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ブログ開設3周年記念特別SS 魔界鎮圧作戦 ~Chapter16~

「あれは……」

 エミリオの加勢に向かっていたランディとミディアの前方から1騎の竜が飛んできていた。流線形の特異的なフォルムのそれは間違いなくエミリオの愛騎であるアキオスであった。

「でもエミリオさんが……それにあれは何でしょうか……」

 しかしアキオスの主であるエミリオはその背中には乗っておらず、口には蒼い鳥の羽の一部をくわえているようであった。これが意味しているところをランディはすぐに把握していた。

「……ゲルデシアは仕留めたがエミリオもやられた……ということだね」

「エミリオさんが……?」

 アキオスはランディたちの前へと降り立ちくわえていた鳥の羽を離した。本物を見たわけではなかったがカラスのような羽であったがその特異的な色とかすかに残る魔界の気からゲルデシアのものであろうと推察できた。

「アキオス、ご苦労だったね。君の報告はしっかり受け取ったから早く主人の所に戻っていってくれ」

 ランディがアキオスの頭を軽く撫でながらそう言うとアキオスは少し寂しそうにうつむいた。主人と最後まで一緒にいたかったという思いがやはりあったのだろう。しばらくその場から動こうとしなかったがようやく気持ちを決めて後方へと飛び去っていった。

「……ちょっと急がないといけないかもしれないね……」

「……そうですよね……天使の皆さんが心配です……」

 アキオスを見送った2人は足早に天使たちのところへと急いだ。その先で天使たちは残ったゲルデシアの飛行部隊との戦闘を続けていたようであるがランディが見る限り残っていたのはヴァレリアを含めて数名程度でやはり休養が不十分で力を発揮しきれていなかったようであった。

「ヴァレリア、大丈夫かい?」

「貴殿は……ランディ殿……」

 最初は燃え盛る炎のように激しく美しい真っ赤な髪をした勇壮な姿を見せていたヴァレリアも今では疲れ果てた様子であり、傷だらけのその姿には十二聖女の風格はなかった。

「……ヴァレリア。君たちはもう十分頑張った、ここは僕たちが引き受けるから天界へと退いてくれ!」

「……しかし……」

「……惨めな姿で戻ることはできないとでも思っているのかい?私情に流されて判断を誤っちゃいけないよ。危なくなったら一旦退くのが鉄則、生きていれば回復して戦線に復帰することだってできるんだからね」

「……そうだな……すまない……」

 そう言うとヴァレリアはすぐに配下の天使たちを下げさせた。そして自分より後ろに下がっていったのを確認すると持っていた槍を一閃し炎の壁を作った。

「……後は任せた、ランディ殿、ミディア殿」

「任せてくれ」

「はい、頑張ります……」

 最後に足止め攻撃を放ちヴァレリアたちは撤退していった。撤退が完了した辺りで炎の壁は消え、数はそう多くはないものの有翼生物たちの群れが迫ってきていた。

「……あんな偉そうなこと言っておきながら僕だって言ってることはおかしいよね。この状況はどう考えても1人でも多くの味方がいてくれた方が心強いというのに……」

「で……でも……お……お役に立ちますよ!」

「そうだね、ミディア。君の力……期待してるよ」

 ランディの前に大きな盾を構えたミディアが立ちふさがった。この状況下であっても鎧をまとい大盾を構えたミディアがいてくれるだけでとても心強く感じた。

「……後ろに攻撃は通しません、行きますよ!」

 そのミディアに向かって次々と攻撃が放たれていった。





「……ヘッ、隠れるのは相変わらず上手だよなぁ!」

 群がる魔界軍を鎌で容易く切り裂きながら力の中心を目指してファラは突き進んでいた。魔界宮殿前に広がる庭には石で作られているオブジェのようなものがたくさん並んでいたが、その中の1つしかファラの眼中にはないようである。

「おらっ!そこにいるのは分かってるんだぜ、出てこいよ!」

 ごつごつした巻貝のようなオブジェに向かいファラは鎌型の衝撃波を放った。その衝撃波は巻貝の部分を捉えると台座から地面へと叩き落とした。

「……くっそ、何故バレた?」

 その巻貝の中から大きなハサミを持った生物が顔を出した。この巻貝を住処にしているヤドカリだったようである。しかしただのヤドカリと比べてもその大きさは圧倒的に大きく、宿にしている巻貝だけでなく中身も堅い殻に守られているようであった。

「バレバレなんだよ、守勢のコーネフ!」

「……何でその名前を知ってるんだよ!?」

「……ハァ……つまんねぇな……みんなしてオレのこと覚えてねぇのかよ……」

 コーネフの反応もファラのことを覚えていないようなものであったためにファラはわざとらしく不満げな態度をとってみせた。そんなファラをコーネフは殻から顔を出してしげしげと眺めた。

「……げ……お前まさか……」

「ん?」

「……お前……ファラ!?消えたんじゃなかったのかよ!?」

 血に染まったような真っ赤な腕、体に見合わない大鎌、悪魔のような角を持ち悪戯が好きそうな顔を半仮面で隠して不敵な笑みを浮かべていたその相手はかつて幼かった頃に自分が組むことになった相棒で、はるか昔に消滅したと聞かされたファラのあの時あのままの姿であった。

「なんだよ、覚えてるじゃねーか」

「……何で……お前が……」

「……おーおーそんなでっかくなっちまって……いいよなぁ」

 かつての相方が全く同じ姿で現れたことに動揺を隠せない様子のコーネフ、かつての自分の相方が立派に成長していたところを見て羨ましげにぼやくファラ。久々の再会にお互いそれぞれの反応を見せていた。

「……ファラ、お前が何故ここに……お前は消滅したはずじゃ……」

「消滅?オレが?……オレはただ“封印”されてただけだ。封印が解けたもんでようやくこうして動けるようになったってわけだ」

「だからその体のまま……というわけか……」

 ファラが真相を明かしたところで再びファラはコーネフに鎌をつきつけた。

「さて、んなことはどーだっていい。今オレはお前を消しに来たんだよ」

「……何故だ?戻ってきてくれたんじゃなかったのか?」

「ちげーよ、オレは今ネレイス様の味方だ。これから魔界王をぶん殴りに行くからお前が邪魔なんだよ」

「……どうしてそっちについたんだよ!?お前だって……」

「封印を解いて自由にしてくれた貸しがあるからな。それにオレの主はいいやつだ、魔界王なんかよりもはるかにな」

 そう言ってファラはコーネフに一撃を見舞ったがその一撃はコーネフのハサミに弾かれた。

「……チィ、守勢とはよく言ったもんだ、こんなカタブツになっちまいやがって」

「ガキの力なら簡単に止められるさ」

「……へぇ、言ってくれるじゃねぇか」

 侮られたファラはそこから猛攻をかけていった。1つの箇所に何度も攻撃を叩きこめばいつかは破壊できるものだとファラも考えていた。

「……くっそ、本当に攻撃が通ってる感じがしねぇ」

 しかし攻撃してもコーネフのハサミには傷ひとつつく様子がなかった。

「攻撃が乱雑なのは相変わらずだな、ファラ!」

 一方コーネフは無理にファラを倒そうとは考えてないようであり、守って凌ぎ切ろうという構えを見せていた。魔界宮殿にはコーネフが張った防御結界があり、コーネフを撃破しなければ宮殿内には入れないということが本人にも分かっているために“守勢”と呼ばれるその守りの姿勢を貫いていれば魔界が負けることはない。

「……くっそ、ミディアを見てて思ったがやっぱりこういうヤツは面倒だな……」

 その後も容赦なくコーネフに鎌を当て続けていくが一向に埒があかないようであり、ファラにもお手上げのように思えた。

「……なーんてな。オレの攻撃が通用しないってことはよーく分かってるよ……だからな……」

 しかしファラは余裕ある様子であるものを取り出した。

「こいつの力を借りてやるぜ」

「……ん……」

 ファラの手には何故かヒキガエルの姿があった。

「……それは……」

 それを見たコーネフの様子がわずかに変わった。努めて表情や動きには出さないように心がけていたもののその微妙な変化をファラは見逃さずすぐにファラは不敵な表情へと変わっていった。

「ま、お前も今じゃ立派な“守勢のコーネフ”なんだし当然これも平気になってるよな……?」

 そしてファラはコーネフに思いっきりヒキガエルを投げつけた。コーネフは反射的にハサミで叩き落としてしまった。

「おいおい、可哀想なことすんじゃねぇよ……」

「変なもの投げつけられたら反射的に払いのけようとするだろ……!」

「変なものとか言うなよ……カエルかわいいだろ?」

 そう言いながらファラは叩き落とされたヒキガエルをそっと拾い上げた。大分乱雑に扱われていたがヒキガエルは何も問題なさそうにファラの手の上でゲコゲコと鳴いていた。このやりとりからコーネフが未だにカエルが苦手なことの決定的な証拠となった。

「同じ水棲生物なんだから仲良くしろよな!」

 味をしめたファラはさらにカエルの量を増やしていた。それを見たコーネフの表情は露骨に嫌そうなものへとなっている。

「棲んでるとこが違うんだよ!!」

 もうカエルが苦手であることを隠さなくなったコーネフは宿にこもって出てこなくなった。カエルは苦手であるものの忍耐力はつけてきており、我慢さえ続けばファラの攻撃力では突破ができないだろうという考えだった。

「……ケッ、都合が悪くなるとすぐそうやって引っ込む。相変わらずだなぁ、コーネフ!」

 ファラはガンガンと大鎌をぶつけていくがやはりコーネフの宿には傷一つついていないようであり、当然コーネフ自体にもダメージは与えられていなかった。

「……ただ……オレが見た目のまんま成長してないと思ったら……大間違いなんだよっ!」

 するとファラは半仮面をとっぱらった。その瞬間にファラの体は成長した立派な死神の姿へと変化していった。しかしその姿は宿にこもったコーネフからは一切見えていなかった。

「おらっ!」

「ぐ……っ」

 成長したファラの一撃はまだ宿に軽くひびを入れられる程度の威力であったがコーネフをひっくり返すには十分であった。

「ほらほら、これでどうだ!?」

 ひっくり返し口を開けたコーネフの宿にファラは次々とカエルを放り込んでいった。かつて互いにまだまだ小さかったころにファラはこうしてコーネフの宿にカエルを押し込んで遊んでいた。それ以外にもファラはカエルを使ってコーネフを幾度となくからかってきたことからずっとカエルはコーネフのトラウマ要因となっていたのである。

「…………」

「……へぇ、我慢はできるんだな」

 コーネフがカエルを我慢している間にファラは集中して力を溜めている様子であった。立派な鎌が妖しく光り出すとファラが赤黒いオーラをまとっていった。本来であればすぐに集中を切られてしまうところであったが、宿にこもって身を固めているコーネフには当然今ファラの姿は見えておらず、さらには入口をカエルで塞いでいたことから抜け出すこともできない。徹底的にコーネフの動きを封じたからこそできる大技だった。

「……告死一閃!!」

 最大まで力を溜めたファラはコーネフの宿めがけて鎌を振り抜いた。コーネフの宿を捉えた深紅の鎌は一切の抵抗もなく切り裂くと残った宿の部分も一瞬にして粉砕していった。そしてその中からこもったままのコーネフが姿を現した。

「何が……」

「……っと、あっれー……ちょーっと狙い外れちまったかなー……」

 そういうファラは不気味な笑みを浮かべていた。わざとらしくそう喋ったということはコーネフにも当然分かっており、それがまだまだ遊び足りないということを示しているのも容易に認識ができた。初めて見たちゃんとした姿のファラ。本物の死神となった彼女の力であれば当然今の一撃で決めきることができたはずである。コーネフにとって今の一撃で生かされたということは葬られるよりも怖いことであった。

「……ま、いいか……次は外さねぇからな」

 ケラケラと笑うファラの姿はコーネフにとっては魔界王よりも恐ろしく見えていた。





「……結界……消えた?」

「みたいだな、じゃあ行くとするか」

 しばらく町中から様子を見ていた将軍たちであったが、やがて宮殿を守っていた結界が消えたことを確認すると隙を見て宮殿へと入っていった。

「……よぉ、待たせたな」

「お前……ファラ?」

「……そういやお前たちにもこの姿見せてなかったよな」

 宮殿前の庭では立派な死神へと変わっていたファラが待っていた。その足元にはコテンパンになったようであるコーネフが殻まで剥かれて完全にのびていた。

「……ひとまず宮殿への道は開いた、さっさと行って来い」

「ファラ、お前はどうする?」

「……この宮殿は攻め口がここ1つだけだ……だからコーネフはここを守ってた。だから今度はオレがここを守る」

 ファラは宮殿に入ってこようとする魔界の部隊を食い止めようとしていた。現にコーネフが破れたことを察した魔界の部隊が押し寄せつつあるようだった。そのため宮殿に突入したネレイスたちの背後を突かれないようにする必要があった。

「……将軍、頼むぜ」

「構わんよ、お前もあっさりここを抜かせるんじゃないぞ?」

「……オレは神界八将の軍神付き使い魔だぜ?」

「使い魔とか格好つけたこと言いやがって……ま、大丈夫だろうな」

 そう言うと将軍は宮殿に向かって駆け出して行った。その後を完全に空気な存在となっていたクロノスが続いていく。

「……ネレイス様、任せた」

「うん、絶対に……決めてくるから」

 最後にネレイスがそうファラと言葉を交わして突入していった。

「……さーて、邪魔はさせねぇぜ。魔界十二使徒、朱腕のファラが相手になってやるよ」

 ファラの前には既に多くの魔界軍部隊がやってきていた。軽く一息ついたファラはすぐに鎌を回すと目にもとまらぬスピードで斬りかかっていった。





「……く……流石に僕の魔力では限界か……」

 ミディアが押しとどめていた敵に対してランディが後方から風魔法で援護をかけていたのであるが、元来法撃士ではないため魔力の量は少なく相手を全て倒しきるまでには至らなかった。

「ランディさん、残りは任せて下さい!」

 残った敵はミディアが攻勢に移ることで捌いていくことができた。これで辺り一帯の敵を殲滅することができたようである。

「……なんとか片付いたようだね」

「はい……これで……」

「……待った。……嫌な気配がする」

 ランディの視線の先はゲルデシアが飛んできた山間部の方角であった。その方角から何かの影が動いてきているように見えていた。

「……次がいるみたいだね……」

「……凄い数いるんですね」

 1つの部隊を退けてもまたすぐに次の部隊がやってくる。魔界軍全体の層の厚さは当然分かっていたことであるが、魔界鎮圧作戦の終盤に来てこちらの戦力が落ちつつあるところに次々と相手をしなければいけないのは相当厳しいことである。

「……流石にこれを僕らだけで相手にするのは厳しい。下がるべきだろうね」

 ランディは早いうちに撤退を考え戦いやすい状況に持っていこうとしていた。すぐに下がっていくランディであったが振り返ってもミディアはついてきていなかった。

「ミディア、下がるよ!」

「……ランディさん、下がって……どうするんですか?」

「ミディア……?」

「……みんなもいっぱいいっぱいなんですよ?そこに私たちが下がって敵を呼び込んだら……」

 ミディアはランディに背中を向けたまま動こうとはしなかった。

「……ランディさん……敵を倒すことだけがこういうときの戦いではないんですよね?」

「…………」

「敵の部隊を足止めして戦う数を減らすことも策の1つなんですよね?ここは……私に任せてもらえないのですか?」

 普段はランディの指示通りに動くことが多いミディアが今回ばかりはランディに反抗していた。自分の意思を持って自分の意見を述べるミディアの姿は鎧神の名にふさわしい風格ある立派なものに見えていた。

「……困ったね……ここまでミディアにはっきり言われるとは思ってなかったよ」

「私だって……言いたいことは言います」

「……ふふ、じゃあ任せてみようかな」

「……ありがとうございます」

 意志の固さも鎧神の名にふさわしいものであることを知っているランディはようやくミディアが残ることを認めたようだ。

「……ただ君がそこまで言ったんだ。だから約束してもらうよ?」

「何でしょうか?」

「絶対に敵を後ろに通しちゃダメだからね」

「……分かりました、鎧神の名において……必ず」

 最後にそう言葉を交わしてランディは足早にその場を立ち去っていった。残されたミディアが前を向くと魔界の部隊の影は大分大きくなっていた。

「……これほどの数をさっきエミリオさんや天使の皆さんが相手にしていたのでしょうか……」

 数百はありそうな敵影を前にしていたミディアであったが一切怯むことはなかった。ゼクトール戦での疲れもほぼ回復し、先ほども主にランディが捌いてくれて体力の消耗は少なく、万全に近い状態で戦いに臨むことができていた。

「……でもランディさんとも約束しました……ここは絶対に……通しません!!」

 魔界の部隊は先ほどとほぼ同様に飛行部隊が中心であり、散開しながら飛んできていた。魔界の部隊の側からも緑に橙色の目立つ鎧を身に付けたミディアの姿は捉えているようだが、単騎でいることをいいことに眼中にはない様子でありこのままでは素通りされてしまいそうな状況であった。

「……皆さんの相手は……私です……!!」

 ミディアの体から淡い緑のオーラが発せられるとミディアを無視して突破をしようとした魔界の部隊がミディアの立っていた横のラインに到達した瞬間に見えない壁に激突して動きが止まってしまった。その時ミディアは大盾を構えてはいなかった。絶対守護障壁とは異なる手を使って敵の進軍を止めたのである。

「これが……えっと……その……なんでしたっけ?」

 当の本人がどういうものか忘れていたこの力はZoneOfControl、略してZOCと呼ばれるものであった。支配領域と称されるこの力は範囲内の敵が効果使用者の後方に抜けようとする動きを完全に封じてしまうものである。さらにはこの効果によって動きを封じられた相手の力を一定程度削ぐことも可能であり、このZOCを打ち破るには発動した者を撃破するしかないために自身が倒されるリスクを軽減させることもできる防衛に特化した能力であった。

「……ま……まぁこれで敵の注意は引けました、後は守りきるだけです……」

 魔界の部隊もミディアの無視ができないことを察しすぐさま数の力でミディアに襲いかかっていった。





「ラヴェンナ、大丈夫か……?

「……すみません……お手を煩わせてしまって」

 ゾルホス旗下の部隊を相手にしていたラヴェンナ率いる天界部隊はラヴェンナ含め残った者はみな瀕死状態であった。ヘリオスがゾルホスを捌きなんとか援護にかけつけたことで全滅は免れたが少しでも遅くなっていたらどうなっていたかは分からなかった。

「……あれだけのやり手を相手によく凌ぎ切った。それだけで十二使徒としての面目も保てるだろう」

「……そうですか……」

「……ラヴェンナ、ここは預かる。君たちはもう天界に下がってくれ」

 しかしこの状態ではもう到底戦力にはなれない。ヘリオスはラヴェンナに撤退を指示した。

「……分かりました……ヴァレリア様も撤退なさったと聞いていますので……私も……」

「ヴァレリアも退いたのか?」

「はい……そう報告を受けました……」

「……」

 ヴァレリアはエミリオと一緒に魔界の部隊を相手にしていた。ヴァレリアが退いたということはエミリオにかかる負担も大きくなるということであり、ヘリオスはエミリオの身を案じていた。

「……これで天界の部隊はみな撤退することになります……お役に立てたでしょうか?」

「そうだな、十分役に立ってくれただろう。全てが終わった後ネレイスから礼を言ってもらえるだろうな」

「そうですか……それならよかったです……」

 ラヴェンナはヴァレリア撤退の報と共にエミリオも撤退したという報告を聞いていたが口にはしなかった。エミリオとヘリオスの関係はどことなく察しがついており、今ここでヘリオスにそのことを伝えるのは酷だというラヴェンナの気遣いであった。

「……ではすみません……後は任せます」

「ああ、残りは我々神界勢力が片付ける」

 ラヴェンナは後事を託すとボロボロになった他の天使と共にゆっくりと後退を始めていった。

「……かなり動きが出つつあるな……」

 魔界鎮圧作戦も終盤にさしかかったためか魔界軍だけでなく味方にも大きな被害が出始めていることをヘリオスは感じていた。兵器工場で起きた爆発、そして先ほどは魔界首都方面での爆発。これが“聖女”による特攻であることはすぐに分かりその身を使いきって戦う者たちが出始めている。

「……俺も覚悟を決めなければならないか……」

 ヘリオスの視線の先には首都の城壁があった。ネレイスは既に魔界宮殿に向かっていったが少しでも戦力が欲しい状態なのに違いはない。その身を散らして活躍を見せた者たちのためにも進んで行かなくてはならない。

「……騎神ヘリオス……これより参る」

 フォルカークにまたがりヘリオスは単騎首都の方を目指して進軍していった。





「…………」

「リヴィエール……様」

「……あんなことを言ったのは……全部……」

 リヴィエールが率いる精霊界の部隊はうまく敵を引きつけていた。敵の部隊は多少困惑していた様子だったのが気になったがそれでもネレイスの姿をしたリヴィエールを仕留めようと前のめりになった瞬間に手薄になっていた城門正面から魔力による爆発が起きた。それがルミナスの起こしたものであることが分かるとラヴィスが何故あそこまで念を押して無理をするなと言ったのかも分かった気がする。

「……リヴィエール様。ネレイス様の次に守らなくてはいけないのがリヴィエール様なのですから……」

「分かっています……でも……私は……」

 そこに再び魔界の守備隊が追い付いてきていた。精霊界の部隊は少しずつ下がりながら首都正面へと回り込んでいった。

「……私はネレイス様の……代わりとなるべくここに遣わされたのです……私は……私は……」

 ルミナスが特攻した首都正面では混乱からようやく立ち直ったとみられる魔界の守備隊が急ごしらえながら陣形を組んでいた。

「もう私がネレイス様でないことなんてとっくに分かってしまっているでしょう。でしたら……もう……」

 リヴィエールは偽剣エンジェルティアを構えていた。目線は既に首都の奥、魔界宮殿を見据えていた。

「……突破します!」

「リヴィエール様!!」

 リヴィエールは一気に陣形に乱れがある部分を突いて突入していった。

「……ふっ!はぁっ!」

 なかなかの身のこなしで相手の攻撃を捌きながら進んでいったが思いの外相手の反応が早くリヴィエールが突入する隙間をすぐに潰してきていた。

「……数が……」

 ネレイスであればこのような状況であっても活路を見出すことができるのだろうが残念ながら自分にはその力がない。リヴィエールは突破が無理と見るとすぐに戻ってきた。

「リヴィエール様、無茶をなさっては……!」

「大丈夫です、これくらいっ……!!」

 仲間の下に戻ってきたリヴィエールであったが、その直後にがっくりと膝をついて倒れ込んでしまった。魔界の負の気によって精霊界の部隊は常にその生命力を削られ続けてきていたのだが、それによりリヴィエールの体力の限界が来てしまったようである。

「リヴィエール様!!」

「こんな……時に……」

 リヴィエールは気持ちを高揚させすぎて周囲の負の気の強さを完全に忘れてしまっていたことがいつも以上に強く生命力を削られてしまっていた。体はもう言うことを聞かずまともに動くこともできない。

「撤収だ!撤収ーーっ!!」

 たまらず傍にいた精霊がそう声を張り上げた。大将のリヴィエールが危篤となったことでこれ以上の戦線維持は困難と見たのである。

「……そうね……撤収準備……急いで……」

 リヴィエールも苦しげにそう言った。体が黒く変色しているは負の気による侵食症状の中でもほぼ末期に近いものである。

「リヴィエール様も!」

「…………」

 自分の体のことは自分が一番分かっていた。一度負の気により侵食されたこの体が治る見込みは恐らくない。このまま精霊界へと帰還ができたとしても存続していられるかと言えば無理であろう。

「リヴィエール様……!!」

「……早く行って下さい」

「リヴィエール様、何を……!?」

 自分の未来はないことを悟ったリヴィエールにできることは連れてきた精霊界の部隊を極力無事に送り返してあげることであった。黒くなった体に自ら気休めの回復術を使いよろよろながら立ち上がると魔界の部隊の足止めになるよう水魔法で応戦した。

「……皆さんが下がったら私もすぐ行きます……早く!!」

 ボロボロのリヴィエールが言うには説得力に欠けていたが部隊を率いていたリヴィエールの言葉だったので仕方なく精霊たちは次々と撤退を始めていった。そしてリヴィエールの足止めも利いたようであり無事に残っていた精霊界の部隊は無事全員撤退を完了させた。

「……部隊の指揮者としての役割は果たせましたね……」

 リヴィエールはやることをやりきりその場に倒れ込んだ。生命力も魔力も使いきったリヴィエールにはもう何もできることは残っていなかった。

「……私……私は……」

 魔界の部隊がとどめを刺しに来る様子はなかった。もう手を下さなくても問題ないということが分かっていたのだろう。

「……役目を……果たせた……のでしょうか……」

 リヴィエールの体はそのまま真っ黒になっていき偽剣エンジェルティアとともに溶けるようにしてなくなっていった。

「……間に合わなかったか……」

 その様子をヘリオスがそっと見ていた。フォルカークを飛ばしていた間に慌てて下がっていく精霊たちを見てリヴィエールの危機を感じ取っていたが到着した際にはもう既にヘリオスでも手の施しようがない状態だった。顔を出そうかとも迷ったがリヴィエールが最期まで頑張ったことをそっと見届ける方がリヴィエールにとってはいいような気がしたために駆け寄ることはしなかった。

「……さて、どうしたものか……」

 ヘリオスは体力的にはまだまだ余裕があった。しかし次々と味方が減っていく中で軽はずみに突撃することは控えなければならない。当然様子を見るのが今はよい選択と言えるだろうがそうすれば首都の守備隊は体勢を立て直し守りを固められてしまう。

「……突破は諦めて援護に入るべきだな」

 ヘリオスは魔界首都突破を諦め味方の損害を抑えるべく遊撃を行い始めた。これによりネレイスを支えられるのは将軍とクロノス、そして首都を駆け抜けていったラヴィスだけとなった。


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Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
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