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ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) 将軍編 ~記憶薄れし 私の名~


「……ふぃ……ここも久しぶりだな」

 天界宮殿前にボロボロのマントを纏った人物が佇んでいた。目深に被った帽子を外すと少々砂埃のようなもので薄汚れた男の顔が真っ直ぐに天界宮殿の方を見ていた。明らかに天界人の格好ではないこの男は雲海の上の世界には似つかわしくないのだが散見される天界人や天使、聖女たちは誰もこの人物を不思議がるようにはしていなかった。

「……ま、挨拶くらいはちゃんとするか」

 そしてその男は真っ直ぐに宮殿内へと向かっていった。その途中衛兵の天使と目が合うと軽く会釈をしたが天使の方も特別止めたりするようなこともなくすんなりと通してくれた。天界宮殿内でも会う者会う者みな明らかに異質とも言えるその男のことを特別気にも留めない様子で通り過ぎて行った。

「……さてと、エリミーヌはいつものとこにいるのか……」

 男は慣れた様子で宮殿内を進んでいった。その先には天界宮殿の中枢とも言える天界女王の執務室があった。

「……将軍殿……本日はどういった御用で?」

「フィアを探しているんだが……エリミーヌなら何か知ってるんじゃないかと思って」

「……少々お待ち下さい」

 衛兵がそう言うと執務室内に入っていった。その後少しして美しいブロンドの髪をした聖女が衛兵の隣に並んで出てきた。

「……ふふ、わざわざ私のところへ御挨拶に来るだなんて珍しいではないですか」

「……まー……今回は少し間が空いたからな。久しぶりに戻って来たんだから一応挨拶をしておこうとな」

「ふふ……で、将軍様がこちらに来たということは……フィアさんのことですね?」

「ああ……帰ると連絡は入れたんだが返事がなかったもんでな」

「……最近は天界を空けることが多かったですからね。でも今は将軍様からの連絡を受けてお部屋にいらっしゃると思いますよ」

「そうか、助かった……」

 将軍と呼ばれた男はそう言い軽く一礼すると宮殿内の別の部屋に向かって歩いていった。



「……はい……?」

「オレだ。入っていいか?」

「将軍様……お待ちしていました、どうぞ……」

 宮殿の1室を訪れた将軍は中にいた女性に招かれて部屋の中に通された。

「……ふふ、おかえりなさい、将軍様」

「ああ、ただいまフィア。……寂しくなかったか?」

「ふふ、将軍様が帰らないのはいつものことですから……慣れてますよ」

 美しさは先程のエリミーヌにも引けを取らない立派なブロンドの髪を持ち、鮮やかな緋色のドレスを身にまとった女性はこの天界で十二聖女の第2聖女を務めているフィアであった。

「……本当はどうだか……お前の本心がどうなのかはオレでもまだよく分からんのに……」

「……ふふ、悲しいことかもしれませんが将軍様がいないことに慣れてしまっているのは事実ですから……」

「……悪いな、旦那がこんな風来坊で」

「何を言ってるんですか……将軍様が本当はどういう人なのか私はよく知っているんですから」

 そしてこのフィアは何を隠そう将軍の奥さんとして人間のときから長らく将軍と将軍が率いていたSkyBlueの前身組織を支えて来たのである。

「……全く……」

「ところで将軍様……またすぐ行ってしまうのですか?」

「……ん?いや、出発は明後日だ。たまにはオレだってゆっくり休みたいさ」

「そうでしたか……ふふ、分かりました」

 フィアは本心を読まれないように装う事が非常に得意であった。しかし今の表情からは誰から見ても将軍がしばらくここで休んでくれる事を嬉しく感じている事が明らかであった。

「……じゃあ将軍様、お土産話でも聞かせて下さいな」

「……早速か……まぁいいぞ、まずは……」

 フィアの言葉に将軍は少しばかり仕方ないという風な仕草をしてみせたが、どことなく嬉しそうに今回放浪していた世界の話をし始めていった。
 フィアと将軍の出会いは戦場だった。その当時のフィアは兄の命により戦場に送りだされ指揮官として慣れない指揮を振るっていた。そのフィアを将軍は保護し、不仲だったフィアの兄との関係改善にも乗り出して無事関係の修復を成し遂げた。この時にフィアが将軍の仲間として正式に加入したのだが、まだその時にはお互いに意識はしていなかったようである。しかし妹のお相手を探していた兄が将軍を気に入ったこともあり次第に2人の距離は縮まり、やがて結婚するに至ったという。将軍自体あまり女性関係の噂が上がらなかった事もありなかなか将軍が意識をしだすには時間がかかったようであるが、フィアの献身的な振舞いと何よりメンバー内では将軍と共にいる時間は短かったものの長い付き合いであるラヴィスやランディですらも苦労する将軍の気ままな振舞いや謎の多い言動にも早くから適応し、将軍の難しい注文をもこなしていったことが彼女の評価を上げていた部分があった。

「……ふふ、今回も沢山の世界を回ってきたのですね」

「……そうだな……」

 将軍にとっては美しさ、スタイル、それに生まれと言った様々な面において自分には勿体ない奥さんだと常々言っていたが、それでもフィアに愛されたことを将軍は非常に幸せに感じていた。それは将軍が常に大きな宝石が乗った指輪を懐に忍ばせていることからも窺えた。

「……ゆっくりしていって下さいね」

「ああ……」

 フィアの左手薬指にも将軍と同じ指輪がはめられていた。フィアにとっても将軍との結婚は幸せなものであった。その時には既に現在第4聖女となったウルスラより聖女へと推薦をされており、ルミナス同様永遠を共に出来るような相手を探す必要があった。その点でいけば将軍はぴったりでもあった。

「……そうだ、久しぶりにお風呂にでも入りませんか?」

「……一緒にか?」

「……嫌ですか?」

「……まぁいいか」

 そのためフィアはこういうことも堂々と言いだす事があった。それに少々戸惑い気味の将軍であったが、自身も長い放浪生活で大分薄汚れていることには気づいていたため素直にそこには従った。

「ふふ……将軍様とお風呂だなんていつ以来でしょうか……」

「……普通はなかなか男と女が一緒にお風呂に入るなんてことないぞ……」

「……そうですか?ルミナスさんは頻繁にラヴィスさんと一緒に入っていると聞いてますよ?」

「……あの2人は特別だ……」

 将軍とフィアの仲の良さは天界やSkyBlueの中ではよく知られているがそれでもラヴィスとルミナスの仲は別格のようであった。そんな話をしながらも先にフィアは風呂場へと向かっていった。将軍は少し経ってからフィアが先に入ったのを気配で確認した後に風呂場へと向かっていった。

「……さ、将軍様。背中流しますよ」

「……ああ、頼む」

 フィアは将軍を気遣ってかしっかりとバスタオルを巻いていた。フィアの体つきは非常に見事なものであり、特に豊満な胸はSkyBlueのみならず神界など全体を含めても他の追随を許さない桁違いの大きさを誇っており、普段天界で着ている緋色のドレスもその胸を見せつけるためなのかはたまた単純に隠しきれにだけなのか分からないくらいに胸の部分が大きく開いている。そして今巻いているバスタオルも胸の上の部分が隠しきれずに出てしまっておりいくら奥さんが相手だからとはいえ少々目のやり場に困っているような様子であった。

「……また傷が増えてますよ……?どんな無理をしたんですか?」

「……もう体中傷だらけなのによく分かるよな……」

「……新しい傷と古い傷を見分けるのはそんなに難しい事じゃないですから」

「そうかい……まぁその辺の傷は多分この前の砂漠地帯で受けた砂塵のものだろうな……」

 そこでまた将軍はその世界について喋り出した。とある世界で砂漠地帯を探索した時に巨大な砂嵐に遭遇し、避けきれないと判断した将軍が愛刀を使って両断したのだがその時両断した砂嵐の余波が体をかすめていったときに傷を負ったのだと言う。将軍のマントがボロボロになり顔が薄汚れていたのもこれによる影響が大きかったようである。

「……あんまり無茶な事をしないで下さいよ?」

「……お前に言われたくはないな」

「…………」

 将軍も時には無茶な行動を取ることが多いがそれ以上にフィアは無茶な行動をする場面が多く何度も将軍は心配させられてきた。

「ま、いいさ。さて……体も流したし湯船に浸かるか……」

「……はい」

 体を洗い流したことで将軍の体は大分綺麗になっていたが、それでも生まれつき将軍の肌はラヴィスやランディたちよりもやや黒く見た目にはさほど変化が無いように見えた。傍から見れば意外と目立つくらいの肌の色の違いであったが、当の本人もフィアもそしてSkyBlueのメンバーもそのことは一切気にしていないようであった。

「……ふぃ……いやぁ……湯船にちゃんと浸かるのは久しぶりだ……」

「……そうでしたか……」

 向かい合うようにして2人は湯船に浸かったが将軍はすぐに気持ちよさそうに上を向いた。勿論湯船に浸かるフィアを直視しないという意味もあったのだが単純に言葉の通り放浪中はなかなかお風呂に入れる機会が無く純粋に気持ち良かったという気持ちが出ていたのは確かである。しかしそんな将軍を見てフィアはどことなく寂しげであった。

「……やっぱり寂しかったんだな?」

「……はい……」

 さらりと言った将軍の言葉についフィアは本音が出てしまった。確かにこれまでも将軍は顕界のあちこちへぶらっと出掛けてしまうことはあり、慣れていた事は確かである。しかし今回は少し違った。まずはいつもより少し出掛けている帰還が長かったことである。そしてその間に連絡をほとんどよこさなかったこともある。普段の将軍であれば長く出掛ける時は必ずネレイスの使役する精霊を介して連絡をくれていたのだが今回はそれがなかった。それが思いのほかフィアにとっては堪えたようである。

「……悪かった」

「……いいんですよ……無事に戻ってきてくれたのですし……時間も作って下さったのですから。いつもの将軍様なら一休みしたらまたすぐに次の世界へ向かおうと言い出すところなのに……」

「……ま、オレも疲れているのは事実だし……」

 将軍は目線を下ろしフィアの方を向いた。フィアの顔は今にも泣き出してしまうのではないかというくらいにまでなってしまっていた。

「……普段なら読みにくいお前の気持ちがこんなにも分かりやすく出ちまうくらいに寂しがらせたんだろうなーとは考えていたからな」

「将軍様……」

 フィアがそっと寄って来たところを将軍は優しく迎え入れた。久しぶりに抱き抱えたフィアの体はどことなくやせ細り肌も荒れてしまっているような感じがした。

「……凄いストレスだったんだな」

「……近寄っておきながら変ですけど……あまり……触らないで下さい……」

「そんなこと言われてもな……」

 将軍は構わずにフィアを抱きかかえた。特殊な環境に長らく身を置いてきたせいか大分感覚が普通とは異なっているせいもあるだろうが、普通ならばこんなにも女をほったらかしにしてぶらぶらと放浪を続けていれば見限られていてもおかしくはないはずである。ましてやフィアほどの女性となれば他にもたくさんの男が狙っていてもおかしくない。それでもなお一途に将軍を思い続けているフィアも同じ聖女となったルミナスにも負けず劣らずの強い気持ちを持っているのだろう。

「……なぁフィア」

「……何ですか?」

「……オレはずっとお前の傍にいた方がいいか?」

 フィアの普段は見せない姿に将軍もつい本音がこぼれてしまった。将軍の放浪の旅はいわば自己満足である。その自己満足にフィアをどこまで巻き込んでいいものか、いつまで我慢をさせればいいのか不安になってしまっていた。

「……それは……放浪の旅をやめて天界で私と暮らして下さるということですか……?」

「……あの時だってオレは異世界の扉を使った旅をすっぱりとやめた……きっかけさえあれば……」

「将軍様……」

 フィアはそれまで寂しげな表情を見せていたが将軍の一言でくるっと表情を変えた。

「……私に気遣いなんていりませんよ。言ったではないですか、慣れていると」

「でも……」

「……将軍様らしくありませんよ……?」

 フィアはそう将軍に微笑みながら言った。その様はまさに慈愛あふれる聖女の微笑みそのものに見えて将軍も思わず見惚れてしまった。

「……放浪ばかりで私をほったらかしにしていると思われがちですけど本当は数日おきくらいですけどちゃんと連絡を入れてくれますし、すぐに他の世界に行きたくなっても羽を休めるためにほんのわずかな時間でも私のところへ来て下さいます。それに思いつきで行動しみなさんを振りまわす困った将軍様ですけど将軍としてみなさんのことを気に掛けて配慮して下さっているのだって知っていますから……」

「…………」

 フィアとの付き合いは人の時からであるから当然長い。しかしそれでも付き合いの長さでいけばラヴィスやランディの方がもっと長い。それでもフィアはラヴィスやランディに負けないほど、もしくはそれ以上に将軍の本質を見抜き理解していた。

「私のために我慢して宮殿生活なんてしなくてもいいんですよ。……それが性に合わないってのはあの時分かりましたし」

「だからその話は……」

 フィアの言葉に将軍は慌て始めた。一国の姫の婿となった将軍は旅を終えた後フィアの国の王宮で余生を過ごした。その時に将軍の起こした数々の行動は今となっても思い返せばとんでもないことであったとして2人の間で語り草となっていた。

「……将軍様の退屈そうな顔は……見ていて私も申し訳ないと思いました。旅をしていたころの将軍様とはもう別人で……」

「……分かった分かった、その話はそこまで!」

「んぅ……」

 このままではまた笑い話にされると思った将軍は少々強引ではあったがフィアを抱きよせて大人しくさせた。フィアもこれ以上やれば将軍を困らせると分かっていたので将軍の腕の中で大人しくなった。

「……じゃあこれからもぶらぶらし続けていいんだな?」

「はい……将軍様の気が済むまで放浪して下さい。私はいつでも……いつまでも将軍様の帰りをお待ちしていますから」

「そうか……ならフィア、お前も寂しくなったらネレイスにでも言って精霊で伝言よこせよ……一段落したら戻るから」

「ふふ……分かりました、将軍様……いえ……クライス様

 フィアは将軍の耳元で囁いた。その言葉が意外だったのかしばらくぽかんとした様子であった。

「どうしましたか?将軍様」

「……一瞬誰のことかと思ったぞ……オレでもその名前凄い久しぶりに聞いたんだが……」

「……ふふ、そうですよね。もう将軍様は将軍様ですから」

 そう言ってフィアは左手薬指にはめた指輪を見た。入浴中も就寝時も肌身離さず身につけているこの指輪には2人の名前のイニシャルが刻まれていた。片方はF・W――フィアの本名フィア・ヴュルデベルンである。そしてその隣にはK・W――将軍の本名が刻まれていた。将軍はラヴィスやランディたちとSkyBlueの前身組織を立ち上げた時からずっと本名ではなくその当時のリーダーだったことから“将軍”とよばれて親しまれてきた。それが広く浸透し今では皆が“将軍”と呼ぶようになり、将軍の本名を知る者はごくわずかでありその者たちの記憶からもほぼ消え去りつつあった。

「……さ、これ以上この状態でお風呂に入っていたらのぼせてしまいそうです。お先に上がらせてもらいますね」

「ん……ああ……悪い……」

 将軍に抱きしめられながら浸かっていたことでフィアは大分火照ってしまっていた。ゆっくりと風呂場からあがるともう一度将軍の方を振り返った。

「お食事を用意しておきますから将軍様はもう少しゆっくりして下さい」

「ああ、そうさせてもらう……」

 ちょうど将軍のお腹も空いてきた頃合いであった。フィアの料理は天界の宮廷メイド長であるシルフィが太鼓判を押す程の美味さで有名であった。久しぶりに振舞ってくれるフィアの手料理をおいしく頂くためにも将軍はしばし1人で湯船に浸かり続けた。

「……K・W……か……」

 1人になった将軍はそうつぶやいた。今となってはもう誰もその名で呼ぶことはなくなった。将軍という親しみのある愛称によって失われてしまったその名。自分ももう将軍という名前でSkyBlueには正式登録してあり、将軍という名前で日々を過ごしている。自分はもう“将軍”であり“K・W”ではない……

「…………」

 でももしあの時本名で呼ばれ続けていたら……“将軍”という新しい自分ではなく“K・W”としてやっていたのなら……

「……あーやめやめ。こういうの考えるのは性に合わん。オレは将軍としてここまで生きてここまで幸せで充実した日々を過ごせているんだ。それでよし」

 柄にもないことで頭を使った将軍はすぐに考えることをやめた。どうせこの問いに対する答えなど見当たらないのだから。

「さて、飯だ飯。フィアの料理が楽しみだ」

 そして将軍も風呂から上がり部屋へと戻っていった。



――将軍 世界の安定を司るという任を受け気ままに活動する風来坊。その男がかつて持っており、今となっては失われしその名は……クライス・ヴュルデベルン



(SSs 将軍編 完)
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