コワレタセカイ ノ モノガタリ ~ナゲキノセカイ エピローグ~

「……あの世界が……こんなになってしまったのですね……」

 2人は崩壊した崩壊したタビア=ガンナへと降り立った。ラヴィスが最初に訪れた際よりもさらに崩壊は進んでいるようであり、周囲に浮かぶ岩の大きさは先ほどよりも小さく、数も心なしか増えているような気がした。

「……変な場所には落ちないようになってるとは言えさっきより慎重に行かないと危なさそうだな……」

「そうなのですか?……でもあまり慎重に行く余裕もなさそうですが……」

 2人がいる今も少しずつではあるが世界の崩壊は進んでいるようである。この先も足場が確保できる保証はどこにもない。

「……ルミナスから魔力借りてくればよかったな……」

「ルミナス様から?」

「……ルミナスの魔力があればひゅっと飛んで一気に下まで……」

 そう言いかけたラヴィスがふと横を見るとプリローダの背中には淡い虹色の羽が現れていた。

「プリローダ、お前……」

「……私は“淡虹のプリローダ”と呼ばれた理の精霊……普段は一切精霊の力を使うことはありませんが……今日だけは特別です」

「……じゃあ我にも……」

「……すみませんが私の力は他人に分け与えられるほど強力なものではありません。自力でお願いします」

「……おい」

 そう言うとプリローダは一足先に下に向かって飛び立っていった。

「……ハァ……もっとしっかりルミナスに甘えておけばよかったか……」

 そしてその後をラヴィスが足場に飛び降りながらついていった。





「…………」

「……追いついた……」

 先行していたプリローダは律儀にラヴィスを待ってくれていたかのように立ち止っていた。

「……ここは……あの時の……」

 2人が立っていたのはラヴィスが先ほど降りていく途中に降り立っていた小さな木の生えた足場であった。先ほどよりもその面積は明らかに小さくなっており、水辺は地面が割れたことにより干上がってしまい木が生えていたところも大きく地面が削られ半分根が露出してしまっていた。

「……先ほどもここに来たのですか?」

「ん?ああ……」

「そうでしたか……」

 プリローダはラヴィスの方ではなく小さな木の方を向いたままそう言った。

「……記憶にあるのか?」

「……この木の前……水辺のほとり……ここは恐らく私がこの世界に流れ着いて最初に目を覚ました場所です」

「……そうか……」

「……ここの精霊は見知らぬ私のために手を尽くしてくれました……」

 そしてプリローダは自らの過去を少しずつ話し始めた。この世界に来る前のプリローダは周囲からいじめを受け居場所をなくしていた。そしてあの日、プリローダは河原でいつも以上に暴力的ないじめを受けてしばらくその場に横たわっていた。そこで次第に意識は薄れていき気がついた時にはもうこの世界へとやってきており精霊たちに看病されていたという。

「……精霊に好かれる人間は何かしら特別な力があったりするもんだが……」

「……なかったと思いますよ。それか……私だけ気付いていなかったか」

「……そういうことか」

「……私の気付かない力を疎んじていじめられていたかもしれませんからね。もっとも今となってはもう分かりませんが……」

 そう言うプリローダの口ぶりはどことなく寂しげであった。

「……さ、まだまだ下ということですよね。あまりのんびりもしていられないのでしょうから先を急ぎましょうか」

「そうか、じゃあ行くか……」

 今度はラヴィスが先に下へと飛び降りていった。その後にプリローダが降りようとしたがその前にもう一度後ろを振り返った。プリローダにとって思い出の木になるこの小さい木にはもう1枚しか葉は残っていなかった。その葉も今にも散ってしまいそうであった。

「……あの時はここしか居場所のなかった私ですが……今では大切な主と支えて下さるたくさんの方々に出会い新しい居場所を頂けました……」

 プリローダはその木に小さく頭を下げてからその場を後にしていった。プリローダが飛び立つと同時に残っていた葉がひらりと散っていき、その後その木は地面から崩れ落下していきながら消えていった。





「……凄い高さですね」

「……だろ?これを飛び降りるのは大変だったぜ……」

 長い長い道のりの果てに再びラヴィスとプリローダはここまでやってきていた。見下ろす遥か下にはこの世界の根幹を司る精霊と遭遇した大きな足場が見えていたが、先ほどとは違いどことなくうっすらと赤みががったような霧に覆われているようであった。

「……ラヴィス殿、感じていますか?」

「……あいつの放つ負の気か?そりゃ思いっきり感じてるぞ」

「……そうですよね……大分……危険かもしれません」

 それが精霊の放つ負の気であることは2人もすぐに分かっていた。ただでさえ強大な力をもつ精霊であるのに負の気にとらわれ暴走状態になれば手がつけられるはずもない。

「……すぐに私だと認識してくれればいいのですが……」

「……気付いてもらえなかったらいろんな意味で最悪だよな」

「そうですね……ですがルミナスさんやネレイス様のためにも最低限ラヴィス殿は無事に送り返せるよう善処はしますよ」

「……そいつはどーも」

 先ほどは軽く攻撃をもらっただけでルミナスに思い切り泣きつかれたのだ。それ以上のことがあればルミナスはどうなるか……

「……さ、行きましょう。この世界を……解放してあげなくてはいけません」

「……そうだな……」

 2人は意を決して飛び降りていった。最初のうちはどんどんと加速を続けていったが上の世界と下の世界を分けているかのような膜を突き破った瞬間に落下速度は落ち、ゆっくりと地面へと降り立った。先ほどまでは蒼く美しい空間だったはずの下の世界も今は赤いもやが薄く立ちこめ地面はところどころひび割れた状態となっており、この場ももう少ししたら上の世界のようになってしまうことが想像できた。

「……なんという負の気……これはもう精霊界にかけられていたのと同じくらいのレベル……」

「これを1匹の精霊がやってるんだ……すさまじいな……」

「……オマエハ……」

 強力な負の気を放つ存在はすぐに現れた。誰にも入ることのできないはずの空間に侵入を許したのであれば当然すぐにやってくるというものだろう。

「……用があるのは我ではない、こっちの……」

「キエロキエロ!!オマエナンカ……オマエナンカァ!!」

 ラヴィスはなんとかプリローダに話をさせようとするが負の気にとらわれた精霊にはプリローダの姿など全く見えていないようだった。眼前に見えるラヴィスを害悪をなす侵入者として徹底排除する体勢を崩すことはなかった。

「……っっ!!……こんなにも変わってしまうものなのですね」

 ラヴィスに向けて放たれた負の気の波動をプリローダはその身を呈して止めた。

「おい、おま……!!」

「……この場ではもう隠す必要もないでしょう」

 その際にプリローダの服の一部と顔を覆っていた布が吹き飛んでいった。初めてその姿を見たラヴィスは思わず絶句してしまった。顔は皮膚が焼けただれてしまいそのせいで両目ともふさがってしまっており、体のほうも火傷の跡や古傷のようなものが無数に残る非常に痛々しい姿をしていたのであった。

「……ジャマヲシタノハ……ダレ……?」

「……私のことをお忘れですか?怒りと憎しみに支配されて失った存在のことを忘れるなんて滑稽な話ですよ」

「……ア……アア……アナタハ……!!」

「……タビア=ガンナ……この世界の名を持ちし精霊……」

「プリローダ……プリローダ……!!アア……ヨクココヘ……!」

 ようやくプリローダの存在に気付いた精霊はすぐに我に返ったようである。またたく間に負の気は消え失せ辺りも蒼く美しい空間へと戻っていった。

「……プリローダ!ドウシテココヘ……?」

「……崩壊したこの世界の後始末をしに来ました」

「アトシマツ……?」

「そうです。私を失い怒りと憎しみにとらわれた貴女はこの世界を破滅させた……」

「……ウ……ソレハ……」

「……その結果この世界は存在すら消されることになりました。貴女はこの世界を守る立場にありながらそれを忘れ、あまつさえこの世界を崩壊の道へと進ませるなど……」

「……」

 再会を喜ぼうとした精霊ではあったが、その暇すら与えずプリローダは説教を始めた。ノエルの侍女をしている際にもノエルに対して厳しい意見を遠慮なく言うことができるプリローダはここでも遠慮なく物言いを続けていた。

「…………」

「プリローダ……ワタシハ……」

「……もう……この世界には貴女以外の存在はありません……寂しいものになってしまいました……」

「……ミンナ……ニンゲンニ……」

「…………私を手にかけた人間は邪な心を持つ者だったでしょう。ですが……人間がみなそうではないですよ……」

「…………」

「……精霊界の主は今……素晴らしい方が努めておられます。一度損なわれた人間と精霊の関係を……さらには精霊界と魔界の関係を改善しようと奔走し……その成果が実りつつあります……。精霊たちが人を憎む時代は……もう終わりなのですよ」

「……ソンナコトガ……?」

「……私も人間のことは信頼しています。もちろん……この人も」

 プリローダはラヴィスの方を向いた。そのラヴィスはゆっくりとプリローダの横へと並ぶ。

「…………」

「我はラヴィス。第10代精霊界女王ネレイスの契約者だ……」

「ラヴィス……ワタシハ……」

「……今の精霊界は本当にいいところだ……それこそ……かつてお前がこいつと過ごしたような時間がずっと続いているようなものだ」

「…………」

「……ネレイスにこの話をしたら……なんと言うか……」

「……きっと残念がることでしょう……」

「ワタシハ……」

「……だが今のお前は自分のやったことの大きさが分かっているだろう……それなら……」

 ラヴィスとの話を続けていくうちに精霊の体からは徐々に光が漏れ出始めていた。

「……ワタシ……ハ……」

「どうした……?」

「……私と再会し……人間に対する憎しみが薄らいでいったことで気持ちが解放されたのでしょう」

「……コノセカイハモウホロンダ……ワタシノヤクメモオワッタ……ダカラドウカ……」

 精霊の体から漏れ出ていく光の量はどんどん多くなっていた。

「……プリローダ」

「分かりました」

 この精霊の最期の幕引きはこの精霊の拠り所となっていたプリローダが受け持つこととなった。プリローダの手には淡い虹色の光が集まっていた。

「……もう……いいのですね?」

「……アナタニアエテ……スクワレタカラ……」

「……貴女の役目は終わり……あるべき場所へと貴女は還れることでしょう……そしてこの世界も失われあるべき新しい世界へと生まれ変わるでしょう……」

「……プリローダ……コレカラモドウカ……ゲンキデ……」

「…………」

「……ラヴィス……アナタモ……ドウカ……ソノスバラシイセイレイカイヲコレカラモ……」

「……大丈夫だ。ネレイスいる限りずっと……な」

 そう言ったラヴィスに精霊は優しくほほ笑んだような気がした。ラヴィスに対して見せた最初で最後の友好的な姿勢であろう。

「プリローダ……」

「……タビア=ガンナ……私は貴女に救われました……この世界の存在はこれで失われ忘れ去られていくことでしょう……ですが私はこの世界を……そして貴女を絶対に忘れることはないでしょう」

「……アリガトウ……」

「……さようなら……私の……恩人……」

 そう言うとプリローダの手から無数の虹色の光弾が放たれた。その光弾は精霊の体を覆い尽くしていき、最終的にその光弾が弾けると精霊も一緒に虹色の光となって消え去っていった。

「…………」

「……プリローダ」

「……帰りましょう。精霊を失ったこの世界はじきに崩壊するでしょうから」

「あぁ、でも何か忘れてるような……」

 そう言ったラヴィスが何かの気配を感じ上を見ると上空から何かが降ってきていることが分かった。大きさはあまり大きくはなく、降ってくる速度もゆっくりであったことから軽いものなのであろう。

「……あれは……」

「……葉っぱ……?」

 降ってきていたのは1枚の葉であった。恐らくは上空で見た小さな木に残っていた最後の1枚の葉っぱなのだろう。それがラヴィスのところまでぶれることなくここまでゆっくりと落ちてきていた。

「……確か世界の欠片……とかいものを回収しないといけないんだが……」

「……ではあれがそうなのでしょうね……」

 そして葉っぱはラヴィスの手のひらの上へとおさまった。木はとうの昔に枯れていたように見えたが、この葉だけは何故かみずみずしい緑色のままであった。それにどことなくあの精霊の力が残っている、そんなようにも感じられた。

「……世界の欠片って別に石とかに限らないってことなんだな」

「そのようですね」

 世界の欠片を手中に収めたことで一気に世界は崩壊を始め、それに合わせて異世界の扉も自動的に起動した。

「……さぁ、帰りましょう」

「そうだな……」

 2人は異世界の扉の中に消えていった。そしてその異世界の扉は崩壊していく世界と一緒に消滅するようにして消えていった。





「……ん……ここは……」

「新しい世界……でしょうか」

 2人がたどり着いたのは自然あふれる世界であった。綺麗な水辺のほとりに小さな木が1本ちょこんと植わっているこの世界は非常に長閑な場所であった。

「座標軸A790-62……さっきの世界の上にできた新しい世界だな……」

「……無事に新しい世界がお目見えとなったわけですね……」

「…………ん?」

 しかしラヴィスにはどことなくこの風景の見覚えがあったような気がしていた。

「……ラヴィス殿?」

「いや、何でもない」

 ラヴィスはそう言ったもののラヴィスは確信していた。この景色は最後にタビア=ガンナと会ったあの場所と全く同じであったのである。恐らくもともとタビア=ガンナと呼ばれていた世界は外側の崩壊していた世界だけであり、精霊と出会った空間は新たに作られていたこの世界だったのだろう。この世界は元のタビア=ガンナに覆い隠されていたために表に出なかったのが、元のタビア=ガンナが消失したことで表に出てきたのであろう。

「……そうか……」

 目の見えないプリローダにはこの景色は見えていないので分からなかった。気配も元のタビア=ガンナとは異なっているために気付くことはないだろう。ラヴィスは少し考えたがそのことを伝えようとはしなかった。

「……ラヴィス殿」

 しばらく無言の時間が続いたがプリローダが先に口を開いた。

「何だ?」

「……あの世界に行けてよかった……」

「……どうした、急に」

「……私も少々心残りがあったのでしょう……これで私も心おきなくノエル様のとこへと戻れるでしょう」

 皮膚がただれ表情も崩れてしまっていたプリローダであったが、それでもラヴィスにはプリローダがどことなく吹っ切れて落ち着いたような表情をしているように見えていた。

「そうか……ま、そのノエル様がネレイスに厳しく追及されてなければいいんだがな」

「ふふ、そうですね。……ちょっと心配なので早く帰りましょうか」

 プリローダのその言葉に促されラヴィスは異世界の扉を起動した。今度は神界宮殿の座標が入力されており、2人は扉の先に広がった光の海へと飛び込むとその扉は静かに閉じ、ゆっくりと消えてなくなっていった。2人が去った新しい世界には柔らかな風が吹き込み、その風にのった精霊たちがふわふわと舞い踊っていた。



コワレタセカイ ノ モノガタリ ~ナゲイノセカイ編 完~



(近日追記にオマケが……!?)


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長閑な座談会編 幕間 (近日公開)


長閑な座談会編~幕間~

Ra:ラヴィス Lu:ルミナス 

Lu:ラヴィス様……?

Ra:そろそろこの企画も復活させないとな……

Lu:復活って……もう1年以上もやってなかったんですか!?

Ra:そういうことになるな……まぁ如何せん忙しくて……

Lu:もぅ……そんなのでいいのですか?

Ra:まぁ“不定期開催”って言ってるんだからいいだろうよ……

Lu:ハァ……

Ra:まぁそれにもうゲストには話をつけた。日程ももう組んだ

Lu:……そこはもう話をつけたのですか……で、誰なのですか?

Ra:シルフィとグレイドだ

Lu:私のとこの……ですか?

Ra:ああ、その日時間を空けるようにしてもらった。場所もこっちじゃなくて天界宮殿でやるぞ

Lu:……いつの間に……

Ra:じゃあ……

Lu:……ってあれ、確かこの日……ネレイスさんは外せない用事があるんじゃ……?

Ra:そうなんだってな……だからもうネレイスの代わりとなるアシスタントの代役も手配した

Lu:そこもなんですか……!?

Ra:まぁそういうことだ。当日は頼むぜ

Lu:あ……はい……

(ラヴィスが退室していった)

Lu:……それだけしっかり準備できるんでしたら……もっとしっかりやればいいのに……



……と、いうことで不定期開催ミニコーナー ~長閑な座談会編~ 天界を支える従者グレイド&シルフィは近日公開!


コワレタセカイ ノ モノガタリ ~ナゲキノセカイ 真相編~

「……えーっと、とりあえず状況を整理するね」

「ああ……」

 ラヴィスは神界の病室のようなところで横になっていた。世界の理を司っていた精霊の力だったのかは不明だがその攻撃をもらったことにより起きたラヴィスの体の異変は幸いルミナスが早期発見をしてくれたために大事に至ることはなかった。ただひとまずは静養しておこうと横になっていたところでラヴィスが探索報告をするためにネレイスを呼び寄せていたのである。

「まずラヴィスの会った精霊の姿は健在だった」

「ああ」

「人間に対する負の感情に取り込まれててラヴィスを襲ってきた」

「ああ」

「キーワードは“あの子”。その“あの子”は人間である可能性が高くて、別の人間によって殺されちゃったと思われる」

「そうだな」

 ラヴィスの調査報告からネレイスは簡単にそうまとめていた。

「……でもその精霊は人間を憎んでいたんでしょ?でもその精霊の拠り所であった“あの子”がなんで人間だって分かったの?」

「……“他の人間”なんか来なかったら、と言っていた……“他の人間”ってことは別に人間がいたってことだろう。その人間が精霊の言う“あの子”にあたる可能性が大いにあるだろう」

「なるほどね……それなら確かに人間の可能性あるよね……」

「……おそらくはそいつでないと話は聞いてもらえそうにないんだが……そんなヤツに心当たりあるか?」

「……んー、人間かぁ……」

 ネレイスは考え込むもののそのような人間に心当たりはなさそうだった。

「……仕方ない、ランディを呼んでくれ」

「あ、分かりました……」

 このままでは埒が明かないと分かったラヴィスはルミナスにランディを呼びに行かせた。ランディはラヴィス出発前に“ラヴィスが行くに相応しい場所”というように言っており、確実に何か知っているようであった。

「……どうだい?何か分かったかい?」

「ランディ……それなりに酷い目に遭ったんだが」

「……はは、流石にそこまでは想定してなかったからね」

 ランディは悪びれるような様子もなくそう言ったがすぐに表情を変えた。

「……ラヴィス、君を向かわせたのはその世界が“精霊界にまつわるところ”だったからだよ」

「精霊界にまつわるところだったら我ではなくネレイスの方が適任じゃないのか……?」

「……ネレイスは忙しいだろ?前回の件でも精霊を使った調査に奔走してて大変だったみたいだからね」

「あはは……まぁそれはそうかもしれないけど……精霊界のことなら……」

「……正直な話ネレイスには他に行ってきてもらいたいところがあったんだ」

「他に行ってきてもらいたいところ……?」

「そうだよ。……でもとりあえず今はこっちの方をなんとかしないとね」

 そう言ってランディは1冊の本をラヴィスへと差し出した。

「ん……?」

「ノエル様にあらかじめお願いして気になる文献を探してもらったんだよ。多分これだと思うんだけど……」

 ランディが差し出した本には次のような記述があった。



――かつてこの世界は自然の恵み溢れる世界であった。そこに住んでいたのは様々な精霊たちだけで長らく人間の姿はなかったようである。そんなある日、この世界に1人の人間が流れ着いた。傷だらけで倒れていたその人間をその世界の精霊たちは手厚く看病し、無事に一命を取り留めたその人間は精霊たちに大変感謝をし彼らと長らく一緒に暮らしていたようである。



「……人間が流れ着いた……か」

「偶然だったんだろうね……別の世界から偶然流れ着くなんてことは僕たちみたいな存在以外にほいほいと起こるはずはないだろうし」

「……それが1度ではなく2度も起きた……」

「……その2回目に問題があったってことだろうね」

「……恐らくは2回目にやってきた人間が最初にいた人間を殺したんだろう……精霊たちが助けた人間を殺されたことで精霊は怒りあの世界は崩壊した……」

「その“精霊が助けた人間”が一体誰なのか……だね?」

「……ああ、……それも精霊界にゆかりのある人間だろ?」

「そうだね」

「……恐らくは精霊になっているはず……」

「…………」

「ネレイス、精霊界に行くぞ」

「え?あ、うん。分かったよ」

 ラヴィスは軽く考え込むとすぐにネレイスを呼び精霊界へと向かった。





「ネレイス様、それにラヴィス殿。本日はどういった御用で……?」

「ちょっと調べ物を……時期的には多分精霊界に負の気の呪いがかけられるちょっと前のこと……人間から精霊へと生まれ変わった子について……」

「……少々お待ち下さい」

 ラヴィスとネレイスは精霊界宮殿の書庫にやってきていた。基本的には精霊について様々な資料が並べられている場所であるが、この書庫の地下には精霊界女王のみが入れる極秘資料や貴重な書物が所蔵されている特別書庫があるのだった。そこの司書をしている精霊に要件を伝えるとこの書庫内の資料を熟知している精霊はすぐに目的の書物を探し出してきたようである。

「こちら……でしょうか」

「ありがと」

 ネレイスはその書物を受け取るとすぐに内容を確認していった。今でこそネレイスによって有名となった人間から精霊へと生まれ変わった存在であるが、当時はまだまだ数少ない存在であり調査や監視の対象となることも多かった。さらにその精霊は当時精霊界にも数多く存在していた理の精霊であり、周りの精霊たちとも仲良く暮らしていたということが分かった。

「……んー……」

「どうだ、ネレイス?」

「……これだけじゃなんとも言えないかなぁ……」

 その書物にはそれ以上のことについてはあまり詳しくは書かれていなかったようである。その書物の中で他に気になるようなことがあったと言えば“目が不自由だった”ということくらいであった。

「……その方がどうかしたのですか?」

「んー……ちょっとその子を探してるんだけど……」

「……確かその方でしたら……」

 手詰まり感があったところに司書の精霊はまた別の書物を持ってきていた。その書物はネレイスも前に見たことのあった書物であった。

「あれ……それって……」

「転生の儀……その手法や転生を行った方についてが書かれたもの……以前もお見せしましたよね」

「それに載ってたの……?」

「……恐らくは……この方だと思いますが……」

 ぺらぺらとめくっていった先は転生された精霊についてのことが書かれている部分であった。以前この書物を読んだときは最初に転生された存在――その後8代女王となるネレイスの母親、フェリアについてを調べていたのだった。その先の方のページにも転生をされた精霊についてがつらつらと書かれており、そこにその精霊の名前があった。

「……え……これって……本当?」

「……はい、混乱の最中私が転生させた方なので間違いありませんよ……」

 その精霊の名前はネレイスもそしてラヴィスも知っていた。2人とってその名前が挙がることは非常に意外であった。

「……ネレイス」

「ラヴィス……神界に戻ろうか」

「そうだな……」

「……お役に立てましたか?」

「……うん。ありがとね……グラキエス様」

 2人は司書の精霊――かつて精霊界の2代女王を務めたグラキエスに丁寧に頭を下げると再び神界へと戻っていった。その名前の精霊が今どこにいるのかも既に分かっていたようである。





「ノエル様!」

「ネレイスさんにラヴィスさんですか……何か分かったのですか?」

「うん、バッチリだよ。そのことでノエル様に話をしに来たんだから」

 ラヴィスとネレイスはノエルの部屋へとやってきていた。

「そうですか……どういった御用でしょうか?」

「……プリローダを借りれる?」

「プリローダ……ですか?」

 ネレイスはノエルの侍女を務めているプリローダの名前を出した。そのことにノエルは少々困惑気味のような反応を見せた。

「うん、多分……何か知ってると思うから」

「……別に……構いませんけど……」

 ラヴィスはノエルの応対がどことなくぎこちないことが気になっていた。精霊界で得られた情報からすればプリローダが今回の鍵となる精霊であることには間違いない。レミエルの時はノエルも知らなかったようなそぶりを見せていたが、今回のノエルは明らかにおかしい。プリローダを自らの侍女として傍に置いているのは事情を知っているから、もしくは傍に置いているうちに事情を知ってしまったかのどちらかである可能性が大いに考えられた。

「……私に御用ですか?」

「あ、プリローダ。ちょっといいかな……?」

 そこにプリローダが姿を現した。目も口も布で覆い隠されており、どんなに暑くても一切肌を晒すことのない服を身につけているその姿は最初に会った時からどことなく特殊な存在であることを予感させていた。

「いかがなさいましたか、ネレイス様」

「……タビア=ガンナって世界のことを知らない?」

「……!!」

 世界の名がネレイスから発せられるとノエルは明らかに慌て出していた。

「……それを何故私に……?」

 しかし当のプリローダ本人は全く動じる様子を見せなかった。

「……ちょっとその世界に所縁のあった人を探してたんだけど……」

「……それで私に?」

「そそ、ねえ……」

「分かりました、お力お貸ししましょう」

「え?あ、ありがと」

 そして慌てるノエルを尻目にあっさりとプリローダは協力を申し出た。あまりにも簡単に話がついてしまいネレイスにとっては非常に拍子抜けしてしまうものだった。

「……私はどうすれば……?」

「……続きはラヴィスについていって。あたしは……」

 ネレイスはここでようやくノエルの方を向いた。その視線に気づいたノエルがびくっとした。

「ノエル様とお話があるから……」

「はわわわ……」

「分かりました……ラヴィス殿。よろしくお願いします」

「ああ、じゃあ場所を移すか」

 話をつけたネレイスとノエルを残しラヴィスはプリローダを連れてノエルの部屋を後にした。

「……随分あっさりと協力してくれたな」

「……先日レミエル様から話を聞いたので……じきに私のところにも来るだろうことは分かっていましたから」

「……やはりお前があの世界の……」

「はい、私がタビア=ガンナに流れ着いた最初の人間……」

 2人が廊下を歩いている間に異世界の扉の鍵は既に反応を示していた。やはりプリローダを招きいれようとしていたのであろう。

「……続きは後でゆっくり聞かせてくれ……多分向こうの移動時間が退屈だ」

「……分かりました……」

 神界の転送装置まで2人はやってくるとすぐに座標軸を入力した。ラヴィス単独では時間のかかった接続もプリローダと一緒ならば一瞬で済み、転送準備は完了した。

「……よし、じゃあ……行こうか」

「……はい」

 2人は転送装置の上に乗ると座標軸A790-62、タビア=ガンナに向けて転送されていった。崩壊したこの世界の真相を知るため、そしてこの世界を救うために……



~ナゲキノセカイ エピローグに続く~


コワレタセカイ ノ モノガタリ ~ナゲキノセカイ 探索編~


「……やれやれ、随分と降りてきたと思うんだがな……」

 示された道をただひたすらに降り続けていくラヴィスだったが一向に終着点は見えなかった。辺りの景色にはあまり変化はなかったものの進む先からはただならぬ気配を感じており、その気配は少しずつではあるものの確実に大きくなっていた。

「……この気配が恐らく星の理を司る精霊のもの……ただ……この気配……やけに……」

 ネレイスほどではないがラヴィスは精霊界でとてもよく名の知れた存在となっていた。その影響もありラヴィスは精霊の気配には非常に敏感であり、その気配から相手の気持ちを察するようなことができるのだったが、今ラヴィスがただならぬ気配から感じ取っていたものは明らかに排他的なものであった。

「……外との関わりを堅く禁じているからこその気持ちか……それとも……」

 それでもラヴィスは怖気づくことなく1段1段岩の段差を降り続けていった。気付けば足場の岩は最初のころよりも大分大きなものになっていた。

「……足場が大きくなるのは安心できるんだが……いちいち端から次の足場を確認するのが面倒なんだよな……」

 これまでは身を乗り出さなくとも下の足場が次はどの方向にあるのか見ることができていたが今ではもう足場の広さは自分の身長2つ分くらいにもなっており、少し端に歩いて下を確認しまた足場のある方へ向かって歩いては降りると少し手間がかかるようになっていた。

「さて、次は……ん?」

 今回もラヴィスは足場の端から下を確認した。すると下にあった足場はこれまでごつごつとした岩だけの殺風景のものから植物の生えた緑色のものへと変わっていた。

「……ここは緑があるんだな……」

 その緑の足場にラヴィスは降り立った。どこの世界にも普通にあるような植物でありこの世界を象徴するような植物ではないのは明らかであったが、この世界がもともとは自然の恵みある世界であったことは把握できた。

「……木もあるし……あれは……水辺?」

 ここから先はこれまでの足場とはまるっきり違い全ての足場に植物や水辺のある綺麗なものであった。しかしその足場もばらばらに砕け散っていることには変わりがなかった。

「……ばらばらになっているとはいえ将軍の時とは違いそれなりに原型は保っているわけか……」

 将軍の立ち寄った世界は白一面で世界の原型はどこにもなかった。そこで会った世界の理を司っていた精霊もずたずたに引き裂かれたような姿をしていたことから精霊の状態が世界の崩壊規模を示しているのかもしれないことが推察できた。

「……よっ……」

 ラヴィスが次に降り立った足場には小さな木が1本生えていた。地面が割れて根の一部は外に飛び出しており幹も若干朽ちてしまっているようだったがしっかりとその木からは自然のエネルギーを感じ取れていた。

「…………」

 そしてここに来てこれまでずっと感じ取っていたただならぬ気が少しずつ離れていっているような気がしていた。

「……我を避けている……か……」

 逃げられているとはいえここは閉鎖された空間である以上逃げ場はない。精霊を追いつめるような変な刺激を与えるのは得策ではないのだが、現状帰る手段がないラヴィスには取らなくてはいけない方法であった。

「……話くらいは聞かせてもらえるといいんだが……」

 そう言ってラヴィスはまた次の足場へと降りていった。小さな木についた葉が1枚ほろりと落ちていった。





「おいおい、待てよ……これを降りろって言うのか?」

 さらに降り続けていたラヴィスの足元には非常に大きな足場が見えていた。しかし降りる距離はこれまでの間隔とはあまりにも違いすぎるほど広いものであった。取りあえず他に降りる道がないことを確認してみたがどこから見てもこの足場の下にはあの大きな足場以外に乗れそうな場所は存在していなかった。

「……勘弁してくれよ……」

 ラヴィスはそういうものの飛び降りる以外に他の手段はなかった。精霊の気配もこの下から感じている。

「……ハァ……何かあったらルミナスやネレイスになんて言われるやら……」

 出発前ルミナスは泣きそうな目で“無事に帰ってきてください”と言って送り出してくれていた。ネレイスも“ラヴィスなら大丈夫!”とは言っていたもののその目はどことなく心配そうであった。ここで何かあった場合ラヴィスは2人から色々と言われ面倒なことになってしまう。

「……しーらねっ!」

 それでも進むしかないラヴィスは覚悟を決めて飛び込んでいった。みるみる落下速度は上がっていくが足場にはまだまだ程遠い。

「…………」

 ラヴィスは目をつぶっていた。流石にこの高さのジャンプは怖かった。

「……・っ……ん……?」

 しばらく落下速度は上がっていたがラヴィスは何か膜のようなものを突き破るとそこから落下速度はゆっくりになっていた。そこでようやくラヴィスは目を開けて辺りを見回すことができるようになった。周りは一面空であり下には大きな湖が広がっており、草木も生えた自然豊かな場所であった。その姿はまるで上で見た砕け散った世界のもとの姿を見ているかのようであった。

「……っと……とりあえず無事に降りてこれたか……」

 ゆったりとラヴィスは湖のほとりの草原に降り立った。足元もしっかりした地面であることを確認するとその草原をゆっくりと歩き始めた。

「……案外すぐに見つかったか……」

 そして歩き始めてすぐにラヴィスの前には見たこともない姿の精霊がいることに気付いた。おそらくこの精霊が探していた世界の理を司る存在なのであろう。既にボロボロであった将軍の時とは全く違いちゃんと原型のある姿であり、この状態では世界がどうして崩壊してしまったのか分からなかった。

「…………」

「やっと見つけたぞ……我は……」

 後ろを向いたままの精霊にそう声をかけ歩み寄ろうとした瞬間にラヴィスは精霊が急激にただならぬ気配を放ったことによりすぐに距離を取った。この気配はラヴィスも前に感じ取ったことのあるものであった。

「……ニンゲン……ワタシノホシニ……ナニシニ……」

「お前、聞く気ないだろ」

「……アノコヲ……カエシテ……!!」

「……完全に負の気に取り込まれてやがる……」

 精霊は真っ黒な気を振りまきながら怨嗟のような声を上げ続けていた。この状態では到底人の話を聞いてくれるような状況下にないことは精霊界でも活動を続けているラヴィスにはすぐに分かっていた。

「アァァァァァ!!」

「!!うぉあっ!!」

 精霊の嘆きの声から発せられた波動は軽くラヴィスを吹き飛ばすほどの力があった。

「ニンゲンガ……コワシタ……アノコモ……コノセカイモ……ゼンブ……!!」

「ち……それでも説得しろとか言うのかよ……」

 ラヴィスは異世界の扉の状況を見ているがまだ反応はない。この世界でやるべきことがまだ終わっていないということの表れなのだが、話を聞かない相手に憎んでいる人間の姿で説得するのはネレイスであっても非常に難しい状況であるだろうに、それでもやれと言われているのならば非常に酷なことである。

「アノコヲカエシテ……!!」

「……さっきからその一点張りだな……!!」

 ラヴィスは精霊から放たれた見えない気をなんとかかわしながら相手の要求が何なのかを聞きどう説得しようかを考えていた。先ほどから繰り返す“あの子”が誰なのかは分からないが、それを人間によって奪われてしまったためにこの精霊は狂いこの世界は崩壊したということは推察できた。

「一応我は神界から来た“創造主”の使いだぞ……?」

「……タスケテクレナカッタ……ソンナヤツガ……イマサラオソイノ……!」

「話す気は一切ない……と」

「アノコヲコロシタ……ニンゲンハテキ……」

「……“あの子”とは何者だ、精霊か?」

「ウルサイウルサイ……!!ダマレダマレダマレェ……!!」

 会話を続けていくごとに精霊の負の気の力は増していた。これ以上続けても無駄であることをラヴィスはもう悟っていたがそれでも異世界の扉が開くような気配はなかった。

「くっそ……これ以上何をしろって言うんだよ……」

「キエテヨ……ハヤクイナクナッテヨ……」

「そうだな、いなくなれたらとっとといなくなってる」

「……ココハワタシトアノコノセカイ……モウジャマモノハ……ゼッタイニイレナイ……!!」

「……げ、空間をひずませてる……クロノスじゃねぇとこんなの凌ぎきれねぇぞ」

 負の気のレベルが頂点に達した精霊はついに自らの力で世界の理を歪め始めた。その力は自らの居場所として用意したこの空間もろとも破壊してでもラヴィスを消し去ろうとしているようであった。

「アノコダケダッタラ……コンナコトニハナラナカッタ……」

「……っ……やっとか、遅ぇんだよ……」

 空間のひずみが大きくなる中でようやく異世界の扉は起動した。

「……ホカノニンゲンナンカ……キタカラ……アンナコトニ……!!」

「他の人間……?」

「モウ……ダレモイレナイ……ココハアノコトワタシダケノセカイ……」

「……ち、限界だ。撤収!!」

 ラヴィスが異世界の扉を起動させたのと空間が崩壊し出したのはほぼ同時であった。ラヴィスの入った異世界の扉を消し去るようにして周囲の空間は一気に崩壊していった。



「……コレデ……ココハモウアノコトワタシノセカイ……」



「……ふぅ、間一髪ってとこだったな……」

 ラヴィスは神界宮殿へと戻っていた。なんとか脱出できたことに安堵していたがギリギリまで待たされたことには非常にひやりとさせれられたようである。

「あ、ラヴィス……ラヴィス様っ!?」

「ルミナスか、今……」

「大丈夫ですか!?ラヴィス様っ!?」

「る……ルミナス!?」

 そこにラヴィスの帰還を感じ取ったルミナスがすぐに駆けつけてきた。そのルミナスがラヴィスを見るなり非常に心配した様子で抱きついてきたことにラヴィス自身が驚きを隠せずにいた。

「嫌ですよ……ラヴィス様……っ」

「……確かにあそこの精霊から攻撃もらったがそんな大したこと……」

「大したことですよ……!!ラヴィス様の体……おかしくなってるんですから!!」

「え……?」

 ラヴィスは冷静になって自分の体を見た。負の気によって吹き飛ばされたときにできたであろう擦り傷がちらちら見られたが流石のルミナスでもこれで大騒ぎをするはずがない。

「別になんとも……!!」

「嫌ですよ……ラヴィス様ぁ……」

 そしてついにルミナスが泣きついている左腕のあたりから脇にかけて真っ黒に変色してしまっていることに気付いたのである。

「……すぐにメリアス様のとこに行くぞ」

「は……はいっ!」

 調査報告をまとめたかったところではあったがまずは体に起きている異変を解決する方が先と見たラヴィスは泣きすがるルミナスを連れて自らの転生担当であるメリアスのもとへと急行した。



~ナゲキノセカイ 真相編に続く~


コワレタセカイ ノ モノガタリ ~ナゲキノセカイ プロローグ~

「……まさかあの時の座標がそうだったとはな……」

 ラヴィスは神界の転送装置にある座標軸を入力していた。座標軸A790-62……ラヴィスはかつてこの座標軸に一度アクセスをしていたのだった。あれは丁度休みの日……偶然遊びに来ていた異界の女王に振り回されるような形で付き合わされていたときのことであった。

「ねぇねぇラヴィスさん、早く次のとこいこーよ♪」

「ハァ……仕方ねぇな……」

 その客人にせがまれラヴィスは様々な世界を案内していた。その最中にラヴィスはその座標軸を誤入力してしまっていた。

「……ん?入力エラー?この座標は存在しません……?」

「ねぇ、まだー?」

「まぁいいか……あー待ってろ……」

 その時は単純に入力ミスだと思っていたのと客人にせかされていたのがあったために深く気にすることはなかった。しかしランディや将軍からコワレタセカイの概要を聞いたことでこのことを思い出したのであった。

「……ランディの見立てだとこれを持ってれば入れるんじゃないかとは言っていたが……」

 今ラヴィスの手には折れた地剣の欠片が握られていた。将軍は地剣に見初められた存在であったことからコワレタセカイへと踏み入れることができていた。恐らくこの地剣がコワレタセカイに踏み込む鍵になるとランディは判断していた。

「……今のとこはエラーが出てるな……」

 しかし今は入力した座標は存在しないという表示が出ていた。

「……しっかし何で我が出るんだ……?将軍がもう一度行った方が確実だろうに……」

 本来は将軍が再び出向くのが確実であったはずだが当の本人は何故かこの世界の調査をラヴィスへと回してきたのである。それも将軍がいつものようにすっぽかした訳ではなく正式に行ってくれという依頼をしてきたのだから珍しかった。さらにランディからも今回はラヴィスが行くにふさわしい場所だと告げられていた。あの2人は何か知っているような雰囲気を出していたがラヴィスには“行けば分かる”とだけ告げられ詳しくは教えてもらうことができなかった。

「……ハァ……あいつらばっかり何を……」

 ラヴィスが軽く悪態をついたその瞬間にこれまで全く反応を示していなかった異世界の扉が接続完了を示していた。

「っと……急に来たな……さて、十分気をつけないとな……」

 行き着いた先がどうなっているのかは誰にも分からない。ラヴィスはひとつ深呼吸をすると意を決し異世界の扉の中へと踏み入れていった。








「ナゼ……ドウシテ……コンナコトニ……」







「……うへぇ……こりゃ……酷いぞ」

 ラヴィスが降り立った場所は小さな岩の上であった。その岩は宙に浮いているようであり、周囲にもそれは点在している。上を向いても空はなく下を向いても地面はない。ただただ小さな岩が無数に浮いているこの状態は粉々に砕け散った星の残骸ともいえるようなものであった。

「……一応これ以上砕けたりはしなさそうか……」

 ラヴィスは足元を確認し安全であることを確かめた。さらにこの岩が単純に浮いているだけでなくしっかり固定されているようである。

「……よっ……と」

 ラヴィスは少し下にあった岩場へと飛び移った。その岩場は丁度用意されていたかのような位置にあり、その後も下へ下へと向かっていくにはお誂えの位置に岩場は続いていた。

「……これはもう下に向かって行けと言っているようなものだな……」

 足を踏み外すのが怖かったがこの岩場は親切なことに降りられそうな位置以外からは外に出られないようになっていた。これにより進む道も確定したことになる。

「……さて……じゃあ慎重に調査開始だ」

 崩壊したこの世界の真相を探るためラヴィスはさらに下の岩場へと飛び移っていった。



~ナゲキノセカイ 探索編に続く~


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Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

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