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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦編 ~決行直前~



―SkyBlue各員に緊急指令。至急神界宮殿に集合せよ。





 未だかつて聞いたことのなかった緊急シグナルに従い神界宮殿には続々とSkyBlueメンバーが集まってきていた。

「神界八将のみならずSkyBlue全体に送られた緊急シグナル……か」

 世界各地を放浪していた将軍も急遽神界宮殿へと戻らざるを得なかった。将軍が神界宮殿の一室にやってきたときには既に他の神界八将の面々のみならず天界の筆頭聖女ルミナスに第2聖女のフィア、精霊界女王ネレイスと植物の精霊の長フローラ、さらには神界ではまず見ることのない冥界王リッチと霊姫ミント、顕界にある魔界魔族観測所所長のミーナまでもが集まっていた。神界八将が揃い踏みすること自体非常に稀なことであるのにここまでのメンバーが揃ったということもあり、この場の空気は非常に張りつめたものになっていた。

「……みなさん……集まってくださったのですね」

 そこに姿を現したのは神界の現統治者であり、SkyBlue創設者でもあるノエルであった。その表情は緊張で非常に硬かったが、勢ぞろいした面々を見るとほっとしたように表情を少し緩めた。

「…………」

 その後ろからは体の大きさに見合わない大きな鎌を背負った全身赤黒い子供がついてきていた。

「おい、ファラじゃねぇか!お前ノエル様の傍で何を……」

 その子は将軍が従えている(自称)死神のファラであった。確かにここ数日は“大事な仕事がある”と言って姿を見せていなかったのだが、ノエルの傍で仕事をしていたとは思いもよらなかったようである。

「……みなさん、よくお集まりくださいました……これから大事なお話があります……」

 集まったメンバーたちの正面に立ち、続いてファラが自分の隣に並んで立ったことを確認すると重々しい口調で静かに喋り出した。

「……SkyBlueという組織は世界の安定を司るという神界の本来の役割を果たすために設立した組織です……これまでみなさんには数多くの仕事をこなしてきていただきました……」

「…………」

「……長い時に渡ってつらく苦しい生活を強いてしまったかもしれません……今回……そんな生活に終止符を打たせようと思います」

 ノエルの言葉、傍らにいるファラ。この時点でこの場にいたSkyBlueメンバーはみなこの後ノエルが何を言い出すのか把握していた。

「……これまで世界の安定を妨げる要因となっていた魔界……これを鎮圧し安定化に向けた基盤を築こうと思います」

 精霊界に負の気の呪いをかけ四界の釣り合いを乱し、顕界に数多の魔物を送り込み人々や自然に多大なる影響を与えてきた魔界……その鎮圧作戦に乗り出そうということをノエルは決心していたのであった。

「……今が好機……ということなのですか?」

 智神のランディのその言葉は今回のこの決定が全員に対して初めて話されたことを示しているようであった。

「……ああ、今の魔界において水面下ではあるが反体制派に対する機運が高まっている。その大きな要因は精霊界女王ネレイス様の精霊界における功績が届いているところにある」

 ランディの質問に答えたのはノエルの隣にいたファラである。ファラは元魔界十二使徒であり、近頃は魔界に対するスパイ活動をしていた。そこから魔界に攻め込む機会を探り続けていたのである。

「あたしの功績……かぁ」

 ネレイスが精霊界で成し遂げた功績は数限りない。その中でも最も大きかったものは魔界の妨害があった中精霊界にかけられていた負の気の呪いを解いたことである。これにより精霊界は繁栄の基盤ができ、ネレイスの手腕と精霊たちの力で急速な発展を遂げてきたのである。今や精霊界は精霊たちの棲む楽園のような場所であるという話まで上がり始め、魔界においても密かに憧れている存在が少なくないという。

「……この反体制派を煽動しているのが魔界十二使徒のグレモルとバレンシアだ。ただこれ以上反体制派の活動を増やせばいよいよ魔界王から目をつけられ窮地に陥りかねない……グレモルからもそろそろ限界だと言われたからな……」

「…………」

 そしてこのグレモルとバレンシアは調べた結果ネレイスの母親で精霊界の8代女王フェリアの弟と妹、ネレイスにとって叔父、叔母にあたる存在だったのである。当然魔界側もこの事実を把握しており常に監視を続けているようなのだが、魔界の第2使徒で叡智のグレモルは魔界運営の要とも言える存在でありなかなか対処をしきれない部分もあったようだ。

「……ノエル様だって本当はみんなに相談してから決めようと思ってた。けど……これまでは個々に判断をお願いしてきたからこそ今回の大事な決断は神界の統率者としてそしてSkyBlue創設者として……自分の意思で決めたかったんだってさ」

「……分かってるよ……」

「……すみません……ネレイスさんにとっては……非常に重大なことだったので伝えるべきだとは思ったのですが……」

 ネレイスにとって魔界との決着は長らく精霊界と魔界の間に残った因縁の清算という意味で避けては通れないものであった。しかし負の気の呪いを抱えたままのネレイスが負の気満ちる魔界の地に踏み込むことは非常に負担のかかることでもある。早いうちから準備をして万全な状態で戦闘に参加できるようにするためにもネレイスにとっては少しでも早く話してもらいたかったのである。

「……いいよ、ノエル様が十分に考えてこの重い決断をしたんだろうからさ」

「……ネレイスさん……」

「……SkyBlue代表としても……いずれ来ると覚悟していたことだ。その時が来たということならば我々はその任にあたるのみ」

 そして長らく黙っていたラヴィスもついに口を開いた。ラヴィスのその言葉に続き周りの面々も静かに頷いた。

「……ありがとうございます……みなさん」

「……そうと決まれば作戦会議だね」

 そしてランディが前へと出ていき魔界鎮圧作戦に対する綿密な作戦会議が始まった。

「まずは……SkyBlueの創設者の権限を持って……本作戦の総大将をネレイスさんに任命します」

「えっ、あたし!?」

 まずはノエルからネレイスに総大将を任命するところから始まった。

「……魔界王との決着はネレイスさんに付けて頂きたい……そういう思いがあります」

「……うん、分かったよ……」

 ネレイスは若干不安そうではあったがその大役を引き受けた。

「そして……申し訳ないのですが皆さんで魔界に侵攻することになれば当然残る四界やここ神界が攻め込まれる可能性があります」

「……そうだね、特に……」

 ランディは真っ先に冥界王でもあるリッチの方を向いた。

「……冥界は名目上不干渉条約があり攻め込む訳にはいかない」

「はい、ですので冥界勢は今回そのまま魔界に派遣するわけにはいきません……」

 冥界と魔界との間には精霊界が負の気の呪いに包まれた際に不干渉条約というものが結ばれていたのである。その名前の通りにお互いに干渉することなく長い時に渡って中立の関係を保っていた。そのため冥界から魔界に攻め込むことは神界の指示があったとしてもできないのである。

「……では我々は何を?」

「……ただ……もしものことがありますので冥界軍の準備はしておいてください」

「ふむ……」

「精霊界も天界も襲撃を受ける可能性があるので魔界に向かわせられる部隊にはそう多く数を割けません……魔界軍の規模を考えれば数の上では圧倒的に不利です……ですので冥界軍の戦力は私たちにとっては欠かせないのです」

「……とりあえず承知した。冥界軍の準備は進めておこう」

 目深に被ったフードの奥でリッチの目がキラリと光った。

「各界の防備は……神界は私が指揮をとります……万全の防衛システムは整えてありますが念のために……」

「天界は……エリミーヌ様とウルスラ様が適任でしょう……」

「精霊界は八理守護精霊と八理竜を総動員させます……当然魔界が全力で狙いに狙いに来るでしょうから」

 ノエル、ルミナス、ネレイスが各界の防備担当を決めていく。

「……あ、あとフローラさんも精霊界の防備についてくれる?」

「私もですか……?」

「……フローラさんも精霊樹を守らないといけないでしょ?あの樹も世界の安定に大きく寄与してるんだし……」

「分かりましたわ、精霊界から皆さんの活躍をお祈りしてますわ」

「あ……ミーナさんも……神界から皆さんのバックアップをお願いしたいのです」

「あ……はい、私もいつものような仕事をすればいいのですね」

 ここでSkyBlueメンバーからもさらにフローラとミーナが魔界突入班から離脱した。その後も数時間にわたって綿密に作戦内容を詰めていった。





「ノエル様……」

「……どうしました、ネレイスさん?」

 作戦会議も終わり各々出撃準備を整えていた。与えられた準備期間はさほど長くはなかったため特にルミナスとネレイスにとっては事情の説明から部隊の編成など多忙な日程が組まれていたのである。そしてついに訪れた魔界突入前夜、ネレイスはノエルの部屋へとやってきていた。

「……ついに明日……だね」

「……やはり不安ですか?」

「もちろん……」

 ネレイスの顔は不安げだった。精霊界再生の時以上に重圧を感じているのだろう。

「…………」

「大丈夫です。みなさんが守ってくれます……もちろん私も」

「……うん」

 それでも浮かない顔のネレイスに向かってノエルは澄んだ声で歌を歌い出した。

「……ノエル様……」

 それは歌召術と呼ばれる魔力を込めた歌声を様々な力を持った旋律に乗せて歌いあげることで効果を発揮する神界に伝わる秘術だった。精霊界再生の時にもノエルは負の気の集束装置に繋がれたネレイスを落ち着かせるために歌い続けてくれたものである。ネレイスもこの術を習得し使えるのだが、ノエルの使うものの効果は抜群に高いのである。

「……凄い厳しい戦いだと思う……だけど……」

 ノエルの歌声の力か、ネレイスの周りには暖かな淡い光があふれ始めていた。

「……みんなのために、そして……ノエル様のためにも……頑張るよ」

 その晩ネレイスはそのままノエルの部屋で出撃前のつかの間の休息の時を過ごしたのだった。










「……では……準備はよろしいですか?」

「うん、いつでもいいよ」

 ミーナからの言葉にネレイスはしっかりと答えた。そして目の前の転送装置が作動する。

「座標軸βD-334-23……転送開始!」

「……SkyBlue……これより魔界鎮圧作戦を決行します……出撃っ!!」

 ネレイスの号令のもとSkyBlueの魔界突入部隊は出撃をしていった。ここにSkyBlue創設史上最大の作戦が決行された。



魔界鎮圧作戦編 本編に続く


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フコウノセカイ ノ モノガタリ





――これは神界の記録からも消し去られようとしていたある世界のお話である










 かつてこの世界はたび重なる戦乱によって荒れ果てていた。この世界には3つの国家が存在し、長らく互いに覇権を争い戦争を繰り返してきたことによりどの国も疲弊をし滅亡の危機を迎えていた。

「……もはやこの国もここまで……か」

 この世界でもっとも広大な版図を誇っていたこの国は戦争による国土の荒廃と兵士の動員による人手の不足により、この国の国力を長らく支えてきた源でもある食料庫とも言われた広大な農地を耕すことができなくなり食糧の確保が問題となっていた。さらにこのときは干ばつも重なったことで事態は非常に深刻であった。

「……陛下!2国の連合部隊が侵攻を開始、速やかに迎撃の指示を……」

 そこにこの国の騎士団長が敵襲の報を持って飛び込んできた。3国のうち2国が手を組み残りの1国を叩くというやりかたはこれまでに何度も仕掛けまた仕掛けられてきたのだが、そのいずれも抜け駆け、裏切りなどにより一度も成功した試しがなかった。

「……もうよい、最前線の部隊を速やかに撤退させよ……各地の兵は民を最優先で守るように指示を出してくれ」

「陛下!何を仰られるのですか!?」

「……もうこれ以上はこの国が持たぬ。戦おうが戦わまいがこの国はじきに滅びるだろう……滅びるのであれば少しでも民の苦しみを和らげるのが愚王であった私の最後の役目だろう」

 国王はテラスへと出ていき城下を眺めた。城下は荒れ果て人々の姿もまばらであり活気は完全に失われていた。城下の外は痛々しい戦争の傷跡が残る荒涼とした土地に変わっておりかつての実りあふれる農業国の姿は見る影もなかった。

「……よろしいのですか?」

「……ああ」

 国王がそう覚悟を決めた瞬間に空から暖かな光が差し込んできた。その暖かな光に包まれて1人の女性がゆっくりと降り立ってきた。長いブロンドの髪に純白の法衣をまとったその女性の背中には真っ白で立派な6対12枚の羽が広げられていた。

「天使……!?」

 国王の前に降り立った天使はゆっくりと目を開けた。薄紅色の瞳で真っ直ぐに国王を見つめると携えていた聖女の姿をかたどった杖を向ける。

「……ようやく自らの愚行を恥じることができたか」

「そ……そうだが……貴女は一体……!?」

「……私はレミエル……この戦乱を終結させるために天界より遣わされた者……」

「レミエル……様……」

 国王は神々しいまでの姿のレミエルを前にしその場に跪いた。

「……もうお前は二度と戦をしないと約束をするか?」

「……はい」

 レミエルが厳粛な声で国王の頭に杖を当てるとその杖からまばゆいほどの光が発せられた。その威光におののいた部分もあったのか国王の返事はどことなく震えていた。

「……その言葉しかと聞き届けた。面を上げよ」

 レミエルはそう言うと杖を頭から離した。国王は跪いたままではあったが顔はレミエルの方へと向けている。

「……では今からこの戦を終わらせてこよう……それが私の役目だ……」

「……よろしくお願いします……」

 そしてレミエルは戦場に向けて飛び立っていった。





 レミエルが現れたその翌日、長らくこの世界で続いた戦乱は終結した。連合軍の前に姿を現したレミエルはその威光をもって連合軍を一蹴した。これにより連合軍は瓦解、天使の庇護下では勝ち目がないと悟ったことで次々と降伏を宣言したのであった。

「……レミエル様……このたびは戦乱を終結へと導いてくださり感謝します……」

「……私はきっかけを作ったに過ぎない。どの国も事態を把握し矛を収める選択をできたのだ……聡明な判断ができるのなら私がやることはその判断を導かせるだけだ」

「そしてレミエル様……まだしばらくここで……?」

「……この世界が復興し再び戦が起こらない世界ができることを見届けるまでが私の役目だろう」

 レミエルは国王のところへと戻ってきていた。そして国の再興と繁栄を見届けるまではこの国にとどまることを約束してくれた。

「そうですか……何卒よろしくお願いします」

「……いずれは私の力なくともやっていかねばならないのだぞ?」

「……しかし……今はその力なくしてこの世界は成り立たないのです……」

「……そうだな」

 そしてレミエルは軽くほほ笑んだ。その顔はまさしく聖女と呼べるような美しさであった。その後この世界にあった3つの国は天使レミエルを守護天使として据えた宗教国家として再編成されることとなり、レミエルに認められた農業国の国王が統一国家の初代国王としてこの世界の再建を図ることとなった。荒れ果てた土地を開墾し、建物や道路の復旧には長い時を要したものの統一国家は戦乱に明け暮れていた時代とは比べ物にならないほど豊かな国へと生まれ変わっていった。その間レミエルも必要な法整備を整えたり、豪雨や干ばつといった災害を食い止めるべく尽力するなど国を支えるためにその力を大いに発揮していた。

「レミエル様……」

「いかがなさった、国王陛下」

 そんなある日、国王はレミエルの下に一輪の花を持ってやってきていた。

「……その花は一体……?」

「私にもよく……しかしこれまで我が国にはこのような珍しい花が咲いたという報告は上がっていません」

 その花は黄色くて小さかった。花の下についている葉も白くて小さいものがたくさん付いている。

「……ただ……どことなくこの葉と花がレミエル様のように見えると……」

「私に……?」

 レミエルがじっくり眺めると確かに上から見れば中心にある黄色の花の部分が自身の立派なブロンドの髪に、白い葉はちょうど斜めの方向に3枚ずつ、12枚の羽を広げているように見えていた。

「……分からなくはないが……」

「……これまで見つけられていなかっただけかもしれません、しかし私はこれがレミエル様がこの地にいらしてくれたからこそ咲いたものだと……そう信じたいのです」

「……本当にこれまでなかった花なのか?」

「……とりあえず確認させていますが……恐らくは新種であると」

「……そうか……」

 数日後、この花は新種であると認められた。統一国家の中でもレミエルが降り立った元農業国の城の中でしか分布していなかったのが最大の決め手であり、レミエルが降り立った際の後光がこの花を生んだのではないかという仮説が最も有力視された。そして名付け親の権利を得た国王はこの花をホーリーレミエルと名付け、さらにこの花を国の花として位置づけこの国の国章もホーリーレミエルをかたどったものに変更した。最初はこの変更にレミエルも戸惑っていたようであるが、統一国家樹立に多大な影響を与えてくれた存在であることをいずれこの地を去った後世においても忘れないためにという国王の強い要請もあり承諾をしてくれたようである。

「……私がこの地を去る日も近いかもしれんな」

 この頃から城のテラスに出て活気が戻った城下を眺めるレミエルの表情も次第に安堵と寂しさが混じったようなものへと変わっていた。





「レミエル様、ご報告があります」

 統一国家が樹立されてもうじき5年の歳月が経とうとしていたある日、レミエルは統一国家となった元3国のうちの1つに来ていた。統一国家樹立5周年を機にレミエルはこの地を去ることを考えており、それを伝えるために統一国家内各地を訪れていたのだが、そこで統一後この地域を治めている元王だった者から声をかけられた。

「……いかがなさった?」

「……近頃この周辺の森や山で奇妙な現象が広がっていると……」

 そういってレミエルに複数の写真を見せた。

「……白黒写真……いや、違う……」

「はい、何やらこういった“色の失われた空間”が広がっているとの報告が数多く上がっているのです」

 写真に写った森や山はほとんどが白黒であった。そして一部は綺麗に線が引かれているかのように一方は正常、他方は白黒と分かれているものもあった。

「……その奥には何が?」

「……それが……調査に行った者はほとんど帰ってこないのです……」

「帰ってこない?」

「……これまでに30人近い者が調査に向かい帰ってきたのはたった3人……そして帰ってきた者は揃って“あの空間に立ち入った者はみな石のようになってしまった”と……」

「……人為的なものではない……ということだな」

 この地を去ろうと考えた矢先に訪れた奇怪な現象、これを解決するまでが己の仕事なのだろう。そう考えたレミエルはすぐに行動に移ることにした。

「……私が要因を探ろう。それが私の役目なのだからな……」

「しかし……!」

「……その調査に向かい帰ってきた者と話がしたい。呼んでもらえるか?」

「は……はっ!」

 そしてしばらくして1人の男がレミエルの前に現れた。

「レミエル様……!」

「……貴殿が調査に向かった奇怪な空間について話を聞かせていただきたい」

「……分かりました」

 調査隊の1人はその空間について詳細な説明を始めた。この空間がある地点は人が寄り付かない場所であったためいつからこのような空間ができ始めたのかはわかっていないようである。この空間発見以降興味本位で立ち入って帰ってこない者が現れたことから調査隊を編成し調査に向かわせ始めたのだが、その調査隊までもが帰ってこない事態が発生したのである。それを重く見た現在では立ち入り禁止区に指定されており調査は行われなくなっているが、その後に彼を含めた3人の調査隊がなんとか帰還し、うち1人は片手が真っ白の石に様に変わってしまっていたのだそうだ。

「……石化……」

「……空間に立ち入った者は目の前で次々と石に……」

「そうか……案内をお願いできるか?」

「き……危険です!レミエル様まで石化を……!」

「……現場を見なければどうにもできない……このまま放置をしていい問題でもないだろう」

「レミエル様……分かりました」

 レミエルの強い要請に調査隊の男も承知をし、現場へと連れていった。

「……ここか」

 統一国家内の北西部に広がっていた森林地帯にやってきていた。青々とした葉を広げる森に突如真っ白に変化してしまった木々が並ぶ場所があった。

「……異質な力を感じるな……」

 レミエルがかざした手で感じたのはただならぬ気配であった。

「そして……この空間拡大しているな……」

「そうなのですか!?」

「……威圧感ある気が迫っている……非常にゆっくりだが……確実にこの空間は広がっているな……」

 次にレミエルは翼を広げて上空からこの空間を眺めた。

「……あれは……!!」

 レミエルの視線の先には真っ白な空間の中心地のような場所があった。その場所には不自然なことに真っ白な空間がぽつんとあった。木が生えていたはずのその空間はまるで消しゴムで消されたかのような真っ白で何もなかったのである。

「…………」

「レミエル様……?」

「……少し下がっていてくれ」

 そう言うとレミエルの手に光が集まっていく。それをみた調査隊の男はすぐに距離を取った。それを確認したレミエルは真っ白になった木に向かって光線を放った。放たれた光線は白くなった木を打ち抜き幹や葉はレミエルのところへと飛んできた。

「……確かに石のような質感だな……しかし質量は元の葉のまま……」

 レミエルがその葉を触ると確かに手触りは石のようなすべすべしたものであった。だが変わったのは質感だけのようであり、その重さは元の木の葉の軽さであった。

「……レミエル様……」

「……これは非常にまずい状態なのは違いない……」

 そしてレミエルは意を決したように真っ白な空間へと足を踏み出した。

「レミエル様……!」

「……心配するな。恐らく私であれば……」

 調査隊の男の制止を振り切りレミエルは真っ白な空間に手を伸ばした。その手が触れると違和感はあったものの特に何かが変わるようなことはなかった。

「……大丈夫……のようだな」

「……凄い……」

 そしてその手をそっと戻した。なんともないことを確認しっかりと確認する。

「……一旦戻ろうか。私であればこの先の探索も可能だろうから……その報告をせねば」

「はっ、分かりました」

 探索をするに十分な準備をする必要があると考えたレミエルは一旦この場を離れることにした。その時だった。

「……タスケテ……」

「……!!」

 女性の苦しそうな声がレミエルの耳に届いたような気がした。

「レミエル様?」

「……今女性の助けを求める声が聞こえた気がしたのだが……」

「……私には聞こえませんでしたが……」

「……そうか」

 一緒にいた調査隊員には聞こえていなかったようだがレミエルは助けを求めている存在がこの異変の鍵となるであろうことを確信していた。



「分かった、気をつけて行ってきてくれ」

「……これがここで私が成す最後の仕事だろう」

「……そうか……だがレミエル様がこの地を離れてももうこの国は大丈夫だ」

「そうだな……貴殿のような者が国を治めていれば何の問題もない」

 翌日、謎の空間の調査に行く前にレミエルは国王に挨拶をしていた。国王は旅立つレミエルを暖かく見送ってくれた。

「……そうだ、これを受けとってもらいたい」

 旅立つ前にレミエルは国王にバッチのようなものを渡した。

「少し早いがこの国の一員であるというこの国章入りバッチをお返しする。だがこの仕事は天使レミエルとして仕事をさせていただきたい」

「……分かった。では天使レミエル様、ご武運を祈っています」

 国王はそのバッチを大事そうに握りしめた。ほんのりとホーリーレミエルの優しい香りが残っていた。

「……では……行ってきます」

 そしてレミエルは北西部にある異変が起きている地域へと飛び立っていった。

「…………」

 飛び立ったレミエルの顔は真剣な表情に変っていた。というのも昨晩もまた同じ女性が助けを求めてくるような声が聞こえてきたのだった。単純に助けを求めていた現場での声とは違い、純粋に助けを求めていながらも心配するような不安なような様々な感情がこもった印象を受けていた。そこから単純に解決できるような問題ではないことはレミエルも認識していた。

「……こんな世界規模の異変を引き起こす存在を相手にするのか……」

 レミエルは少し弱気だった。国王は暖かく送り出してくれたのだがレミエルは内心もう戻ってこれないのではないかという覚悟はできていた。バッチを返したのもそういう気持ちがあったからこその行動だった。そんな中レミエルは異変の起きた地域へとやってきていた。異変の範囲は昨日よりもやはり進行していた。

「……ひとまずあの空白の場所を……目指すか……」

 空白の範囲も昨日より拡大しており、異変の真相を突き止めるためにもまずは異変の中心を目指していった。

「……っっぁっ!!」

 すると白くなった空間と何もない空間の境目付近に到達したときにレミエルは強烈な力によって跳ね飛ばされていった。

「……っく……!!」

 その境目の空間では白くなった空間にあったものが次々砂のようになっていき真っ白な空間に吸い込まれていくようにして消えていた。

「……この世界を抹消しているかのような……」

 レミエルは試しに光線を放ったがちょうど境目の部分で光線は消えてなくなった。境目で効力が失われているのか、はたまたそのまま光は通っているのかは分からなかったが少なくとも境目に壁のようなものがありそれに反射しているわけではないことは判明した。

「……中に何かがあると見るべきか……」

 一旦レミエルは空間と距離を取ると聖女の杖を地面に突き立てた。足元には大きな魔法陣が展開されていきレミエルは詠唱を始めていく。その詠唱は非常に長く、その詠唱時間が長くなっていくごとに足元の魔法陣もどんどんと大きくなっていった。最後にレミエルは聖女の杖を引き抜いた。すると足元から次々と魔力が溢れてきてその魔力がレミエルを包んでいった。

「……行くぞ!」

 光の帯に包まれ神々しさの増したレミエルは光り輝く聖女の杖を携え、そして空間の境に向かって飛び込んでいった。その勢いはこれまで普通に飛んでいた時とは比べ物にならないほどの速さであった。

「……っっっ!!」

 何もない空間に突入すると先ほどと同じようにレミエルの侵入を拒むような強力な力で抵抗している。しかしそれをも上回るような勢いでレミエルは空間内へと突き進んでいた。そしてレミエルの姿はそのまま何もない空間内へと消えていき、外からその姿は見えなくなってしまっていた。





「…………」

 城の中に作られた礼拝堂のような場所。立派なレミエル像の前で国王は今日も祈りを捧げていた。レミエルが出発してから10日ほどの月日が経っていたが一日たりとも国王は祈りを欠かさず国の安定とレミエルの無事を祈っていた。

「……」

 異変はまだおさまらず拡大しているという報告が国王の下に寄せられていた。それだけでなく同じ異変がこれまで起きていなかった地点を中心にも起きていることも報告されていた。国民の間にも不安の声が広がりつつあった。

「レミエル様……」

 それでも国王はレミエルのことを信頼して異変が解決されることを信じていた。そして祈りを終えた国王はテラスから外に出て空を見上げていた。祈りの後にテラスに出て空を見上げるのも国王の日課となっていたことである。

「……この国全体で起きている奇怪な現象だ……1週間や10日でどうにかなるようなものではない……か」

 この日は雲ひとつない青空が広がり、風も穏やかな日であった。

「……ん?あれは……」

 そんな空から何かがひらひらと降ってくるのが見えた。それは国王の元を目指して舞い降りている気がした。

「……羽……?」

 ある程度近くまで来たところで降ってきたものは羽であることが分かった。綺麗な真っ白の羽がある一方焼け焦げたような薄茶色から黒い羽も混じっているようであり、それに混じってまた別のものもあるようだった。

「……これ……は……!」

 このことが何を意味しているのか、国王はすぐに察知した。一番近くで見続けていたからこそ彼女のことはよく分かっていた。おいしいものを食べた時は幸せそうな笑顔を見せてくれたり、凛とした表情が多い中でもやっぱり天使の世界のことを思ってか寂しそうな顔や涙を見せるような場面もあったりと聖女と崇められている彼女であったが根は自分たちとなんら変わりがないことだって知っていた。だから……だから……

「レミエル様に……何か……!!」

 その羽がレミエルのものであったこともすぐに分かったのだ。










「……く……」

 何もない空間を突き進んだレミエルだったがその力はもう尽きていた。入り込んだまではよかったものの結局この異変の原因と助けを求める声の正体を突き止めることはできなかった。

「……情けない……聖女と呼ばれていながら……このザマとは……」

 レミエルの純白だった法衣は茶色くすすけて薄汚れ全身は傷だらけ、立派な髪も痛み天使としての象徴でもあった12枚の翼も2枚は失われており、残った翼も大分痛んでしまっていた。

「……私がやらなくては……いけないのに……」

 もうレミエルには動く力も残っていなかった。視界も徐々に霞んでいく。

「……ゴメ…ナ…イ……」

「……その声は……」

 その霞む視界の先にうっすらと青白い光が浮かんでいるように見えた。

「……コノ……ナ……ニ……」

 助けを求めていた声と同じ声でその青白い光は話しかけていた。ところどころ聞こえなかったがしきりに謝っている様子だった。

「……貴女は……一体……」

「……ワタシハ……“エウ…ギ…”……。コノセ……ノ……ワ…ヲ……サド…………イ……」

 青白い光の主が答える声は次第に遠くなっていき、やがてレミエルの意識はそこで途絶えた。

「……オネガイ……イツカ……ワタシヲ……カイホウシテ……」

 そして一際青白い光が輝きを放つとレミエルの体は光の泡となって消え始めていった。

「…………ゴメン……ナサイ……」

 レミエルの姿が消えたところで青白い光は一気に輝きを失っていった。





「…………」

 レミエルの羽が降ってきた数日後、国王はその日も礼拝堂で静かに祈りを捧げていた。あの日以降異変の進行速度は格段に速くなっており、国のほとんどは真っ白な空間に飲み込まれてしまっていた。残る部分はこの礼拝堂を含めた城のほんのわずかな部分のみだけであった。

「……レミエル様……」

 祈る手にはレミエルが遺したバッチがしっかりと握られていた。

「……やっぱりこの国はレミエル様がいなければ滅ぶ定めだった……そういうことなのですね」

 国王が崇拝し、そして想いを抱いていたレミエルはあの時消滅した。それは分かっていたのだがそれでも最後まで国王はレミエルに祈りを捧げることは止めなかった。そしてついにこの礼拝堂も真っ白な空間へと吸い込まれ始めた。

「……私はレミエル様と出会えたこと、大変光栄に思います。そして……大変失礼なことかもしれませんが……」

 またたく間に真っ白な空間に飲み込まれていく礼拝堂で国王は最後にこう言った。

「……レミエル様、大好きでした。貴女の導きに……感謝します……」

 レミエル像とともに国王の姿は真っ白な空間に消えていった。これによりこの世界は完全に真っ白な空間の中に消えてなくなった。










「……ぅ……」

「よかった……目を覚ましたのですね」

「……エリミーヌ……様……?」

 レミエルが目を覚ましたのは見覚えのある懐かしい場所、天界であった。

「……私の部屋にボロボロの貴女が横たわっていて本当に驚きました……それに一向に目を覚まさないのも心配で……」

 目の前にいたのは天界の天使が最も憧れる存在であった天界筆頭聖女のエリミーヌであった。12翼の天使とはいえ会話することですら普通できないような存在の下に送られてレミエルは恐れ多い気持ちで一杯だった。

「……失礼しました……私のような醜い存在がエリミーヌ様の部屋で横たわっていたなどと……」

「いいのですよ、それより一体何があったのですか?」

「……実は……」

 そこでレミエルはこれまでのいきさつを残さず明らかにした。

「……そうでしたか……」

「……エリミーヌ様、できればもう一度あの世界へ……」

 レミエルは再びあの世界へと戻ろうとしていた。自分の役目が果たせなかったことを包み隠さず報告しなければならない、その思いが強かった。

「……それが……貴女のいた世界は存在いないというエラーが……」

 エリミーヌも将来の聖女候補と目されていたレミエルの想いを尊重したかったのだが、時はすでに遅かったようである。

「……そうですか……」

「レミエル……」

 その時のレミエルの表情は悔しさと無念さに満ち溢れた見るに堪えないものであった。

「……その姿では外には出れないでしょう?一度8翼の天使に戻ることになりますが貴女ほどの方であればまたすぐに……」

「……有難いお言葉で大変恐縮です。しかし……私は世界1つを救うことができなかった大罪人……私はもはや聖女はおろか天使に戻る資格もございません……」

 エリミーヌはすぐにレミエルをまた天使に戻れるようにしようとしてくれたがレミエルは固くその申し出を断った。それくらいレミエルにとってこの失態は忘れることのできない永遠の恥となっていたのであった。

「しかし……!貴女のような逸材を失うのは私たち天界においても……」

 ただエリミーヌも珍しく必死に食い下がった。このところ聖女にまでなれる天使が少なくなっていた中、レミエルはエリミーヌも天界十二聖女の上位に名を連ねようとも考えていた存在であり失いたくない存在であったのだ。

「……すみません……私はもう……」

「レミエル……分かりました……」

 ただ一歩も譲らないレミエルを前にエリミーヌもついに折れたようである。

「……ただその翼ではもう天界にはいられません」

「……笑い物になっても構いません」

「……いえ……私も貴女には目をかけていた身……そんな貴女が惨めな姿を晒せば私の顔にも泥を塗ることになりますよ」

「それは……」

「貴女は消滅した世界とともに消えてなくなったという話にしておきます。そして貴女は……ここに身を寄せるといいでしょう」

 ただエリミーヌは言葉巧みにレミエルを黙らせると餞別を用意した。

「……この座標は……?」

 レミエルに贈った座標軸の頭にはGというこれまでに見たこともない記号が使われていた。

「……ここであれば……きっと大丈夫ですよ」

 座標軸G、それは神界を現す座標であった。

「……分かりました。ありがとうございます……」

「……さぁレミエル、お行きなさい」

「……ありがとうございました……エリミーヌ様」

「レミエル……さようなら……」

 丁寧に頭を下げ転送されていくレミエルをエリミーヌは涙を流して見送った。





その後世界の消失とレミエルの失踪に関する話はエリミーヌから語られることはなく、この話はエリミーヌのみが知る話として天界の記録に残ることはなかった。神界へと渡ったレミエルも姿を変え神界の民に紛れ、自分の出自については一切語ることはなかった。やがて消滅したその世界の上には新たな世界が創造されもとの世界の記録も失われていったのである。

これが原因不明の現象により不幸にも滅んだ世界―エウロギア―のお話である。


本日の更新内容

・用語集精霊界編  精霊界砲



どうもラヴィスです。中間発表があるので予定してた更新がちょっとできなかったです、はい。

ただ早めに……来週月曜と水曜は更新予定してます。あ、もちろん木曜もですね。

週に複数回更新だなんていつ以来でしょうか……ひとまずいよいよ来週から10月、3周年記念始動です!

それでは本日の更新はこの辺で、また次回の更新で~


本日の更新内容

・メンバー紹介  ミディア 奥義



どうも、ラヴィスです。実験の疲れでくったりしてます、はい。あと半月でついに……かなり心配になってきましたねー

それでは今回もこの辺で、また次回の更新をー



本日の更新内容

・用語集神界編  神界砲



どうも、コワレタセカイのお話が一段落……と言いたいのですが実はもう少し……。滅ぶ前の世界のお話があるんですけどそれをやってようやく一段落ということで魔界鎮圧作戦が始まる前に片付けたいとこです、はい。

それでは今回の更新はこの辺で!また次回!


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ラヴィス

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

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