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ブログ開設4周年記念特別SS SSs(ショートストーリーズ) ミディア編 ~鎧神のお食事~

「マスター、おかわりお願いします」

「はっ……はい、只今……」

 その一声にその食堂内は俄かに騒然としてきた。それも無理はない。声を上げた主は一見そこまで体の大きい女性ではないのだが、その彼女の周りには既に平らげた後の2枚の大皿が並んでいた。そしてマスターが運んできた新しい大皿にはおよそ3人前のカレーが乗っていたことから既に彼女はおよそ6人前くらいのカレーを平らげたことになる。そうともなれば店のマスターだけでなく偶然居合わせた客からも驚きの声が上がるのも無理はない。このような異様な光景にも至って平常心を保っていたのはそんな彼女の隣で1人前のカレーを食べていた男だけであろう。

「もぐもぐ……」

「……騒がしくなってきたね」

「……そうですね……どうしてでしょうか……?」

「……自覚ないんだね……やっぱり」

 男は呆れたように軽く溜息をつくと皿に残ったカレーをスプーンですくって口に運んだ。これで男はカレーを完食したことになる。大分ゆっくり食べていたせいもあるが、それを考えても既におよそ6人前を平らげた女性の方はすさまじいスピードで食べていることになる。

「……いいかい、ミディア。普通の女の子はこんなに食べれないからね……というより男でもこんなに食べる人は珍しいよ」

「あぅ……で……でもランディさん!だってここのカレーは美味しいって有名なんですよ?そんなところでカレーのチャレンジメニューなんてあったら……」

「……別に普通のカレーを多く注文すればいいじゃ」

「ここのチャレンジメニューを制覇できれば1年間カレーが1回の来店に1食限りですけど無料になるパスをもらえるんですよ!これは挑戦するしかありません!」

「…………」

 ミディアの言葉にランディはついに何も言い返せなくなってしまった。ミディアは傍から見れば少し控え目で少し抜けたところのある女性であるが、SkyBlue内では最強の守備力を誇る重装騎士である。決して大きな体ではないものの体を張ってみんなを護る為にたくさん食べることで力を得て来たのである。

「……もうちょっと……!」

 そしてついにミディアは最後の一口を運んだ。この店のチャレンジメニューであった10人前カレーをミディアは制限時間内に見事平らげて見せた。

「ふぅ……」

「お……お見事です……女性でこのメニューを完食したのは貴女が初めてですよ……」

「それは……光栄です」

 驚くマスターを尻目にミディアは綺麗に口を拭いていた。その顔は非常に満足げである。

「それでは……」

「冗談じゃねぇぞ!」

「ん……?」

 そしてお店のマスターがミディアに賞品のフリーパスを取りに行こうとした瞬間に男のどなり声が聞こえてきた。一瞬にして店内は静寂に包まれる。

「……すみません……」

「濡れちまったじゃねぇか、どうしてくれるんだよ!」

「すぐにお拭き致しますので……」

 どうやらウエイターが持っていた水をお客さんにこぼしてしまったようである。そのお客が明らかにガラの悪そうな男だったので一悶着になってしまったのだろう。

「……あぁ……あれはうちの常連さんなんだけど……結構外では評判悪いと有名なんですよ」

「……水をこぼされただけであれとはね……」

「ご飯が堅いだの具の割合がおかしいだの細かいところまでうるさく言われてしまうのでこちらとしても大変なんですよ」

「そんな……」

 2人が様子を見ている間にも男はウェイターを怒鳴り散らしていた。

「……しかもルーに水が入っちまったじゃねぇか、こんなカレーもう食えるか!」

「!!」

 そしてついに男はウェイターに向かってカレーの皿を投げつけてしまった。

「さっさと新しいの持ってこいよ」

「……っっ!!」

「おい、ミディア!」

「……あなた、何をしているんですか!?」

 それを見たミディアはランディが制止する間もなく飛び出していった。普段は控えめで戦闘時も気持ちの強さを感じることこそはあれ、感情的な言動はほとんど見せないミディアがここまでも怒りをぶつけるようなことはランディにとっても珍しく驚きの様子を隠せなかった。

「あぁ?姉ちゃんなんだ?」

「……ここのカレーを粗末にするなんて許せませんよ!」

「粗末にしたのはこいつだろ?水ぶっかけやがって……」

「水が入ってもカレーは食べられます。でもこうして投げ捨てられたらもう食べられません!」

「煩ぇな……おい!お前ら!」

「へい!」

 男はそういうと一緒に来ていた子分を2人ほど呼びだした。どちらも屈強そうな見た目をしていて明らかに傍から見ればミディアに勝ち目はない。

「……マスター、デッキブラシとかモップを2本ほど用意してもらえるかい?」

「は……えっ?」

「……どう見ても一勝負起きそうな雰囲気だろう?頼むよ」

「畏まりました……!」

 マスターが店の奥に入っていくのを見送ってからランディも席を立った。

「……やれやれ……騒がしいね。それに大の大人3人で女性1人に手を上げようとするなんて」

「あぁ?外野は引っ込んでろ」

「……ランディさん。下がっていて下さい……これは私の戦いです」

「……そうかい?じゃあミディア。くれぐれも“やりすぎないように”ね」

「……はい」

 そう言うとランディは大人しく引っ込んでもとの席に座った。

「やっちまえ!」

 まずは子分の男1人がミディアに殴りかかった。その攻撃をミディアはかわすことなく受け止めた。

「…………」

「……ってぇ!」

 ミディアの頬に入った男の拳はまるで鋼を殴ったかのような衝撃を受けていた。一方のミディアは軽くよろめいただけでさほどダメージを受けたようには思えない。

「……そんなものですか?」

「……テメェ何者だ!?」

「……ただの客ですよ……ここのカレーが大好きな!」

 今度はミディアが殴りかかりに行った。男はミディアの腕を捕まえて止めようとしたが信じられない力強さで止める事はできず、殴り飛ばされ床に転がった。

「……チッ……」

 只者ではないと悟った男は懐からナイフのような物を取り出した。流石にミディアもそれを見てうっとおしそうな表情に変わる。

「外に出ましょう。……お店の中でこれ以上暴れたら迷惑ですから」

「……いいだろう、外に出るぞ」

 ミディアの提案に男も乗り、外へと出て行った。そのタイミングでマスターはモップを2本持って戻って来ていた。

「ありがと。今外で喧嘩することになったみたいだから僕がちょっと行ってくるよ」

「あ……」

 ランディはマスターからモップを受け取るとすぐに外へと向かっていった。ミディアが外へ行こうと提案した瞬間に外に子分が集まっているであろうことは容易に推測がついていた。流石のミディアも素手では多数を相手にするには無理があるはずである。

「……やっぱり」

 窓から外を見るとやはり予想通りミディアは多数の子分に囲まれて苦戦しているようだった。

「……やれやれ、こんなことじゃないかと思ったよ」

「ランディさん!?」

「ミディア、外に出ようという提案自体は正しいけど……当然こういう展開になるってことは想像できたよね?」

「……それは……」

「……全く。まぁミディアらしいけどね」

 そう言うとランディは近くにいた子分をモップの柄で殴り倒すとミディアにもう1本のモップを投げて渡した。

「……さっきの……邪魔するんじゃねぇよ」

「流石にこの大勢で女の子を襲うのは感心しないからね、加勢させてもらうよ」

 そしてランディはミディアと背中合わせになった。目の前にはナイフを持った子分が5人ほどいる。

「……こっちは5人……か」

「私は6人です」

「……行けるかい?」

「……行けます」

「じゃあ……さっさと決めちゃおうか」

 そう言うと2人は同時に攻勢に移った。槍の扱いを得意とする2人にとって“柄の長いもの”は何でも武器になってしまう。モップはさらに視界を遮ることのできる効果も併せ持っているため非常に扱いやすい道具であった。そしてあっという間に2人は子分たちを殲滅させてしまっていた。

「……くそ……」

「……さ、どうするんだい?」

「……」

 完全に旗色の悪くなった男はその場から逃げだそうとした。

「……逃がしません……!」

 しかしミディアがそれを許さなかった。ミディアが投げたモップは男の足を捉え、バランスを崩し転んだ男にもう一度拾い上げたモップで追いうちをかけた。

「……これくらいにしてあげます。これに懲りたらあんなことはもうしないで下さいね」

「……くそっ……覚えてやがれ!」

 ミディアにコテンパンにやられ男は一目散に逃げて行った。

「……ふぅ」

「……お疲れ様、ミディア」

「ランディさん……ありがとうございました」

「さ、もどろうか」

 それを見送り2人は店内へと戻った。

「……終わりましたか」

「はい。……すみません、お店のカレーを台無しにされて私……黙っていられなくて」

「そう言って頂けるのは大変光栄です……ではこちらを……」

 店内ではマスターが出迎えてくれ、ミディアに1年間のフリーパスを手渡してくれた。

「ありがとうございます……また来ますね」

「お待ちしていますよ」

「さ、じゃあそろそろ戻ろうか」

「あ、ランディさん!」

 お金を払い帰ろうとしたランディをミディアは呼びとめた。

「……さっき体を動かしたらお腹少し空いちゃって……カレーの大盛りを食べたいです!」

「……えっ?」

 ミディアの言葉にランディはマスターと思わず顔を見合わせてしまった。

「……か……畏まりました、すぐに用意致します」

「……ミディア、本当によく食べるね」

「本当にここのカレーが美味しいということです!」

 その後ミディアは運ばれてきた大盛りのカレーをゆっくり味わいながら平らげた。その様子を見たランディは苦笑いをしていながらも微笑ましそうな様子だったという。



SSs ミディア編 完


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パソコン使えないくせにブログに手を出した愚か者。
……温かい目で見てもらえるとうれしいです。

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