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ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) 冥界編 ~とある冥界人の手記~


――死後の世界の存在なんてオレはこれっぽっちも信用していなかった。だがオレの目の前に広がっている光景……これは間違いなく一般的に“あの世”と呼ばれる世界なんだろう。重苦しい鉛色の空に殺伐とした空気、荒涼とした大地には死者と思われる骸たちが闊歩している。……まさか本当にこんな死後の世界があるなどとは思ってもみなかった。

 まずはオレの話をしておこう。オレは盗賊だ。ただ“世紀の大怪盗”だとか“正義の義賊”だとかそんなご大層なものじゃない。ただのチンケな盗賊だ。そんなオレは良家の家に入り込み金品をかっさらおうとしたんだが……結果的にこのザマだ。え?見つかってさっくりやられたとかだって?いやいやそんなんじゃねぇよ。オレは見事防犯装置とかも潜り抜けて金品をかっさらって家を抜けだしたさ。……そしてさぁ帰ろうかって思ったときに庭先の長い石階段から転げ落ちてお陀仏ってわけよ。どうだ、傑作だろ?

 ま、そんなマヌケなやつだったとは言え盗賊は盗賊だ。天国だの地獄だのそんな話は聞いたことがあるがオレは地獄行き決定なのは間違いねぇだろう。もしかしたらもうここが地獄なのかもしれねぇな、ハハッ。

「……貴方ですね?」

 するとオレを呼びとめる女の声が聞こえた。その声がした方を向くとそこらをうろついてる骸どもとは全然違うキレーな着物姿のネェちゃんがいたんだ。オレの知り合いにこんな綺麗なネェちゃんがいた記憶はねぇし、なにより死んだ人間にしては綺麗すぎる。

「アァ?誰だよお前?」

「失礼しました。私、冥界王リッチ様にお仕えするセルディアと言うものです。リッチ様の命によりお迎えに上がりました」

 セルディアとかいうネェちゃんから“冥界”って言葉が出てきたわけだから間違いなくここは死後の世界なんだろう。

「……冥界王ダァ?」

「……貴方はご自身の置かれている状況を御理解なさっていますか?」

「ああ、オレは死んだ。そして気付いたらここにいた」

「……大丈夫そうですね」

「で、冥界王がオレなんかに何の用があるってんだよ」

「御用も何も……ここに来られたのですからここの主であるリッチ様に御挨拶をするというのが筋と言うものでしょう」

「別にオレは来たくてここに来たわけじゃ……」

 状況のさっぱり分からん状態でオレは混乱していたがそれでも連れて行こうとするこのネェちゃんにオレは抵抗はしたんだが……

「……とりあえず来て頂きます。何かあればリッチ様に直接訴えて下さい」

「なっ……」

 このネェちゃんオレの体をすり抜けて背後に回ったと思ったら変な札を張り付けやがって、そしたら体の力が全然入らなくなっちまってそのまま引きずられるようにして連れていかれちまったんだ。





「リッチ様、お連れしました」

「ご苦労だった、セルディア」

 荒涼とした大地に突如現れた立派な都市。その奥に建っていた立派な宮殿の中にまで連れてこられたオレはついに冥界王とかいうリッチとやらの前に引き出された。まぁ王とか言うくらいだから確かにそれなりの風格があるし闇色のローブにフードと雰囲気もバッチリだったがそのフードは目深まで被っていやがって表情は全く読めない、不気味なヤツだった。

「……さて、まずはようこそ冥界へ。どうだ、冥界の居心地は?」

「……知らねぇよ」

「まぁ来たばかりだからな、仕方あるまい」

「……というかオレに何の用だよ?」

「別に、私から用はない」

「なんだよ、それ……」

 リッチの言葉にはどう考えても裏があるように思えてならなかったが……折角なので色々聞いてみようと思ったオレはとりあえず様々な質問をぶつけてみることにした。

「……まぁいいや。オレは聞きたい事がたくさんある」

「構わん。何でも聞くといい」

「……まずここは死後の世界という認識で間違いない」

「いかにも。ここ冥界は死後人間が訪れることになる世界だ」

「……じゃあオレ以外にも死んだ人間が集まっているんだな?」

「ああ、そうだ」

「……こうしている間にも死んでいる人間はいるはずだ。そいつらを迎えにいかなくてもいいのか?」

「…………」

 どうやらリッチはオレが何を言いたいか気付いたようだ。察しがいい。

「その必要はない。私が直々に会うようなことはそうそうない」

「じゃあオレには何かあるのか?」

「……いや、別にお前に何か特別なものがあるわけでは……」

 やはりオレを連れてきた裏の理由があったようだ。もうひと押しでそれを聞き出せると思ったんだが……オレはこの時背後に居た気配……いや……幽霊が気配なんて放たないだろうから気付かないのも無理はないが……そいつに邪魔をされることになった。

「……あれ……?見ない顔ですね……リッチさん何かしたんですか?」

「……いや……」

「ん……?」

 セルディアの声とはまた違うどこか気品のありそうな声がオレの背後からしたもんだから振り返ってみたんだが……そこには誰もいなかった。

「ふふふ……こっちですよ」

 いつの間にかまたオレの背後から声が聞こえる。また振り返ってみるとそこにはリッチとセルディアの姿しかない。次第にこの声がオレをおちょくっているように聞こえて腹立たしくなってきた。

「……ミント、それくらいにしておけ」

「……仕方ありませんね……」

 リッチがそう言うとオレの体をすり抜けるようにして声の主が現れた。漆黒のドレス姿は確かに気品ある姫さんに見えなくもなかったが所々破れているのがなんとも不気味なように思えてならない。頭に乗ってるティアラもくすんでいるのも気になるし……異常なまでに白い肌は明らかに死者のものだった。

「……もう少しいい反応を期待したのですが……」

「……幽霊は趣味が悪いんだな」

「……許してやってくれ。こいつはそういうやつだ」

「リッチさん、その言い方は酷いじゃないですか!」

 リッチからしてもどうやらこいつは特殊な幽霊らしかった。

「……こいつは冥界戦姫ミント……冥界人の一派、霊の頂点に立つ者だ」

「ふふ、よろしくお願いしますね」

 握手をしようと手を伸ばしてきたがその手を握ろうとするとその手はすーっと透けてしまい触ることができなかった。その様子を見てミントはクスクスと笑っていやがる……どこまでも気味悪く、悪趣味な奴だ。

「でも……リッチさんがあなたを連れて来たってことは……ふふふ……」

「…………」

 先程から執拗にオレのことをからかおうとしてくるミントにそろそろオレは我慢ならなくなってきた。しかし相手は霊体……オレが何かをしようにも全て透過させられてしまい手も足も出ない。だがオレのそんな煮え切らない表情が読まれてたのかこっそり動き出していたのがセルディアだった。セルディアも同じく姿を消してミントの傍に近寄っていったようだ。

「よかったですね、リッチさんに気に入られたということは……」

「……はい、そこまでですよ」

「!?いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 そしてセルディアはミントの背後から懐の札をぺたりと貼りつけた。そのあまりの不意打ち加減に驚いたのか、逆にオレが驚くくらいの絶叫をしながら消えて無くなってしまった。

「……すみません。ミント様に悪気はないのですが、すぐに悪乗りをしてしまうのが難点なのです」

「……大丈夫か?断末魔のような叫び上げてたぞ……?」

「……あれくらいやっておかないと懲りないので大丈夫です。消えて無くなったわけではないので心配しないでください」

 セルディアは落ち着いた様子で言っていたが……なんというかどことなく怒っているような気もした。こういうことがわりと多々あるんだろう、大変そうである。

「……まぁもう隠す必要もないだろう。お前を呼びだした理由はただ1つ」

「……ん?」

「……私の臣下にならんか?」

「はぁ?」

 リッチがあまりにも意味の分からないことを言ってきてオレも素っ頓狂な声を出してしまった。

「初対面の奴に凄い事言うもんだな」

「だが私は至って本気だ。君には見所がある……是非とも……」

「……何でオレなんだ?オレはただのチンケな盗賊だぜ?」

「……それは知っている。だが……今のこの状況を冷静に見据えていられること……そして……」

「…………」

「……男だからだ」

「……はぁ?」

 リッチの謎の理由にまたしても不本意ながら素っ頓狂な声を上げてしまった。

「……何、私の周りにいつも控えているのが先のミントとこのセルディアだ。……他にもいるにはいるが何故かは知らんが女ばかり。正直この異質な環境に適応できそうな男を探していたんだが……」

「で、オレか?」

「……ああ、最初のうちはこの個性的なメンツに慣れるには苦労するかもしれんが……この先退屈な思いはさせん。折角死後の世界を堪能できるのなら貴重な経験をするのもいいと思うのだが?」

 冥界王の言葉はなんとなく魅力的なような気もしたが……どうしても警戒しちまうのは自然な反応だろう。

「……オレは地獄行きの人間だ。そんなやつを傍に置いていたって仕方ネェだろ?」

「ふ……チンケな盗賊が入れるほど地獄と呼ばれているような場所は広くない。だが天界へ行けると言ってもお前は行く気が無いだろう?結果この冥界で過ごすことになるだろう」

「…………」

 確かにそうだ。オレに天国のような場所は似合わネェ。地獄に落とされることも無いならずっとこの冥界ってとこを彷徨うことになるのだろう。それなら冥界王の下について過ごすのも悪くは無い。

「……今はまだ答えが出ない。しばらく考えさせてくれ」

 だがまずは彷徨ってみることも悪くはないだろう。死ぬ前だって彷徨っていたといえば彷徨っていたんだ、こういう生活もオレには合ってるのかもしれん。それを見た後で答えを出すのだって遅くは無いだろう。

「……まぁいいだろう……すぐに話がつくとは思っていない。だが私はこの宮殿で君が戻ってくるのを待っている」

 リッチはそう言って部屋を出て行った。

「…………悪いな、折角の申し出だったのに」

「いえ……リッチ様の仰っていた通り簡単に話がつくようなことではありませんから」

 部屋に残ったセルディアは最後までオレのことをただ見守っていた。リッチに口添えをするようなことも、オレを勧誘するようなこともせずただ静かに成り行きを見守っていただけだった。

「……ですが……私からも是非お願いします。リッチ様のもとで冥界での生活を送って頂きたいです」

「……考えておく」

「……如何せんリッチ様を含めて変わり者の多い冥界上層部を引き締める冷静な方が欲しいのです」

「……やっぱりお前苦労してるんだな」

 確かにセルディアは冷静沈着で主のリッチやミントをフォローする重要そうな立場にあることは薄々気付いていた。しかしそれを1人でやり続けるのは大変だろう。……ただオレにその役が務まるかは甚だ疑問だ。

「……冥界各地を出歩くのでしたら……これをお持ち下さい」

「……何だァ?札?」

 セルディアは懐から束になった数枚の札を持たせてくれた。

「……冥界各地にはミント様よりタチの悪い幽霊がたくさんいます。骸のなかにも好戦的な者がいます。……そういった者から身を守る為の護身用の札です。それを見せれば悪しき冥界の民は近づきません。安全に冥界内を旅できるでしょう」

「……そこまでしてオレに戻って来て欲しいのか?」

「……はい、私もリッチ様も。……そしてミント様も。それくらい貴方には素質があるのです」

 冥界王に気に入られるような素質がオレにあるとは思えんがそれはそれで光栄だ。死ぬ前は誰かに必要されていたと感じたことはほとんどなかったが……まさか死んでからオレの存在が必要とされるとは思わなかった。

「……さ……ではしばしのお別れですね。どうかお気をつけて」

「……セルディアと言ったな。感謝するぜ」

 そしてオレは宮殿を後にした。そのままオレはこの冥界ってとこをきままにぶらつくことにした。



――その冥界人がその後どうなったのかは分かっていない。だがただ1つ分かっていることはある。それはこの者が再び冥界宮殿を訪れた形跡はないことだ。未だに冥界各地をあてもなく彷徨っているのか、悪しき冥界人の手にかかって消滅してしまったのか、それを知る者はいない……



SSs 冥界編 完
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パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

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