スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter14~

「……急がなければ……」

 紫色の厚く暗い雲が立ち込めた荒涼とした平野を1羽の立派な白鷲が飛んでいた。

「兄上ならば心配ないはずだが……」

 この白鷲は先ほど魔界から転送されてきたバレンシアの本来の姿であった。人の姿でもその剣技から“流麗”と呼ばれているが、白く立派な羽を広げて空を舞う鷲の姿も“流麗”の名に恥じない美しいものであった。

「……あれが冥界宮殿……研究施設のようだな……」

 バレンシアの目の前には骸骨の頭を模したようなデザインの冥界宮殿とその周りに建つ数々の施設が現れていた。グレモルがバレンシアを冥界へと派遣した理由。それは冥界宮殿で待機している冥界王リッチと会談をし冥界の協力を取り付けることであった。魔界十二使徒が直々に冥界へと出向けば当然冥界も動くことになるだろう……当然神界勢力に加担をする形でだ。冥界の戦力は魔界も警戒をしていた部分であり、冥界が参戦することで戦力バランスは逆転することになる。

「……冥界王は流石に話が分かっているな」

 冥界では既に部隊の編成が整えられており、有事の際にはすぐに出撃できるような状態であった。見慣れない白鷲が空を舞っていても不審者と見ている様子もなく主の号令の時を待っているようであった。そんな中バレンシアは宮殿前へと降り立ち人の姿に戻って中へと進んでいった。

「……来たな」

「……貴殿が冥界王……」

「……いかにも。私が第74代冥界王リッチ・ハーデスだ。貴女の話は聞いているぞ、魔界十二使徒流麗のバレンシア殿」

 バレンシアを出迎えてくれたのは冥界王自身であった。表情こそ窺えない不気味な存在ではあるがその声からはバレンシアの到着を待っていた風に取れた。

「……私が来た……ということは」

「分かっている。魔界十二使徒が直々に冥界を“攻めてきた”ということは明らかな“不干渉条約違反”にあたる。ただちに報復として冥界も魔界に部隊を派遣する」

「……既に準備を整えていらしたようで」

「当然だ。私もメンバーとして情勢は聞いていた……そろそろ頃合いだと思っていたさ」

 目深に被ったフードの奥でリッチの目が光りニヤリと口元が動いたような気がした。

「では我々は出撃する。貴女はここでゆっくりしておくといい」

「何故だ?私も……」

「……貴女を今魔界に戻す訳にはいかない。じきにグレモル殿もこちらに来るだろうがきっと同じことを言うだろう」

「……」

 確かにグレモルもこの冥界に逃げてくるはずなのでそれまでは自分も勝手な行動は慎まなければならないだろう。

「それに魔界がここにも攻め込んでくる可能性がある。大半の部隊で魔界に攻め込むからここの守りは手薄になるから多少なりとも魔界部隊の牽制となる存在が欲しい」

「……了解しました……兄上が来てから相談の上動きます」

「よろしく頼む。ではミント、ライヒェ、行くぞ!」

 そしてリッチは霊の部隊を率いるミントと屍の部隊を率いるライヒェと共に魔界へと出撃していった。

「……いよいよ大詰め……か……」

 冥界の参戦により魔界鎮圧作戦も終局の時が近付いてきていた。





「……やはり抑えられないか……!」

「ダメです、最終防衛ライン抜かれます……!!」

 精霊界に侵攻していた魔界王の進撃の勢いは全く衰えることなく、いよいよ精霊界の中枢区が間近に迫るところまで侵入を許してしまっていた。進軍方向も多少闇の地の方へと動かすことはできていたようだが十分なものにはなっていない。精霊たちも各々全力で立ち向かっていたがそれももう限界のようであった。

「……ネール様に連絡を!」

 現地を指揮していたイフリートはネールの指示通り連絡を入れた。

「……精霊界各員、至急撤退を!」

 するとネールの声がどこからともなく聞こえてきた。一瞬戸惑うような仕草を見せた精霊たちも中にはいたが速やかに精霊界中枢区へと撤退を開始した。それを確認したのか精霊界中枢区を守るような形で虹色の障壁が築かれていった。

「これは……一体……」

「中枢区全体を覆っているようですね……」

 虹色の障壁からはどことなく優しくて懐かしいような気が感じられていた。

「……これがアモンの言っていた障壁か……このような子供だましで止められるとでも……」

 その障壁にベルガザスは強烈な勢いで体当たりをかました。しかしその巨体での体当たりをしても障壁はびくともせず逆にベルガザスを押し返すくらいの力で弾き飛ばした。

「ぬぅぅ……!」

 その後何度もベルガザスは障壁に攻撃を続けていったが一向に障壁が破られるような気配はなかった。

「……ち……足止めのつもりか……」

「陛下!障壁が増えています……主に右側の守りを固めているようです」

「……ならばさらに固められる前に弱いところを突くとするか……」

 そしてベルガザスは障壁が少ない闇の地の方へと誘い込まれていった。

「……魔界の部隊が少しずつ闇の地へと動き出した」

「分かりました……少しずつ闇の地への囲い込みをさせていきます」

 その後も少しずつ魔界の部隊を障壁によって囲い込み続けていった。

「……ん……何だあいつは……」

 闇の地へと動かされたベルガザスは荒涼とした闇の大地に立つ虹色の影に気付いた。障壁と同じ色を放つこの影は明らかにその障壁に関係する存在であることは間違いないだろう。

「……貴様だな、この障壁を操作してるやつは」

「……そうですね」

 虹色の影は落ち着いた女性の声で答えた。

「……お前を消せば……」

「私に勝てるとでも?」

「……魔界王を前によくそんな軽口を……」

「……ここは精霊界です。精霊界で私に勝てるとでも?」

 他の精霊とさほど変わらない大きさではあったものの自分より体の大分大きいベルガザスを前にかなりの余裕を見せていた。

「……言ってくれたな……ひねりつぶしてやろう……!」

 ベルガザスは手加減なしに襲いかかったものの虹色の影は一瞬にしてその姿を消した。

「遅いですよ!」

 虹色の影はあっという間にベルガザスの背後を取り素早く連続キックをかました。

「効かんな!」

「当然……これだけで勝てるような相手ではないでしょう?」

 しかしベルガザスには全く効いていないようであった。すぐにベルガザスが足で弾き飛ばそうとするがあっという間に姿を消し移動する虹色の影には掠りもしなかった。

「チィ……逃げ足ばかり……!」

「その体では動きが鈍重ですね」

 その後も虹色の影はベルガザスを翻弄し続けていた。しかしそれだけでベルガザスは疲弊も負傷もなくただただ時間が過ぎていくだけであった。

「……あの影は一体何者なんだ……?」

「……あのシルエット……それにあの声……どこかで……」

「……もしや……」

 ずっと精霊たちは隔壁の向こう側から様子を見ていただが、中には薄々その正体に気付き始める者も現れ始めていた。

「貴様……おちょくるのもいい加減にした方がいいぞ」

「そちらこそ……これ以上やってもあなたに勝ち目はありませんよ?」

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!」

 一方その者の正体も分からずいいようにあしらわれ続けたことについに我慢の限界に達したベルガザスは強烈な負の気を放ちながら先ほどよりも激しい動きで虹色の影に襲いかかった。虹色の影は一瞬強烈な負の気に気おされたようであり、回避ではなく自分の目の前に障壁を作り出し身を守ったがベルガザスの勢いだけで吹き飛ばされた。

「……流石は魔界王……負の気と気迫だけでここまでやれるのですね……」

「フン……所詮はお前も魔界の気には弱いか」

 虹色の影は一度姿を消しまたベルガザスの前に現れた。若干影に揺らぎができ始めたと同時に障壁もやや薄くなっているように見えた。

「……ふふ、でもそれで勝ったとは思ってませんよね?」

「だが勝ちは見えた……お前をひねりつぶすのも時間の問題だ!」

 ベルガザスが再び猛攻を仕掛けてきたがそれを虹色の影が今度は丁寧に瞬間移動と障壁でのガードを組み合わせながら捌いていった。

(……準備完了ダ……)

(分かりました)

 その最中に虹色の影には闇の精霊RIOの声が届いていた。ネレイスが準備をしていた精霊界の防御策のもう1つを繰り出そうとしていたのである。

「……言いましたよね、精霊界で私に勝てると思っているのですか?」

「……どうした、急に」

「……貴方方が今どこにいるのか……お忘れですね」

「それがどうした?」

「明らかに誘い込むように敷かれた障壁……私の時間を稼ぐような動き……そしてこの場所……」

「……」

 虹色の影はどうしてもこの“闇の精霊管轄区”に魔界の部隊を縫い止めておきたかったのである。

「……精霊界女王の名に於いて命ず……精霊界を荒らす悪しき魔王に制裁を……!」

 そう言うと虹色の影は姿を消し、魔界軍を完全に包囲する形で新たに障壁が作られた。

「……ぬ……下か……!」

 ベルガザスは真っ先に地面の下から地鳴りのような低い音と小刻みに揺れる地響きを感じていた。精霊界の奥底から感じる力は始めのうちはかすかなものであったが、みるみるそれは大きくなていた。そして闇の地に相応しい強大な闇の波動はあっという間にベルガザスの持つ強大な力すらをも凌駕するものとなっていた。

「バカな……精霊界にこんな力を持つヤツなど……!」

 まだまだその力は遠くにあるようだが既に自らの力を凌駕しているものが近付いている。流石の魔界王ベルガザスも慌て始めていた。配下と力を合わせて何とか障壁を突破しようとしているが障壁はやはりびくともしなかった。

「……力を示しなさい、アドヴェルサー!」

 障壁の外に現れた虹色の影がそう言うと結界の内側に黒紫色の火柱が噴き上がっていった。

「うぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ネレイスが用意していた精霊界防衛の切り札。それは闇の精霊管轄区の地下奥底に住まう精霊界八理竜、厄災竜アドヴェルサーであった。今放っているこの一撃も精霊界はおろか神界ですらも滅ぼすことができるとされた底知れない力を持つアドヴェルサーにとっては体を少し動かした程度のほんのわずかな動作によって起こしているようなものであった。その一撃でベルガザスはその身を業火に包まれまたたく間に力を奪われていってしまった。

「……ぐぅぅぅ……ぬぅぅ……」

「アドヴェルサーと私がいる限り貴方に精霊界を攻め滅ぼすことなどできません」

「おのれ……貴様……貴様は一体……っ!」

「……そうですね……“精霊界の亡霊”とでも申しておきましょうか」

「亡霊……だと……?」

「……これまでに消滅していった精霊たちの総意……ですよ」

 自らを精霊界の亡霊と名乗った虹色の影はここでベルガザスを囲っていた障壁を解除した。大量の軍勢で精霊界へと攻め込んできた魔界軍であったがベルガザスを残し後は一瞬にして消滅してしまっていた。

「……本来ならここで消し去っておくべきなのでしょうが……決着をつけるのはあくまで今代の女王……今回は見逃して差し上げましょう」

「……貴様……正気か……?」

「……魔界王、早急に精霊界から立ち去りなさい!」

「……ここで仕留めなかったこと……必ず後悔させてやるぞ……」

 そして最後にベルガザスはそう吐き捨てるように言って精霊界から姿を消していった。

(……お膳立てはしました。後はネレイス……貴女に任せましたよ)

 虹色の影の奥にうっすらと見えていたのは紫色の髪をした美しい精霊であった。



←Chapter13     Chapter15→



スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

ラヴィス

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
来客者数
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。