スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ナゲキノセカイ ノ モノガタリ


――これは神界の記録からも消し去られようとしていたある世界のお話である










 かつてこの世界には自然の恵みが溢れていた。青い空に草木が生い茂り、綺麗な水面の湖の周りには多くの精霊たちが顔を出し楽しそうに遊んでいた。しかし精霊たち以外にこの世界に動物のような姿は見られない。人間はおろか鳥や魚、虫すらもこの世界には存在しない……純粋に精霊のみが暮らしている世界であった。

「…………」

 その日もいつもと変わらない平和な一日であった。……あの時までは

「…………!!」

 一番最初にその異変に気付いたのはこの世界の空を舞っていた風の精霊たちであった。突如空に小さな歪のようなものができると一瞬だけ開いたそこから精霊たちが見たこともないような生物が現れたのだった。その生物は空の上に投げ出されたような状態になるとそのまま真下の湖に向かって落下を始めたのであった。

「……!!(わたわた)」

 突然の出来事に精霊たちは慌てふためくだけであった。結果その生物は大きな水柱を上げて湖へと落下していった。

「……何をしているんですか?早く引き上げなさい」

 その様子を見ていた1匹の精霊がそう声を出した。その姿は実体ではない虚像のようなものに見え、その姿を包むように淡く光る青白い光は非常に幻想的で普通の精霊ではなさそうだということが窺えた。そしてこの精霊の指示の下すぐさま水の精霊たちが動き出し、その生物を引き上げて精霊の前へと運んで行った。

「…………」

 その生物は蒼い髪をした人間であった。これまでに見たこともない人間がやってきたことに精霊たちの反応はさまざまであった。未知の生物を目にして恐怖のあまり逃げ回るもの、物陰からそーっと様子を窺うもの、そしてその人間の周りにまでやってきて興味深げに覗き込んでいるもの……そしてそんな精霊たちに指示を出した特殊な精霊が最初に声をかけた。

「何者ですか?どうやってここに来たのですか?」

 しかしその声には答えなかった。今この人間に意識はないようであり、さらには身につけていたものもボロボロで、体には殴られたり蹴られたりしたようなあざの痕がたくさん残っていた。この人間は瀕死の状態であることが特殊な精霊にはすぐに分かったようである。

「……行ける子は先の空間の歪を調べなさい。後の子はこの子の手当てをしてあげるように」

 そう指示を出すと自身もすぐさまその人間の手当てを始めたのであった。





 ・
 ・
 ・



「…………」

 別に私が何かしたわけではないのにいつも私はみんなからいじめられる。昨日も、今日も、そしてきっと明日も……

「おいおい……その辺にしとけよ……」

「しゃーねぇな……」

 今日の暴力は一段と激しかった。始めはいつものように暴力を振るう男のところへ呼び出されただただ意味もなく殴られただけだったけど、今日はその後“バーベキューをする”と言って男の仲間を呼び出し河原へと引き回されてそのまま転がされると時折炭を押しつけられながらバーベキューをしているところをずーっと眺めていることしかさせてくれなかった。せめてもの救いはいじめる男が見てないところで男の仲間がこっそりとお肉を食べさせてくれたことだった。とてもおいしかった。そして日もすっかり落ちて辺りも暗くなったあたりで今日のいじめはようやく終わった。

「……っと、炭で汚れちまってるし火傷もしちゃってるからちょっと冷やしてやらねぇといけねぇか」

 最後に男はそう言うと私を持ち上げると川の中へと放り込んだ。派手に水しぶきをあげて私の体は川の底に沈んでいった。

「……おいおい、大丈夫なのか?」

「平気だろ、自分で這い上がってくることくらい……」

 男はそう言ったけど私の体は重くて全く体を動かすことができなかった。冷たく暗い水の底にそのまま引き込まれていった私はそのまま死を覚悟した。このまま死ねればもういじめられるようなこともなくなるだろう……そう思いながら私の意識は薄れていった。



 ・
 ・
 ・





「……ん……」

「……目を覚ましたか」

「ここは……」

 人間はしばらくしてから目を覚ました。その人間が真っ先に目にしたのは今までに見たこともないような不思議な姿をした存在であった。

「……その前にお前は何者だ……?」

「え……あ……私……は……」

 気圧されている様子の人間はまだ混乱したままでなかなか気持ちの整理ができていないようだったが、しばらくしてようやく落ち着いてきたのかゆっくりと喋り出した。

「……私は……プリローダ」

「……プリローダ?」

「……さっきまでいじめられて川に投げ捨てられていたのですが……気がついたらここに……」

「……そうか……」

 精霊は少し考え込んでいるような表情になった。そこに他の精霊たちがやってきた。

「ガンナ様……歪みの痕跡については何も……」

「そうですか……」

 プリローダが現れた歪みを調べていた精霊たちであったがどう調べても何も分からなかったようである。

「……申し遅れました、私はタビア=ガンナ……精霊だ」

「精霊……様?」

「……見たところ精霊を見たこともないようだが……」

「……精霊なんて空想上の生き物だと思っていました……」

「……無理もない……人間の前に姿を現すことなど稀なのだからな……」

「そうなのですね……」

「……とはいえここの精霊たちもみな人間を見たことがない……ここは人間がいない場所なのだからな」

「…………」

 気持ちの整理は付けたとはいえあまりにも突拍子もない出来事の連続にプリローダは混乱したままであった。

「……でも……その……」

「何だ……?」

「偶然なのかもしれませんが……私を助けて頂いたこと……感謝します」

「…………」

 それでもプリローダは丁寧に頭を下げた。なにはともあれプリローダはいじめられる日々から解放されることになったことへの感謝をしておかなければという気持ちが強かったのだろう。

「……それで誠に勝手なのですが……しばらく私をここに置いてもらえないでしょうか?」

「……それしか方法はないのだろう?帰る方法など分からないのだからな……」

「そうですね……ではしばらくお世話になります……」

 ガンナからの許可ももらえ、しばらくはこの世界に滞在することとなったプリローダの精霊たちとの生活がここから始まった。





「これを私に……?ありがとうございます」

 プリローダは精霊たちから小さな髪飾りをもらっていた。その辺の草原に生えているなんともないただの花と草の茎で作られた簡単なものであったが、プリローダはそれを嬉しそうに受け取ると早速つけてみせた。それを見た精霊たちが似合ってるとでも言いたげな歓声のようなものをあげていた。

「大事にしますね」

 プリローダがこの世界で暮らし始めてから1週間ほど経っていたが、もう既に精霊たちと完全に打ち解けている様子であった。人間を見たことのない警戒心の強い精霊が多くいた中でここまで早く打ち解けることができたのはプリローダの頑張りともともと精霊たちに好かれやすい何かをもっていたからなのであろう。

「みなさんこんなに歓迎して下さるなんて……私も嬉しいです」

 これまでいじめられ続ける日々を送っていたせいでここまで優しく接してくれる精霊たちにプリローダもすっかり気を許していた。

「……お前もすっかり精霊たちの輪に混ざれたようだな……」

 その様子を微笑ましそうに見ていたガンナがゆっくりと近付いてきた。それを見て精霊たちは慌ててガンナの方へ向き直った。

「ガンナ様……はい、おかげさまで……」

「……別にお前は様で呼ばなくても構わない……」

「ですが……ガンナ様は恩人……」

「気にしなくてもいい……それよりも人間はよからぬ生物だという噂を耳にしたことがあった……だがお前を見る限りそんなことはなかったようだな……」

「…………」

 ガンナのその言葉にプリローダは表情を曇らせた。

「……どうした?」

「……よからぬ生物……そうですよね……」

「……お前は違うと言っただろう?」

「……そうかもしれませんが……私たち人間が精霊に何かをしたのですか?」

 プリローダの言葉に今度はガンナが表情を曇らせた。

「……私はこの世界から離れることはできないが……それでもたびたび噂のようなものを聞いたことがある」

「噂…………」

「……人間が精霊たちの棲む環境を破壊し……命を奪うようなこともある存在だと……」

「…………!!」

「……私利私欲のために動き自然を壊し、精霊もないがしろにしているというのにその精霊や自然の怒りとも取れる災害に対してはなんとかして精霊の機嫌を取ろうとする……」

「…………」

「……失礼した……」

「いえ……それは私もよく分かりますから……」

 プリローダ自身もいじめられる立場であったことから今のガンナの言葉は精霊たちが自分と同じような苦しみを味わっていることを示していたためにまるで自分のことのように感じていた。

「……プリローダ?」

「人間は人間をも虐げる生き物ですから……」

「……プリローダ……お前……」

「……皆さんになら……」

 そう言うとプリローダは身につけていた服をゆっくりと脱ぎ始めた。あの日ここへ飛ばされてきたそのままの格好であり、やけにその格好がボロボロだったことにガンナも気付いていたがその時は全く気に留めていなかった。

「……そういうことか……」

 プリローダの服の下には無数の痣や傷跡がのこっていた。元の世界で毎日のように男にいじめられて付けられたものである。

「……精霊のみなさんも……こんな目に遭っているのですね」

「……そのようだな……」

「……私はみなさんにこのようになってほしくはありませんから……」

「……これからも仲良くしてやってくれ……精霊しかいない何もないところだが……いつまでもここにいてくれて構わないぞ」

「……ありがとうございます……」

 ガンナの言葉にプリローダは静かに涙を流した。ここがプリローダにとっての安住の地となる……そのはずだった。











「あ、待って下さいよ!」

 プリローダがこの世界にやってきて3か月近く経ったある日のことだった。この日もプリローダは精霊たちといつものように仲良く遊んでいた。しかしいつもはその様子を眺めているガンナの姿はここにはなかった。ガンナは先ほど険しい表情をしたままどこかに姿を消していた。たびたびそのような姿を見せていたことからプリローダもあまり深くは考えていなかったが、回りの精霊たちの接し方やその行動からただの精霊ではないであろうことは想像がついていた。

「……あれは……?」

 ふと空を見上げたプリローダはそこに僅かな綻びが見えたような気がした。

「……何でしょうか……この……」

 その光景はプリローダをどことなく不安にさせた。何か良くないことの前兆な気がしてならなかった。

「…………あ、待って下さい!」

 しかし精霊たちはそのようなことなどお構いなしのようにプリローダを引っ張っていた。その勢いに負け一瞬目を離してしまった。その視界の端で何かが落下していった。

「……?」

 それが何なのかにいち早く気付いていれば……もしくはこの場にガンナがいてくれてれば……この世界、そしてプリローダの運命も大きく変わっていただろう。
 精霊たちに引かれるような形でその落下物の近くにまで連れてこられたプリローダは近くに寄って初めてそれが何なのかに気付いたのだった。

「あぁ……そんな……!!」

 プリローダは恐怖の表情を浮かべ腰を抜かしたかのようにその場にへたりこんでしまった。しばらく会うこともなく、記憶から消えかかっていただけにその"人"を見た瞬間に込み上げてくる恐怖の感情は計り知れないものだった。

「……ってぇ……どこだよここ……」

「……ぁぁぁ……」

 動けないプリローダをよそに新しい遊び相手が来てくれたと思い込んでいる様子の精霊たちは無邪気にもその人間の下へと近付いていった。

「……んだよこのちっこいの……ん……?」

 精霊たちに囲まれたその人間は辺りを軽く見回し、そしてついに気づいてしまった。

「……お前……へへへ……やっと見つけたぜ……」

「……ぁぁぁぁ……!」

 その人間はずかずかとプリローダの下へと歩み寄ってきた。プリローダはもちろん逃げようとしていたがその体はもう恐怖で動かず這いずってでも動くことはできなかった。そして……

「捕まえたぜ」

「……ぅぅ……」

「ふんっ!!」

「がぁっ……!!」

 その人間……かつてプリローダを散々にいじめ続けていた男は怨みの籠った蹴撃をプリローダの腹部にぶちこんだのであった。

「…………!!」

 それを見た精霊たちは一目散に逃げ去っていった。

「こんなとこに逃げ込みやがって……」

「…………」

 最初の一撃で既にプリローダの意識は飛んでいた。しかしそれでもお構いなしに男はプリローダを蹴りつけていた。

「……お前が消えてオレがどんな目に遭ったか分からんだろ?……全部お前のせいだからな……」

 男はこれまでにないほどの強い力でプリローダを痛め付けていた。時折鈍い嫌な音が響き、やがてプリローダの体は真っ赤に染まっていった。もういじめの限度はとうに過ぎてしまっていた。

「このっ!……このっ!!……こんのぉぉっ!!」

 それでも男はプリローダを蹴飛ばし続けていた。やがて蹴飛ばすだけでは気が収まらなくなったのか、殴ったり投げ飛ばしたりもうやりたい放題散々にプリローダを痛め付けた。その結果プリローダの体はもはや原形を留めていないほど無惨な変わり果てた姿となってしまっていた。

「……これは……一体……」

 そこにガンナが姿を現した。その目はまだ目の前で起きていた惨劇をまだ受け止めきれていないようであった。

「なんだテメェ……テメェがこいつを匿ったのか?」

「…………」

 男がプリローダを蹴ってこいつと示した瞬間からガンナの姿は変化していった。

「あ……?何か言えよ」

「…………アアアアアア!!」

 そしてガンナの心で何かが砕け散るような音が聞こえたと同時にガンナの体は真っ黒の負の気に包まれた。

「アアアッ……!!」

 ガンナが上げる怨嗟の声により男がいた空間は一瞬にして砕け散っていった。その空間だけがぽっかりと何もなくなっており、男の姿ももうどこにもなかった。

「プリローダ……アアアアァッ!!」

 次の怨嗟の声は辺りの空間を砕け散らせていった。これにより姿を潜めていた精霊たちもあっという間に姿を消していった。

「ニンゲン……ユルサナイ……ユルサナイ……!!」

 負の気に取り込まれたガンナは最早己の制御ができなかった。ガンナはこの世界の理を司る存在であり、本来はその職務を全うするために表に出ることは避けなければいけないのだが、孤独に堪えかねたガンナは表に出て自らの正体を隠しながら接してきていたのであった。今回ガンナが目を離してしまったのもガンナがいち早く男がやってくる空間の歪みの存在を感知し、自らの役割を果たそうとしたからであった。しかしそれがプリローダの側を離れてしまい結果守ってあげることができなかったのである。ガンナが纏っている負の気の大部分はプリローダを殺されたことによる人間への憎しみの感情が占めていたが、中にはプリローダを守れなかったという後悔の念もあったようである。

「…………」

 やがてこの世界から急速に精霊の気配が薄らいでいった。ガンナが負の気を纏い空間を崩壊させ始めたことでこの世界にはいられなくなり次々と逃げ出していったからであろう。じきにこの世界はガンナだけしか残らなくなってしまった。

「…………」

 ガンナは虚ろな目で動かないプリローダの体を見つめていた。その体は崩壊を続ける世界に呼応するかのように消滅を始めていた。

「ナゼ……ドウシテ……アナタガ……」

 プリローダを見つめていると少しだけ負の気から開放されるような気がした。しかしもうプリローダの体は消滅を続け、完全に消えてしまえばもう負の気から抜け出すことはできなくなるだろう。

「……ワタシハ……ワタシハ……!!」

 そして……プリローダの体はこの世界から完全に消滅をした。そしてガンナは再び負の気に包まれこの世界を崩壊させていったのである……


スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

プロフィール

ラヴィス

Author:ラヴィス
パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

毎週月曜に大小の違いはあれど更新中です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
来客者数
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。