ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter14~

「……急がなければ……」

 紫色の厚く暗い雲が立ち込めた荒涼とした平野を1羽の立派な白鷲が飛んでいた。

「兄上ならば心配ないはずだが……」

 この白鷲は先ほど魔界から転送されてきたバレンシアの本来の姿であった。人の姿でもその剣技から“流麗”と呼ばれているが、白く立派な羽を広げて空を舞う鷲の姿も“流麗”の名に恥じない美しいものであった。

「……あれが冥界宮殿……研究施設のようだな……」

 バレンシアの目の前には骸骨の頭を模したようなデザインの冥界宮殿とその周りに建つ数々の施設が現れていた。グレモルがバレンシアを冥界へと派遣した理由。それは冥界宮殿で待機している冥界王リッチと会談をし冥界の協力を取り付けることであった。魔界十二使徒が直々に冥界へと出向けば当然冥界も動くことになるだろう……当然神界勢力に加担をする形でだ。冥界の戦力は魔界も警戒をしていた部分であり、冥界が参戦することで戦力バランスは逆転することになる。

「……冥界王は流石に話が分かっているな」

 冥界では既に部隊の編成が整えられており、有事の際にはすぐに出撃できるような状態であった。見慣れない白鷲が空を舞っていても不審者と見ている様子もなく主の号令の時を待っているようであった。そんな中バレンシアは宮殿前へと降り立ち人の姿に戻って中へと進んでいった。

「……来たな」

「……貴殿が冥界王……」

「……いかにも。私が第74代冥界王リッチ・ハーデスだ。貴女の話は聞いているぞ、魔界十二使徒流麗のバレンシア殿」

 バレンシアを出迎えてくれたのは冥界王自身であった。表情こそ窺えない不気味な存在ではあるがその声からはバレンシアの到着を待っていた風に取れた。

「……私が来た……ということは」

「分かっている。魔界十二使徒が直々に冥界を“攻めてきた”ということは明らかな“不干渉条約違反”にあたる。ただちに報復として冥界も魔界に部隊を派遣する」

「……既に準備を整えていらしたようで」

「当然だ。私もメンバーとして情勢は聞いていた……そろそろ頃合いだと思っていたさ」

 目深に被ったフードの奥でリッチの目が光りニヤリと口元が動いたような気がした。

「では我々は出撃する。貴女はここでゆっくりしておくといい」

「何故だ?私も……」

「……貴女を今魔界に戻す訳にはいかない。じきにグレモル殿もこちらに来るだろうがきっと同じことを言うだろう」

「……」

 確かにグレモルもこの冥界に逃げてくるはずなのでそれまでは自分も勝手な行動は慎まなければならないだろう。

「それに魔界がここにも攻め込んでくる可能性がある。大半の部隊で魔界に攻め込むからここの守りは手薄になるから多少なりとも魔界部隊の牽制となる存在が欲しい」

「……了解しました……兄上が来てから相談の上動きます」

「よろしく頼む。ではミント、ライヒェ、行くぞ!」

 そしてリッチは霊の部隊を率いるミントと屍の部隊を率いるライヒェと共に魔界へと出撃していった。

「……いよいよ大詰め……か……」

 冥界の参戦により魔界鎮圧作戦も終局の時が近付いてきていた。





「……やはり抑えられないか……!」

「ダメです、最終防衛ライン抜かれます……!!」

 精霊界に侵攻していた魔界王の進撃の勢いは全く衰えることなく、いよいよ精霊界の中枢区が間近に迫るところまで侵入を許してしまっていた。進軍方向も多少闇の地の方へと動かすことはできていたようだが十分なものにはなっていない。精霊たちも各々全力で立ち向かっていたがそれももう限界のようであった。

「……ネール様に連絡を!」

 現地を指揮していたイフリートはネールの指示通り連絡を入れた。

「……精霊界各員、至急撤退を!」

 するとネールの声がどこからともなく聞こえてきた。一瞬戸惑うような仕草を見せた精霊たちも中にはいたが速やかに精霊界中枢区へと撤退を開始した。それを確認したのか精霊界中枢区を守るような形で虹色の障壁が築かれていった。

「これは……一体……」

「中枢区全体を覆っているようですね……」

 虹色の障壁からはどことなく優しくて懐かしいような気が感じられていた。

「……これがアモンの言っていた障壁か……このような子供だましで止められるとでも……」

 その障壁にベルガザスは強烈な勢いで体当たりをかました。しかしその巨体での体当たりをしても障壁はびくともせず逆にベルガザスを押し返すくらいの力で弾き飛ばした。

「ぬぅぅ……!」

 その後何度もベルガザスは障壁に攻撃を続けていったが一向に障壁が破られるような気配はなかった。

「……ち……足止めのつもりか……」

「陛下!障壁が増えています……主に右側の守りを固めているようです」

「……ならばさらに固められる前に弱いところを突くとするか……」

 そしてベルガザスは障壁が少ない闇の地の方へと誘い込まれていった。

「……魔界の部隊が少しずつ闇の地へと動き出した」

「分かりました……少しずつ闇の地への囲い込みをさせていきます」

 その後も少しずつ魔界の部隊を障壁によって囲い込み続けていった。

「……ん……何だあいつは……」

 闇の地へと動かされたベルガザスは荒涼とした闇の大地に立つ虹色の影に気付いた。障壁と同じ色を放つこの影は明らかにその障壁に関係する存在であることは間違いないだろう。

「……貴様だな、この障壁を操作してるやつは」

「……そうですね」

 虹色の影は落ち着いた女性の声で答えた。

「……お前を消せば……」

「私に勝てるとでも?」

「……魔界王を前によくそんな軽口を……」

「……ここは精霊界です。精霊界で私に勝てるとでも?」

 他の精霊とさほど変わらない大きさではあったものの自分より体の大分大きいベルガザスを前にかなりの余裕を見せていた。

「……言ってくれたな……ひねりつぶしてやろう……!」

 ベルガザスは手加減なしに襲いかかったものの虹色の影は一瞬にしてその姿を消した。

「遅いですよ!」

 虹色の影はあっという間にベルガザスの背後を取り素早く連続キックをかました。

「効かんな!」

「当然……これだけで勝てるような相手ではないでしょう?」

 しかしベルガザスには全く効いていないようであった。すぐにベルガザスが足で弾き飛ばそうとするがあっという間に姿を消し移動する虹色の影には掠りもしなかった。

「チィ……逃げ足ばかり……!」

「その体では動きが鈍重ですね」

 その後も虹色の影はベルガザスを翻弄し続けていた。しかしそれだけでベルガザスは疲弊も負傷もなくただただ時間が過ぎていくだけであった。

「……あの影は一体何者なんだ……?」

「……あのシルエット……それにあの声……どこかで……」

「……もしや……」

 ずっと精霊たちは隔壁の向こう側から様子を見ていただが、中には薄々その正体に気付き始める者も現れ始めていた。

「貴様……おちょくるのもいい加減にした方がいいぞ」

「そちらこそ……これ以上やってもあなたに勝ち目はありませんよ?」

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!」

 一方その者の正体も分からずいいようにあしらわれ続けたことについに我慢の限界に達したベルガザスは強烈な負の気を放ちながら先ほどよりも激しい動きで虹色の影に襲いかかった。虹色の影は一瞬強烈な負の気に気おされたようであり、回避ではなく自分の目の前に障壁を作り出し身を守ったがベルガザスの勢いだけで吹き飛ばされた。

「……流石は魔界王……負の気と気迫だけでここまでやれるのですね……」

「フン……所詮はお前も魔界の気には弱いか」

 虹色の影は一度姿を消しまたベルガザスの前に現れた。若干影に揺らぎができ始めたと同時に障壁もやや薄くなっているように見えた。

「……ふふ、でもそれで勝ったとは思ってませんよね?」

「だが勝ちは見えた……お前をひねりつぶすのも時間の問題だ!」

 ベルガザスが再び猛攻を仕掛けてきたがそれを虹色の影が今度は丁寧に瞬間移動と障壁でのガードを組み合わせながら捌いていった。

(……準備完了ダ……)

(分かりました)

 その最中に虹色の影には闇の精霊RIOの声が届いていた。ネレイスが準備をしていた精霊界の防御策のもう1つを繰り出そうとしていたのである。

「……言いましたよね、精霊界で私に勝てると思っているのですか?」

「……どうした、急に」

「……貴方方が今どこにいるのか……お忘れですね」

「それがどうした?」

「明らかに誘い込むように敷かれた障壁……私の時間を稼ぐような動き……そしてこの場所……」

「……」

 虹色の影はどうしてもこの“闇の精霊管轄区”に魔界の部隊を縫い止めておきたかったのである。

「……精霊界女王の名に於いて命ず……精霊界を荒らす悪しき魔王に制裁を……!」

 そう言うと虹色の影は姿を消し、魔界軍を完全に包囲する形で新たに障壁が作られた。

「……ぬ……下か……!」

 ベルガザスは真っ先に地面の下から地鳴りのような低い音と小刻みに揺れる地響きを感じていた。精霊界の奥底から感じる力は始めのうちはかすかなものであったが、みるみるそれは大きくなていた。そして闇の地に相応しい強大な闇の波動はあっという間にベルガザスの持つ強大な力すらをも凌駕するものとなっていた。

「バカな……精霊界にこんな力を持つヤツなど……!」

 まだまだその力は遠くにあるようだが既に自らの力を凌駕しているものが近付いている。流石の魔界王ベルガザスも慌て始めていた。配下と力を合わせて何とか障壁を突破しようとしているが障壁はやはりびくともしなかった。

「……力を示しなさい、アドヴェルサー!」

 障壁の外に現れた虹色の影がそう言うと結界の内側に黒紫色の火柱が噴き上がっていった。

「うぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ネレイスが用意していた精霊界防衛の切り札。それは闇の精霊管轄区の地下奥底に住まう精霊界八理竜、厄災竜アドヴェルサーであった。今放っているこの一撃も精霊界はおろか神界ですらも滅ぼすことができるとされた底知れない力を持つアドヴェルサーにとっては体を少し動かした程度のほんのわずかな動作によって起こしているようなものであった。その一撃でベルガザスはその身を業火に包まれまたたく間に力を奪われていってしまった。

「……ぐぅぅぅ……ぬぅぅ……」

「アドヴェルサーと私がいる限り貴方に精霊界を攻め滅ぼすことなどできません」

「おのれ……貴様……貴様は一体……っ!」

「……そうですね……“精霊界の亡霊”とでも申しておきましょうか」

「亡霊……だと……?」

「……これまでに消滅していった精霊たちの総意……ですよ」

 自らを精霊界の亡霊と名乗った虹色の影はここでベルガザスを囲っていた障壁を解除した。大量の軍勢で精霊界へと攻め込んできた魔界軍であったがベルガザスを残し後は一瞬にして消滅してしまっていた。

「……本来ならここで消し去っておくべきなのでしょうが……決着をつけるのはあくまで今代の女王……今回は見逃して差し上げましょう」

「……貴様……正気か……?」

「……魔界王、早急に精霊界から立ち去りなさい!」

「……ここで仕留めなかったこと……必ず後悔させてやるぞ……」

 そして最後にベルガザスはそう吐き捨てるように言って精霊界から姿を消していった。

(……お膳立てはしました。後はネレイス……貴女に任せましたよ)

 虹色の影の奥にうっすらと見えていたのは紫色の髪をした美しい精霊であった。



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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter13~

「ヴァレリア、外野お願いできる?」

「任せろ」

 エミリオは魔界の飛行部隊との戦闘準備に入った。

「……あれがゲルデシアね」

 魔界の飛行部隊の中に一際目立つ大きな蒼いカラスのような鳥が混じっていた。魔界十二使徒の名に恥じない風格ある姿に独特の威圧感が備わっておりそれを見たアキオスも目つきを変えて低いうなり声をあげて威嚇を始めた。

「私は神界八将空神エミリオ。魔界十二使徒紫風のゲルデシア、私が相手になるわ!」

 そしてエミリオは挨拶代りに持っていた槍を思いっきり投げつけた。真っ直ぐゲルデシアを捉えていた槍であったがゲルデシアはひらりと身をかわしその槍を避けた。

「アキオス!」

 ゲルデシアは直後に大きな翼を広げた。翼についているゲルデシアの羽は1本1本が剣のように鋭く尖っており、はばたくたびにその羽を飛ばしてきている。その中をアキオスをかいくぐらせるようにして飛ばし距離を詰めていった。

「……はぁっ!」

 槍の射程に入ったところでエミリオは近接攻撃用の槍で狙ったが鋭い剣状の羽で簡単に防がれてしまった。羽は鋭いだけでなく強度も相当のものなのであろう。

「……この距離からじゃダメね……もっと近い距離からでないと……」

 一旦エミリオは距離をおき、先ほど投げた槍を回収した。その後宙返り飛行をし再びゲルデシアを正面に捉えたが、その周りにゲルデシアを隠すようにして配下の有翼生物系魔族が展開していた。

「天使たちも流石に捌ききれないみたいね……やるしかないかな!」

 エミリオは距離を詰めながら先に外野の掃除を始めていった。





「……ここまで攻め入るとはな、見事だ」

「……お前が威風のゾルホスか……」

「いかにも……魔界十二使徒威風のゾルホス……これ以上首都に近付かせるわけにはいかない」

「俺は神界八将騎神ヘリオス……ここを突破し首都攻略の足がかりとする」

 一方ヘリオスの方も魔界十二使徒の部隊と交戦を始めていた。ヘリオスの正面には水色の金属製の鎧を纏ったヘリオスの乗る愛騎フォルカークよりも1周りほど大きい軍馬のような姿の魔族が同じような姿の鉄馬隊を率いていた。

「ラヴェンナ、周りは頼むぞ。ただ……無理はしないでくれ」

「畏まりました。ただ……貴方も無理はいけませんよ?」

 ラヴェンナが指揮している部隊は主に後方支援向きの天使が多く、前線の戦闘をするには少々心許ない部分もあった。先ほどまでは柔らかそうな羽で作られた扇で鼓舞や支援をしていたラヴェンナも今は護身用と思われる長剣を抜いていた。

「……さて、ゾルホス。お前は物分かりがよさそうな顔をしている」

「……一騎打ちを所望しているのだな?いいだろう、受けて立とう……だが……そちらの手勢で魔界十二使徒直属部隊の相手が務まるのかな?」

「……これでも天界第7聖女と呼ばれています。慢心は隙を産みますよ」

「これは失礼……では見せてもらおう、天界聖女の実力を!」

 ゾルホスは首を動かすと味方を前へと動かしていった。そして自らは部隊の左側へと抜けていきヘリオスを招きこんでいる。そこにヘリオスは動きだしラヴェンナはやってくる鉄馬隊を迎え撃つ形をとった。

「……主武装はあの頭と足……それに尻尾の刃……といったところか」

 改めて槍を構えゾルホスと向き合ったヘリオスはまずはゾルホスの出方を窺っていた。ゾルホスの頭、足、そして尾にはナイフのような刃がついており、他には目立って武器になるようなものがないことからこれらを駆使した攻撃をしてくるであろうことが想像できた。

「足の刃は厄介かもしれんな……フォルカークの足元を狙った動きがあるだろうからな……」

 ヘリオスが乗るフォルカークにも立派な黄金の鎧をまとわせてあるため防御はしっかりとしているのだが、普通の騎馬であると足まで防具をつけることは重量の関係もありなかなかないことが多い。そう言った際に馬の脚を狙って攻撃をすることでバランスを崩させ騎手を落とすという戦い方ができることから真っ先に足の刃を警戒し出した。

「……来ないのならばこちらから行かせてもらおう!」

 様子を見続けているヘリオスに対しまずゾルホスは頭の刃を振り回し真空波を飛ばして攻撃してきた。それを槍を回転させること得防ぐ。

「ふんっ!」

 あくまでも守備的な姿勢を続けるヘリオスに対してゾルホスは一気に距離を詰めて頭の刃を振り回し接近戦を挑んできた。しかしその攻撃はどれも単調であり防ぐ分にはなんら問題ないものであった。

(攻めが甘い……攻撃を誘っているような感じだな……)

 明らかに攻撃を誘うような姿勢に少々気になりつつもゾルホスの攻撃の合間を縫ってゾルホスの体に一撃を見舞った。

「……っぐっ!」

 金属質の体に弾かれて大したダメージを与えられなかったが、ヘリオスにとって想定外だったのは攻撃をしたと同時に反射ダメージをもらったことであった。ゾルホスの強みは高い防御力とそれを生かした敵の攻撃のダメージを反射させる能力にあるようだ。

「……なるほど、厄介だな……」

「……迂闊な攻めは身を削るだけだ、だが大技を撃つ余裕は与えないぞ?」

「…………」

 迂闊な攻めができないヘリオスはしばらく守りに入った。





「……さぁ、どうします?」

「誰か突っ込める人いない?」

「……リンデさん、どっちかが突っ込めませんか?」

 魔界人形に囲まれた状態の双神リンデとフィアの3人はかなり追いつめられていた。魔界人形の圧倒的な数と多彩な攻撃にフィアは終始守りをせざるを得ない状況になり、リンデの攻撃では人形の生産速度に追い付かないようで倒しても倒しても敵が増え続けるいるような状況に陥っていた。

「身のこなしなら……私じゃない?」

「そうですね……動のリンデさん」

「では……一撃見舞って私が活路を開きます、そこから一気に!」

「了解!」

 状況を打破するためにまずはフィアが動いた。これまで防御に手いっぱいだったところを一瞬だけ攻勢に転じ、生産ライン奥に向かう通路に向かって一条の光を放ち魔界人形たちを撃ち抜いていった。その瞬間に赤い戦闘着を着た双神リンデの片割れ、動のリンデが駆け抜けていった。残ったもう片方の双神、静のリンデはフィアのサポートに入る形で守りについた。

「邪魔よ!邪魔邪魔っ!」

 生産ライン奥に切り込んでいく動のリンデは並居る魔界人形を得物の円月輪を振り回し次々と薙ぎ倒していった。

「まだまだ……!」

 守りを考えずただがむしゃらに工場奥を目指す動のリンデに様々な攻撃がふりかかり、当然全てを避けきれないリンデにも多少は当たってしまっていたが気にする素振りはなかった。

「フィアさん、私たちは……?」

「…………」

 そして残って魔界人形を捌いていたフィアと静のリンデであったが、静のリンデは先ほどからフィアの様子がおかしいことに気付いていた。

「……フィアさん」

「……分かってますね?」

「……貴女という人は……全く……」

 フィアにはまだまだ余力が残っていた。その気になればこの工場を吹き飛ばせるほどの力はまだ残していたのである。爆発物のある危険はあるものの最終手段として工場の爆破というものが視野にも入りつつあるこの状態でフィアは自らが爆発物として、もしくは爆発物への点火剤として十分に機能する力を持っていた。動のリンデが生産ラインを止めに突っ込んだのも自分が止めれる止めれないにかかわらず最終的にはフィアが決着をつけてくれることを分かっていたからであった。そしてもちろん残った静のリンデもフィアがそういう存在であることは重々承知していた。

「……この工場が爆発したとなれば少なからず敵も注意が向くでしょうしね……ネレイスさんたちが動くきっかけにもなるでしょう」

「……リンデさん……」

「……さ、動のリンデさんも大分消耗しています……そろそろ動いた方がいいのではないですか?」

「分かりました……」

 冷静な静のリンデに促されるような形でフィアは背中の翼を一際強く輝かせた。それを見て静のリンデは戦棍を振り回しながら工場の入り口側の人形を打ち砕いていった。

「はっ!」

 そしてリンデが放った突きにより工場入口のシャッターを叩き落とした。

「……準備完了よ、護衛はいる?」

「……いなくてもよかったのですけどね」

「もう一人の私がここで成すべきことをしようとしてるのにもう一人の私が逃げるわけにもいかないじゃない」

 そしてすぐにフィアの隣まで戻ってくると巨大な魔法陣を展開させ詠唱を始めるフィアに迫る敵を打ち払い続けていった。魔法陣はフィアの詠唱が進んでいくごとに内側に次々と複雑な文様が浮かび始めていった。フィアの輝きはどんどん増していきそれと同時にフィアの周辺の空気はびりびり張りつめていった。

「……みなさん、後はお任せしますよ」

 天界言語で詠唱を続けていたフィアの最後の詠唱を聞き届けて静のリンデがそう言い放った次の瞬間にフィアの体から光の魔力を濃縮した波動が放たれていった。フィアは自身に残っていた魔力を全て使いきって周囲一帯を光に包み、消し去っていく。その圧倒的な力はまたたく間に工場の生産ライン中に広がっていった。やがて生産ライン内に膨大な量の魔力が蓄積し、急激な魔力濃度の上昇に耐えられなくなることで魔力は一気に拡散をする。その結果工場内の窓を吹き飛ばすレベルでの爆発を誘発したのであった。生産ライン内にいた存在はこれにより“全て”一掃されたのであった。





「……工場の窓が吹っ飛んだ!誰かやらかしたな」

 この爆発は当然湖のほとりで様子を見ていたネレイスたちにも見えていた。どういう経緯でこういった爆発が起きたのかまでは分からなかったもののこの爆発が起きてから首都防衛隊がざわめきだしている様子がうかがえた。

「……やれやれ、あーいったことをするのは大体予想つくんだがな」

「……そっか……」

 拡散した魔力の波動の一部を感じた将軍とネレイスは誰が起こしたものかはすぐに想像がついたようである。将軍は分かっていたこととしてさほど気にも留めていないようであったがネレイスは大事な仲間を失ったことにまだ気持ちの整理をつけきれていないようであった。

「……行こう、気を取られてる間に一気に!」

「……よし、じゃあ行くぞ……」

 少し時間を要したがすぐに気持ちの整理をつけ仲間がもたらしたチャンスを逃さまいとすぐに突撃を決意、すぐさま風の精霊の加護を全体にかけ直すと飛び立っていった。

「ネレイス様、そのまま真っ直ぐ湖を抜けて城壁を超えれば宮殿を横から突ける」

「了解、一気に行くよ!」

 水面を斬るようにして飛んでいくネレイスたちの動きを首都防衛隊が察知するころにはもう城壁に接近し飛び越えるところであった。魔界の守備隊はそこでさらに動揺を誘われて陣形を崩すことになってしまった。

「……まずは城壁突破の奇襲は成功だね」

 首都内部は非常に区画整備もされ整然とした街並みが広がっていた。ネレイスも過去に数回極秘にこの魔界首都を訪れていたことがあったのだが、上空から眺めるのは当然初めてのことであり改めて魔界首都の大きさとその繁栄ぶりを感じていた。

「あれは……」

 そしてその魔界首都では随所でファラも予期していなかった小競り合いのようなものが起こっていた。首都内部も完全に魔界正規軍に制圧されており何らかの妨害を受けるものだと覚悟していたのだが、実際は魔界の部隊内で内乱のようなものが起きており魔界の正規軍はその鎮圧のために手を焼いているようであった。

「……ファラ、何が起きてるの?」

「……あれは……そういうことか」

 一番激しく戦闘を行っていた反乱部隊の装備を見たファラはそれが魔界十二使徒直属部隊のものであることが分かった。

「バレンシアの部隊だ……機を見て騒ぎを起こして魔界軍を混乱させているんだろうな……それに呼応した現魔界王に反発する奴らが一斉に蜂起したってとこだろう……」

「……バレンシアが?」

「……ああ、それに首都にもこれだけの勢力で現魔界王に反発してるってことは……」

「……あたしを受け入れてくれるために……立ち上がってくれたってことだね」

「そういうことだ……」

 魔界を極秘に訪れた際にも現魔界王に反発し、ネレイスのような考えや理想を抱いている魔界の民は少なくないことも耳にしていたが魔界の正規軍を混乱させられるほどの勢力を持つほどまでになっていたとはネレイスも思いもしなかった。

「…………」

「……期待されてるんだ、その期待にしっかり応えてやれよ」

「……そうだね」

 首都上空を進むネレイスの姿を見た反乱軍の部隊から歓声が上がり始めていた。魔界の改革を成し遂げてくれるであろう存在のネレイスの登場に反乱軍の指揮はさらに高まっているようである。その歓声に後押しをされながらついにネレイスは魔界宮殿にまでたどり着いた。

「……やっとここまで……」

「……ちょっと待った!」

 宮殿まであと少しのところまで来たところでファラはネレイスを急に呼びとめた。ネレイスもすぐに反応して減速し停止した。

「ファラ、どうしたの?」

「……ミディア……だっけか、うちの重装騎士」

「え?……そうだけど……」

「……そんな感じの十二使徒が結界を張ってる……そいつをぶっ飛ばさないと宮殿内には入れないようにしてある」

 ぱっと見ただけでは何もないように見えるのだがファラは気配だけで結界の存在とそれを操る十二使徒の存在を察知していた。

「……じゃあ将軍様に……」

「お、承知したぜ。さっと蹴散らしてくるぜ」

 ネレイスは後からついてきた将軍に十二使徒討伐を依頼しようとした。

「……待て、そいつの相手は……オレがする」

 そこにファラが割って入ってきた。ファラがこうして自分から進んで戦闘に立候補することは非常に稀なことであった。

「どうしたんだよ、ファラ」

「……まぁあれだ“因縁の相手”ってやつだよ」

「“因縁の相手”?」

「ああそうだ、守勢のコーネフ……オレが随分昔に組んでたヤドカリ坊主だ」

「……なるほど、かつて組んでた相方と決着をつけようってことか。ならいいじゃねぇか、やってこいよ!」

 ファラがここまではっきりと自己主張をしていることを邪魔するような野暮なことはしまいと将軍はすぐにファラに仕事を譲った。

「んじゃ、ちょっくらやってくるぜ」

 そしてファラは宮殿の正門の方へと降り立っていった。

「……よっぽど戦いたかったんだな、あいつ」

「そうだね、あんなファラ初めて見たよ」

 やる気満々なファラの後ろ姿を2人は静かに見送りながら自分たちも極力目立つのを避けるために市街地へと降り立っていった。



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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter12~

 
カチッ



 グレモルの前にあったこの部屋を守る重厚な扉の鍵がひとりでに開く音が聞こえた。

「……バレンシア、行け!」

「……はっ」

 鍵が開いただけではこの部屋には入れないことを知っていたグレモルはこのタイミングでバレンシアに出撃の指示を出した。その言葉と同時にバレンシアが転移魔法を発動し姿を消した。その少し後に部屋のドアが弾け飛んだ。

「……レゾーナ、扉の開け方というものを知ってるか?」

「仕方ないだろう?ノックしても開けてくれるつもりはなかったのだろうからな」

「ふ、確かにそうだな」

 扉の向こうでは精霊の姿になったレゾーナがグレモルを一点に睨みつけていた。言葉からはそこまで感じられなかったが、纏っていた空気からは尋常ならざる気配を感じ平静を装っていたグレモルも内心ではかなり気圧されていた。

「さて、グレモル……弁明の時間だ」

「そうだな、気の済むまで聞くといい」

「……まずは神界勢力を引きこんだのはお前で間違いないな?」

「……精霊界女王とコンタクトを取っていたのは間違いないが、このタイミングで神界勢力を魔界に攻め込ませたというわけではない」

「……ただいつ攻め込んできてもいいように準備は進めていたのだな?」

「ああ、でなければこんな大掛かりな部屋は用意できん」

「……では神界勢力にファラがいるようだが……」

「……そうだな、私が動かずして勝手にいろいろやってくれたからな。助かったよ」

 レゾーナが次々と繰り出す質問にグレモルは淡々と答えていく。

「……ひとまずお前が直接指示を出して神界勢力を呼び込んだ訳ではないのだな?」

「そういうことだ、もっともこの言葉を信用するなら……な」

「……この場で嘘をつく理由はないだろう?」

「……まぁそうだな」

「まだ聞きたいことがあれば話すぞ、これくらいで弁明しきれるようなものではないからな」

 レゾーナの追及が思いの外弱いことでグレモルも徐々にゆとりができ始めてきていた。

「……ずっと魔界転覆を画策していたのか?」

「……そうだな、魔界が道を誤っていることくらい君も分かっていることだろう?」

「……魔界では王が絶対だ。王がやることに従わねばならない」

「……そうだな、君はベルガザス様が絶対だったな」

「……やはりお前はまだ……」

 ベルガザスが自らの配下として当時の魔界でも相当腕利きの存在であった12名の魔界種を集めて作りだした魔界十二使徒。そのほとんどがベルガザスによって選び抜かれていたのだが、グレモルとバレンシアだけは多少違っていたのである。

「……あの時の恨み……と言いたいが……」

「……ん?」

「……我々の父親は……死んでいない」

「……生きていただと……!?」

 グレモルとバレンシアはかつて先代の魔界王とも言える魔界の管理人の子供にあたる存在であった。その先代の管理者は現魔界王ベルガザスの手によって葬られ、魔界王の地位を奪われてしまった。この際にベルガザスは確実に“殺した”と言っていたはずである。

「……今はここにはいないが……先代魔界王は魔界竜として影から魔界が本来あるべき姿を取り戻すために動いている」

「……魔界……竜?」

「レゾーナ、お前は魔界に課せられた本来の役割……知っているか?」

「…………」

「……これでも読むといい」

 グレモルは本棚にあった本を1冊出すとそれをレゾーナに向けて放り投げた。それをレゾーナはひょいと手に取り中を確認した。

「……世界の安定を司る四界の一、悪しき影響を持ち死した万物の魂が集う場所……」

「それくらいは当然知っているだろう?」

「……均衡を保つためには時として顕界における余剰な生命を刈り取ることも必要」

「あながち今の魔界がやっていることも間違ってはいない……そこは認めよう」

「…………」

 本を読み進めていたレゾーナの手がピタッと止まった。

「……そういうことか」

「理解頂けたか?」

「……そうだな、確かに今の魔界はそのことに対しては明らかに放棄しているようなものだ」

「その役割を果たしているのがその魔界竜だ。その役割を果たしていなければとうに神界からの最後通達が届いていただろう」

 レゾーナが見たページには四界として果たすべき使命についてが書かれていたようである。魔界はこれまで魔界として果たすべき使命についてのみ果たしてきていなかった。

「……ではその魔界竜は何故結果として魔界の暴走を黙認するような仕事をしてきたのだ?」

 しかしそれならばもっと早く神界からの制裁を与えさせた方がよかったようにも思える。

「……四界竜となった先代王が再び魔界王となることはできない。魔界を再建させるとして魔界を仕切れるような存在と魔界の民の意識を変えること。これが課題だった」

「……グレモル、お前が王を継げばよかっただろう?」

「……魔界竜はまだまだ力不足だと見たのだろう。まぁその判断は間違っていなかった」

「……もしかしてお前……」

「……精霊界女王は魔界をも仕切り魔界の民の負の意識を転換させる力を持っている」

「……精霊界女王……」

 グレモルは精霊界女王であるネレイスに魔界の運営と魔界の民の意識改革を託そうとしていた。そういった理由がありグレモルは神界勢力に加担をしていた。

「……それほどの人物なのだな?」

「……我々魔界が妨害工作を行ったのにもかかわらず精霊界女王……ネレイスは精霊界にかけられていた負の気の呪いを解いた……」

「力は本物……さらにはその実績に裏付けられた信頼……か」

「精霊界の英雄王……その噂はここ魔界にも十分届いている……」

「……一目見ておきたいものだな」

「……見ておくといい、君に負けない人気者だ」

「……楽しみだな」

 レゾーナは一瞬だけ表情を緩めてみせたが、またすぐに険しい表情に戻った。

「さて、お前の時間稼ぎには乗ってやった。そろそろいいだろう」

「ほう、お前も随分と律儀だな」

 これまでの話はほとんどが時間稼ぎだったことを当然レゾーナも把握していた。その中でレゾーナはこの部屋に仕掛けてあったグレモルを守る障壁を次々と解除していた。

「……バレンシアの姿がないからな、大方妹を逃がすためだったのだろう?」

「それはどうも」

 この間にもレゾーナはグレモルを守る障壁を1つ解除した。

「確かにバレンシアはもうここにはいない。レゾーナ、君が来ることを見越して先に避難させておいた」

「……神界勢力のところにか?」

「……ほう、何故そう思う?」

「バレンシアであれば魔界の部隊の一部を寝返らせることもできるだろう。戦力的にまだ不安の残る神界勢力にとっては……」

 その途中レゾーナはグレモルが転送装置のボタンに手を伸ばすのが見えた。その動きを止めようとレゾーナは咄嗟に自らの力を使った。この時には既にグレモルを守る障壁は全て解除していた……はずであった。しかしレゾーナの期待していたような状態にはならなかった。何かに弾かれたような甲高い音が部屋の中に響き渡り、グレモルは不敵な笑みを見せながら転送装置を起動し姿を消した。

「まさか……私の力の発動こそが今の……」

 グレモルを守る障壁は確かに全て解除していたが、しかし転送装置にかけられていたセーフティー機能をレゾーナは見落としていた。グレモルは最後にレゾーナの力が発動した際に自動で転送装置が起動する言うなれば罠を仕込んであったのである。

「……グレモル……やはり私では……」

 グレモルを取り逃がしたレゾーナは転送装置の画面をちらりと見た。その後ひとまず報告をしようと部屋を後にしようとしたところで慌ててもう一度転送装置の画面に出ていた座標軸を確認した。

「……グレモル……バレンシアを向かわせた場所……まさか……!」

 座標軸の頭にはNという記号がついていた。そしてこのNという記号が付く場所が先ほどグレモルに見せられた本の中にも書かれていたのである。

「……マズい……これはすぐに報告をしなければ……!」

 N――冥界であることを示すこの地に魔界十二使徒が入り込む……これが即ちどういうことかレゾーナでなくともすぐに分かることであった。





「……本体が動いたな……」

「……大丈夫かな……」

 ネレイスたちは湖の畔で身を隠しながら機会を窺っていた。首都防衛隊の一部が動き出したのが確認できたもののまだまだ突撃するには厳しい状況である。

「……ネレイス、どうする?」

「……もう少し待とう……せめてラヴィスたちが防衛隊との戦闘を開始したくらいでないと……」



「……チィ、すさまじいほどの数だな……」

 ラヴィスの目の前には無数の人形が浮かんでいた。ここの兵器工場の生産ラインでは様々なタイプの玩具のような人形が大量に作られていたのだが、ラヴィスたちが入ってきた瞬間に警備用の機械も含めて一斉に襲いかかってきていた。個々の能力は正規の魔界軍と比較して劣っていたもののその圧倒的な数に防戦一方であった。

「やっぱりまずは生産ラインを止めないといくらでも湧いて出そうですね……」

「ランディたちを頼るしかないのか……」

 そんなラヴィスたちのところにランディが駆け込んできていた。

「ランディ?どうした……?」

「時間的余裕がなくなった。魔界十二使徒の部隊が接近中で休憩中の天界部隊とエミリオ、ヘリオスを出さざるを得なくなった。それにこれ以上待たせるとネレイスたちが動けない……」

「……じゃあどうするんだ?」

「……誰かにここから敵が出ていかないように守ってもらう……。残りで首都の攻略とエミリオの援護に向かう」

 当初の予定であったこの工場の攻略を諦め一気に首都の攻略を目指すことにした。

「ラヴィス、君はルミナスとすぐに首都防衛隊の攻略を始めてくれ」

「……了解」

「……では私たちがここを守ります」

「リンデか……任せたよ」

「私もここで守備につきます……ランディさんとミディアさんでエミリオさんの救援に!」

「フィア……頼むよ」

「私たちはどうしましょう?」

「……ラヴィスたちと一緒に首都防衛隊の突破を目指してくれ」

「分かりました」

 ランディたちは素早く個々の役割を決めていった。そしてこの工場でリンデとフィアが守備に、ランディとミディアがエミリオの加勢に、リヴィエールら精霊界の部隊とラヴィス、ルミナスが首都守備隊の攻略にそれぞれ向かうことが決定した。

「よし、じゃあ……次の作戦開始!」

 そして各々自分の役割を果たすために行動を開始した。



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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter11~

「大丈夫ですか、みなさん?」

「……大丈夫だ、心配いらんよ」

 思いの外苦戦を強いられていた陽動部隊であったが、終始戦況の上では優位に立って進めてきていた。

「一番最前線で戦っている天界の部隊に大分負傷者が出てしまっているようです……」

「流石に疲れが出ているんだろう……エミリオとヘリオスはどうだ?」

「エミリオさんもヘリオスさんもカバーに奔走してくれているようで……体力的に心配です……」

「ルミナスもフィアも大分頑張ってくれている。そろそろ頃合いじゃないか……?」

「……分かりました」

 数的不利な状況に変わりはないものの個の力で前線での優勢は保たれていた。しかしこれ以上戦闘が長期化すれば疲労の溜まってきた前線の部隊の戦力は落ち、次第に押し返されてしまいそうなのは明らかであった。ここは優勢なうちに決着をつけて少しでも疲労を軽減させておきたいところである。

「……突撃です!」

 リヴィエールは携えていた偽剣エンジェルティアを翳すとそれに呼応して精霊たちが展開を開始、代わる代わる戦闘に参加していたSkyBlueメンバーも全員が戦闘に参加、天界の部隊も個々で散開し各個撃破へと動きを変えていった。

「……はぁっ!」

 リヴィエールも慣れない剣を振り回しながら戦っていたが、思いの外様になっておりある程度の相手であれば捌けるレベルで立ちまわることができていた。

「ネレイス、無理はすんなよ!」

「大丈夫です、私もこれくらいしなければ!」

「……やれやれ、まぁ本物はこれ以上に働いてくれるからな」

 出足素早く攻め込んだ結果敵の部隊の陣形が修復する前に次々と先手を取って攻撃を続けられ、しばらくして敵部隊を鎮圧させることができた。

「……よし、殲滅完了っと」

「一度部隊の状況を確認します……報告をお願いします!」

 殲滅後天界の部隊およびSkyBlueのメンバーから個々の状況についてリヴィエールに報告を行った。

「……大分……みなさん辛そうですね……」

 個々の報告はあまり芳しくないものが多かった。特にヴァレリアが報告をした天界の部隊は半数近くが何かしら負傷をしており、一部は戦闘不能により撤退をしてしまった者もいるという。またヴァレリアやラヴェンナを含めた残る天界の者もかなり疲労をためているようであり、継続戦闘が可能なのはあと1戦ほどであるようだ。これまで常に最前線に立ち戦ってくれた天界勢力頼みもそろそろ限界であった。

「……ランディさん、どうしますか」

「……予定通り兵器工場を叩きに行くけど……天界のみんなには外で待機をしてもらおうか」

 視線の先には立派な工場が見えていた。あれほどの規模でどのような兵器を生産しているのかは分からないがここを潰しておかなければ自分たちにとっては非常に不利な展開になってしまうだろう。

「……こちらの動きを悟られる前にできるだけ工場内の戦力を削れるかだね」

「……爆破とかはできないのですか?」

「……何があるか分からないからね……爆発物があった場合は気をつけないと巻き込まれる可能性もあるしね」

「……分かりました、とりあえずあちらを目指しましょう……」

 状況を整理し再び陣を組み直した後にリヴィエールの指揮の下、高地の工場を目指して進軍を開始した。





「ネール様!!」

「いかがなさいました?」

「魔界軍が今度は本隊を送り込んできました!しかも率いているのが……魔界王本人です!」

「魔界王が直々に攻め込んできましたか……」

 その頃精霊界にはいよいよ魔界軍の本体とも言える部隊が攻め込んできていた。魔界王が率いているということもありあらかじめ展開していた精霊界の守備隊はいとも簡単に突破されてしまい、精霊界ではかなり大きな騒ぎとなっていた。

「……魔界王の部隊はどの方向から接近していますか?」

「魔界王は現在炎の地の方から接近している模様、それに合わせて周辺の部隊が合流を開始していて厚みを増していると」

「……好都合ですね……八理を召集しなさい!」

「分かりました!」

 しかし精霊界防衛の総司令官を任されていたネールは至極落ち着いた様子であった。魔界の部隊が1点に集中しつつあるという報告を聞くとすぐに現地での部隊の指揮を執っていた八理守護精霊に帰還指示を出した。

「……精霊界を甘く見てもらわれては困ります。ネレイス様が仕込んだ精霊界防備の切り札……その力を見せる時でしょう」

「ネール様、お呼びでしょうか?」

 ネールの出した帰還指示を受けて一番早く帰還したのは炎の地と対極にあり、比較的魔界の部隊が少なかった水の地を預かるエメローネであった。比較的戦力に余裕のあった氷の地からも加勢に来ていたこともあり、エメローネ自体が宮殿近くにまで来ていたことからすぐに戻ってこれていたのである。

「皆さんが集まったら報告をします……時が来ました」

「……はっ、分かりました」

 その後も次々と八理守護精霊たちがネールの下に戻ってきていた。そして炎の地を指揮していたイフリートの帰還にやや時間がかかったものの帰還指示が出てから比較的速やかに八理守護精霊がネールの下へ帰還を完了した。

「……八理、集まりましたね」

「……はい、で……報告とは何でしょうか?」

「現在火の地の方角から魔界王が直々に部隊を率いて接近中です」

「……ああ、魔界王の力は尋常じゃない……」

 火の八理守護精霊であるイフリートも魔界王の圧倒的な力を目の当たりにしていた。

「……魔界の部隊も魔界王の下を目指して集結中です。ですので……」

「……何か秘策が?」

「はい、ネレイス様から秘策を授かっています……」

 そしてネールはその秘策の内容を八理守護精霊に伝えた。

「……それは……」

「既に話はつけているそうです。前者の方は私が、後者の方はRIOが連絡を入れれば動いてくれる手筈になっています」

「ワカッタ……」

「……では……皆さんは魔界王の進撃をできるだけ闇の地の方から行わせるように集中してください。無理なようでしたら……私に連絡を……」

「承知した」

「では精霊界を守るため行きなさい!」

 ネールのその号令を受け八理守護精霊たちは一斉に散開していった。

「……では私も……」

 そしてネールも自らの使命を果たすために精霊界宮殿を後にしていった。





「随分大きいですね……」

「……首都近郊にこんなでかい兵器工場……か」

 リヴィエールたちは兵器工場まで到達していた。魔界首都を守る部隊の視線をさえぎるようにして建っていたおかげでここまではこちらの動きを察知されることはなかった。

「……ヘリオス、エミリオ。悪いけど天界部隊の護衛をお願いできるかい?」

「了解した」

「ランディさんたちも気をつけてね」

 休憩を取る天界部隊の護衛には馬や風竜に乗って工場内で戦えないヘリオスとエミリオが付けられた。もちろん護衛をしながらも休憩を取ってほしいというのがランディの狙いでもあったようだ。

「では……行ってくる」

「この工場を制圧します!」

 リヴィエールを先頭に兵器工場へと踏み込んで行った。広大な敷地内には大きく分けて2つの建物に分かれており、片方は生産ラインのある工場本体、もう片方は事務棟のようであった。

「ランディ、どうする?」

「……まずは事務棟から制圧した方がいいかな……」

「了解だ」

 ランディの采配でまずは事務棟の制圧が始まった。

「下から制圧していくか……」

 正面玄関からすんなりと入ることができたが周辺に誰かがいる気配は全くなかった。

「……ランディ、これはどう思う?」

「……誰もいない……か」

 これほど大きな工場で立派な事務棟まで建っているというのに魔物の気配は一切なかった。

「……生産ラインがオートメーションなのはいいとして……だからといってこっちにまで誰もいないなんて妙だ」

「……ランディ、生産ラインの方を確認しておくか?」

「……そうだね、こっちの確認はそんなに人数かけなくても大丈夫そうだ」

「……ランディ、お前はこっちの方がいいだろう?」

「そうだね、ラヴィスはそっちの指揮を頼むよ」

 そして2人は一旦事務棟の外に出た。その様子を見たリヴィエールが心配そうに声をかけてきた。

「どうかしましたか?」

「……子猫1匹たりとも気配を感じない。妙だ」

「このまま工場本体に突入して生産ラインを止める」

「分かりました」

「ただ一応事務棟の方の調査は進める。ミディア、あと……フィア、念のために護衛を頼めるかい?」

「はい……!」

「お任せください……」

 ランディはミディアとフィアを連れてきて事務棟の調査を行うことにした。そして残りのメンバーで生産ラインの停止を目指し工場内へと突入していった。



「……ふぅ……」

 エミリオは工場の敷地の外で休息を取っていた。というのも強い光気を放ち立派な翼を広げていた天使たちの気配に緊張して安らげていなかったようにエミリオが感じていたため少し離れた場所でゆっくり休ませようとしていたのである。

「……大丈夫?アキオス」

 翼を畳み地面に伏せるようにして休んでいたアキオスを優しく撫でるとアキオスは気持ちよさそうに目を閉じた。

「……よしよし」

 もともとアキオスは風竜ではなかった。大きな翼と蛇のように長い体をした特殊な飛竜としてエミリオが人であったときからパートナーとして共に戦場を飛び回っていた。そしてエミリオが転生されるにあたりアキオスも新しく風竜として生まれ変わることになったのだが、その大きな変化にアキオスはためらうことなく従ってくれた。それくらい2人の間は親密でかけがえのない存在となっていた。風竜となった今も戦場だけでなく荷運びのため世界中を飛び回る相棒として常に一緒にいる存在である。

「……どうしたの?アキオス?」

 そのアキオスが不意に体を起こすと空の一点を気にするようなそぶりを見せた。エミリオがその方向を確認したがエミリオの目にはまだ異変が見えていなかった。

「ちょっと……アキオス……!?」

 翼まで広げてすぐに飛び立てる体勢になったアキオスをエミリオが必死に落ち着かせようとしていた。しかしすぐにアキオスが何かを察知していたことが分かったようである。

「……あれって……魔界の部隊?」

 山間部の向こう側に展開していたものと思われる魔界の部隊がこちらに向けて接近しているのが判明した。しかも相手はみな空を飛んでいるようである。

「……お手柄よ、アキオス。これはすぐに報告ね!」

 アキオスの頭を軽くぽんと叩くと背中に飛び乗りすぐさまヘリオスと天使たちの下に合流した。

「エミリオ、どうした?」

「北東から敵影、魔界の飛行部隊よ」

「飛行部隊か……」

 ヘリオスたちもとりあえず一息はつけていたようであるが敵の接近の報を受けると渋い顔を見せたあたりまだまだ万全ではないことを表していた。

「それだけだといいけど……こっちに来てるってことはその動きを見てさらに敵が動いてくる可能性があるんじゃない?」

「……首都の守備隊まで動き出すとは思えんが……」

「別に全体で来るってわけじゃなくていくつかの部隊を動かしてくることくらいありそうでしょ?」

「……どうする?ここで迎え撃つか?それとも……」

「……ランディさんに相談ね」

 ここもエミリオがアキオスを飛ばして敷地内のランディに指示を仰ぎに向かった。

「ランディさん……!!」

 工場の敷地内を飛び回るエミリオであったが事務棟の中を探索しているランディの姿を見つけることは難しかった。

「……ランディさんの指示を仰いでる時間もなさそうね……」

 一通り敷地内を探しランディの姿が見当たらなかったところでエミリオは引き返そうとした。

「エミリオさん……?」

 そこに事務棟の窓からフィアが顔を出して声をかけてきた。

「ランディさんいる?魔界の飛行部隊が接近中なの」

「飛行部隊ですか……?」

「それと一緒に他の部隊まで接近してくる可能性があるの。それをここまで引っ張って迎撃すべきかそれとも……」

「エミリオ!首都防衛隊のうちの騎馬隊が動いた!こっちに来るぞ!」

 エミリオがフィアに状況を伝えていたところでランディが事務棟の奥から駆け出してきていた。ランディは事務棟の奥の部屋の窓から首都防衛隊に動きがあったことを察知しすぐに対策を練ろうとしていたところであった。

「そっちだけじゃなくて山の向こうから飛行部隊も来てるわ」

「……ちょっと待て、それは本当か!?」

 ランディは大分慌てていた様子だったがエミリオの報告を聞くとさらに焦りの色が濃くなったような気がした。

「ここで迎え撃つの?それとも来る前に叩くの?」

「……ファラから聞いた。魔界十二使徒のゲルデシアとゾルホス……恐らく接近している騎馬隊を率いているのがゾルホス、飛行部隊を率いているのがゲルデシアだ。魔界十二使徒が2人合流すると流石にマズイ、こちらから仕掛けて何としても叩け!」

「分かったわ、私がそのゲルデシアを叩いてヘリオスにはゾルホスってのを叩かせに行かせるわ」

「……こっちもすぐに応援を出すようにする。それまで頼むよ」

「了解、任せて!」

 指示を受けたエミリオはすぐにヘリオスと天使たちのところに戻っていった。

「ヘリオス、仕事よ!」

「……打って出るということか?」

「そうよ、騎馬隊のリーダーが魔界十二使徒のゾルホスってやつみたいだから……気をつけてね」

「じゃあお前のとこも……」

「そうよ、空対空の戦いになるってことね。大丈夫よ」

 エミリオの表情は自信に満ち溢れていた。空神の名を冠する者として空での戦いでは絶対の自信を持っていた。たとえ魔界十二使徒と呼ばれる強敵であってもその自身に揺らぎがなかった。

「……ま、俺も騎神だ。これまで神界八将が4人戦って4人とも勝ってきた以上俺も負けるわけには行かん」

 ヘリオスも神界八将の騎神としての名に恥じない戦いぶりをする準備を整えたようだ。

「ヴァレリア、あなたたちは無理しないで」

「……そうは行くまい。相手は単独ではないのだ……敵の数を減らさねばまともに大将とは戦わせてもらえんぞ」

「でもまだ……」

「万全ではないと言いたいのだろう?それは貴女らもだ」

 ヴァレリアたちも2人のサポートのために出撃準備を整えていた。

「……ま、仕方ないわね。部隊編成はどうするの?」

「私が貴女の援護を、ラヴェンナがあちらの援護をそれぞれ部隊を半々に分けて行う」

「そう、じゃあよろしくね」

「ヘリオス殿、我ら天界部隊が援護を致します」

「……頼む」

「じゃあ……目標は魔界十二使徒2名の撃退と部隊の殲滅……」

「……出撃だ!」

 エミリオ、ヘリオス両名の号令で2人はそれぞれ天界の部隊を引き連れ2方向から迫る魔界十二使徒の部隊の殲滅へと向かっていった。



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プロフィール

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

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