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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter EX~

「……これで……」

 魔界王を打ち破ったネレイスはその場で膝をついた。正直出し切るだけ出し切ってもう体はいっぱいいっぱいだった。出せる限りの正の気も出しつくしていたことから魔界の負の気がこれまで以上に負担に感じるようになりできれば早くこの場から立ち去りたいところであったが、そうすぐに体は動くようなものではなかった。

「……っっ……な……何?」

 すると急に地の底から突き上げられるような揺れが起こり始めた。

「……嘘でしょ……まだ魔界王が……」

 一瞬魔界王の復活を考え焦りを見せたネレイスであったが、どうやらそうではなかったようだ。突き上げるような揺れにより床や壁にひびが広がっていき、そしてそれが天井にまで達するとネレイスの頭上に瓦礫となって降り注いでいった。魔界王が支配していたこの宮殿は魔界王の存在により成り立っていたようなものであり、その魔界王が消滅した今この魔界宮殿も形を保てなくなったようであり崩落を始めたようである。まるで魔界王が最期に道連れでもいいからネレイスを始末しようとしているかのようであった。

「……とりあえず……早くここを……」

 魔界王を倒したとはいえここで道連れにされるわけにはいかない。ネレイスは過労で動かない体を無理にでも動かして部屋の外へと飛び出していった。





「……おわっ……なんだ……!?」

「……どうやら陛下が破れたようだな」

 宮殿の崩壊が始まったことでレゾーナはベルガザスが破れたことを悟っていた。魔界十二使徒という立場でありながら最終的にレゾーナはクロノスというレゾーナにとっての天敵を差し向けられたことによりその役割を果たしてもらうことができなかった。

「……え、じゃあネレイスがやったってこと?」

「……ああそうだ。だからお前の仕事ももう終わりだ」

「ん?」

「……私の見張りはもうしなくてもいい……この宮殿はじきに崩れ去る。早くここから立ち去るといい」

「……レゾーナ、お前は……」

「……私は魔界十二使徒……秀麗のレゾーナだ。その名における私の最期の役割は……陛下とともにあることだ」

「待てよ、それって……!」

 クロノスが引き留めようとした瞬間にクロノスの頭上に大きな瓦礫が落ちてきていた。クロノスはそれを見て反射的に飛びのいて避けてしまった。

「……わぁぁっ!」

「……これ以上は危険だ……お前は早くここを立ち去れ」

 クロノスにはレゾーナが悪い存在でないことは分かっていたが根が小心者の彼にはこれ以上粘って説得を続けることは不可能だった。やりきれない気持ちのままクロノスは部屋の外へと走り出していく。

「……っと、そうだ」

「おわっ!?な……なんだ?」

「ああ悪い……お前ではなく時の精霊の方だ」

「……ああ、あいつならあんだけ言っておきながら飽きて寝ちゃってるよ……割とこの状況ピンチだってのに……」

 クロノスの頭の上にちょこんと座っていた時の精霊の姿は今はもうなく、クロノスの内へと引っ込んでしまっていたようである。

「……そうか……大事にしろよ」

「え……?」

「……お前はいい主だ……弾かれ者のあいつを頼むぞ」

「……あ……ああ」

「……さぁ、行け」

「……レゾーナ……じゃあな」

 クロノスはその後振り返ることなくその場を後にしていった。

「うわぁぁっ!やべぇよやべぇよ……」

「何だ、どうなってる?」

「あ、将軍!なんか魔界王ぶっ飛ばしたみたいでそれで宮殿が崩れてるとか……」

 大広間も抜け廊下へと出ると丁度散見された魔界軍兵士を捌いていた将軍と合流できた。魔界軍兵士は宮殿が崩落を始めている今も投降することなく向かって来ているようだ。

「将軍……ネレイスは?」

「ん?お前のとこには来てなかったのか?」

「え?オレのとこには来てないからここじゃない部屋に行ったんだと……」

「……オレが見てない間に別の部屋に動いてたのか……」

 将軍とクロノスはさらに奥の方へと向かう廊下を見た。宮殿の崩壊は奥の方から始まっているようであり多くの瓦礫が道を塞ぐようにして横たわっていた。

「……無理だな」

「……うん」

「まぁ……オレらだけでも脱出するか」

 ネレイスのことが少々気がかりではあったが崩落が進んでいる今長居をするのは非常に危険である。仕方なく2人は入ってきた宮殿入口を目指して駆け出して行った。

「…………・」

「クロノス、どうした?」

「……いや……」

「……ネレイスなら心配ないだろ。上手く抜け出してくる」

「え……?そうだね……」

 ネレイスの心配もそうだがクロノスにとってはレゾーナのことが気がかりであった。ネレイスからは時の精霊は貴重な存在であるという簡単な話しかされていなかった。外の世界にいる時の精霊がどんな存在であったのか、その事実を知ったことで時の精霊を事実上使役しているようなものであるクロノスにとってはこのままレゾーナを悪しき魔界王の側近として悪者のまま消えてしまってほしくなかった。

(ネレイスだったら……絶対……)

 自分がネレイスほどの強い気持ちを持てていたなら……意地でも連れ帰っていたのだろう。

(……ネレイスなら……!)

 クロノスはある“予感”を感じていた。もしかしたらネレイスは……





「おわっ……!!」

 宮殿入口で魔界軍兵士を捌いていたファラは突如頭上から瓦礫が降ってきて慌てて外へと飛び出した。

「……宮殿が……崩れる……?ネレイス様がやったんだな……」

 ファラも当然魔界王の存在がこの宮殿を支えているということを知っていたため宮殿の崩落が魔界王の消滅、即ちネレイスの勝利にすぐ結びつけることができた。

「……おいお前ら、魔界王は死んだ!いい加減抵抗はやめろよ」

 ファラはそう呼び掛けたがその呼びかけに応じる者は誰一人いなかった。魔界王が死んだのなら共に死ぬのが本望という歪んだ思想を持っていたのが今の魔界の正規兵たちであった。

「……くそ……どこまでこいつら頭おかしいんだよ……」

 魔界の地でいつもより長く外に出ていられるとはいえほぼ初めてと言っていい本物の死神の姿へと化身したこととここまで暴れ続けたこともありそろそろファラも限界であった。徹底的に抵抗を続ける魔界軍の勢いにも押されて形勢は不利である。

「……くっそ……あいつらが出てきたときのことを考えるとここの敵は排除しておきたいんだよな……」

 ファラはちらりと宮殿の中を向いた。柱が倒れ壁は崩れ天井が落ちていく。将軍やネレイスたちはここから脱出をして……

「……って今のでふさがっちまったじゃねぇか!」

 冷静に考えると魔界宮殿の出入り口は実質この場所しかない。この場所が塞がれると中にいるネレイスたちが脱出できなくなってしまう。

「……ち……どうするか……」

 ネレイスたちのために脱出路を確保しなければならないがそれには向かってくる残党も邪魔になる。そして残党を相手にしていては手遅れになる可能性があった。

「……あの手に賭けるか……」

 ファラはもう一度宮殿の方を向いた。宮殿の向かって右側では崩落が進んでいるが左側ではまだ崩落の度合いが小さい。仮に入口がふさがっていたとして逃れる先は当然向かって左側になる。宮殿の構造も多少なりとも頭に入っていたファラはある1点に脱出口を作れそうな場所を決めていた。

「……ちっと負担増やすことになるが……これくらいは勘弁してくれるだろ」

 ファラは大鎌を振り衝撃波を飛ばすと宮殿の向かって左側の方へと逃げるように去っていった。





「……ここも通れない……くっ……」

 ネレイスは立ちふさがる瓦礫によって思うように脱出できていなかった。これまで通ってきた通路に通じる場所は全て瓦礫によって塞がれており、とりあえず通れるところを選んで進む遠回りを余儀なくされていた。

「…………」

 しかし時折崩れた壁の隙間を縫って行けば外に出れそうな場面にも遭遇したのだがネレイスは見向きもしていなかった。それはネレイスが“脱出”ではないある明確な目的を持って進んでいることが窺えた。

「……ここも通れない……ん……」

 またもネレイスの前には瓦礫が立ちふさがっていた。頑張れば通れるかもしれないがその前にネレイスの目には大きな窓のようなものが見えた。外に通じるものではないことは確かだが普通の部屋に使われるものでもない、即ち目指している場所に近付いたのかもしれない。

「はっ!」

 ネレイスはその窓ガラスをたたき割った。その奥の部屋にはまだ瓦礫は少なく通れそうだったということもあり、ネレイスは割った窓の隙間から飛び込んで行った。

「……っと……ん……この部屋は……」

 ネレイスはこの部屋にどことなく見覚えがあった。そして転がっている瓦礫の中に1つ獣のような死骸が転がっているのを見て確信をした。

「……ここはアモンと戦った部屋……だからこの奥に……!!」

 ネレイスは迷うことなく奥の部屋へと向かっていった。奥の部屋への扉は歪んでいて普通に開けることができなかったので構わず吹き飛ばした。

「……やっぱりいた……」

「……その声は……!」

 崩れつつある部屋の奥でレゾーナは佇んでいた。レゾーナはもう崩れゆく宮殿と共に自らも滅びゆく覚悟を決めており、そんな中でネレイスが現れたということに驚きの様子を隠せなかった。

「レゾーナ……」

「見事だな、陛下を破るとは……」

「……それはどうも」

「……この宮殿も崩壊している……すぐに立ち去るといい」

「そうはいかないわ」

「……安心しろ……私にはもう抵抗する意志はない……陛下と……この宮殿と共に滅ぶ覚悟だ」

「……悪いけど……それはさせられない……」

「……何故だ?」

「……貴女が時の精霊だから」

「……そうだな、残っていればこの力は脅威となる。しかし私にはもう……」

「……貴女がどういう存在なのか……時の精霊たちに聞かせてもらったわ」

「…………」

 ネレイスはこの魔界鎮圧作戦前にクロノスが使役している時の精霊を介して“時の向こう側”と呼ばれるところに行ってきていた。そこでレゾーナについての話を聞いていたのである。レゾーナが時の精霊たちから見放された存在だと知ったネレイスは最初からレゾーナをどうにかして助けようと画策していたのである。その結果がレゾーナの能力を封じることができ、なおかつ攻撃して倒してしまうようなことがないクロノスを当てることであった。そして思惑通りクロノスはレゾーナに一切傷を負わせることなく動きを封じることに成功していた。これで宮殿が崩壊するようなことがなければ何の問題もなくレゾーナを連れ帰ることもできただろう。

「……あたしは……」

「……人と精霊たちが再び手を取り合って過ごせる世界を目指しているんだったな……」

「……そうよ」

「……そんなものは幻想だと……言いたいが……貴女はその幻想すら現実に変えられそうな力を持っている……」

「……」

「……その力で……新たな魔界を創り出していけ……」

「レゾーナ、貴女もそこに……」

「……私はレゾーナ……魔界十二使徒、第一使徒秀麗のレゾーナだ……陛下が築き上げた今の魔界を象徴する存在だ。その時代は今終わった……だから私もその時代と共に滅ぶのみ」

 ネレイスをもってしてもレゾーナを説得することはできないようであった。この間にもどんどん瓦礫が崩れ落ちてきてもう時間的にも限界であった。

「……私の居場所は陛下の傍だけだ。新たな魔界に時代遅れの存在である私の居場所など……ない」

 この部屋もじきに崩落すると悟ったレゾーナはネレイスに背を向けた。その頭上に一際大きい瓦礫がレゾーナ目掛けて落下していった。

「……陛下……私も……お傍に……」

 そしてその瓦礫は下にいたものを押しつぶしていった。





「……将軍!ここもダメだ!」

「くっそ……」

 将軍とクロノスも瓦礫に阻まれ思うように脱出できていなかった。

「こうなったら……クロノス、突破するぞ」

「えっ!?ここを!?無茶だよ……」

 2人に残されていた道は瓦礫が降り注ぐ廊下であった。いつ崩落するか分からない危険な道ではあるがこう迷っている間にも崩落してしまう可能性があり、そうなればもう行き場はなくなってしまう。迷っている暇はなかった。

「おらぁぁぁっ!」

「待ってぇぇ!」

 2人は瓦礫が降る中上手いことそれをかわしながら進んで行った。幸い2人が走り抜けるまでその廊下が崩落してしまうことはなかった。

「……ふぃ……なんとか切り抜けられたか」

「危なかった……」

 走り抜けた先の廊下は少し広くなっており、ここはまだ比較的崩落が進んでいなかった。

「……多少ゆっくり……できねぇな」

「おいおい……崩れてるんだぜ?何で向かってくるんだよ……」

 しかしそこには魔界軍残党が散見されていた。そして将軍たちの姿を見ると迷うことなく襲いかかってきた。

「クロノス、お前のグローブで撹乱しろ。そして突っ込め!敵の始末はオレがやる」

「突っ込めって……」

「お前ならさっと脱出できるだろ……オレは……まぁ大丈夫だ」

「将軍……」

 クロノスの両手には水をたたえたグローブが現れた。クロノスがそれを振り回すと無数の泡が現れ魔界軍残党の視界を奪い動きを一瞬鈍らせた。クロノスはその隙に一気にその泡の中を突き抜けていった。

「……ったく……あいつは何してんだよ……」

 将軍は2本の刀を抜き動きの止まった魔界軍残党を次々と切り捨てていった。




「……うわ……視界わっる……」

 クロノスが突っ込んだ先は思いの外崩落が進んでおり、瓦礫が落ちたことで上がった粉塵が舞いあがって視界を悪くしていた。

「……これ使えるかな……」

 水のグローブを扱うクロノスは発生させた泡により粉塵を湿らせ流し去っていった。このグローブは八理守護精霊慈水の女王エメローネの加護を受け、ネレイスに贈られたものをその支援性能の高さからクロノスに与えられたものである。非常に特殊な武装であるもののクロノスはその力を存分に発揮し時の精霊の力と合わせてここまで生き残ってきた。

「……っと……あぶねっ!」

 時折落ちてくる天井や倒れてくる柱をいつものように過剰ともいえるリアクションを取りながら避けていく。

「……で、ここを抜けたら……」

 狭い廊下を走り抜けクロノスは角を曲がった。

「ぎゃーーーっ!!」

 曲がってすぐクロノスは絶叫し飛びのいてきた。角を曲がってすぐに大きな瓦礫が道を塞ぐように落下してきていたのである。

「……死ぬかと思った……」

 なんとか当たらずに済んだものの瓦礫は大きく道を塞いでしまっていた。

「…………」

 しかし道と瓦礫の隙間には人1人がようやく通れそうなほどの隙間が開いていた。しかしそれは小柄なクロノスは通れても将軍は通れないような大きさのものであった。

「……将軍……悪い!」

 クロノスは迷わずその隙間に入り込んだ。その瞬間にさっきまでクロノスがいた空間に大きな瓦礫が落下していった。

「……!!……こえぇ……!!」

 そのことにクロノスは震え上がった。今は力を貸してくれている時の精霊が寝ているようであり、避神の力が発揮できるかは分からなかった。時の精霊の力がなければクロノスの回避能力は神と呼ばれる領域までには達しない。当然今の瓦礫を避けられるはずもなかった。

「……迷ったら死ぬ……!」

 クロノスはなんとか狭い隙間から這い出して先へと進んで行った。その先でもやはり瓦礫は降り注ぎ一瞬も気を抜けない状況であったが生身の体でありながらも上手くかいくぐっていった。

「……確かこの辺が……」

 そしてクロノスは宮殿入口のホールのようなところまで戻ってきていた。ここまで来れば出口はすぐそこだったはずである。

「……げ、出口塞がれてる……!」

 しかし宮殿の出入り口は既に多数の瓦礫が積み重なって塞がれていた。

「……くっそ……ここが塞がれてるともう行き場ねぇぞ……」

 辺りを見回しても他の脱出口はなく、クロノスが来た道以外は瓦礫によって塞がれてしまっていた。

「……これで何とか……!!」

 クロノスは入口を塞ぐ瓦礫の山に水のグローブで発生させた水流をぶつけていったが、支援用の武装であったため威力には乏しく瓦礫を除けそうにはなかった。

「……もしかして……詰んだ?」

 やれる手は尽くしたものの今のクロノスの力では脱出不可能となっていた。





「……将軍……ちゃんとそこにいろよっ!!」

 ファラは周囲の状況を確認し残党の攻撃がまだ来ないのを確認すると軽く力を溜めた。構える大鎌にその力が伝わり鎌の形状が変化した。

「流月・飛翔!!」

 ファラは鎌を宮殿の壁に向かって振り抜くと鎌から複数の衝撃波が飛んでいき宮殿の壁を粉砕していった。

「……おい将軍!とっとと出てこいよ!」

 周辺を瓦礫の山へと変えたがそれと同時に壁や天井に多くの穴を作っていた。ここを通れば十分に脱出できる。

「……くっそ、読みを外したか……」

 しかし将軍はなかなか出てくる様子はなかった。ファラも別の場所に脱出口を作ろうとしたが残党たちが追い付きファラを狙っていた。

「……ったく……あいつは何やってんだよ……」

 ファラは鎌を握りなおした。もう覚悟を決めて相手にするしかないようだ。

「……おいおい……随分乱雑な助け方だな」

「……遅ぇんだよ……」

「お前の一撃で瓦礫が大量に降ってきて動くに動けなかったんだよ」

 ファラの背後には将軍の姿があった。将軍はファラが壁をぶっ壊して穴をあけてくることを見越して比較的安全な場所で待っていたのである。そしてその思惑が見事に的中したのである。

「……そりゃ悪かった、そしてもう1個」

「……もうへろへろなんだろ?引っ込んでろ」

「……そうさせてもらうよ」

 そして疲れ切っていたファラはその姿を消した。残った将軍がファラを追いかけてきた残党と向かい合う。

「まーあいつもよくこれだけをひきつけながらやってくれたもんだ。ほめてやらんとな」

 これまで常に戦い続けていた将軍であるが疲れた様子は一切なかった。魔界の残党相手に後れをとるようなことはなく次々と切り捨てていった。

「……よし、片付いたか……やれやれ……」

 幾分も経たぬ間に将軍は残党を片付け終えていた。その圧倒的な戦闘能力はこの段階においても健在だった。

「さて、クロノスは……っと」

 辺りの安全を確認したところで将軍は宮殿入口の方へと向かっていった。クロノスは恐らくここを目指していったのだろう。

「入口は……やっぱり崩れてたか……」

 宮殿入口は瓦礫が積もってふさがっていた。入ってすぐのホールも大分崩れており瓦礫の山と化していた。

「お、大丈夫かぁ?流石の避神もこれはピンチだろ」

 将軍は面白おかしくそう言った。その口ぶりは全く心配をしてなく、絶対生きて出てくるということを確信しているかのようなものであった。

「わぁぁ!!ぎゃぁぁ!!」

 そしてその通り瓦礫の山の中からクロノスの大げさな叫び声が聞こえてきていた。あれだけ元気に絶叫しているのなら全く心配はいらないだろう。

「……ゼェ……ハァ……マジで……今回は……死ぬかと思ったぁ……」

 そしてしばらくしてクロノスは崩れかけのホールの上にできていた穴から身を乗り出してきた。

「よぉ、よく生きてたなクロノス」

「おー将軍!よかった将軍も無事だったか~」

 瓦礫につかまりクロノスは将軍へと手を振った。

「……ってわぁぁぁぁっ!」

 その時にさらに体を乗り出してしまったために脆くなっていた瓦礫は外側に向かって崩れた。クロノスはその瓦礫の欠片と一緒に瓦礫の山を一緒に転げ落ちていき将軍の前まで行って止まった。

「いててて……」

「クロノス、最後にそれはだっせぇぞ」

「……んなこと言われてもよ……」

 クロノスは軽い擦り傷や打撲をしたものの命に別状はなかった。

「ま、いいさ。お互い無事でなによりだ」

「……まぁそうだけどさ、なーんか忘れてる気がするんだよなぁ」

「そういやネレイスがいねぇな……すいっと出て来てると思ったんだが……」

「……いや、ネレイスじゃなくて……」

 確か魔界宮殿内に突入した味方は4人だったはずである。

「「……あ」」

 冷静に思い返してようやく2人同時にその味方のことに気付いた。

「ラヴィスがいねぇぞ!」

「もしかしてまだ中に……」

 宮殿内で魔界人形をなぎ倒し宮殿内の兵を相手にしていたラヴィスのことを2人は完全に忘れていた。宮殿内から脱出する際にその姿は見られなかった。既に脱出をしているのか、まだ宮殿内にいるのか、それとももう崩落に巻き込まれてしまったのかは分からない。

「……ひとまず……帰還しよう」

「まぁ……そうだね」

 将軍にもクロノスにも宮殿内を捜索する余裕はなかった。そして仕方なく2人は神界へと帰還していった。その後宮殿内からはネレイスもラヴィスも出てくることはなかった。



←Chapter21     後日談→


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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter21~

「……ここだね」

 アモンに言われたとおりに進んだ先には立派な大扉があった。アモンの言葉が正しければここに魔界王がいる。もちろん嘘の可能性はあるのだが、アモンの言葉の信憑性はここまでで十分確認されていた。

「……」

 ネレイスはゆっくりと大扉を開けた。その直後猛烈な負の気に襲われ膝をついた。

「……間違いないね……この感じ……絶対……」

 大扉は強力な負の気の圧力を受けていたこともあり非常に重かったが、それでも隙間を作り部屋の中へと入り込んだ。部屋に入ると大扉は負の気の圧力で勢いよく閉められた。

「……来たな……」

「……魔界王……もうおしまいよ」

「……精霊界の忌々しい小娘め……その体で我に立ち向かえるとでも……」

「……なぁに?随分とぼろぼろじゃない……そういうあなたこそあたしと戦えるの?」

「貴様……」

 ネレイスを睨みつけるベルガザスの鎧は剥がれ落ち、体はボロボロであった。精霊界でアドヴェルサーから受けたダメージはまだまだ全然回復していないようである。

「……あたしが無策で精霊界を空けるわけがないでしょ?部下に止められなかったの?」

「……ぐぬぬ……」

「この分なら楽勝ね」

「……甘く見るなよ小娘……この体でも……貴様をひねりつぶすことはできる!」

「……あたしが終わらせてあげる……魔界をあるべきに姿に戻すのが……あたしの仕事だから!」

 ネレイスが剣を構えたところでベルガザスはその巨体で押しつぶしにかかってきた。鈍重な動きであったためネレイスは悠々と避けられるものだと思っていた。

「……っっ!!」

 しかしベルガザスの体から発せられる強力な負の気の圧力に押されたのか思うように体が動かず、避けるのだけでも思いの外苦労したようである。

「……チィ……だが苦しそうだな……」

「……これくらい慣れてるよ」

 強大な負の気を抱えながら戦うことはネレイスもよく経験したことであった。感覚がやや鈍ることを計算して立ち回ればネレイスの技術力で十分にカバーをすることができた。

「だが……いつまでもつかな!」

「……っ……」

 しかしその技術力をねじ伏せるほどベルガザスの力はすさまじかった。アドヴェルサーによって体力も力も相当削られたようであるがそれでもなおネレイスを寄せ付けないほどのものは残っているようだ。

「……フン……避けてるだけでは話にならんぞ」

「……こんなにきっついとは思わなかったなぁ……」

 ネレイスも攻勢に移りたいところであったがこの強力な負の気のオーラが障壁となり近付くこともままならなかった。

「ふんっ!ぬぅんっ!」

「くっ……こんな圧力じゃ……やっぱり……」

「威勢がいいのは口だけだなぁ小娘ぇ!!」

「……っく……・ぁぁぁっ!」

 負の気の圧力で動きを制限されたネレイスはついにベルガザスの攻撃をかわしきれずに直撃をして吹き飛ばされた。

「ふん……口ほどにもない」

「……流石にもう限界かな……」

 壁に激突する前に受け身を取りなんとか激突は免れたが、負の気の圧力もまともに受けたこともありネレイスは一気に体力を削られていた。

「……話にならんな……」

「……そうね、これじゃあ話にならないよね」

 しかしまだまだネレイスには手があるようだった。左手に構えていた盾を背中に背負うと空いた左手を前へと翳した。するとその手には赤黒い気のようなものが集まっていった。

「……あんまりやりたくはなかったけどさ……やっぱりやらないと無理だよね……」

 赤黒い気はやがてネレイスの体全体を包んでいった。その赤黒い気は次第にネレイスの姿を変化させていく。

「……何をしている?」

「……アタシを負の気で押しつぶせると思ってるんだったら……大間違いだからね」

 姿を変えたネレイスの周囲にはベルガザスほどではないにしろ強力な負の気が渦巻いていた。紫の髪はより赤みを帯び、綺麗なエメラルドグリーンの瞳はルビーのように真っ赤に染まり、その姿は精霊から一気に悪魔へと変貌してしまった。

「……その姿で精霊界女王か、笑わせてくれる」

「……文句ある?もともとは精霊界の者も魔界の者も一緒なのよ?」

 負の気はネレイスの姿だけでなく声や立ち振る舞いをも変えてしまっていた。もはや別人と化してしまったネレイスではあるがその手に握られた精霊界の至宝エンジェルティアの輝きが衰えることはなかった。

「……これでアタシに負の気は効かないわ。ようやくまともな勝負にはなるんじゃない?」

「フン……負の気を止めたくらいで調子に乗るなよ……」

 負の気を纏ったネレイスは先ほどよりかはゆっくりした速度でベルガザスに接近していった。先ほどまで障壁のように立ちふさがっていたベルガザスの負の気も今ではもう全く意味のないものへと変わってしまっていた。

「ふんっ!」

「……遅すぎるわ」

 ベルガザスの豪快な攻撃をネレイスは最小限の動きで回避をしてみせた。巨体から放たれるその一撃は直撃すれば当然ひとたまりもないがその周囲にも強力な攻撃の余波が広がっていく。ネレイスはその余波までを避けようとはしていなかった。

「……その程度?」

 普通であれば吹き飛びそうなほどの衝撃を受けているはずのネレイスだが平然とした様子で剣を振り抜いた。その一撃は頑丈そうなベルガザスの皮膚を易々と切り裂いていった。

「ぬぅぅっ!」

「……本当貴方は愚かね……そんなボロボロじゃなければもっとマシにアタシと戦えたのに」

「……小娘……っ!」

「……全然動けてないじゃない」

 軽く怯んだ隙に今度はベルガザスの足元を狙って剣を振り抜いた。

「ぐぅぅ……!」

「図体がでかいっていいわね、適当に振っても当たるから」

 膝をついたベルガザスにネレイスはさらに追撃を加えた。それもあえて傷を浅くしてじわじわといたぶるようなものであった。

「……貴様……」

「ほらほら、アタシをひねりつぶしてみなさいよ、ほら!」

「……ぬぅん!」

「……貴方やる気あるの?」

 ベルガザスが大きく踏みならした地ならしにより飛び交う衝撃波をまともに受けながらもネレイスはわざと軽い攻撃を入れ続けていった。

「……うぉらっ!」

「……チッ……アタシが攻撃避けないのをいいことに……」

 しかし捨て身で攻撃を続けているネレイスもこれ以上攻撃をもらいたくないようでがむしゃらに攻撃をし始めたベルガザスになかなか攻撃を仕掛けにいけなくなったようである。

「ふんっ!」

「相変わらず動きは鈍重なくせに……」

 ベルガザスの主な攻撃は巨体を生かした体当たりや足踏み、そしてそれに伴って起こる衝撃波、そして大きな牙や角を振り回すものであり巨体故に攻撃範囲は広いもののいずれも単調なものであるため見切るのは簡単であった。そしてそれに伴う隙はいくらでもある。しかしネレイスはすぐに攻撃に移ろうとはしていなかった。

「……ちょこまかと!」

「!!……そういうのもできるじゃない」

 体の大きなベルガザスにしては素早い動きで突きを繰り出されネレイスの体勢が大きく崩された。

「これでも喰らえ……!」

 そこにベルガザスは紫色のブレスを吐きかけた。ネレイスも体勢が崩れた中でもうまく横へと避けていくが拡散していくブレスを完全にはかわすことはできなかった。

「……っぐっ……」

「当たればいい……貴様は今それを治す手立てはないはずだ」

 ベルガザスが使ったのは毒息であった。普通ならば負の気を吐きかけるところであったが今のネレイスに負の気は通用しない。しかし負の気を纏ったことによりネレイスはその最大の能力である“癒しの気”が効果を発揮しなくなってしまっていた。そのため今のネレイスにとってじわじわと命を削られていく毒は致命的な一撃であった。

「……なるほど……ちょっとは頭回るじゃない……」

「……このままお前が朽ち果てるまで見ているのもいいが……貴様には精霊界でやられた分をやり返さねば気が済まん……」

「……アタシにあたっても仕方ないじゃない……」

「……貴様をひねりつぶしてあの精霊界の亡霊だかいうふざけたヤツに目に物見せてやるんだ……」

 そこでベルガザスは大きく息を吸い込んだ。それを見てこれまで守りの姿勢を見せなかったネレイスは珍しく負の気を正面に集めて障壁を作り身を守った。そしてベルガザスは地を揺らし猛烈な衝撃波を発生させながら大音量で咆哮を放った。負の気の障壁によりしっかり身を守れたネレイスだが強力な圧力により壁際にまで押し込まれていた。

「……覇厳の咆哮……この力で……貴様をひねりつぶす!!」

 ベルガザスの体からは黒炎のオーラが発せられベルガザスの戦闘能力は格段に上昇していた。これまでよりも早い動きで牙で突き薙ぎ払ってきたがそれをネレイスは負の気の障壁でなんとか防ぎきった。

「…………」

 毒に蝕まれていくネレイスの体ではベルガザスの猛攻を捌ききることは不可能であった。しかしいつまでもベルガザスの攻撃を防いでいられるわけではない。

「…………」

 ネレイスは負の気の障壁の後ろで詠唱を続けていた。これまでまとっていた負の気を身を守る障壁に流すことで時間を稼ぎつつ精霊界言語で紡がれるその言葉は大きな力をネレイスへと授けていた。

「無駄な抵抗を……消え去れぇ!!」

 脆くなった負の気の障壁を打ち破ろうとベルガザスは勢いよく突進してきた。その一撃は易々と負の気の障壁を粉砕しそのまま後ろにいるネレイスを吹き飛ばそうという勢いで迫ってきていた。

「……精霊界砲ガラティーン……出力十分!発射っっ!!」

 障壁の向こうにいたネレイスの姿はもう先ほどまでの負の気を纏った姿ではなく最初に相対したいつものネレイスの姿に戻っていた。それだけでなく背中には大きな花弁のような翅が展開されており突進してきたベルガザスを体の前に集めた魔力を放つことによって迎え撃った。

「ぬぅぅ……このくらいぃぃ……!!」

「はぁぁぁぁっ!!」

 精霊界砲はベルガザスにも当然有効な一撃になるものであったがそれでもベルガザスの勢いはまだ残っていた。それでもネレイスの放った光砲は次第にその出力は上がっていき、次第にベルガザスを押し返しっていった。そして最終的にはネレイスにこれほどの魔力が残っていたとは到底思えないほどの威力にまで増大した一撃でベルガザスを打ち抜いていった。

「ぬぅぅ……ぐぅぅ……」

 しかしその圧倒的な力で魔界王の座に君臨しているベルガザスはまだしぶとく立ち上がっていた。しかし先ほどの咆哮によって纏っていた黒炎のオーラは消え去っていた。

「……まだだ……その一撃で勝った気になるなよ……!」

「……もちろん……今の一撃は決着をつけるための攻撃じゃない……貴方の厄介なオーラを消すためだったんだから」

 辺りを包んだ激しい光が晴れるとネレイスの姿はさらに変わっていた。

「……ぬ……貴様……その姿……!」

「……もしかして精霊界の亡霊って……こんな姿だったりした?」

 ネレイスの体は虹色の光に包まれていた。その姿はベルガザスがいいようにあしらわれ、屈辱を味わわされたあの精霊界の亡霊にとてもよく似ていたのである。少し違うところと言えば亡霊の方はその名の通り存在そのものが光でできたような実体のない姿であったのに対し、ネレイスは虹色の光の強さは亡霊のように強くはないもののしっかりと実体のある存在としてその圧力をじかに感じることができていた。

「……好都合だ……これをひねりつぶせば……!」

 再び正の気を放つようになったネレイスに魔界王はこれまで抑えていた負の気を撒き散らしはじめた。

「……悪いけど……そんな負の気じゃ……止められないからっ!」

 しかし今のネレイスはベルガザスの負の気の圧力に押し返されるようなことはなかった。多少圧力に押されるような場面はあったもののその圧力を振り切りベルガザスの懐まで入り込むと腹を深々と切り裂いていった。

「ぐぬぅぅっ!」

「これで終わりよ……」

 これまでにない強烈な一撃にたまらずベルガザスがのけぞった。その間にネレイスはベルガザスを踏み台に高々と飛び上がると宙返りをしながら両腕にボウガンを展開し左右4本、計8本の矢を放ち床に突き刺した。床に突き刺さった矢はその下にそれぞれ異なる色の文様を刻み、各々を頂点に虹色の光で結ばれていった。

「ぬっ……体が動かん……」

 この空間が結界のような役割を果たしているのかベルガザスの身動きを完全に封じていた。そしてネレイスはゆっくりと1つの頂点へと降り立った。

「世界を象る雄大なる力よ……」

 その頂点から今度は別の頂点に向かって一気に切り抜けていった。ネレイスが切り抜けていくとベルガザスの下から大地の力が噴き上がった。その後大地の力は剣へと集まっていった。

「世界を漂う柔らかな旅人の力よ……」

 次の一閃は風の刃の追撃をもたらしていった。

「世界を震わす蒼き力よ……」

 ネレイスが放った矢は8本。これは精霊界の八理と一致している。この結界はネレイスが放った矢を頂点として切り抜けていくことで各八理の力がネレイスの攻撃に合わせて追撃をしてくれるようになっていた。今度はベルガザスの周りに無数のつららが現れ突き刺さっていった。

「世界を照らす清らかな力よ……」

 4撃目はベルガザスに無数の光線が降り注いだ。

「世界を潤す恵みの力よ……」

 5撃目には大きな水柱が噴き上がっていった。

「世界を包む紅蓮の力よ……」

 直後の6撃目にはベルガザスを炎が包み水を乾かしただけでなく体を焼いていった。

「世界に響かす怒号の力よ……」

 7撃目には無数の雷が降り注いでいった。

「世界を覆う深淵なる力よ……」

 最後8撃目は闇の魔力による圧力でベルガザスを押しつぶしていった。これで八理の追撃は全部終わったことになる。

「その力我が刃に宿れ……我は八理を束ねし者也……」

 8撃目を終えたネレイスは再び宙返りをするとベルガザスの方に向き直った。構えた剣には八理の力が集まり虹色に輝いていた。

「はぁぁぁぁぁっ……一閃っっ!!」

 八理の力を集めて極限まで高めた精霊剣エンジェルティアは虹色の光を纏ってネレイスの体ほどの大きさにまでなっていた。そのエンジェルティアををベルガザスに振り下ろした。

「ぬぁぁぁぁっ!!」

「…………」

「おのれ小娘……貴様なんぞにぃぃぃ!!」

「……魔界王、貴方の時代はもう終わったの……あたしが……精霊たちが……魔界を立て直す」

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」

 振り下ろされた虹色の刃はベルガザスの体を両断し虹色の光で覆いつくしていった。

「……これで……終わったんだね……」

 ベルガザスを斬り伏せたネレイスの体から虹色の光が消え、背中の羽もいつものトンボ羽へと戻った。精霊界女王の八理の力を集めた一撃により魔界王はついに倒れた。ここに魔界鎮圧作戦は完了したのである。



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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter20~

「……っっ!!」

「……チィ……」

 ネレイスの背後から襲いかかってきたアモンを盾を使ってギリギリのところで跳ね返した。

「……やっぱり神速の名前は伊達じゃないね……」

「魔界でオレの動きについてこれるとはな……」

 ネレイスにとっては今の一撃を捌くのに精一杯で楽にはいかないという気持ちが強くなり、アモンにとっては速さで勝り完全に背後を取ってからの一撃を捌かれたことで焦りを感じつつあった。

「……あまり長くは戦いたくないからなぁ……」

 しかし戦況はアモンに有利であった。ネレイスにとっては負の気たちこめる魔界においてただひたすらにアモンの攻撃を防ぎ続けるだけでは消耗が早くじきにアモンの動きについていけなくなってしまうだろう。またアモンにとっては時間を稼げばそれだけ後に控えている魔界王の回復も狙える。本来であればここでアモンは無理に攻め続けなくてもいい場面ではある。

「……今度は……!」

 しかしアモンは再び素早い動きでネレイスの周りを動きまわり今度は剣を握るネレイスの右側から足元を狙って飛びかかっていった。あくまでもアモンは攻め続ける姿勢を崩さないあたり魔界十二使徒として、また魔界の存亡を託されたような存在として自分の手で仕留めておきたいという気持ちが強く出ているようだった。

「っ!」

 その動きに反応したネレイスは背面跳びをしなんとかかわした。さらにそこからひねりを加えてアモンに向けて剣を振るうが当然その時にはアモンの姿はそこになかった。

「上っ!」

 しかしネレイスは着地後すぐに剣を振り上げるとそこに上から飛びかかるアモンの姿があった。ネレイスの剣でアモンの爪を受け止め鍔迫り合いのような形になるがアモンの力以上にネレイスの剣が持つ正の気が勝っており、たまらずアモンは飛びのいていった。

「……チッ……何で見えてるんだよ」

「今のは見えてたんじゃなくて読んでたの。着地のタイミングをどの方向から襲うか……」

「……本当は全部読んでるだけじゃねぇのか?」

「……そうね、わりと読みやすいけど……ちゃんと見えてはいるよ」

 距離を取ったアモンにネレイスはボウガンを出して牽制するように数発を撃った。アモンは素早く動いて避けていくもののネレイスの狙いはほぼ正確であり、アモンの動きにネレイスの目がついていけていることを示していた。

「……チィ……」

「足止めちゃダメでしょ!」

 牽制射撃を続けて足を止めたアモンにネレイスは反撃の隙を与えないほどの流れるような連撃で一気に集中攻撃をかけた。しかしアモンもなんとかそれを凌ぎきるとまた距離を取った。

「……お互いに攻撃を当てられないんじゃね……」

「決定打にはならないよな……だけどよ」

「……魔界じゃ貴方の方が有利?」

「何もオレは焦ることはない……獲物を弱らせてからじっくり料理したっていい……」

「……でも焦らないと獲物に逆襲されちゃうかもよ?」

 ネレイスはまだまだ余裕な表情を崩していなかった。体の調子もまだまだ良好であり負の気の心配をするのはまだまだ早そうだった。

「……いつまでも余裕見せつけやがって……」

「……そうね、まだまだ余裕だよ」

「……しゃあねぇ……先出しは不利なんだが……その気にいらん面いいかげん歪ませておきたいからな……」

 膠着状態を打破しようと先に動いたのはアモンであった。アモンが遠吠えをあげると赤黒い魔界のオーラを纏い銀色の毛並みから血のような赤黒い毛並みへと変化していった。

「……全力で行くぜオラァッ!」

 ネレイスに向かって飛びかかるアモンの姿をネレイスが捉えることはできなかった。アモンの速度はこれまでとは比べ物にならないほど上がっていたのである。

「……っっ!!」

 姿を消しネレイスの左側から襲いかかってきたアモンをかろうじて盾で食い止めた。攻撃の威力もこれまでと比べ物にならないもになっていた。

「……ほぉ、止めたか」

「……そんなこと言って……今はわざと防ぎやすいところから攻撃したでしょ?」

「…………」

「……大丈夫?今の一撃で……」

「……今は警告のつもりだ、次は……ねぇぞ」

「……そこまで言われちゃったら……仕方ないよね」

 アモンが妖しく目を光らせたのを見てネレイスもついに顔つきを変えた。真剣な表情のネレイスの背中にはいつものトンボのような翅ではなく大きな花弁のような羽が現れた。

「……これで遠慮なく殺れる?」

「そうだな……その状態のお前を殺れなきゃ……魔界の力は示せねぇ!」

 アモンは再び姿を消した。力を使ったネレイスであってもアモンの動きを見切ることはできなかった。

「……そこだね!」

 しかしアモンの気配をネレイスは完全に察知していた。アモンの爪による攻撃を盾で受け流していき、背後から鋭い突きを入れた。明らかにこれまで以上に動きにキレが出てきたネレイスはその一撃が届かないことが分かるとすぐにステップをした。その速さはアモンほどではないにしろ素早いものであり、攻撃後の隙を突かれたアモンの横を取り一瞬アモンをひやりとさせた。

「……ち……」

 ネレイスはすぐには攻撃しなかったことでアモンにも十分回避する余裕が生まれた。すぐさま今度はネレイスの背後を取るようにアモンが動くとネレイスもすぐにそれに合わせてアモンの横を取っていく。そしてしばらくは双方とも攻撃する機会を窺っているかのように立ち回りを続けていった。





「…………」

「……えーっと……」

「……お前に私の相手が務まるのか……疑問が残る」

 ネレイスとアモンが戦っている奥の部屋ではレゾーナとクロノスが相対していた。

「オレも……ちょっと相手になると思っていないんだけど……」

「……ただあっさりと蹴散らすのももったいない。少しおしゃべりといこうではないか」

 ただならぬ気配を感じ完全に怖気づいた様子のクロノスに対し余裕たっぷりのレゾーナはそう切り出した。しかし余裕を持っていながらもレゾーナは着々と自分の力を使って自らにとって有利となるような環境を整えていくことを忘れていなかった。

「……お前は一体何者だ?」

「……えっと……クロノス……」

「……ほう」

 クロノスという名前に少し引っかかるところがあったのかレゾーナは一瞬動きが止まったが、気にしないことにした。

「……私は魔界十二使徒……第一使徒レゾーナ……」

「……すっごい強いって聞いてるんですが……」

「……強い……か……かもしれんな」

「……ネレイスに言われたけど……相手になる気しねぇよ……」

 この間にも着々とレゾーナはクロノスの退路を断つ作業を続けていた。

「……お前から見て精霊界女王はどういうやつだ?」

「ネレイス?……んー……」

「…………」

「……とにかく強い……かなぁ」

「強い……か……」

「動きは早いし攻撃に隙はないってのもそうだけど……何より気持ちが強いんだよなぁ……」

「気持ち……?」

「……精神的な部分は多分誰にも負けないんじゃないかな……」

「気持ち……か」

 精霊たちの絶大なる支持を受けているネレイスはそのカリスマ性と剣の腕がよく注目されていたが、それに加えて精神面での強さにも優れている。この心技体3つがネレイスは特に高いレベルでまとまっていることに強さがあるようだ。

「……なにより人がいいし」

「……」

「個々の精霊と直接会って話をしてるし積極的に各地に出向いて挨拶もする。どんな小さな声も拾い上げて精霊界の運営に生かそうとしてくれている……そしてついには本来精霊界に渡れるはずだった魔界のものも助けたいと言い出しているし……」

「……それは……どういうことだ?」

「……もともと精霊界と魔界は1つだったんだろ?世界の安定とかいう名目はあるけど……正直今のネレイスはそれよりも魔界にもいるだろう善良な精霊たちを救いたいとか人との関係を再構築させたいとかの気持ちのほうが強いと思うよ」

「……そんなこと……」

「ネレイスだって簡単にできるとは思ってないさ……でも……少しずつでも魔界の民の気持ちを変えていつかは……」

「…………」

 人との関係を作り直したいというのは冥界へと逃げ込んだグレモルも言っていたことである。しかし負の感情を募らせた存在が集まる魔界においてそれは当然並大抵のことではできない。グレモルが待ちに待ち続けてようやく見出した好機、これを託すにふさわしい存在であることをレゾーナは感じていた。

(……精霊界女王……流石というべきか……グレモルが主と見定める存在に相応しい)

 仮にネレイスがベルガザスを倒した場合魔界は実質ネレイスの統治下となるであろう。今の魔界にはネレイスを支持する勢力も出始めていることから混乱が起きることは予想されつつもなんとかやっていけそうである。そんな未来を少しだけ想像することができたあたりもうレゾーナに覚悟はできたようである。

「……さあ……そろそろおしゃべりの時間は終わりにしよう」

 レゾーナは最後の1手を繰り出し、これでクロノスが逃げられないような空間を作り上げた。

「……え?本気出すの!?」

「そうだな……安心しろ、一瞬で決めてやる」

 レゾーナが地に足をつけると精霊の姿をとったレゾーナの体から光の波動が広がり、それと同時に右手には光の剣、左手には光の時計のようなものが現れた。

「…………!!」

「……時の力の前には万物は無力……」

 レゾーナはゆっくり1歩踏み出すと左手に浮かび上がった時計の針が1つ動いた。

「…………」

 クロノスは身動き一つしていなかった。というよりも身動き一つできない状況下になっていた。今この空間はレゾーナの力によって時を止められている状態となっていたのである。そんなクロノスに向かってレゾーナは1歩1歩時計の針が動く音だけを響かせながらゆっくりと近付いていった。

「……さらばだ」

 クロノスの目の前まで近付くと光の剣を構えた。左手に浮かぶ時計の針はそろそろ1周りしようというところであった。

「……はぁっ!」

 レゾーナが動かないクロノスに向けて剣を突き立てた。それと同時に時計の針が動くと光の時計は砕け散るようにしてなくなった。

「わぁぁぁぁっ!!」

 しかし動かないはずのクロノスに突き立てた剣は寸前でいつものように大げさな反応をしながらひらりとかわされてしまった。空を突いた剣はそこでガラスを割るような音をたてると止まっていたこの空間の時が動きだした。

「死ぬかと思ったぁ……!!」

「……な……何故……まだ時は止まっていたはず……」

 この展開に驚愕したのは当然レゾーナである。万全の態勢で時を止める準備をして事実この空間の時を止めたはずである。剣を突き立てる瞬間までクロノスは動かずクロノスの時も止めていたはずである。それなのにクロノスは時が動き出す前に攻撃をかわしてみせた。当然考えられないことである。

「ケラケラケラケラ……」

 するとどこからともなく子供のからかうような笑い声が響きわたってきた。

「……何者!?」

「おっかしー……あんなのろのろした攻撃でー、この人に当たるわけないじゃーん」

「……わぁぁっ!!」

 声の主はクロノスの頭の上にちょこんと座っていた。

「……まさか……お前……」

「そーだよー……わたしー、時のせーれー、あなたと一緒なんだよー?」

「……時の精霊の契約者……!?精霊界女王の隠し玉は……私を……!」

「でもびっくりしたなー、外にいる時のせーれーなんて他にいたんだー」

 そう言いながらクロノスの頭の上に座る時の精霊はまたケラケラと笑い始めた。

 精霊界には八理と呼ばれる地水火風氷雷光闇の他にも八理のいずれの力を兼ね揃えた今の精霊界ではネレイスしかいない“理”という属性があるが、さらに八理のいずれにも属さないものとして“時”の属性を持つ精霊がかつては存在していたのである。しかし時の力は強大なものであり習得するのも扱うことも困難であり存在自体は非情に貴重なものであり、さらに本来時の精霊は精霊界が負の気の呪いに包まれた際に一斉に“時の向こう側”と呼ばれる場所へ身を隠し以後表舞台とは一切かかわらないようになってしまっていたのである。

「……クロノス……その名はやはり……」

「時の神様だよー、わたしのご主人さまなんだからかっこいい名前がいいでしょー?」

「……どこでそいつに会った?」

「んー、覚えてないなぁー……でもー、このおにーさん面白そうだな―って思ったから勝手についていったんだよー」

 クロノスに聞いているはずがそれより先に時の精霊がぺらぺらと喋り出していた。これまで何度かクロノスの頭の上に出てきたことはあったがケラケラ笑うことはあっても喋ったのは初めてであった。

「……お前は……何故外の世界にいる?」

「そーいうあなたもそうでしょー?まー時のせーれーが外の世界にいる理由なんて大体一緒だよねー?」

「…………」

「……わたしもー、あなたもー、おちこぼれー、できそこないー、そうでしょー?」

「え……お前ら……」

「……そうだな、向こうでなじめないやつは爪弾きにされる……」

「でも外の世界に出たってひとりぼっち、結局そのままのたれ死ぬー」

「…………」

 これまでクロノスの連れてる時の精霊は何も語ってこなかっただけにここまでべらべらしゃべるものとは思ってもみなかったがその内容はかなり重いものであったが、しかし当の本人はいたって平然とその後も喋り続けていった。

「時の力は強力だ……それ故に悪用される危険もある。時の精霊はそういう存在なのだと徹底的に教え込まれる」

「力は絶対つかうなーとかー、勝手な行動はつつしめーとかー……」

「そういう中で過ごせば必ずついていけないやつや反発したくなるやつが出るだろう」

「そーいうやつはー、もうしーらないってなるー」

「……いいのかよ、それ」

「……時の力を行使しているお前ならその力の恐ろしさ……分かるだろう?」

「……オレ避けてるだけだからさっぱり……」

「“避けられないものを避けちゃう”って怖いよねー」

「……お前が攻撃を受けた、避けた。これだけでその先の結末に大きく影響する……現に時の力を悪用したことで滅んだ世界は少なくない……だからこそこれくらい厳しくないと……」

「…………」

「わたしはー、そーいう窮屈なのがやだったから出てったのー」

「私はあの時まだ力の制御に苦労していた……結果できそこない扱いをされ捨てられた」

「外の世界でなにげなーくぶらぶらしてたらー、面白そうな人見つけちゃってついてったらだーいせーいかい!」

「……のたれ死ぬ寸前の私を救ったのが今の陛下だ……それ以来私は陛下の力になり続けてきた」

 お互いに仲間のいる場から外へ出て異なる主を迎えた。そして主の力となりここまで来た。お互いにそのことを非常に大事に感じているようであった。

「……ところで……勝負は……」

「……私はあの攻撃を避けられた時点で勝ち目がない。時の精霊は時の力を封じられれば身体能力は非常に低い……」

「でもー、この人は避けるの専門だからー、攻撃は苦手で倒せないー」

「……精霊界女王はこの膠着状態を作るためにお前を私にぶつけたのだ」

「……でもオレいつまでも攻撃避けられるわけじゃ……」

「だーいじょーぶ、いつもはわたしが途中で飽きちゃうから避けられなくなってるだけー、今日はー、同じ時のせーれー相手で楽しいからー、ずーっと避けられるようにしとくよー!」

「……全部お前の気まぐれだったのか……」

「そうだよー」

 クロノスが避神と呼ばれる能力は全てこの時の精霊によってもたらされており、常にこの精霊によって振りまわされているクロノスは大きくため息をついたと同時にこの力が今は大いに役立っていることを感じていた。





「……くぅぅ……」

「……随分粘るじゃねーか……」

 向かい合うネレイスとアモンはともにかなり消耗していた。特にネレイスの方はいよいよ魔界の負の気の影響を受け始めたようであり、辛そうな様子を見せる場面が明らかに増えていた。しかし攻撃を受けた回数はアモンの方が多く、体についた傷は明らかにネレイスよりもアモンの方が多いように見えた。

「流石に魔界十二使徒ね……その力が本物ってことは認めてあげる」

「魔界でもここまで戦えるとは流石精霊界女王だよなぁ!」

「……もうそろそろ……決着つけないとね」

「……だな、お互いにそろそろ次の一撃で決められるだろ」

 お互いに限界が近いことを感じ、次の一撃で決着をつけようと集中し始めた。

「…………」

「…………」

「……行くよ!」

 集中し張りつめた空気の中で先に動いたのはネレイスであった。迷いなく一直線にアモン目掛けて突っ込んでいく。

「……いいぜ、かかってこいよ」

 その動きにネレイスの意志を感じたアモンもネレイスにぶつかりにいくようなイメージで突っ込んだ。ネレイスもアモンも今の速さではほぼ互角のようなものであり、お互いにこれまでは速さを生かして相手の側面、背後を取ろうと立ちまわっていたが今回はその気が一切ないように見えた。

「……はぁっ!」

「おらっ!」

 そのまま互いに交錯し剣と爪で斬りあった。

「…………」

「…………」

 お互いに着地したまましばらくは動かなかったが、先にネレイスの背中に展開していた花のような羽が砕け散った。

「……ぐ……くそ……」

 しかし床に先に倒れ込んだのはアモンの方であった。アモンの腹には一文字の大きな切り傷ができていた。

「……どうして……背後を取らなかったの?」

 そのアモンにネレイスがかけた言葉は意外なものであった。

「……別にあなたはあたしの真っ向勝負に付き合う必要なかったのに」

「……オレだってなぁ……美学があるんだよ……」

「……美学?」

「ああ……オレだって汚ねぇ真似して勝つ気はねぇ。……真っ向勝負を挑んできたお前を……真っ向から迎え撃つのがオレのやり方だ……」

「……それ……魔界十二使徒として失格じゃないの?」

「なんだと……?」

「……魔界王直属の部隊なら自分の美学なんかより任務を遂行するの優先しないと」

「………」

「……ただ……あたしはそれでいいと思ってる……あなたはただの戦闘狂じゃなかった。立派な戦士だったんだから」

「……精霊界女王……」

「……さ、あたしはもう行くわ」

「……待て……」

「……陛下はここではない……この部屋をでて左の通路……突き当りを左……・奥の左側大扉の部屋の中にいる……」

 アモンは最期にネレイスを呼び止めてベルガザスの居場所を教えた。

「……いいの?」

「……早く行けよ……」

「……ありがと……じゃあね」

「……お前の望む魔界……見せてみろよ」

「…………」

 ネレイスはアモンの方を振り返ることなくその場を立ち去った。

「……くそ……何でオレ……あそこで……」

 ネレイスの立ち去った大広間で一人アモンはそうこぼした。

「…………オレが……気持ちで押されたのか……あいつに……」

 ネレイスには美学などと言ったがアモンにその気は一切なかった。絶対に負けられないのだから当然あそこは突っ込んでくるネレイスの後ろを簡単に取ってしまえばよかったはずである。それなのに素直に真っ向勝負を挑んだのはアモンの気持ちが揺れていたからなのであろう。

「……陛下……魔界を…………」

 アモンは悔しさをにじませた表情のまま息絶えた。再び静寂に包まれたその大広間に横たわるアモンの死骸はしばらくその場に転がったままになっていた。



←Chapter19     Chapter21→



祝★大学卒業!


どうも、ラヴィスです。本日は大学の卒業式でした!

学部から大学院まで6年間過ごしたわけですが……なんというかあっという間でしたね。

朝から式に出てお昼、夕方、そして夜まで長々と飲み食いしてたわけですが……





すこぶる体調が悪い!





お昼はずっと立ちっぱなしでいないといけなかったせいか夜にはお酒を飲んでないのにぐったりする始末。とてもじゃありませんが最後研究室の皆さんと飲むことなんてできずに撤収してきました。

……と、いうことで御察しはつくと思います。





SS編の更新はおあずけ!





……と、なるのですがここで1つ





これで年度内に終わらないことが決定してしまいました!





魔界鎮圧作戦の流れとして残っているものは以下の通り

・アモンVSネレイス (レゾーナVSクロノス)
・ベルガザスVSネレイス
・エピローグ

あと3チャプター必要ですね、そして年度内に残された確定更新は残り1回……



仮にアモンとベルガザス戦をまとめても間に合いません!



これはまずい!非情にまずい!……と、いうことですので



月曜以外のどこかで1回更新します(宣言)



仕事始まったら時間減るのは必至、その前に本当に片付けなければ……

と、いうことで年度末バタバタしてますが無事に終わらせられるように頑張りますよー!

ではまた次回の更新で!


ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter19~

「来るぞ……」

「ああ、分かっている」

 大広間に陣取っていたレゾーナとアモンが感じていた精霊の力はどんどん大きくなっていた。

「……アモン」

「何だ?」

「……ネレイスはどういう者だ?」

「……どうした、今になってそんなことを」

「戦う前に相手のことを知るのは戦う上で重要なことだ」

 レゾーナはそう言ったもののその本心は違っていた。

「……オレもよく知らんよ」

「……精霊界を襲撃したときに手合わせしたんじゃなかったのか?」

「……お互いに牽制しあってただけだ……しっかり戦ったわけじゃない」

 魔界十二使徒内で唯一アモンだけが精霊界襲撃時に戦闘を行っていた。本人は牽制したと言っていたが実際は“相当強い”という印象を持っていた。銀狼となったアモンは“神速”の名を冠しているように魔界における素早さは随一であったのだが、その速さにネレイスは難なく対応してみせていたのである。

(……だが今度は魔界での戦いだ……地の利がある、負けるはずがない……)

 ネレイスと手合わせしたあの時は簡単にあしらわれてしまった。さらには無防備となっていた時を狙えば先に魔界王が簡単に退けられた“精霊界の亡霊”により自慢の牙をへし折られて散々な目にあったこの雪辱を果たさなくてはならない。

「……」

 レゾーナも口ではそういうアモンの本心は読めていた。精霊界再生を果たし精霊たちの圧倒的支持を得てここまで来たのだから当然圧倒的なまでの力を持っていて然るべきである。

「……レゾーナ」

「どうした、アモン」

「……ネレイスは……オレが殺る」

「……期待しているぞ」

 2人は不安であった。魔界の切り札とも言える存在であるレゾーナだが、その力はその特性上精霊界女王であるネレイスには通行しない可能性があった。さらに魔界王は精霊界で深手を負ったことにより未だ余力を残しているだろうネレイスの勢いを止めることができるかどうか心配であった。よって実質万全な状態でネレイスと戦い勝てる可能性が残っているのはアモンだけであり、アモンが破れるようなことがあれば魔界陥落はほぼ必定と言っても過言ではない。魔界を守る最後の砦のような立ち位置となってしまったアモンには相当の重圧がのしかかっていた。

「…………」

 そこに重い音を立てながら静かに大広間の扉が開かれた。

「……よく来たな」

「レゾーナ、それにアモンだね」

 精霊界の至宝を携えたネレイスがゆっくりと入ってきた。その後ろからまさに用心棒のような風貌をした将軍と魔界側には一切情報のないクロノスが続いて入ってきた。

「……ここまで来るとは大したものだ。それに……このような手勢で」

「……みんながあたしをここまで送るために体張ってくれたからね」

「……だが……これ以上先へは行かせられない……覚悟してもらおうか」

「……あたしは魔界王を倒さないといけないの。……行かせてもらうよ」

 ネレイスがそっと剣と盾を構えたところで一瞬ネレイスの体がぴかっと輝いた。その光が何を示しているのか分かったのはネレイスとレゾーナだけであった。

「アモン、因縁の相手だろう?相手は任せたぞ」

「ああ、構わん」

 念のためレゾーナはネレイスに自分の力を行使してみたものの予想通りネレイスには通用しなかった。それを判断しレゾーナはすぐにアモンに後を託した。

「……まずはアモンを倒してみなさい……それが終われば……」

「そうはいかないわ。レゾーナには相手にしてほしい子がいるの」

 背中を向けて奥へと下がろうとしたレゾーナにネレイスはそう言いながらクロノスの背中を押した。

「……いいだろう、相手になるぞ」

 レゾーナはクロノスの姿を一目見るなりそう簡単に言った。隠し玉とは言うものの今のクロノスからは何も力を感じなかったことから完全に甘く見ているようである。

「……じゃ、いつものようにお願いね~」

「……うぅ……本当に大丈夫なのか?」

「……絶対大丈夫。だから……頑張って」

 そう言ってネレイスはクロノスの頭をぽんぽんと叩いて送り出した。

「さて、じゃあオレは外野を相手にするとしようか」

 そして将軍は大広間の扉を開け放った。まだ敵がやってくる気配はなかったがじきにここにも敵が終結してくるだろう。ネレイスとアモンの戦闘を円滑に進めさせるのが将軍の役目であった。

「……さ、これで勝負できそうだね」

「そうだな……お前には借りがある」

「……“神速”があんなはずないもんね」

「……そうだな……魔界慣れしちまって外の世界じゃ調子悪かっただけだ」

 ネレイスの言葉は明らかに挑発の意味が込められており、アモンも一瞬反応してしまったがすぐに冷静になって切り返した。

「……こっちなら本調子で戦える。見ていろ、精霊界女王」

「魔界王を倒しに来たんだもん、あなたに負ける気はないからね」

 ネレイスが構えを取った瞬間に銀狼となったアモンが飛びかかっていった。






「……押され始めてるね」

 ヘリオスの戦況を見ていたランディはそうつぶやいた。ヘリオスの活躍ぶりは見事なものであった。ヘリオスは“陽光”の名を冠する自慢の槍の効果を存分に使い多少無理に攻撃をしてもそれにより受けた傷を回復させながら戦い続けることにより足止めと戦力ダウンを図るには十分すぎるほど戦っていた。しかしそれも体力的に厳しくなってきたのか動きは鈍り槍の輝きも薄くなってきていた。

「……これなら大丈夫かもね……」

 飛行できる敵の一部は地形を飛び越えてそのまま首都方面に向かっていったが、飛行生物は宮殿内での活動に制限がかかるため戦力としては落ちることから素通りさせてしまっても問題ないと考えていた。

「……ヘリオス、本当によく戦ってくれたね」

「……もう何体捌いたのか分からんくらいに戦った……そろそろ限界だ……」

 息も上がり苦しげなヘリオスに帝の集中攻撃が襲いかかった。それを何発も攻撃を喰らいながら捌いていく。

「陽光の力ももう使えない……手詰まりだ」

「……とりあえず言ってみるけど……下がるかい?」

「……答えが分かり切った質問をするとは……ランディらしくない」

「……はは、そうだよね」

 なんともない攻撃であっても今のヘリオスに回避する力はほとんどなかった。愛騎のフォルカークも馬鎧がはがれ体には傷が目立ち立っているのもつらそうな状態であった。しかしそれでも最期まで戦場に立ち続けることを選んでいた。

「……役目は十分に果たせたはずだ……エミリオも文句は言うまい……」

 フォルカークに当たった攻撃でついにフォルカークは膝を折るようにして崩れ落ちた。バランスを崩し落馬したヘリオスにもさらに攻撃が向けられていたがヘリオスは避けようとも防ごうともする様子はなかった。攻撃の受けざまにヘリオスは3体の敵をまとめて薙ぎ払っていった。そしてその敵と同時にその場に倒れ込んだ。最期の瞬間までヘリオスは戦い続けたのであった。

「…………」

 その場を見届けたランディは小さくため息をついた。また1人自分の前で仲間がいなくなった。

「……人を動かす立場って辛いなぁ……」

 そしてそうぼやいた。智神とうたわれ数々の戦いで勝ちにつながる策を講じ続けてきたランディであったが、SkyBlueにおける戦闘能力では決して高いものではなかった。そのため自分は後方から戦況を眺めることが多く、時には将軍よりも後ろに立つような布陣も少なくなかった。将軍がかつて率いていたSkyBlueの前進組織による不敗神話はもちろんランディが立てる策によるところも大きかったが、何より将軍やラヴィスを始めとした高い戦力を持つ優秀な戦い手に恵まれていたことも大きかった。

「……それを考えると……ネレイスも……」

 ネレイスは今回の魔界鎮圧作戦における総大将を務めており、これまでにSkyBlueのメンバーたちや天界、精霊界の援軍が戦い傷ついていくところを目の当たりにしてきただろう。人一倍仲間たちや精霊たちのためになろうと努力を続け、囮や殿を務めるなど危険な役割を率先してやるネレイスにとってもかなりつらいだろう。それでもネレイスは強い精神力で一切つらいような素振りを見せることはなかった。

「……僕もまだまだだね……」

 真に智神の名を冠する者であれば時には勝つために手段を選ばない非情な采配をしなくてはならないが、それがランディにはできなかった。自分が智神としていられるのも周りの力によるところが大きいと思っているからこそ味方を切り捨てるような采配をできれば取りたくはなかった。しかし結果として非情になれなかったランディはミディアもヘリオスもそして多くの仲間たちを失うこととなってしまっていた。

「…………ミディア、待っていてくれ」

 今も非情になれれば自分一人生きてのこのこ帰ることを選ぶだろう。しかし非情になれないランディにとってはここで退くことは論外であった。結果として他のみんなを死なせてしまった責任を取るかのようにここで死ぬことを選んだ。槍を握る手にはもう力が入らずろくに足止めをすることもできない。それでもランディにとってこれこそが自分の果たす最期の役目だというように敵の前へと立ちふさがった。

「……僕も……もうすぐ……」

 ヘリオスが大分減らしたとはいえまだまだ数の残る敵を前にランディはあっけなく打ち倒されてしまった。ようやく障害となった敵を排除し終わり魔界の部隊は予定よりも大幅に遅れて首都方面へと進軍を再開していった。



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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter18~

「……どれだけ……いるんでしょうか……」

 ミディアの前に群がる敵の数は一向に減っていなかった。それどころか敵の数は徐々に増え続けていた。

「……この数捌くのは……」

 堅守堅牢を誇るミディアであるが当然いつまでも相手の攻撃を防ぎきれる訳ではない。これまで無数の敵の攻撃を防ぎきってきたミディアの体力はもう限界に近かった。

「…………」

 支配領域を発動したミディアはもう退くことができない。自分が退けば敵の前線も当然それに合わせて前進を許すことになり、そうすればランディとの約束も破ることになってしまう。もともと自分が無理を言って引き受けた役である以上途中でその役を放棄するわけにはいかなかった。

「……ランディさん……私は……」

 敵の猛攻を大盾で防ぎながらミディアは考えていた。ここにランディがいたら自分はいったい何を言われるのだろうか……。

「…………」

 当然ランディであればここは無理をせず下がれと言うに違いはないだろう。しかしこの状況で下がればこの数をそのままランディに相手させなくてはならなくなる。この数を倒しきることは到底不可能であり、ランディも撤退すればこの敵の狙いは宮殿に攻め入ったネレイスへと向かうことになる。そうなったらネレイスは魔界王と戦うこともままならなくなってしまうだろう。

「……やっぱり……私は……ここで……」

 時折混じって飛んでくる法撃攻撃を受けミディアはよろめいた。しかし足に力がもう入らず立っているのも厳しいくらいにまで消耗しながらも退くような姿勢は一切見せなかった。というよりもう退くための力も残っていなかった。

「……それが……私の……」

 ミディアは最期まで自らの使命を貫き通すため無数の相手を前に立ち続けた。乱れ飛ぶ攻撃をミディアは全て構えた盾で防ぎ続けていく。その体からは次第に橙色の光があふれ始めていた。

「……鎧神の……役割……」

 攻撃を盾で防ぎ続けていくごとにミディアの体からどんどんと橙色の光はあふれ出ていった。その光もやがて少なくなっていき、ついに最後の光がミディアの体からあふれ出ていった。

(ランディさん……約束守れなくて……ごめんなさい……)

 力を出し切ったミディアは構えた盾と一緒に前へと倒れ込んだ。無数の攻撃による圧力を受けながらも前へと倒れたのは最期まで絶対に退かない姿勢を貫いたからなのであろう。ミディアが倒れたことにより支配領域も解除され足止めをされていた魔界の部隊はすぐに首都の方角に向かって動き始めていた。一部が倒れたミディアに追い打ちをかけていたがもう既に息がないことが分かると無駄なことはやめもとの部隊へと戻っていった。やがて魔界の部隊が去り、動かないミディアの体が残されるとその体は鎧と共に光となって消えていった。





「…………」

「ランディ、どうかしたか?」

「いや、何でもないよ」

 1人戦線を下げたランディはヘリオスと合流していた。お互いに情報を交換し、その結果この首都近郊まで来た神界の部隊で残っているのはランディ、ミディア、ヘリオスだけであることを把握した。さらに首都正門付近は守備隊による防備の強化が行われていることから自分たちだけでは突破が不可能であることが分かっていた。そしてヘリオスは追撃に来た部隊と守備隊に合流をしようといている部隊を叩いていること、ランディは大数の魔界の軍勢をミディアに押しとどめさせてここまで来たということを共有した。

「……そうか?一瞬顔つきが変わったように見えたが」

「気のせいじゃないかい?」

 ヘリオスと共に遊撃活動をしていたランディであったが、一瞬嫌な空気がかすめていったような気がして表情を強張らせていた。ラヴィスとルミナスのような間柄ではないもののランディはミディアのことをいつも大切に思い続けていた。そのためミディアが倒れたということがなんとなく分かったような気がしていたのである。

(……死んでまで約束を守ろうとするなんて……本当に……)

 じきにここまでミディアが押しとどめていた部隊がやってくるだろう。これまでは多少余裕があったがこれからはそうもいかない。

「……ん……あれは……」

「……来ちゃったか……」

 ヘリオスの視線の先にはかなりの数の魔界の部隊が映っていた。

「……ランディ、まさかお前……」

「……お察しの通りさ、仕方ないね……」

 ヘリオスもここでミディアが倒れたのだということを把握したようである。

「……というかちょっと待て、あの数は何だ?」

「ミディアが全部進軍を止めていたからね……って言いたいところだけど僕もこんな数いるなんて想定してなかったな……」

 近付いてくる敵の数は到底1人では防ぎきれるようなものではなかった。これを相手にして長く防ぎ続けることができたのはミディアの鎧神としての力があったためなのであろう。

「……ランディ、これは……」

「……とてもじゃないが僕らで相手にしきれるものじゃない。ここは大人しく撤退するのが最良だと思うよ」

「……そうだな」

「……だけどね、ここで下がるわけにはいかないんだよ」

 無理をせず退く方が賢明なことくらいランディも分かっていた。しかし今ここで多少なりとも数を削ぐなり足止めするなりしなければ結果的に宮殿へと攻め込んだネレイスたちの大きな負担となりかねない。それにミディアはこの絶望的な数の敵を前にして一切退くことなく立ち向かっていた。それによってミディアは命を落とすこととなり、ここでランディが退けばその死が無駄になってしまいミディアに顔向けすることができなくなってしまう。体を張ったミディアのためにランディもこの場は退けないものとなっていた。

「ランディ……お前……」

「ヘリオス、君は下がっても構わないよ。流石に無謀な戦いだからね」

「……今更何を言う。俺もここで退いたらエミリオに笑われるさ」

 ヘリオスもランディからエミリオがやられたことを聞かされていた。エミリオは戦うときは常に最前線で体を張りめざましい活躍をしてみせていた。ヘリオスもそれに負けない活躍を見せてきたという自負はあったのだが、それでもエミリオであれば迷いなく戦うであろうこの状況で逃げだせばやはり顔向けができないであろう。

「……そうだね、お互い先に嫁を逝かせちゃったからね。男としてそれは……ね」

「……神界八将として戦ったんだ、俺らもその神界八将としての意地を示さなければな」

 覚悟を決めた2人はお互いに距離を取って魔界の大部隊の前へと立ちふさがった。それに魔界の部隊は気付いたようだが眼中にはないという風に通り過ぎようとしていた。

「まずは僕から行くよ……」

 まずはランディが構えた豪奢な槍を振り回していた。天槍グングニル――かつて創造主と呼ばれた存在が世界を創造する際に用いたと言われているこの槍にはその力の一端が宿っていると言われていた。ランディは天槍グングニルに見初められたことによりその力を行使することが可能になっていた。

「……天槍グングニル……世界創造の力の一端……見せつけてくれ!」

 ランディの周りにはただならぬ力が渦巻き始めていた。あまりの力に魔界の部隊もにわかに警戒し始めたようである。

「……凄いな……こんな力……普通は御せないだろうな……」

 やがて地響きが起こり始めると首都近辺の地形が大きく変化し始めていった。大地が割れて谷を作り、急斜面の山が築かれ首都への道のりはさらに困難となる地形へと変貌していき、その地殻変動に多くの魔界の軍勢を巻き込むことで数を減らしていった。

「……ヘリオス、後はやれるだけ頑張ってくれ」

「……ああ、行くぞ」

 急激な地殻変動が起きたことで魔界の部隊は大混乱に陥ったようである。その隙を逃さずヘリオスはできる限り数を減らしていこうと各個撃破を行っていった。

「……凄いな……これが……創造主の力……」

 その才を見初められたとは言うものの本来は創造主と呼ばれる膨大な力を持った者が扱うための力である。軽くその力を振りかざしただけでランディにも相当の反動が帰ってきていた。しかし普通に戦っても倒せる敵の数は限られている。折角だから使えるだけの力を使って派手にやるのがランディの選んだ道であった。

「……ミディア、もう少ししたら傍に行く……もう少し待っててくれ」

 役目を終えたランディはじっとヘリオスの戦いを見つめていた。地上部隊が首都へ向かうにはランディがとヘリオスがいるところを通るしか道はなく、その道をヘリオスが塞ぐようにして戦っている。これでヘリオスが倒されるまで敵の進軍を止めることができるが、もう戦う気力も残っていないランディはヘリオスが倒されればもう何もできない。ヘリオスが倒された瞬間がランディの最期の瞬間になるということである。その瞬間は刻一刻と迫ってきていた。





「……おらっ!」

 ラヴィスの振りかざした剣は人形を正確に捉えていた。しかし強力な魔界の加護を打ち破るまでには至らず、効果は限定的なものであった。

「……くっそ……ルミナスの魔力纏ってても破れないのかよ……」

 人形の動きにはもう目が慣れており、敵の攻撃をかいくぐり攻撃をするチャンスは増えていた。次第にラヴィスが押し気味に展開し始めていたが、魔界の加護の想像以上の堅さを前に苦戦は続いていた。

「ラヴィス、大丈夫?」

「悪い、格好つけて相手するとか言っておきながら……」

「仕方ないよ……」

 声をかけたネレイスはラヴィスの方を向いていなかった。いよいよ背後からちらほらと魔界の兵士が姿を見せ始めており、散発的ではあるがネレイスと将軍が戦闘を始める始末となっていた。

「…………」

 ラヴィスは今一度集中し直した。ルミナスから託された魔力を集めてラヴィスの握る大剣へと纏わせていく。

(ルミナス……)

 ルミナスは自分に相当量の魔力を遺してくれていたのにそれを扱いきれていないような気がしてラヴィスは申し訳ない気持ちでいっぱいであった。この場面、これだけの量の魔力を持ったルミナスがいればこの程度の魔界の加護は簡単に破れているはずである。

(……お前の魔力……我には……)

(……遠慮……しないでください)

(……!!)

 その時にルミナスが託した魔力にわずかに残っていたルミナスの思念がラヴィスに伝わってきた。

(……私の魔力がなくなるの……恐れてるだけ……)

(……そういうことか)

 ラヴィスはルミナスが託した魔力を大事に使おうとしていた。その気持ちがルミナスの魔力を扱ううえで大きな障害となっていたのである。魔界の加護を打ち破るにはルミナスの魔力を思いっきりぶつける必要があり、そのためには託された魔力を全部つぎ込む気持ちで臨まなくてはならない。

(……ルミナス……感謝する)

 ラヴィスの握る大剣にはこれまでにないほどの光が集まりその輝きは大きくなっていた。そして人形はその光を嫌うように暴れ始めた。

「……この一撃で……打ち破る!」

 人形が振り回す大剣を軽くあしらい、飛ばしてくるティーカップやスプーンを弾き飛ばしながら距離を詰めていった。

「おらっ!!」

 そしてラヴィスは光り輝く大剣で人形を両断した。これまで何度も弾かれてきた魔界の加護であったが、今回は人形全体にルミナスの魔力が生み出した激しい光に包まれ、その光は魔界の加護を打ち払っていった。強力な光の魔力に包まれ人形は痺れてしまったように動かなくなってしまっていた。

「決まりだっ!」

 その直後にラヴィスは大剣を真横に振り抜くとその一撃は人形の体の中心を正確に捉えた。その体は非常に頑丈な素材で作られていたのか、両断することはできなかったものの壁に向かって吹き飛ばすことはでき、そのまま人形は思いっきり宮殿内の壁に叩きつけられた。

「オマケっ!」

 さらに真横に振り抜いた勢いを利用しその場で回転しもう一度真横に振り抜いた。今度は人形が鎮座していたアタッシュケースを捉えると人形目掛けて思いっきり吹き飛んでいき、壁に激突した人形に勢いよくぶつかっていった。この連続攻撃が効いたのか人形は地面に転がると動きを止め、人形の周りを浮遊していたティーセットや大剣も地面に落ちて転がった。

「……やれやれ、やっと片付いたか……」

「お疲れ、ラヴィス」

 ラヴィスはルミナスから託された魔力を使い切りもとの姿へと戻っていた。

「……しっかし……こいつのこの剣、立派だよな……」

「んー?なんかこんな怖そうな人形が使ってる剣にしてはシンプルでなんか似つかわしくないよね」

 ラヴィスは先ほどまで人形が遣っていた大剣に目を移していた。ほのかに青い光を放つこの大剣はシンプルなデザインでラヴィスが拾い上げると重量もほどよく、普通に扱うことができるようなものであった。

「……ま、戦利品としてもらってくか」

「大丈夫……?呪われたりするんじゃない?」

「ルミナスの魔力ぶつけたし大丈夫だろ、それよりネレイス、道はできたからお前は急げ!」

「あ……うん……」

 これでようやく障害は排除された。いい戦利品が手に入ってやや上機嫌となったラヴィスの横をネレイスは駆け抜けていく。

「さて、じゃあここはオレが……」

「いや、我が相手をしていく……この剣の使い心地を確かめたいからな」

「……随分気にいったんだな、その剣……まぁいいか、行くぞクロノス!」

「あ……待って!」

 さらにその後を追って将軍とクロノスが駆け抜けていった。

「……さて、んじゃ試し振りと行こうか!」

 そしてラヴィスは新たに手に入れた大剣を握りしめ、散見される敵兵の各個撃破に努めていった。



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プロフィール

ラヴィス

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

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