のミディアも素手では多数を相手にするには無理があるはずである。

「……やっぱり」

 窓から外を見るとやはり予想通りミディアは多数の子分に囲まれて苦戦しているようだった。

「……やれやれ、こんなことじゃないかと思ったよ」

「ランディさん!?」

「ミディア、外に出ようという提案自体は正しいけど……当然こういう展開になるってことは想像できたよね?」

「……それは……」

「……全く。まぁミディアらしいけどね」

 そう言うとランディは近くにいた子分をモップの柄で殴り倒すとミディアにもう1本のモップを投げて渡した。

「……さっきの……邪魔するんじゃねぇよ」

「流石にこの大勢で女の子を襲うのは感心しないからね、加勢させてもらうよ」

 そしてランディはミディアと背中合わせになった。目の前にはナイフを持った子分が5人ほどいる。

「……こっちは5人……か」

「私は6人です」

「……行けるかい?」

「……行けます」

「じゃあ……さっさと決めちゃおうか」

 そう言うと2人は同時に攻勢に移った。槍の扱いを得意とする2人にとって“柄の長いもの”は何でも武器になってしまう。モップはさらに視界を遮ることのできる効果も併せ持っているため非常に扱いやすい道具であった。そしてあっという間に2人は子分たちを殲滅させてしまっていた。

「……くそ……」

「……さ、どうするんだい?」

「……」

 完全に旗色の悪くなった男はその場から逃げだそうとした。

「……逃がしません……!」

 しかしミディアがそれを許さなかった。ミディアが投げたモップは男の足を捉え、バランスを崩し転んだ男にもう一度拾い上げたモップで追いうちをかけた。

「……これくらいにしてあげます。これに懲りたらあんなことはもうしないで下さいね」

「……くそっ……覚えてやがれ!」

 ミディアにコテンパンにやられ男は一目散に逃げて行った。

「……ふぅ」

「……お疲れ様、ミディア」

「ランディさん……ありがとうございました」

「さ、もどろうか」

 それを見送り2人は店内へと戻った。

「……終わりましたか」

「はい。……すみません、お店のカレーを台無しにされて私……黙っていられなくて」

「そう言って頂けるのは大変光栄です……ではこちらを……」

 店内ではマスターが出迎えてくれ、ミディアに1年間のフリーパスを手渡してくれた。

「ありがとうございます……また来ますね」

「お待ちしていますよ」

「さ、じゃあそろそろ戻ろうか」

「あ、ランディさん!」

 お金を払い帰ろうとしたランディをミディアは呼びとめた。

「……さっき体を動かしたらお腹少し空いちゃって……カレーの大盛りを食べたいです!」

「……えっ?」

 ミディアの言葉にランディはマスターと思わず顔を見合わせてしまった。

「……か……畏まりました、すぐに用意致します」

「……ミディア、本当によく食べるね」

「本当にここのカレーが美味しいということです!」

 その後ミディアは運ばれてきた大盛りのカレーをゆっくり味わいながら平らげた。その様子を見たランディは苦笑いをしていながらも微笑ましそうな様子だったという。



SSs ミディア編 完


ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) 冥界編 ~とある冥界人の手記~


――死後の世界の存在なんてオレはこれっぽっちも信用していなかった。だがオレの目の前に広がっている光景……これは間違いなく一般的に“あの世”と呼ばれる世界なんだろう。重苦しい鉛色の空に殺伐とした空気、荒涼とした大地には死者と思われる骸たちが闊歩している。……まさか本当にこんな死後の世界があるなどとは思ってもみなかった。

 まずはオレの話をしておこう。オレは盗賊だ。ただ“世紀の大怪盗”だとか“正義の義賊”だとかそんなご大層なものじゃない。ただのチンケな盗賊だ。そんなオレは良家の家に入り込み金品をかっさらおうとしたんだが……結果的にこのザマだ。え?見つかってさっくりやられたとかだって?いやいやそんなんじゃねぇよ。オレは見事防犯装置とかも潜り抜けて金品をかっさらって家を抜けだしたさ。……そしてさぁ帰ろうかって思ったときに庭先の長い石階段から転げ落ちてお陀仏ってわけよ。どうだ、傑作だろ?

 ま、そんなマヌケなやつだったとは言え盗賊は盗賊だ。天国だの地獄だのそんな話は聞いたことがあるがオレは地獄行き決定なのは間違いねぇだろう。もしかしたらもうここが地獄なのかもしれねぇな、ハハッ。

「……貴方ですね?」

 するとオレを呼びとめる女の声が聞こえた。その声がした方を向くとそこらをうろついてる骸どもとは全然違うキレーな着物姿のネェちゃんがいたんだ。オレの知り合いにこんな綺麗なネェちゃんがいた記憶はねぇし、なにより死んだ人間にしては綺麗すぎる。

「アァ?誰だよお前?」

「失礼しました。私、冥界王リッチ様にお仕えするセルディアと言うものです。リッチ様の命によりお迎えに上がりました」

 セルディアとかいうネェちゃんから“冥界”って言葉が出てきたわけだから間違いなくここは死後の世界なんだろう。

「……冥界王ダァ?」

「……貴方はご自身の置かれている状況を御理解なさっていますか?」

「ああ、オレは死んだ。そして気付いたらここにいた」

「……大丈夫そうですね」

「で、冥界王がオレなんかに何の用があるってんだよ」

「御用も何も……ここに来られたのですからここの主であるリッチ様に御挨拶をするというのが筋と言うものでしょう」

「別にオレは来たくてここに来たわけじゃ……」

 状況のさっぱり分からん状態でオレは混乱していたがそれでも連れて行こうとするこのネェちゃんにオレは抵抗はしたんだが……

「……とりあえず来て頂きます。何かあればリッチ様に直接訴えて下さい」

「なっ……」

 このネェちゃんオレの体をすり抜けて背後に回ったと思ったら変な札を張り付けやがって、そしたら体の力が全然入らなくなっちまってそのまま引きずられるようにして連れていかれちまったんだ。





「リッチ様、お連れしました」

「ご苦労だった、セルディア」

 荒涼とした大地に突如現れた立派な都市。その奥に建っていた立派な宮殿の中にまで連れてこられたオレはついに冥界王とかいうリッチとやらの前に引き出された。まぁ王とか言うくらいだから確かにそれなりの風格があるし闇色のローブにフードと雰囲気もバッチリだったがそのフードは目深まで被っていやがって表情は全く読めない、不気味なヤツだった。

「……さて、まずはようこそ冥界へ。どうだ、冥界の居心地は?」

「……知らねぇよ」

「まぁ来たばかりだからな、仕方あるまい」

「……というかオレに何の用だよ?」

「別に、私から用はない」

「なんだよ、それ……」

 リッチの言葉にはどう考えても裏があるように思えてならなかったが……折角なので色々聞いてみようと思ったオレはとりあえず様々な質問をぶつけてみることにした。

「……まぁいいや。オレは聞きたい事がたくさんある」

「構わん。何でも聞くといい」

「……まずここは死後の世界という認識で間違いない」

「いかにも。ここ冥界は死後人間が訪れることになる世界だ」

「……じゃあオレ以外にも死んだ人間が集まっているんだな?」

「ああ、そうだ」

「……こうしている間にも死んでいる人間はいるはずだ。そいつらを迎えにいかなくてもいいのか?」

「…………」

 どうやらリッチはオレが何を言いたいか気付いたようだ。察しがいい。

「その必要はない。私が直々に会うようなことはそうそうない」

「じゃあオレには何かあるのか?」

「……いや、別にお前に何か特別なものがあるわけでは……」

 やはりオレを連れてきた裏の理由があったようだ。もうひと押しでそれを聞き出せると思ったんだが……オレはこの時背後に居た気配……いや……幽霊が気配なんて放たないだろうから気付かないのも無理はないが……そいつに邪魔をされることになった。

「……あれ……?見ない顔ですね……リッチさん何かしたんですか?」

「……いや……」

「ん……?」

 セルディアの声とはまた違うどこか気品のありそうな声がオレの背後からしたもんだから振り返ってみたんだが……そこには誰もいなかった。

「ふふふ……こっちですよ」

 いつの間にかまたオレの背後から声が聞こえる。また振り返ってみるとそこにはリッチとセルディアの姿しかない。次第にこの声がオレをおちょくっているように聞こえて腹立たしくなってきた。

「……ミント、それくらいにしておけ」

「……仕方ありませんね……」

 リッチがそう言うとオレの体をすり抜けるようにして声の主が現れた。漆黒のドレス姿は確かに気品ある姫さんに見えなくもなかったが所々破れているのがなんとも不気味なように思えてならない。頭に乗ってるティアラもくすんでいるのも気になるし……異常なまでに白い肌は明らかに死者のものだった。

「……もう少しいい反応を期待したのですが……」

「……幽霊は趣味が悪いんだな」

「……許してやってくれ。こいつはそういうやつだ」

「リッチさん、その言い方は酷いじゃないですか!」

 リッチからしてもどうやらこいつは特殊な幽霊らしかった。

「……こいつは冥界戦姫ミント……冥界人の一派、霊の頂点に立つ者だ」

「ふふ、よろしくお願いしますね」

 握手をしようと手を伸ばしてきたがその手を握ろうとするとその手はすーっと透けてしまい触ることができなかった。その様子を見てミントはクスクスと笑っていやがる……どこまでも気味悪く、悪趣味な奴だ。

「でも……リッチさんがあなたを連れて来たってことは……ふふふ……」

「…………」

 先程から執拗にオレのことをからかおうとしてくるミントにそろそろオレは我慢ならなくなってきた。しかし相手は霊体……オレが何かをしようにも全て透過させられてしまい手も足も出ない。だがオレのそんな煮え切らない表情が読まれてたのかこっそり動き出していたのがセルディアだった。セルディアも同じく姿を消してミントの傍に近寄っていったようだ。

「よかったですね、リッチさんに気に入られたということは……」

「……はい、そこまでですよ」

「!?いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 そしてセルディアはミントの背後から懐の札をぺたりと貼りつけた。そのあまりの不意打ち加減に驚いたのか、逆にオレが驚くくらいの絶叫をしながら消えて無くなってしまった。

「……すみません。ミント様に悪気はないのですが、すぐに悪乗りをしてしまうのが難点なのです」

「……大丈夫か?断末魔のような叫び上げてたぞ……?」

「……あれくらいやっておかないと懲りないので大丈夫です。消えて無くなったわけではないので心配しないでください」

 セルディアは落ち着いた様子で言っていたが……なんというかどことなく怒っているような気もした。こういうことがわりと多々あるんだろう、大変そうである。

「……まぁもう隠す必要もないだろう。お前を呼びだした理由はただ1つ」

「……ん?」

「……私の臣下にならんか?」

「はぁ?」

 リッチがあまりにも意味の分からないことを言ってきてオレも素っ頓狂な声を出してしまった。

「初対面の奴に凄い事言うもんだな」

「だが私は至って本気だ。君には見所がある……是非とも……」

「……何でオレなんだ?オレはただのチンケな盗賊だぜ?」

「……それは知っている。だが……今のこの状況を冷静に見据えていられること……そして……」

「…………」

「……男だからだ」

「……はぁ?」

 リッチの謎の理由にまたしても不本意ながら素っ頓狂な声を上げてしまった。

「……何、私の周りにいつも控えているのが先のミントとこのセルディアだ。……他にもいるにはいるが何故かは知らんが女ばかり。正直この異質な環境に適応できそうな男を探していたんだが……」

「で、オレか?」

「……ああ、最初のうちはこの個性的なメンツに慣れるには苦労するかもしれんが……この先退屈な思いはさせん。折角死後の世界を堪能できるのなら貴重な経験をするのもいいと思うのだが?」

 冥界王の言葉はなんとなく魅力的なような気もしたが……どうしても警戒しちまうのは自然な反応だろう。

「……オレは地獄行きの人間だ。そんなやつを傍に置いていたって仕方ネェだろ?」

「ふ……チンケな盗賊が入れるほど地獄と呼ばれているような場所は広くない。だが天界へ行けると言ってもお前は行く気が無いだろう?結果この冥界で過ごすことになるだろう」

「…………」

 確かにそうだ。オレに天国のような場所は似合わネェ。地獄に落とされることも無いならずっとこの冥界ってとこを彷徨うことになるのだろう。それなら冥界王の下について過ごすのも悪くは無い。

「……今はまだ答えが出ない。しばらく考えさせてくれ」

 だがまずは彷徨ってみることも悪くはないだろう。死ぬ前だって彷徨っていたといえば彷徨っていたんだ、こういう生活もオレには合ってるのかもしれん。それを見た後で答えを出すのだって遅くは無いだろう。

「……まぁいいだろう……すぐに話がつくとは思っていない。だが私はこの宮殿で君が戻ってくるのを待っている」

 リッチはそう言って部屋を出て行った。

「…………悪いな、折角の申し出だったのに」

「いえ……リッチ様の仰っていた通り簡単に話がつくようなことではありませんから」

 部屋に残ったセルディアは最後までオレのことをただ見守っていた。リッチに口添えをするようなことも、オレを勧誘するようなこともせずただ静かに成り行きを見守っていただけだった。

「……ですが……私からも是非お願いします。リッチ様のもとで冥界での生活を送って頂きたいです」

「……考えておく」

「……如何せんリッチ様を含めて変わり者の多い冥界上層部を引き締める冷静な方が欲しいのです」

「……やっぱりお前苦労してるんだな」

 確かにセルディアは冷静沈着で主のリッチやミントをフォローする重要そうな立場にあることは薄々気付いていた。しかしそれを1人でやり続けるのは大変だろう。……ただオレにその役が務まるかは甚だ疑問だ。

「……冥界各地を出歩くのでしたら……これをお持ち下さい」

「……何だァ?札?」

 セルディアは懐から束になった数枚の札を持たせてくれた。

「……冥界各地にはミント様よりタチの悪い幽霊がたくさんいます。骸のなかにも好戦的な者がいます。……そういった者から身を守る為の護身用の札です。それを見せれば悪しき冥界の民は近づきません。安全に冥界内を旅できるでしょう」

「……そこまでしてオレに戻って来て欲しいのか?」

「……はい、私もリッチ様も。……そしてミント様も。それくらい貴方には素質があるのです」

 冥界王に気に入られるような素質がオレにあるとは思えんがそれはそれで光栄だ。死ぬ前は誰かに必要されていたと感じたことはほとんどなかったが……まさか死んでからオレの存在が必要とされるとは思わなかった。

「……さ……ではしばしのお別れですね。どうかお気をつけて」

「……セルディアと言ったな。感謝するぜ」

 そしてオレは宮殿を後にした。そのままオレはこの冥界ってとこをきままにぶらつくことにした。



――その冥界人がその後どうなったのかは分かっていない。だがただ1つ分かっていることはある。それはこの者が再び冥界宮殿を訪れた形跡はないことだ。未だに冥界各地をあてもなく彷徨っているのか、悪しき冥界人の手にかかって消滅してしまったのか、それを知る者はいない……



SSs 冥界編 完

ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ノエル編 ~初陣~


「ラヴィス様っ!別の世界にて再び強力な反応を確認っ……!そちらも迎撃をお願いしますぅ……!」

「こっちも今交戦中だ、手は空いてない。それとラヴィス"様"で呼ぶな。というかお前は誰だ?」

 顕界で交戦中のラヴィスの所へ通信が入った。魔物の出現を確認し出撃要請をする仕事の連絡であったが正直もううんざりとしていた。先程から次から次に出撃要請がかかり、もう既に出撃できるメンバーはみな戦闘に駆り出されていた。この状況で新たに仕事の依頼を出されてもどうしようもなかった。

「すっ……すみません……!私観測所の上級管制官ですぅ……!ミーナ様もフィア様も出撃なさって観測所の指揮をとる人がいなくなっちゃったんで私が代理でやってるんですよぉ……!」

「……そんなあたふたして本当に上級管制官か?ミーナやフィアが見たら……」

「あわわわ……やめてくださいぃ!こんな状態見られたら降格処分ですよぉ!」

 連絡を入れてきた観測所も既に手一杯の状態であることはすぐに分かった。魔物の発生は基本的には散発的に起こるものであったが、時折何かをきっかけに大量発生が起こることはこれまでにもあったことである。しかしここまで大規模な発生はこれまでに例がなかった。

「……うう……かくなる上は私が剣を持って……」

「……素人が相手にできる敵ではない。お前は大人しくそこで精一杯指揮をとってろ……」

「は……はいぃ……!」

 そう言って通信は途絶えた。少々観測所の体制に不安を感じたものの今は目の間にいる魔物の相手をしなくてはならない。

「……ねぇラヴィス、次が出たんだって?」

「ネレイス、片付いたのか?」

「なんとかね……」

 今度はネレイスからの通信が入った。SkyBlue1の働き者である彼女は真っ先に出撃をしていって既に何十体もの魔物を倒してきていた。そして今も先程連絡の入った依頼を受け出撃しようとしていた。

「……無理はするなよ。正直お前が一番頼りになるんだからな」

「大丈夫……ラヴィスも大分頑張ってるみたいだしまだまだ頑張れるよ」

「そうか……じゃあ頼むぞ」

「ラヴィスさーん!また出ましたよぉ……」 

「……泣き言言うな」

 ネレイスの通信に割り込むような形で再び観測所からの通信が入った。管制官はもうすでにいっぱいいっぱいのようであった。

「……うぅぅ……私もうダメです……管制官クビです……」

「あぁもう鬱陶しい!おいお前、観測所の今の様子を教えろ!」

「うう……私たちの何倍も働けるミーナ様とフィア様を欠いて今の観測所のメンバーでは多発する魔物発生の情報処理が追い付きません……もうみんなパニックで私なんかが統率を取ろうとしてもできませんよぉ……!」

「……全く……仕方ない、我が逐一情報を受ける。お前はもう通信を切るな。そして来た魔物の発生は報告を来たやつから順に報告しろ。人の派遣は我がやっておく」

「すみませぇん……助かりますぅ……」

 ラヴィスは自身の負担が大きくなるのを承知で管制官の仕事を一部引き受けることにした。若干疑っていたが、上級管制官と言うだけあり泣きごとは言っているが観測所内の状況報告はしっかりできているあたりその能力はちゃんとあるのだろう。自らの能力にあった仕事をすればしっかりとその力を発揮できるだろう。

「えっと……新着報告は……3件ですよぉ」

「……増えてないか?」

「増えてますね……」

 こうしている間にも魔物の出現報告は増えてきていた。一方で対処できる人間の数は変わらない。そうなればもう1人1人がもっと手早く相手をしていく必要があるだろう。

「……とりあえずまずはこいつを相手にする。報告は少し待て」

「了解です!」

 少しばかり自信を取り戻したのか管制官の覇気のある声にラヴィスは安心し正面の魔物に向かっていった。ラヴィスほどの腕があればそれなりに力のある魔物であっても倒す事には苦労しなかった。

「……よし、次に向かう。状況はどうだ?」

「……新着報告は……もう10件になってますよぉ……!」

「……ち……属性等の情報はどうだ?」

「……特別傾向はありません……ただ……種別的には獣種が多いみたいですよ……」

 管制官から送られてきたデータを見ると確かに獣系の魔物が多いように見えた。

「……そうだな、狼や兎な足は速いが体力はない……その辺りは我が全部引き受ける。有翼系は全部ネレイスに回す。あとは先程片が付いたと報告があった将軍に行かせる」

「分かりました」

 素早く現在の報告に対して状況整理をし、出撃する者を決めた所でラヴィスは次なる標的に向け出発しようとした。

「……待って下さい」

「……ん?何だ?」

「……観測所に別回線で通信が……えっ……そんな……!?」

「……どうした?」

「……の……ノエル様から通信です!」

「ノエル様からだと!?」

 どうやら苦戦しているという報告を聞き心配になったのであろう。SkyBlueの雇い主とも言える神界の代表者ノエルが直々に連絡を入れてきたようである。

「ラヴィスさんを呼んでますが……繋ぎますか?」

「ああ……」

 これまでなかった事態にラヴィスも少々動揺していた。ノエルの人柄はそれなりに理解しており、この場で“もう少ししっかりしなさい”だの“何をやっているのですか”だのといった叱咤をするためのものではなく単純に“無理はしないで下さいね”という心配の声を届けにきたのだろうと思っていた。

「ラヴィスさん……大丈夫ですか?」

「大丈夫です……これくらいまだまだ……」

「……無理はしないで下さい……もうみなさんは大分頑張って戦って下さいました」

「……だがまだまだ魔物の発生報告は止んでいません。我々はまだまだ頑張らなければなりません」

 ノエルの心配に大丈夫だと答えるここまではラヴィスが予想した通りの展開であった。

「……ですが私も皆さんの無事を祈るばかりではいられません……私も出撃します」

「……は?」

 しかしノエルのこの言葉は完全にラヴィスの想定外であった。

「……私だって……戦えるんですから……」

「ノエル様……」

 基本的に神界宮殿内で過ごしているノエルは一見華奢な体で到底戦えるようには思えないが、SkyBlueメンバーはノエルが十分戦えるということを把握していた。ノエルの内にはノエル本人が自覚していない大いなる力――神秤テミスがあり、それを無意識のうちに行使することによって攻守ともに圧倒的な力を示す事ができるのである。その力をちょっとした遊びの場で見せつけられたSkyBlueメンバーは大いに驚きその力を認めていたのだが、まだ実戦でその力を行使したことはなかったのである。

「……申し訳ありません。ノエル様の出撃許可を我が出す訳にはいきません」

「!?……どうしてですか?」

「……ネレイスに聞いて下さい。ノエル様のことを一番よく分かっていらっしゃるのはネレイスですから」

「ネレイスさん……私も戦います!」

「……1人で戦わせるのはちょっと心配だけど……この状況で人手が欲しいのは明らかだもん……無理はしないでね」

 通信を聞いていたネレイスもかなり心配をしているようであったが今のノエルの熱意を止めることはできなさそうだと感じていたのかついにノエルの出撃を許可したのだった。

「……ラヴィスさん。私に出撃先の指示をお願いします」

「え……我が指示を出すのか……!?」

「……今私はSkyBlueの1メンバーです。代表であるラヴィスさんの指示に従います」

「……少々気が引けるのだが……承知しました」

 成り行き上ラヴィスは雇い主を指揮するという事態に困惑していたが早速ノエルにお手並み拝見として仕事を依頼した。

「では……出撃します!」

 こうしてSkyBlueの雇い主ノエルは初陣へと向かっていった。





「……い……いよいよですね……」

 ノエルは任地へと到着した。目の前にはいかにも獰猛そうな赤い毛色をした熊がじっとこちらを睨みつけていた。

「……わ……私が相手になりますよぉ!」

 早速ノエルは構えを取った。しかしその手に武器はない。体にも特別武器や防具のようなものがついているわけでもなく、魔法を詠唱しているわけでもない。完全に生身の状態で自分の体よりも大きい熊と格闘をしようとしている風に見えた。傍から見れば無謀であることに間違いはない。そのノエルに向かって熊は容赦なく近づいていき鋭い爪を伸ばした太い腕を振りおろしてきた。

「……っっ……お仕置きキックですよぉ!」

 その腕目がけてノエルは軽く飛び上がりながらくるりと体をひねりそこから回し蹴りを放った。その足先が熊の腕に触れたその瞬間だけまばゆい光が発せられるとその瞬間に熊の腕はいとも簡単に吹き飛んでいた。片腕をもがれた熊は苦悶と怨嗟の声を上げながら睨みつけていた。その腕からは赤黒い血がどくどくと溢れ出続けている。

「ひっ……」

 ノエルにとってはこういった光景を見るのも初めてだった。ここは戦場。命の奪い合いをする場である。これまで自分の立ったことのない、立つことのない場所であっただけにだんだんと体が震え始めてきていた。その震えは次第に大きくなっていく。

「……これが……実戦……皆さんは……いつもこんな場所で……」

 震えの止まらない体を必死に落ち着かせようとしていたが一向に止まることはなかった。体も高揚しているためとはまた違う熱さを感じていた。ノエルは神秤テミスの力を御しているわけではなく、力に振りまわされているような状態である。そのためその力が暴走し、体が過熱状態に陥ってしまう症状がよく起こっていた。その予兆とも思える状態にノエルは入ってしまったようである。

「……もう今更……引っ込むこともできません……やるしか……!」

 震えて多少言うことをきかない体を無理にでも動かし再び構えを取った。放っておいてもいずれ息絶えるのはノエルにも分かっていた。しかし今は速やかに次の標的を倒しに行かなくてはならない状況であり、それに見るからに苦しそうな状態の熊を早く楽にしてあげたいという気持ちが強かった。腕をもがれた熊はただただ眼前にいるノエルを打倒そうと血を噴出させたまま迫って来ていた。

「……すみません……っ!!」

 ノエルは腕のなくなった方面から頭を目がけて再び回し蹴りを放った。その足先は正確に頭を捉えその頭を吹き飛ばしていった。頭を失った体はその場に崩れ落ち、自らの出す血の海に沈み動かなくなった。

「…………」

 相手は魔物とはいえ一つの命をノエルは奪った。その事実を心の中で整理するのに苦労した。世界の安定という目標のために魔物との戦いは避けては通れない。日々魔物との戦いが繰り返されるこの場にみんなは常に立っている一方でノエルは常に死と隣り合わせの空間に送り出し、帰りを待つだけの存在だった。そのことに後ろめたさを感じ始めていた。

「……ネレイスさん……」

 特に自らの創り出した存在であるネレイスは誰よりも戦地に立つことが多かった。結果そのせいだけではないのだがSkyBlueメンバー内でネレイスの負傷、死亡回数は飛び抜けて多かった。ネレイス自体無茶が好きなせいもあるのだが、ノエルもそれを止めないことも問題だったのだろう。ノエルは改めて自らの生み出したネレイスの強さとネレイスへの申し訳なさを強く感じた。

「……次に向かいましょう」

 少し気持ちを落ち着かせノエルは次の任務地へ向かっていった。



「……ノエル様の加勢で大分仕事が減ってきました……これならそろそろ私たちだけでも処理できるかもしれません!」

「……ハイペースだな……大丈夫か……?」

 ノエルの加勢によりSkyBlue個々のメンバーの負担は大分軽減されてきたようであり、比較的余裕が出始めてきていた。ラヴィスも連戦続きで疲れた体を休ませている最中であった。

「……ノエル様がこんなスピードで戦えるなんて思ってもみませんでしたぁ……」

「……ノエル様の戦闘能力は侮れない。攻撃する瞬間に力を集中させ相手を一撃粉砕する……力の無駄遣いなく敵を倒す事ができる。防御の時も攻撃を食らう瞬間に力を集中させることで無効化する……・正直“ちゃんと”戦えればSkyBlueメンバー内でもトップクラスの実力は持っている……」

「ちゃんととはどういう……?」

「……ノエル様は“その力を自覚して使っていない”。そしてその力はあまりにも強大……まだ戦場での経験もないノエル様にその扱いはまだまだ難しいだろうから……」

「……そうですかぁ……」

 ラヴィスはただただノエルの心配をしていた。戦場でノエルの内に眠る神秤テミスの力の暴走により過熱状態に陥ればその瞬間に命はないだろう。その危険が常につきまとう中で出撃を許可したネレイスもそれだけが気がかりでこっそりと精霊を偵察につけているくらいである。何かあればすぐにノエルのところに飛んで行くということも言っていた。

「……なにも無ければいいんだが……」

「あ、新しい報告が3件入りました」

「……ん、仕事か……じゃあ……」

「……ってこれノエル様が向かった座標ですよ!」

 入った報告内容を確認していた管制官が何かに気付きにわかに慌て始めた。

「……ん?3件全部か?」

「そうではなくて!そのうちのノエル様が向かった1件がマズイです!」

「……何があった?」

 その報告を聞いたラヴィスも一瞬で顔つきが変わった。

「……相手は複数……しかもSランクの魔物です……」

「……ネレイス!」

 その報告を聞いてラヴィスは真っ先にネレイスと連絡を取った。

「……っく!何?ラヴィス」

「ノエル様が危険だ。すぐ援護に行け!」

「……ゴメン……今は無理……」

「どうしてだ!?」

 先程ノエルの危機に真っ先に駆けつけると言っていたネレイスのその答えにラヴィスは少々声を荒げてしまった。

「無理もないですよ……ネレイスさんは今SS-1ランクの竜種と交戦中なんですから……」

「……あたしが今ここで動いたら被害は拡大しちゃう……ノエル様の救援は当然行きたいけど……」

「……分かった、その竜種は我が引き受ける。お前はすぐにノエル様の所へ向かえ!」

「……ありがと……」

 そう言うとラヴィスは真っ先にネレイスが交戦している地点へと向かっていった。

「ネレイス!」

「ラヴィス、ゴメン……多少弱らせてはおいたけどまだまだ力は大分残ってるから気をつけて」

 竜種と交戦していたネレイスは相当長い連戦と今回の強力な竜種の相手で大分疲弊しきっていた。服も乱れ体中にはあちこち傷も見えたがそれでもなんとか戦線を維持しているような状態であった。正直このままノエルの救援に行かせるのも心配な状況である。

「……分かった、行ってこい!」

 それでもノエルの安全が第一である。2人はそう言葉を交わしネレイスはノエルの加勢へ、ラヴィスは竜種の討伐へと動き出した。





「……うっ……流石に分が悪いでしょうか……」

 一方のノエルは既に交戦を始めていた。最初にいたのは小鳥のような魔物が2体。特に苦戦せず倒せると思っていた矢先にノエルが来たことに気付いた小鳥が鳴き声を上げると巨体を誇る親鳥と思われる魔物が2体増援として現れていた。実戦経験のないノエルにとって1対多数の相手をするのはまだまだ不安があった。

「……とりあえず数を減らさなくては……」

 しかし援護は期待できない。まずは敵の数を減らすべく2体の小鳥に狙いを定めた。

「的は小さいですが……当れば!」

 辺りを飛び回るように動く小鳥の動きを止めようとノエルは手を翳した。するとその手から風の刃が飛び出していき前方を切り裂いた。直撃こそはしなかったものの今の一撃で相手の動きを制限できそうであることは分かった。

「……次は……決めます!」

 ノエルは今度は手からではなく足から風の刃を生み出した。そしてそのまま地面を蹴るとその瞬間にテミスの力でものすごいスピードで接近をしていった。その前方に風の刃から逃れようとした小鳥が飛び込んできた。

「まずは1体!」

 スピードをそのまま生かして放った蹴撃は小鳥をいとも簡単に吹き飛ばした。

「……行ける!」

 もう1体の小鳥も視界に捉えたノエルは風の刃で翼が傷ついていることに気付くとテミスの力で跳ねるように接近し、素早く背後に回り込んだ。翼が傷つき動きの鈍い小鳥はノエルの動きに対応できずその後軽く一蹴されてしまった。

「……ここまでは何とか……」

 あっさりと小鳥を2体蹴散らしたノエルであったが、その後が大変だということは分かっていた。残った親鳥は巨体でありながらも俊敏で、体力も攻撃力も非常に高そうであった。

「……ここからが勝負ですね」

 再びノエルが構えを取り直したところで悠然と動いていた親鳥の1羽が飛びあがった。その動きに一瞬気を取られたがもう1羽が近づいてきていることにも気付いていたためそちらの方を迎え撃とうとした。

「……きゃっ!」

 しかし飛びあがった方が着地をした際に起きた衝撃でノエルはバランスを崩した。そこにもう1羽からの乱れ突き攻撃が飛んできた。

「……っっ!」

 華奢な腕を交差させてそれを受け止めようとすると嘴が突き刺さる瞬間ごとに光が発せられ攻撃を受け止めていた。

「……相手を間違えましたね……」

 相手が複数いる場合は戦う順番を誤れば命を落としかねない。それを身をもって経験したノエルは改めて気を引き締め直した。

「……っ!この気配……!!」

 するとそこにノエルでもすぐに分かるくらいの強い力を持った魔物が突然湧いて出た。恐らくはノエルの内にあるテミスの力に惹かれたからなのであろう。残っている鳥2羽の相手に加えてさらに3体の魔物が現れ明らかに状況は不利になっていた。

「……誰か!応答して下さい!」

 ノエルは使いなれないメンバー用の通信端末で必死に応答を求めたが皆交戦中であったり繋がらなかったりで誰とも連絡を取れなかった。頼みの綱のネレイスも交戦中のようだったし、何より既に相当数の魔物と交戦を続けており頼るには少し後ろめたさも感じていた。

「……こんな状況でも……皆さん立ち向かっているんですよね……」

 自分もやらなくてはいけない。そう覚悟を決めたその瞬間だった。

「……ノエル!」

 聞き覚えのある声に見覚えのある姿。ノエルが一番信用しそして一番心を許している存在――ネレイスであった。

「ネレイスさん!」

「ノエル、下がって。まとめてあたしが相手をするから」

「は……は……いえ……私にも戦わせて下さい」

 安心したノエルは体から力が抜けてしまいその場に一度へたり込んでしまい一度は全てをネレイスにまかせようとしたが、直ぐに気合いを入れ直して立ちあがると加勢を申し出た。

「……あたしの心配だったら大丈夫だよ」

「……ネレイスさんが平気でも私からすれば心配です。それに……私もしっかりと闘えるというところを示しておきたいですから」

「……そっか……くれぐれも無理はしないで、行くよ!」

「はい!」

 こうして加勢に来たネレイスと共にノエルは再び戦闘を始めた。ネレイスの加勢によって状況は一気に好転、ノエルの高い戦闘能力も十分に発揮できたことでこの場の鎮圧は無事完了したのだった。

「……ふぅ……」

「……ノエル……凄いね……」

「……私も……こんなに戦えるだなんてびっくりです」

 戦いの後ネレイスとノエルはしばらく休息をとっていた。ラヴィスに任せた竜種もその後各地の魔物撃退を続けてきたメンバーが次第に合流していき、無事撃破できたという報告が先程入っていた。観測所からも魔物発生報告が沈静化し、今回の魔物大量発生はなんとか終息したようである。

「……ありがと。ノエルが出てくれたからみんな多少なりとも楽になったよ」

「そんな……私なんてまだまだ……」

「ふふ……でも何かあったらノエルも自分の身はしっかり守れそうだしこれからもたまーに出てみたらどう?」

「……頑張ります」

「ふふ……あたしがしっかりサポートするから任せて」

「はい……お願いします」

 こうしてノエルの初陣は収穫と課題の双方が得られた非常に有意義なものとなったのである。



(SSs ノエル編 完)
プロフィール

ラヴィス

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

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