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ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ネレイス編 ~“世界の調和人”~


「……概ね問題はありませんでした」

「ありがと、ノエル」

 神界宮殿内のかなり奥。神界の者でも普通は立ち入ることを許されていない高機密区域にある病院のような施設にノエルとネレイスの姿があった。無数の機械がつなげられている診療台のような場所に検査着のようなものを身に付けたネレイスが横になっており、つい先ほどまで精密検査のようなものを受けていた。というのもネレイスはノエルによって“創造”された存在であり、ノエルは“創造者”としてネレイスの状態を確認し常に万全の状態で出撃できるようにする責務があるのである。

「……最近は調子がいいようですね……」

「……んー……そうだね~、負の気の呪いも大分落ち着いてきてるみたいだし……」

「……私も安心です……」

 ネレイスは消えない負の気の呪いを抱えたままでありこうして定期的にノエルによって精密検査を受ける必要があったのだが、ここ最近は負の気による症状も落ち着いているようであり、これまで何度かあった深刻な状態にまで陥るようなことはなくなっていた。

「……まぁここのとこいろいろあったしね」

「そうですね……」

 ネレイスは診療台から下りるとその場で検査着を脱いで着替え始めた。見る者を魅了するような華麗で鮮やかな剣さばきが特徴のネレイスだが、その体つきも周囲の視線を集めるくらいに魅惑的なものである。これもネレイスが日々体調管理などを行っているためもあるのだが、ノエルによって体つきのバランスなどを設計されたことによるところが大きいのだろう。

「……ところでこの後はおでかけですか?」

「んー?いやー、今日はゆっくりしてこうかなーって思ってるけど」

「そうでしたか……」

 着替え終わったネレイスはそのまま診療台の上へと腰かけた。精霊界の仕事からSkyBlueの任務まで毎日忙しそうにしているネレイスが今日はゆっくりすると言ったことは非常に珍しいことであり、そしてまたノエルにとても嬉しいことであった。

「たまにはこうやってノエルとおしゃべりするのもいいかなーって。ノエルもたまにはこういう時間欲しいでしょ?」

「はい……」

 親しげに話しかけてくれるネレイスにノエルは安心感と幸福感を感じていた。公の場面ではノエルを様付けで呼ぶネレイスであったが、2人きりの場面ではネレイスはノエルのことを呼び捨てで呼んでいる。ネレイスはノエルが精霊界を安定させるために創り出した存在であったが、それと同時に現状神界の頂点に立つノエルを精神的重圧から解放してくれるような友達とも言える存在として創り出されてもいたのである。そしてその願いにネレイスが応えるような形でノエルの心の支えとなり、時折こうしてノエルとの何気ない会話でノエルの精神的な負担を和らげていたのである。ただノエルも最近はSkyBlue創設者として各地に出向く場面も増え、そこで出会った多くの人々からは気兼ねなく“ノエル”と呼んでもらい話し相手になってくれることも増えたようだが、それでもノエルにとって一番大事な存在はネレイスであることに変わりはないようだった。

「ささ、何の話しよっか?」

「どうしましょうか……」

「……んー……あ、そうだ」

 お互いに話す内容を考えていたようであったが、先に口を開いたのはネレイスだった。

「……これまであまり気にしたことなかったんだけどさ、あたしのフルネームってなんなのかな……?」

「……フルネーム……ですか……」

 ネレイスの素朴な疑問にノエルは少し困惑したような顔をしてみせた。

「……んー、聞くのまずかった?」

「……いえ……誰かに聞かれたのですか?」

「うん、ちょっとね……」

「……そうでしたか……」

 ノエルも事情を知っているからかそれ以上深く詮索する事はなかった。

「……もちろんありますよ……ネレイスさんのフルネーム」

「やっぱりあるんだね……」

「……私が……創ったのですから」

「……ノエル……?」

 ノエルの表情が一瞬にして今にも泣き出しそうなほどになったことにネレイスは動揺していた。ノエルはまだまだ精神的に不安定な部分も多く、あまり負担をかけると過熱状態となって倒れてしまう特有の症状を引き起こすことが多かった。今回もその前触れではないかと考えてしまったネレイスはすぐにお水を準備していた。

「……大丈夫ですよ……」

 しかしノエルは比較的落ち着いた様子でそれを制した。

「……ネレイス……ヴェルタルモニア……」

「……ヴェルタルモニア……?」

「……世界の調和を司る者となって欲しい……私のそういう願いが込められた……」

「ノエル……」

 その言葉でネレイスにはノエルが泣きそうになっていた理由が分かった。込められた名前からもノエルはどういう思いで自分と言う存在を創り出していたのか……そしてその思いの通りに職務を全うしてくれる自分のこと……それを考えれば無理も無い反応である。

「世界の調和人……ってところかぁ……そうだね、あたしに相応しい名前かもね」

「はい……」

「エヘヘ……ありがとノエル」

「……あぅ……」

 ネレイスにお礼を言われてノエルは少し照れくさそうにしていた。

「そうだ、いい機会だしもっと色々聞いておこかな……」

「……こ……答えられるものでお願いしますよ……」

 その後もネレイスとノエルは仲良くおしゃべりを続けたようである。精霊界女王にして世界の安定を司るSkyBlueの頼れる戦い手ネレイス・ヴェルタルモニア。世界の調和人の名を冠したその存在はこの先もその名に恥じない働きぶりを続けてくれることだろう……



(SSs ネレイス編 完)


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今週はちょっと休憩……?


どうも、ラヴィスです。

今週はSSsのネレイス編を公開する予定だったのですが……ちょーっと仕上げる気力が足りなかったので今回は見送りという形になってしまいました

ということでネレイス編は来週公開!……という流れになりそうなところですが、あまり先伸ばしにしていくと去年の魔界鎮圧作戦のような展開になりかねないのでできるだけ来週になる前には公開したいところです、はい。

とりあえず内容は決まっているのであとは書けるか……です。今週のお仕事の時間にもよりますが多分大丈夫です、はい。

因みに第5回はレイン編の公開を予定しています。その次の第6回はノエル編、そして第7回はリッチ編をお届けする予定となっておりますのでご期待下さい!

それでは本日の更新は以上!今週またどこかでお会いしましょう!


ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) 将軍編 ~記憶薄れし 私の名~


「……ふぃ……ここも久しぶりだな」

 天界宮殿前にボロボロのマントを纏った人物が佇んでいた。目深に被った帽子を外すと少々砂埃のようなもので薄汚れた男の顔が真っ直ぐに天界宮殿の方を見ていた。明らかに天界人の格好ではないこの男は雲海の上の世界には似つかわしくないのだが散見される天界人や天使、聖女たちは誰もこの人物を不思議がるようにはしていなかった。

「……ま、挨拶くらいはちゃんとするか」

 そしてその男は真っ直ぐに宮殿内へと向かっていった。その途中衛兵の天使と目が合うと軽く会釈をしたが天使の方も特別止めたりするようなこともなくすんなりと通してくれた。天界宮殿内でも会う者会う者みな明らかに異質とも言えるその男のことを特別気にも留めない様子で通り過ぎて行った。

「……さてと、エリミーヌはいつものとこにいるのか……」

 男は慣れた様子で宮殿内を進んでいった。その先には天界宮殿の中枢とも言える天界女王の執務室があった。

「……将軍殿……本日はどういった御用で?」

「フィアを探しているんだが……エリミーヌなら何か知ってるんじゃないかと思って」

「……少々お待ち下さい」

 衛兵がそう言うと執務室内に入っていった。その後少しして美しいブロンドの髪をした聖女が衛兵の隣に並んで出てきた。

「……ふふ、わざわざ私のところへ御挨拶に来るだなんて珍しいではないですか」

「……まー……今回は少し間が空いたからな。久しぶりに戻って来たんだから一応挨拶をしておこうとな」

「ふふ……で、将軍様がこちらに来たということは……フィアさんのことですね?」

「ああ……帰ると連絡は入れたんだが返事がなかったもんでな」

「……最近は天界を空けることが多かったですからね。でも今は将軍様からの連絡を受けてお部屋にいらっしゃると思いますよ」

「そうか、助かった……」

 将軍と呼ばれた男はそう言い軽く一礼すると宮殿内の別の部屋に向かって歩いていった。



「……はい……?」

「オレだ。入っていいか?」

「将軍様……お待ちしていました、どうぞ……」

 宮殿の1室を訪れた将軍は中にいた女性に招かれて部屋の中に通された。

「……ふふ、おかえりなさい、将軍様」

「ああ、ただいまフィア。……寂しくなかったか?」

「ふふ、将軍様が帰らないのはいつものことですから……慣れてますよ」

 美しさは先程のエリミーヌにも引けを取らない立派なブロンドの髪を持ち、鮮やかな緋色のドレスを身にまとった女性はこの天界で十二聖女の第2聖女を務めているフィアであった。

「……本当はどうだか……お前の本心がどうなのかはオレでもまだよく分からんのに……」

「……ふふ、悲しいことかもしれませんが将軍様がいないことに慣れてしまっているのは事実ですから……」

「……悪いな、旦那がこんな風来坊で」

「何を言ってるんですか……将軍様が本当はどういう人なのか私はよく知っているんですから」

 そしてこのフィアは何を隠そう将軍の奥さんとして人間のときから長らく将軍と将軍が率いていたSkyBlueの前身組織を支えて来たのである。

「……全く……」

「ところで将軍様……またすぐ行ってしまうのですか?」

「……ん?いや、出発は明後日だ。たまにはオレだってゆっくり休みたいさ」

「そうでしたか……ふふ、分かりました」

 フィアは本心を読まれないように装う事が非常に得意であった。しかし今の表情からは誰から見ても将軍がしばらくここで休んでくれる事を嬉しく感じている事が明らかであった。

「……じゃあ将軍様、お土産話でも聞かせて下さいな」

「……早速か……まぁいいぞ、まずは……」

 フィアの言葉に将軍は少しばかり仕方ないという風な仕草をしてみせたが、どことなく嬉しそうに今回放浪していた世界の話をし始めていった。
 フィアと将軍の出会いは戦場だった。その当時のフィアは兄の命により戦場に送りだされ指揮官として慣れない指揮を振るっていた。そのフィアを将軍は保護し、不仲だったフィアの兄との関係改善にも乗り出して無事関係の修復を成し遂げた。この時にフィアが将軍の仲間として正式に加入したのだが、まだその時にはお互いに意識はしていなかったようである。しかし妹のお相手を探していた兄が将軍を気に入ったこともあり次第に2人の距離は縮まり、やがて結婚するに至ったという。将軍自体あまり女性関係の噂が上がらなかった事もありなかなか将軍が意識をしだすには時間がかかったようであるが、フィアの献身的な振舞いと何よりメンバー内では将軍と共にいる時間は短かったものの長い付き合いであるラヴィスやランディですらも苦労する将軍の気ままな振舞いや謎の多い言動にも早くから適応し、将軍の難しい注文をもこなしていったことが彼女の評価を上げていた部分があった。

「……ふふ、今回も沢山の世界を回ってきたのですね」

「……そうだな……」

 将軍にとっては美しさ、スタイル、それに生まれと言った様々な面において自分には勿体ない奥さんだと常々言っていたが、それでもフィアに愛されたことを将軍は非常に幸せに感じていた。それは将軍が常に大きな宝石が乗った指輪を懐に忍ばせていることからも窺えた。

「……ゆっくりしていって下さいね」

「ああ……」

 フィアの左手薬指にも将軍と同じ指輪がはめられていた。フィアにとっても将軍との結婚は幸せなものであった。その時には既に現在第4聖女となったウルスラより聖女へと推薦をされており、ルミナス同様永遠を共に出来るような相手を探す必要があった。その点でいけば将軍はぴったりでもあった。

「……そうだ、久しぶりにお風呂にでも入りませんか?」

「……一緒にか?」

「……嫌ですか?」

「……まぁいいか」

 そのためフィアはこういうことも堂々と言いだす事があった。それに少々戸惑い気味の将軍であったが、自身も長い放浪生活で大分薄汚れていることには気づいていたため素直にそこには従った。

「ふふ……将軍様とお風呂だなんていつ以来でしょうか……」

「……普通はなかなか男と女が一緒にお風呂に入るなんてことないぞ……」

「……そうですか?ルミナスさんは頻繁にラヴィスさんと一緒に入っていると聞いてますよ?」

「……あの2人は特別だ……」

 将軍とフィアの仲の良さは天界やSkyBlueの中ではよく知られているがそれでもラヴィスとルミナスの仲は別格のようであった。そんな話をしながらも先にフィアは風呂場へと向かっていった。将軍は少し経ってからフィアが先に入ったのを気配で確認した後に風呂場へと向かっていった。

「……さ、将軍様。背中流しますよ」

「……ああ、頼む」

 フィアは将軍を気遣ってかしっかりとバスタオルを巻いていた。フィアの体つきは非常に見事なものであり、特に豊満な胸はSkyBlueのみならず神界など全体を含めても他の追随を許さない桁違いの大きさを誇っており、普段天界で着ている緋色のドレスもその胸を見せつけるためなのかはたまた単純に隠しきれにだけなのか分からないくらいに胸の部分が大きく開いている。そして今巻いているバスタオルも胸の上の部分が隠しきれずに出てしまっておりいくら奥さんが相手だからとはいえ少々目のやり場に困っているような様子であった。

「……また傷が増えてますよ……?どんな無理をしたんですか?」

「……もう体中傷だらけなのによく分かるよな……」

「……新しい傷と古い傷を見分けるのはそんなに難しい事じゃないですから」

「そうかい……まぁその辺の傷は多分この前の砂漠地帯で受けた砂塵のものだろうな……」

 そこでまた将軍はその世界について喋り出した。とある世界で砂漠地帯を探索した時に巨大な砂嵐に遭遇し、避けきれないと判断した将軍が愛刀を使って両断したのだがその時両断した砂嵐の余波が体をかすめていったときに傷を負ったのだと言う。将軍のマントがボロボロになり顔が薄汚れていたのもこれによる影響が大きかったようである。

「……あんまり無茶な事をしないで下さいよ?」

「……お前に言われたくはないな」

「…………」

 将軍も時には無茶な行動を取ることが多いがそれ以上にフィアは無茶な行動をする場面が多く何度も将軍は心配させられてきた。

「ま、いいさ。さて……体も流したし湯船に浸かるか……」

「……はい」

 体を洗い流したことで将軍の体は大分綺麗になっていたが、それでも生まれつき将軍の肌はラヴィスやランディたちよりもやや黒く見た目にはさほど変化が無いように見えた。傍から見れば意外と目立つくらいの肌の色の違いであったが、当の本人もフィアもそしてSkyBlueのメンバーもそのことは一切気にしていないようであった。

「……ふぃ……いやぁ……湯船にちゃんと浸かるのは久しぶりだ……」

「……そうでしたか……」

 向かい合うようにして2人は湯船に浸かったが将軍はすぐに気持ちよさそうに上を向いた。勿論湯船に浸かるフィアを直視しないという意味もあったのだが単純に言葉の通り放浪中はなかなかお風呂に入れる機会が無く純粋に気持ち良かったという気持ちが出ていたのは確かである。しかしそんな将軍を見てフィアはどことなく寂しげであった。

「……やっぱり寂しかったんだな?」

「……はい……」

 さらりと言った将軍の言葉についフィアは本音が出てしまった。確かにこれまでも将軍は顕界のあちこちへぶらっと出掛けてしまうことはあり、慣れていた事は確かである。しかし今回は少し違った。まずはいつもより少し出掛けている帰還が長かったことである。そしてその間に連絡をほとんどよこさなかったこともある。普段の将軍であれば長く出掛ける時は必ずネレイスの使役する精霊を介して連絡をくれていたのだが今回はそれがなかった。それが思いのほかフィアにとっては堪えたようである。

「……悪かった」

「……いいんですよ……無事に戻ってきてくれたのですし……時間も作って下さったのですから。いつもの将軍様なら一休みしたらまたすぐに次の世界へ向かおうと言い出すところなのに……」

「……ま、オレも疲れているのは事実だし……」

 将軍は目線を下ろしフィアの方を向いた。フィアの顔は今にも泣き出してしまうのではないかというくらいにまでなってしまっていた。

「……普段なら読みにくいお前の気持ちがこんなにも分かりやすく出ちまうくらいに寂しがらせたんだろうなーとは考えていたからな」

「将軍様……」

 フィアがそっと寄って来たところを将軍は優しく迎え入れた。久しぶりに抱き抱えたフィアの体はどことなくやせ細り肌も荒れてしまっているような感じがした。

「……凄いストレスだったんだな」

「……近寄っておきながら変ですけど……あまり……触らないで下さい……」

「そんなこと言われてもな……」

 将軍は構わずにフィアを抱きかかえた。特殊な環境に長らく身を置いてきたせいか大分感覚が普通とは異なっているせいもあるだろうが、普通ならばこんなにも女をほったらかしにしてぶらぶらと放浪を続けていれば見限られていてもおかしくはないはずである。ましてやフィアほどの女性となれば他にもたくさんの男が狙っていてもおかしくない。それでもなお一途に将軍を思い続けているフィアも同じ聖女となったルミナスにも負けず劣らずの強い気持ちを持っているのだろう。

「……なぁフィア」

「……何ですか?」

「……オレはずっとお前の傍にいた方がいいか?」

 フィアの普段は見せない姿に将軍もつい本音がこぼれてしまった。将軍の放浪の旅はいわば自己満足である。その自己満足にフィアをどこまで巻き込んでいいものか、いつまで我慢をさせればいいのか不安になってしまっていた。

「……それは……放浪の旅をやめて天界で私と暮らして下さるということですか……?」

「……あの時だってオレは異世界の扉を使った旅をすっぱりとやめた……きっかけさえあれば……」

「将軍様……」

 フィアはそれまで寂しげな表情を見せていたが将軍の一言でくるっと表情を変えた。

「……私に気遣いなんていりませんよ。言ったではないですか、慣れていると」

「でも……」

「……将軍様らしくありませんよ……?」

 フィアはそう将軍に微笑みながら言った。その様はまさに慈愛あふれる聖女の微笑みそのものに見えて将軍も思わず見惚れてしまった。

「……放浪ばかりで私をほったらかしにしていると思われがちですけど本当は数日おきくらいですけどちゃんと連絡を入れてくれますし、すぐに他の世界に行きたくなっても羽を休めるためにほんのわずかな時間でも私のところへ来て下さいます。それに思いつきで行動しみなさんを振りまわす困った将軍様ですけど将軍としてみなさんのことを気に掛けて配慮して下さっているのだって知っていますから……」

「…………」

 フィアとの付き合いは人の時からであるから当然長い。しかしそれでも付き合いの長さでいけばラヴィスやランディの方がもっと長い。それでもフィアはラヴィスやランディに負けないほど、もしくはそれ以上に将軍の本質を見抜き理解していた。

「私のために我慢して宮殿生活なんてしなくてもいいんですよ。……それが性に合わないってのはあの時分かりましたし」

「だからその話は……」

 フィアの言葉に将軍は慌て始めた。一国の姫の婿となった将軍は旅を終えた後フィアの国の王宮で余生を過ごした。その時に将軍の起こした数々の行動は今となっても思い返せばとんでもないことであったとして2人の間で語り草となっていた。

「……将軍様の退屈そうな顔は……見ていて私も申し訳ないと思いました。旅をしていたころの将軍様とはもう別人で……」

「……分かった分かった、その話はそこまで!」

「んぅ……」

 このままではまた笑い話にされると思った将軍は少々強引ではあったがフィアを抱きよせて大人しくさせた。フィアもこれ以上やれば将軍を困らせると分かっていたので将軍の腕の中で大人しくなった。

「……じゃあこれからもぶらぶらし続けていいんだな?」

「はい……将軍様の気が済むまで放浪して下さい。私はいつでも……いつまでも将軍様の帰りをお待ちしていますから」

「そうか……ならフィア、お前も寂しくなったらネレイスにでも言って精霊で伝言よこせよ……一段落したら戻るから」

「ふふ……分かりました、将軍様……いえ……クライス様

 フィアは将軍の耳元で囁いた。その言葉が意外だったのかしばらくぽかんとした様子であった。

「どうしましたか?将軍様」

「……一瞬誰のことかと思ったぞ……オレでもその名前凄い久しぶりに聞いたんだが……」

「……ふふ、そうですよね。もう将軍様は将軍様ですから」

 そう言ってフィアは左手薬指にはめた指輪を見た。入浴中も就寝時も肌身離さず身につけているこの指輪には2人の名前のイニシャルが刻まれていた。片方はF・W――フィアの本名フィア・ヴュルデベルンである。そしてその隣にはK・W――将軍の本名が刻まれていた。将軍はラヴィスやランディたちとSkyBlueの前身組織を立ち上げた時からずっと本名ではなくその当時のリーダーだったことから“将軍”とよばれて親しまれてきた。それが広く浸透し今では皆が“将軍”と呼ぶようになり、将軍の本名を知る者はごくわずかでありその者たちの記憶からもほぼ消え去りつつあった。

「……さ、これ以上この状態でお風呂に入っていたらのぼせてしまいそうです。お先に上がらせてもらいますね」

「ん……ああ……悪い……」

 将軍に抱きしめられながら浸かっていたことでフィアは大分火照ってしまっていた。ゆっくりと風呂場からあがるともう一度将軍の方を振り返った。

「お食事を用意しておきますから将軍様はもう少しゆっくりして下さい」

「ああ、そうさせてもらう……」

 ちょうど将軍のお腹も空いてきた頃合いであった。フィアの料理は天界の宮廷メイド長であるシルフィが太鼓判を押す程の美味さで有名であった。久しぶりに振舞ってくれるフィアの手料理をおいしく頂くためにも将軍はしばし1人で湯船に浸かり続けた。

「……K・W……か……」

 1人になった将軍はそうつぶやいた。今となってはもう誰もその名で呼ぶことはなくなった。将軍という親しみのある愛称によって失われてしまったその名。自分ももう将軍という名前でSkyBlueには正式登録してあり、将軍という名前で日々を過ごしている。自分はもう“将軍”であり“K・W”ではない……

「…………」

 でももしあの時本名で呼ばれ続けていたら……“将軍”という新しい自分ではなく“K・W”としてやっていたのなら……

「……あーやめやめ。こういうの考えるのは性に合わん。オレは将軍としてここまで生きてここまで幸せで充実した日々を過ごせているんだ。それでよし」

 柄にもないことで頭を使った将軍はすぐに考えることをやめた。どうせこの問いに対する答えなど見当たらないのだから。

「さて、飯だ飯。フィアの料理が楽しみだ」

 そして将軍も風呂から上がり部屋へと戻っていった。



――将軍 世界の安定を司るという任を受け気ままに活動する風来坊。その男がかつて持っており、今となっては失われしその名は……クライス・ヴュルデベルン



(SSs 将軍編 完)

ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ルミナス編 ~再会~


「…………」

「……ルミナスさん、少々宜しいですか?」

「……エリミーヌ様……?」

 雲海が広がる天上の世界――天界。その中心天界宮殿の執務室に天界筆頭聖女と呼ばれる天界女王ルミナスの姿があった。

「……執務室でお仕事だなんて……」

「……先程ラヴィス様から神界を通じて客人が来ると聞かされましたので……」

「……客人……?」

「はい……ですので私もできれば天界宮殿でお仕事をしていて欲しいと……」

 本来天界女王であるルミナスはSkyBlueの仕事を優先するように配慮がされており、宮殿を空けていることが多い。その留守を預かっているのが前筆頭聖女であり、ルミナスを聖女に推薦し自らは第3聖女となったエリミーヌである。長らく筆頭聖女の位に就き、天界の管理運営の経験も豊富なエリミーヌによりルミナスは安心して外での活動に従事できるのであった。そのためルミナスが天界宮殿の執務室にいるようなことは異例中の異例であった。

「……神界から監査役の方が来る……ということなのでしょうか?」

「……少なくとも私には客人が来るとの連絡は来ていません……」

「……抜き打ちということでしょうか……?」

「でしたらこれまでもそういったことがあってもよかったはずです……今回急にそんな話が持ち上がるのは不自然だと思うのですが……」

 あまりに急の出来事にルミナスだけでなくエリミーヌも困惑気味であった。ラヴィスから与えられた情報もただ単に客人が来るとだけの簡単なものであり、それ以降ラヴィスとは全く連絡が取れなくなっていた。

「……とりあえず何があるか分かりません……私も警戒しておきます……」

「お願いします……」

「ルミナス様!」

 そこに天使が何やら慌てた様子で入り込んできた。

「どうなさいました?」

「それが……その……」

「落ち着いて下さい。客人ですか?」

 すぐにエリミーヌがなだめるような口調でそう言った。

「は……はい!それが……その……」

「人数は……?」

「2人です!……お1人はローブ姿で分からなかったのですが……もう1人は……」

「もう1人は……?」

「……精霊界女王ネレイス様です」

「え……?」

 意外な名前が出てきたことに思わずルミナスとエリミーヌは顔を見合わせてしまった。

「……分かりました。精霊界女王が来訪なさったのでしたら私がお出迎えしないといけませんね……」

「私も行きましょう……精霊界女王には大変お世話になってますから私からも直接お礼を言いたいですしね」

 2人はそう言っていたがお互いに本心は別のところにある様子だった。

「では……こちらです」

 そんな2人の変わった様子に気づいていない天使は2人を客人の元へと案内した。



「……急な来訪をどうかお許し下さい」

「……そうですね……ネレイスさんが精霊界女王として天界宮殿へとやってくるとは想像していませんでした……」

 天使に案内された宮殿の前には確かにネレイスの姿があった。その隣にはすっぽりと頭をフードで覆い、体もローブで包まれた謎の客人が立っていた。

「…………」

 エリミーヌはその客人を大いに警戒していた。精霊界女王ネレイスは聡明で精霊たちからの信頼も厚い期待の女王であり、ルミナスとも関係の深い存在でもあることから妙なことは考えていないと思っていた。しかし万一のことを考えて目を光らせているあたりは天界を長らく支えてきた知恵者であることを窺わせていた。

「……で、本日はどういったご用でしょうか?」

「……ちょっとした挨拶に来ました」

「挨拶……ですか?」

 ここでルミナスはローブの客人の方へと目線を移した。ネレイスが連れてくる客人となれば当然精霊の類いであろうことは容易に想像がつく。しかしそれならばここまで姿を隠して会わせようとするのはどことなく不自然である。さらにネレイスの隣に控えている客人からはただならぬ気配を発しているのも気になるところであった。当然エリミーヌもこのことに気付いているはずである。

「……この度精霊界に新しい役職を設けることになりました」

「……役職……天界との交流に関わるものですか?」

「……いえ……天界との交流に直接関わるものではありません」

「……では一体……?」

「……やっぱり見て頂いた方が早いかもしれませんね」

 ますます疑問の深まる展開になったことでネレイスも流石に単刀直入に切り込んでくれるようになったようであった。そして客人の被っていたフードをそっと下ろしてあげた。

「…………!!」

「……え……そん……な……」

 その瞬間にエリミーヌもルミナスも驚きを隠せなくなった。フードの下からは透明感のある蒼い髪をした女性が姿を現した。そしてその顔はエリミーヌにとってもルミナスにとっても良く知ったものであった。

「……精霊界女王……この方はもしや……」

「……この度精霊界の新役職……八理を守護する新たな存在……八理竜の1体……雪姫竜に任命させて頂いた……」

「……マーキュリー……私の……娘です」

「……お久しぶりです……お母様……」

 ルミナスの面影が見られる大人びた印象の顔は依然冷静さを保とうとしていたが、久しぶりに母と会う事の出来た喜びがやはり隠しきれないようであった。

「…………立派に……なりましたね」

「……はい……もう……何百年も経っているのですから……」

「……そんなに……ですか……」

 喜びの様子を見せる娘に対して母であるルミナスは未だに驚きと戸惑いが入り混じった複雑な表情を見せていた。

「……ひとまず場所を移しましょう」

「はい……」

 それを見たネレイスがすかさず場所の移動を提案した。この時には既に何故ネレイスがマーキュリーを極力表に見せないようにしてきた理由がなんとなく分かっていた。マーキュリーのことは天界内部では伏せられていた事実であった為に、ここまでルミナスに似た女性が天界内の多くの天使達に知られるのはまずいと思ったネレイスの配慮なのだろう。ネレイスは再びマーキュリーにフードをかぶせると先導するエリミーヌに続いて宮殿内へと入っていった。



「…………」

「……お母様……」

 貴賓室に通されたマーキュリーはフードを外しローブも脱いでいた。ルミナス譲りの美しい髪は先程までは一部しか見えていなかったが、全てを見せたマーキュリーの髪は床を引きずるほど長いものであった。体は細く、腕も脚もルミナスより華奢であり一見するとあまり丈夫そうな子には見えないのだが、ネレイスが紹介した通り彼女はネレイスによって精霊界の新しい役職、八理竜の雪姫竜に任命された氷竜なのであった。本来であれば人間同士だったラヴィスとルミナスとの間に竜の娘が産まれることはないはずだが竜の血に侵食されていたルミナスの娘であれば不思議ではないことである。

「……お母様……やっぱり……まだ竜はダメですか……?」

「……ごめんなさい……私の娘だというのに……」

「……無理もないですよね……お母様の竜の血は望んだものではなかったのですから……」

 ルミナスが竜の血に侵されたのはラヴィスとルミナスが出会い将軍たちと合流する前、仕事の依頼で祭壇に巣くう竜の討伐をしていたときのことだった。ラヴィスが仕留めそこなった竜の一撃からラヴィスを庇った際に負った深手の傷から竜の血が入り込んだことによって始まってしまった。それ以来ルミナスは度重なる竜化の症状を引き起こすなど苦しめられており、竜の気配を感じると体が思うように動かなくなってしまうといった症状が出るようになってしまったのである。
 一方でそのルミナスから生まれた双子の妹、マーキュリーは産まれながらにしてルミナスの竜の血を濃く受け継いでしまった影響で自然の声が聞こえたりと特別な力を持っていた。成長を続けるマーキュリーはやがて自らの竜の力に気付き出し、ちょうどそのころ乱獲によって氷竜が数を減らしているという話を聞いたマーキュリーは自らの竜の力をその氷竜たちのために使ってあげたいと考えるようになったのである。その努力が実り、今回ネレイスによって八理竜へと選ばれたのである。

「……本当に立派になりましたね……」

「……はい……」

「ところで……何故ネレイスさんがマーキュリーの居場所を……?」

「……まぁ……精霊のネットワークを使えば……ね。それに氷竜の住処はある程度掴めていたし……」

「……ラヴィス様から連絡があったのですが……」

「……お父様にも会いました……何だか嬉しそうでした」

 ラヴィスとの再会を思い返しマーキュリーが嬉しそうな表情を見せた。それを見たルミナスが少し申し訳なさそうな顔をしていた。

「……お母様は……嬉しくないのですか?」

「え……?そんなことありませんよ……?」

「……でも……これからは会おうと思えばいつでも会えるのですから……」

「…………」

 娘との再会は当然喜んで然るべきなのだが、素直に喜べないのがルミナスにとってとても歯がゆかった。

「……ネレイス様……ひとまず今日はこれで失礼しましょう」

「……いいの?」

「……急に来る私も悪かったんだと思います……今度は……お父様とお母様揃って会いたいですし……」

 そう言って再びマーキュリーはフードを被りローブに身を包んだ。先程まで強く感じた竜の気配が一瞬にして薄らいでいったあたりこれもルミナスや天界の人々に配慮したものだったのだろう。

「…………」

「それでは……また……」

 最後にマーキュリーはルミナスの方を向いた。しかしルミナスが視線を合わせてくれることはなかった。そのままマーキュリーはネレイスと共に部屋を出て行った。

「…………」

「……よかったのですか?」

 部屋に残されたルミナスにエリミーヌがそう切り出した。

「……あまりに突然で……気持ちの整理ができなかっただけ……です」

「……そうですか……」

「……エリミーヌ……すみません、少し1人にさせて頂けますか?」

「畏まりました……ごゆっくり……」

 ルミナスの求めに応じエリミーヌはそっと部屋を後にしていった。

「…………ごめんなさい……マーキュリー……私は……」

 久しぶりに再会できたと言うのに抱きしめてあげることはおろかろくに話をすることもできなかった。その後しばらく部屋の中からはルミナスの泣く声が絶えず聞こえたという。


ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ラヴィス編 ~遠き日を思いて~


「…………」

 天界宮殿内に設けられた私室にラヴィスは1人で静かに時を過ごしていた。神界八将として神界所属であるラヴィスは神界宮殿内に私室を与えられているが、天界女王ルミナスの夫として天界宮殿内にも特別にラヴィスは私室を与えられていた。この天界宮殿の私室へは滅多に人を通さないようであり、1人になりたい時や特別な時に利用しているようである。

「ラヴィス様……?いらっしゃるのですか……?」

「……ルミナスか、入って構わんよ」

「はい、失礼します……」

 その私室に天界女王ルミナスが訪れノックをし許可を得てから中に入ってきた。神界宮殿内の私室ではノックもなく入っているルミナスがここまですることからラヴィスはこの部屋によほど人を近付けたくはないのだろう。

「……ルミナス、どうかしたか?」

「いえ……神界のお部屋にはいらっしゃらなかったので……」

「……そうか……」

「…………」

 時間はまだまだ昼間であり、この時間この部屋にラヴィスがいる時は大抵1人になりたい時である。ルミナスも特別用件があって来たわけではなく、ラヴィスの素っ気ない対応から邪魔をしてしまったのではないかと少しずつ不安になっていた。

「……そういう顔をするな」

 ラヴィスもそれに気付きやや気まずく思ったのか少し表情を崩しルミナスを隣へと座らせた。

「お邪魔でしたら……」

「いや……特に用がなくてもルミナスが気になって来てくれたならちゃんと相手にしなきゃまずいだろ」

「……すみません」

 軽く髪を撫でてもらったルミナスはここで先程までラヴィスが見ていたと思われる1枚の写真に目が留まった。

「ラヴィス様……これは確か……」

「……っと」

 ルミナスが気付いたことにラヴィスは一瞬しまったというような反応を見せた。

「……やっぱり1人した方が……」

「……いや、構わん……それに折角このタイミングでルミナスが来たんだしな……」

 その写真は相当古いもののようであり、少年時代のラヴィスと思われる男の子を含めた家族のものと思われた。

「…………」

「……お前にもあんまり喋ったことなかったもんな」

「……はい。……ラヴィス様が家族の写真を見てる時の寂しそうな時は……近寄り難く見ていられませんでしたし……」

「……そうだな」

 長い時を共に経たラヴィスとルミナスの間柄であったとしてもお互いに秘密にしているようなものがある。ラヴィスにとってルミナスと出会う前に暮らしていたラヴィスの家族についてはラヴィスもほとんど語ってこなかったことであり、SkyBlueのメンバー内にもそのことを知る者はごく僅かで、さらに話してはいけないこととして暗黙のうちに避けられていた話題であった。

「……ラヴィス様……」

「……なんだ?」

「後悔しているのですか?」

「……何をだ?」

「……あれから一切会わなかったこと……ですよ」

「…………」

 ラヴィスは今でこそ良家の令嬢だったルミナスと結ばれ不自由のない幸せな日々を過ごしているが、もともとの生まれはあまり裕福とは言えない家の次男坊であった。高齢となり仕事を辞めた父、その父を家事で支え続けた母、そして2つ上の兄の4人家族だったラヴィスは幼い頃から勉学よりも体を動かすことをよしとしてたびたび迷惑をかけることもあった一方で、ラヴィスの兄は両親に少しでも楽をさせてあげようと勉学に励んでいた。このことがだんだんと2人が大きくなるにつれてラヴィスの心境に大きな影響を与えていったのである。

「……顔なんて見せられねぇよ……勝手に飛び出していった挙げ句に我には出来すぎた嫁さんを貰っちまったんだから」

「……やっぱり後悔しているんですね」

「…………」

 ラヴィスなりに考えた家族を少しでも楽にさせてあげる方法……それは家を飛び出すことだった。ろくに勉強もせず遊び回っているような愚かな次男坊にかけてあげる手とお金を全部できる兄へと注いであげれば家族にとってもいいことだと考えたラヴィスはある日その旨を書き残し家を飛び出していった。それ以来ラヴィスが家族の前に姿を現すことはなかった。その後ラヴィスは遊び仲間だった将軍たちとつるみ、そしてルミナスと出会った。ラヴィスの兄は社会に出て大成し両親に楽をさせて家族3人仲良く暮らしたのである。

「……ラヴィス様……」

「……そうだな。やっぱり後悔してるんだろう……だからこの話をしたくないんだろうな……」

 その気になれば顔を出すことだってできたはずである。でもラヴィスはそれをしなかった。

「……ラヴィス様のお兄様はそれだけ立派な方だったのですね」

「…………ああ、我なんかよりもよっぽどできた人間だ」

「…………」

「……何も言わないんだな」

「……私はラヴィス様のお兄様を知りませんから何も言えませんよ……それともラヴィス様、私に"そんなことありません、ラヴィス様も素敵な方ですよ?"とか言って頂きたかったのですか?」

「……流石ルミナスだな……でも確かにそういう言葉はいらなかった」

「……ずっと一緒にいるんですよ?それくらい分かります」

 ルミナスが少し不機嫌そうに言ったのですかさずラヴィスはルミナスを近くに寄せた。

「……ま、そうだよな……」

「……ラヴィス様……」

 近くに寄せられたルミナスであったがあまり表情は明るくならなかった。普段であればもっと嬉しそうな反応をしてくれるはずである。

「……どうした、ルミナス?」

「……ラヴィス様はお兄様のこと嫌いでしたか?」

「…………」

「……先ほどからラヴィス様はお兄様のことをかなり気になさっている様子でしたから……」

「……いや、嫌いではない……」

「……では単純に"越えられない存在"だということですね……?」

「……そう……だろうな」

 ラヴィスにとって兄の存在は非常に大きかった。無意識のうちに兄と比べ、そして自らを下に見てしまっていた。

「……ラヴィス様……」

「ん?ルミナス……?」

 ルミナスはラヴィスをそっと抱き締めた。それはいつもの甘えるためのものではなく、ラヴィスを気遣った優しい暖かみのあるものであった。

「……お兄様はラヴィス様のことをどう思っていたのでしょうか……?」

「……さぁな?出来の悪い弟だって思ってたんじゃないか?」

「……でもお兄様もラヴィス様を嫌っていたわけではないのですよね?」

「…………」

「……仲が悪いのではなければお兄様と一緒に遊んだ記憶とかも残ってないのですか?」

「…………」

「……お兄様に対する劣等感でいっぱいだから今でもこのことを……」

 ルミナスはラヴィスがいつまでも暗い顔をし続けていたのがとても気になっていた。だから自分がなんとか気持ちを楽にさせてあげようと必死になっていたようである。

「……ラヴィス様……当たり前ですがもうお兄様に会うことはできません。それでも……」

「ルミナス、もういいぞ……」

「あっ……」

 そのことに気付いたラヴィスもルミナスを優しく抱き締めた。

「……あの後家族と会わなかったことには後悔しているが、あの時家を飛び出したことには後悔していないからな。いつまでもそのことを気にしたって仕方ないだろう」

「……ラヴィス様……」

「……さ、この話はおしまいにしよう」

 そう言ったラヴィスの表情はどことなく晴れやかであった。

「はい、そうですね……」

「……そうだ」

「はい……?」

「……この話はこの部屋の外ではしないでくれよ?」

「……はい、分かりました」

「よし、じゃあコーヒーでも淹れるか……」

 そしてすっかりいつものラヴィスに戻るといつものようにコーヒーカップを手にしルミナスと共に午後の一時を過ごすことにしたのである。



(SSs ラヴィス編 完)


ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ~案内編~


どうも、ラヴィスです。ついに10月1日となってしまいました。



ついに4周年ですよ!



いろいろありましたが今年も1つの記念すべき日を無事に迎えられてよかったと思います、はい。



さて、それでは本題の4周年記念について予告編と銘打って簡単に紹介させて頂きましょう。



今回はSSs(ショートストーリーズ)と題しましてこれまでたまーに放り込んでいたSS編なるものを集めた1話完結の簡単なSSを最大12回お届けしようということになりました。

これまでの3年と比べてちょーっと物足りないかもしれませんがやれる範囲のことを考えた結果こういう決断に至りました。

ひとまず定期更新の月曜日に1話ずつ公開を予定しています。第1話ではSkyBlue代表ラヴィスのお話を公開します!



それでは本日はこの辺で!月曜日からの公開をお楽しみに!


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プロフィール

ラヴィス

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

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